第133話 なんでこのチャンネルが一番炎上しそうなんだよ!!
『アズマさん。やっぱり恋愛禁止ね』
「どういう始まり方ですか!? 俺まだ配信開始の挨拶すらしてないんですけど!?」
『でもアズマ。僕もムエナちゃんに同意だよ。君は恋愛するべきじゃない』
「戸羽ニキまで!? どういうことですか!?」
『あのね、アズマさん。アズマさんはアイドルなんだよ。それがあんな、あんな配信をするなんて、許されると思ってるの!?』
『アイドル云々抜きにしても、あれはねー。正直、カロリー高過ぎだと思うよ。ていうかさ、普通裏でやらない? ああいうのって』
「えっと、つまり……?」
『アズマさんにはアイドルを目指す者としての自覚が足りないってこと!!』
「どういうことですか!?」
全く意味がわからないんだけど!?
あと、何度も言うようだけど俺別にアイドルじゃないからね!?
『僕は単純な興味として、聞きたいな。一体どうすればあの安芸ナキア先生を、あそこまで骨抜きに出来るんだい?』
ナーちゃんをって、え、まさか……。
「見てたんですか? 前回のナーちゃんとの配信を……?」
『トレーナー兼プロデューサーとして当然です』
『当たり前じゃないか。言っておくけど、僕結構アズマの配信追ってるからね』
え、と言うことはだよ?
ナーちゃんとのあのやりとりを全部2人に見られてた……?
「うぉわーーーーーーーーーっっっっ!?!?!?!?!?!?」
『なになになに!? いきなりなに!?』
『アズマ!? どうしのさ、いきなり叫び出して』
「あ、あぁ、すみません。なんて言うか、2人にあの配信を見られてたって思うと、何か急に恥ずかし過ぎて死にたくなったと言うか……」
『今更!? 今更そんな反応しちゃうの!? なんで!?』
『配信中は無自覚だったってこと!? 無意識にあれをやってたの!?』
「そ、そんなにツッコまれることですか……?」
『ちなみにアズマ。あの配信中って何を考えてたの?』
「え、何ってそりゃ、ナーちゃんだったらどっちを選ぶかなぁ、とかですかね……?」
『はぁー……』
『マジでか……』
「え? え? 何ですか、その反応?」
『なんていうか、改めてアズマってラブコメ主人公にピッタリな人材なんだなって思ったよ。そういうところに無自覚でいられるってどういうこと?』
「どうって聞かれても……。逆に、戸羽ニキは無いんですか? そういうの」
『あるわけないだろ』
「そんなバッサリ切らなくてもよくないですか!?」
『アズマ。はっきり言っとくけど、女性関係はハッキリさせておいた方がいいよ。いつか刺されてもおかしくないからね?』
くっ、ぐうの音も出ない。
今回の企画だって俺のムーブが原因だしな……。
『ねえねえ、フメツ君。アズマさんの沼らせ力がどれぐらい高いか興味ない?』
「いや、沼らせ力って……」
なんですか、その誰も幸せに出来ずいつか刺されそうな力は……。
俺、自分にそんなものがあるなんて考えたくないんだけど!?
『めちゃくちゃ高いんじゃない? だってほら、少なくとも2人はアズマさんに沼ってるってことでしょ?』
いやいやいや、待って!?
カレンちゃんとナーちゃんがこの配信見てたらどうするつもり!?
って、おい!! コメント欄にいるじゃないか!!
『沼ってるって言い方やめてください!!』
『もうちょっとマシな言い方があるんじゃないかしら!?』
いやいや、そうだよね? そうなるよね!?
沼ってるは、さすがにあんまりだよね!?
よくないよね、その言い方は!?
……というかさ、2人とも。そういうコメント打つってことは、認めてるようなもんだって気づいてる!? ねえ、大丈夫かな、その辺!?
『あ、沼ってるはお気に召さないと。じゃあ、ガチ恋? それともストレートに惚れてるって言う? その辺はどうなの、お2人さん的に』
あ、2人とも黙った。
ていうか、戸羽ニキもとんでもない煽り方するね!?
なんでラブコメをしないはずの戸羽ニキたちとのチャンネルが一番炎上リスクを感じるんだろうなぁ──ッ!?
