第131話 好きな子へのいじわる? いいえ、カレ虐と言う名の愉悦です

『やだやだやだやだ!!!! 絶対やだ!!!!!!!』


「カレンちゃん。そう言わずに、ほんの少し。ほんのちょっとだけですから」


『やぁだぁっ!!!!!! もう無理!! 絶対無理!!!!』


「そんなこと言わずに。ね? 大丈夫ですから」


『ダメなものはダメなのッ!!!! だって、だって、絶対に出るじゃないですかぇ──ッ!!!!』


「大丈夫ですって。あ、じゃあ。ほんのちょっとだけ動いてみてください。それなら出ませんから。ね?」


『うぅ……。出るもん。こんなの絶対出ちゃうもん』


「だからって、ずっとこのままの状態でいるわけにもいかないですよね」


『そうだけどぉ、そうなんだけどぉ』


「目を瞑っててもいいですよ。それなら安心じゃないですか?」


『うぅ……。わかった。目、つむる』


「はい。さすがカレンちゃんですね。あと少しだけ頑張りましょう」


『うぁあ……、やだなぁ。絶対やだぁ』


「大丈夫大丈夫。頑張りましょう」


『うぅ……。──えいっ』


 そんなカレンちゃんの可愛らしい掛け声の直後──、


『GAWOOOOOOOOOOOOOO!!!!!!!!!!!!!!!!!!』


『きゃああああああああ──ッ!!!!!!!!! ぎゃあああああああ──ッ!!!!!! 出たぁ!! ほら出たぁ!!!! やーだー──ッ!!!!!!!』


「おお、すごい。やだやだ言いながらエイムが一切ブレてない」


『なんで冷静に解説してるんですかぁ!? やだやだやだ!! こっち来ないで!!!! ねぇえってばぁあ──ッ!!!!!!』


「いいですよ、カレンちゃん!! その調子でドンドンやっつけちゃいましょう!!」


『アズマさんが助けてくれるんじゃないんですかぁ──ッ!?』


「だってこれ見守り配信ですし。俺には応援することしかできません。がんばれー」


『応援するならもうちょっと心を込めてくださいよぉ!!』


 しかし、カレンちゃんっていつの間にかゲームうまくなってるな。

 押し寄せてくるゾンビをバンバン撃ち倒してる。


『なんでわたしがこんなことしなきゃいけないんですかぁ──ッ!?』


「文句ならエイガに言ってくださいね。ホラゲ見守り配信を提案したのはあいつなので」


『エイガさんのバカぁ──ッ!!!!!!』


 どっかから『なんでそんなことを言われなあかんねん!!』って声が聞こえてきそうだけど、全部あいつが悪いからしょうがない。

 もしかしたら、ほんのちょっとだけは、今日のてぇてぇ配信のアイデアが思いつかなくて、始まってお助け親友キャラを呼んだ俺にも非があるかもしれないけど、うん、まあ、エイガのせいってことにしておこう。

 だってあいつが『ラブコメイベントと言えばお化け屋敷やろ!!』とか言い出さなきゃこうはならなかったんだから。


「カレンちゃん、見てください。コメント欄でリスナーさんたちがめちゃくちゃ褒めてくれたますよ」


『そんなの見てる余裕ないですよぉ──ッ!!』


「じゃあ、代わりに読み上げますね。『カレンちゃんの悲鳴助かる』『これで明日も頑張れる』『カレンちゃんの悲鳴は万病に効く』『カレ虐GG』『むしろエイガは褒めるべき』ですって」


『わたしの褒めポイントって悲鳴だけなんですかぁ──ッ!? あと、エイガさんが褒められるのは納得いかない』


「『悲鳴上げてるのに強いの草』。あはは、確かにそうですね。これだけ悲鳴上げてるのにエイムが全然ブレないの、ギャップあっていいですよね」


『呑気に談笑してないで助けてくださいよぉ──ッ!!』


「あ、今通り過ぎたところの先にセーブポイントありますよ」


『言うの遅い!! 戻らないといけないじゃないですか!?』


「あらかた倒してますし、戻れませんか?」


『うぅ、そうですけどぉ……。なんか思ってたお化け屋敷イベント違うんですけど!?』


「そうですか? 俺は存分にカレンちゃんの悲鳴を堪能してますが」


『お化け屋敷の楽しみ方が特殊過ぎません!?』


「え、あれって心地よい悲鳴を聞くためのアトラクションじゃないんですか!?」


『違いますよ! それは絶対に間違った楽しみ方です!!』


「じゃあ、正しい楽しみ方ってなんなんですか?」


『そ、それは……』


「それは?」


『ぐわー、きゃー! ぎゅ、みたいな?』


「……ものすごいアホな説明でしたね」


『アホってなんですかぁ!?』


「誰が聞いてもアホって言うと思いますよ? そんな擬音だらけの説明を聞かされたら」


『……むう』


「じゃあ、まず『ぐわー』の説明からしてもらいましょうか」


『今!? もう進み始めちゃったんですけど!? あ、じゃあセーブポイントに戻って雑談でも……』


「いえ、それはダメです。ゲームは進めてください」


『鬼! 鬼畜!! アズマさんのドS!!!! なんでそんなに意地悪言うんですかぁ──ッ!?』


「なんでってそりゃ……」


 と言おうとしたところで、流れるコメントに『好きな子ほどいじめたくなるから』と書かれているのを見つけ──、


『あ、ふ~ん。そっかぁ、そういうことかぁ』


 あ、マズい。

 これカレンちゃんも見つけたっぽいぞ!?


『なるほどなるほど。そうですよね。男の子ってそうですもんね。好きな子をいじめて気を引きたくなっちゃうんですもんね!?』


「あ、カレンちゃん。そっちからゾンビが」


『倒しました』


 マジ!?

 さっきまで散々悲鳴をあげてたのは何だったの!?

 急に強者感出さないで!?


『それでそれで? アズマさんもやっぱりそうなんですか』


「そう、というのは?」


『好きな子ほどいじめたくなっちゃうんですか?』


 すっーーーーーーー。

 さて、深呼吸をして落ち着いたところで。

 調子に乗った小娘をわからせるとしますか。いや~、今日はどんな反応をしてくれるのかなぁ。


「カレンちゃん。聞いてください」


『え、何です何です? アマリリス・カレンの好きなところを10個ぐらい言ってくれてもいいんですよ? さあさあ、どうなんです? いじわるしたくなるぐらい好きな子に何を聞いて欲しいんですか? わたしは優しいので何でも聞いてあげますよ?』


 ……おやおや。だいぶ随分と調子に乗ってるようで。


「今、『何でも』って言いましたよね?」


『あ、嘘。違います。何でもは違います。やめてください。急にそんな声出さないでください。今のアズマさん、ゾンビより怖いですよ。──きゃっ、カレン怖くて泣いちゃいそう♡』


「……………………………………………………」


『あ、あれ? アズマさん?』


「……………………………………………………」


『きゃぴ☆♪』


「……………………………………………………」


『ねぇえーっ、黙らないでくださいよぉ!! これじゃあわたしがブリっ子して滑ってるイタい子みたいじゃなないですか! あ、ほら。アズマさん見てください。あれってボスじゃないですか? 倒しに行かないとですよね!!』


「……俺にはどうしても我慢ならないことがあるんですよね」


『ど、どうしたんですか、突然。そんな真面目な声で。我慢できないこと? なんですか?』


「カレ虐を邪魔されること」


『本人に言うことじゃないですよねぇ──ッ!!!???』


「あと、カレンちゃんにメスガキ煽りをされること」


『わたしの個性を否定された──ッ!!!???』


「あ、ところでカレンちゃん。あそこにボスがいますよ。倒しに行きましょう!!」


『この流れで爽やかにゲームを進めようとするんですか──ッ!!!???』


「だってほら、今日はホラゲ見守り配信ですから。やっぱりゲームは進めないといけないじゃないですか」


『いや、そう。そうなんですけど、そうじゃないですよね!?』


「あ、ところでカレンちゃん」


『はいはい、なんですか。ボスですか? 倒しますよ。倒せばいいんですよね!?』


「俺が『好きだからいじわるしてた』って言ったら、どうするつもりだったんですか?」


『あ、ぇ……?』


「あ、カレンちゃん。ボスの攻撃来てますよ」


『って、ちょ!? え、あ? えぇ──ッ!?』


「ほらほら避けて避けて。そのボスに負けると結構グロいことになっちゃいますから」


『いや、えっと。あれ? アズマさん!? さっき何て言いました!? わたしのことが好きだからいじわるしてたって言いました……?』


「──え、なんだって?」


『最低だ──ッ!! このタイミングでの難聴系ラブコメ主人公は最低ですよ!?』


「はっはっはっ。カレンちゃん。これがVTuberのエンタメというものですよ」


『──~~~~~ッ!!!!!』


「あれ、どうしたんですか。カレンちゃん? 何か言いたいことがあるならちゃんと言ってくださいよ」


『最ッ低──ッ!!!!!!!!!』


 ん~。今日もカレンちゃんの叫びは耳に心地いいなぁ。

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