『ということで今日の配信では、アズマさんの沼らせ力を検証してみよう!!』
『いぇーい!!』
「待って待って待ってくださいって!! 何をさせる気ですか、一体!?」
『何って、そりゃまあ、……何をするんだい。トレーナー兼プロデューサー?』
「乗っただけなんですね!? そうなんですね、戸羽ニキ!?」
『うるさいなぁ。ほら、ムエナちゃんが喋るよ。清聴』
えー……。扱い雑ぅ。
『これからアズマさんにはいくつかラブコメ的なシチュエーションのお題を出すから、それに応えてもらいます! あ、フメツ君は審査員ね』
『ムエナちゃんは?』
『ラブコメシチュエーションには相手役が必要でしょ? しょうがないから、アタシがやるよ。トレーナー兼プロデューサーだしね!!』
『そうだね。それはしょうがないね』
「いやいやいや、待ってください!! それは待ちましょうって!! それはさすがにダメじゃないですか!? ムエたんのガチ恋ファンが黙ってないですよ!?」
『だからこそだよ、アズマさん』
「いや、どういうことですか……?」
『アズマさんはこれからアイドルを目指すんだから、ファンに恋をしてもらいつつ、炎上しないようなムーブを覚えなきゃいけないんだよ。つまり、これはアズマさんの沼らせ力を検証すると見せかけて、れっきとしたアイドルを目指すための特訓でもあるんだよ!!』
『いよ! 名トレーナー!! 敏腕プロデューサー!!』
「いやいやいや!! だったら戸羽ニキも一緒にやらないと意味ないですよね!? ね!? 俺一人に恥ずかしい思いをさせて自分はやらないなんてことはないですよね!?」
『ふーん。つまりアズマは、僕がやればやるって言ってるんだね?』
「あ」
……しまった。
『トレーナー兼プロデューサー!!』
『何? フメツ君』
『僕らはユニット。2人でひとつ。アズマ1人だけにやらせるなんて出来ません!! 僕も一緒に頑張ります!!』
『さすがフメツ君!! それでこそユニットだよ!! 一緒にトップアイドルを目指して頑張ろう!!』
『はい!! ……てことで、やるよね? アズマ』
ぐ……、ちくしょう!!
なんだこのしてやられた感は!?
戸羽ニキのアドリブ力が高すぎる!! 実は台本ありましたって言われても信じるぞ!?
『……アズマ?』
『……アズマさん?』
「う、く」
く、くそぉ……。逃げ場は。
どこかに逃げ場はないのか!?
『ねえ、アズマ。思い出してくれない? 僕らのユニット名を』
「《L⇔Read》、ですよね……?」
『そのユニット名に込められた意味は?』
「……あ~、はい。空気を読めってことですね。でもそれって、パワハラじゃないんですか!?」
『違うよ、アズマ。そうじゃない。今は僕がアズマを“lead”してるけど、いずれアズマにも僕を“lead”してもらいたいと思ってるんだ。今日の特訓はそのためのものなんだよ』
──唐突なエモい雰囲気!!
……薄々思ってたけど、アイドルに誰より前向きなのって、実は戸羽ニキなんじゃないか?
『でも、それだけじゃ真のアイドルとは言えない。アズマ、僕はね。君にはいつかファンを“lead”して、誰よりも高いところまで連れて行く存在になって欲しいと思ってるんだ。僕は信じてるんだ。君にはその力があるって』
「……戸羽ニキ」
ちょ、いきなりやめてくれ!!
演技だとしても、戸羽ニキにそんなこと言われたら、……ちょっと泣きそうになるだろ!?
『僕やムエナちゃん、そしてファンのみんなを“lead”して、一番高いところで輝く。僕はね、そんな東野アズマを見たいんだよ』
『フメツ君の言う通りだよ! アタシもアズマさんがもっともっと輝いてる姿を見たいの!! そのために頑張りたいの!! だから一緒に頑張ろうよ!!』
「ムエたんまで……」
あれ、なんだこれ。
どうして画面が滲んで見えるんだ……?
くそ、こんな普通の配信で泣くなんて……。でも、この2人からそんな風に言われたら……。
ああもう!! こんなの、やらない方がダサいじゃないか!!
「やりましょう」
『アズマ!』
『アズマさん!』
「頑張りましょう!! 俺たちみんなで一緒に高みを目指しましょう!! ……ぐすっ」
『え、アズマ泣いてるの?』
「いや、……ぐす。ええ、そうですね。ちょっと、ジンと来ちゃいました」
『……アズマって、意外とチョロいんだね』
戸羽ニキ?
『そ、それがアズマさんのいいところなんだよ!』
ムエたん?
『ちょっとあざといかなぁって思ったんだけど、そっか、アズマにはああいうのが効くのか』
「戸羽ニキ!?」
『ああ、うん。なんでもない。じゃあ、みんなで頑張ろうね。おー』
「めちゃくちゃ棒読みじゃないですか!? 俺の感動を返してくれません!?」
『まあまあ、アズマがやる気になってくれたならよかったよ』
「何にもよくないですが!?」
『えー、ということで行ってみよう!! 沼らせ力検証!!』
「せめて名前は変えませんか!? 沼らせ力は不穏過ぎますよ!!」
『じゃあ、ファンサ特訓!! アイドルっぽくていいよね!』
戸羽ニキとムエたんの本気度がわかならい!!
大丈夫だよね? 企画的なノリでいいんだよね!?
だって俺、歌えないよ──ッ!?
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