第130話 ユニット名が俺のコンプレックス塗れなんだが!?

『ということで、フメツ君とアズマさんのユニット名は《L⇔Read》に決まりました!!』


「なんかカッコよくなってません!? 普通にカタカナ表記で《リード》でしたよね!?」


『コメントに《L⇔Read》ってどうですか? ってあったんだよね。で、僕がこれカッコよくない? ってムエナちゃんに言ったら、即決だった』


「俺への相談は!?」


『だってその時アズマさんはラブコメしてたし』


「なんですかそれ!? 関係ないと思います!!」


『見てたらさ、これは邪魔しちゃいけないやつだなって思ったんだよね』


「戸羽ニキ!? 邪魔する気だったんですか!?」


『だってほら、ナキア先生もカレンさんも、僕にとってはアズマを獲り合うライバルなわけだし』


「2人はそんな風には思ってないと思いますよ?」


 特にカレンちゃんは。

 なんだったら、戸羽ニキのスカウトがうまくいくのを望んでる節すらあるし。


『そんなライバルの配信だから、当然気になって見てたんだよ。そうしたらさ、なんかすっごい初々しいやりとりしててさ。あ、これは見守らなきゃいけないって思ったよね』


 戸羽ニキもか。戸羽ニキもそういう風に思ってるのか──ッ!

 実際、今結構すごいんだよね。リスナーからの応援が。

 この間のナーちゃんとのラブコメ配信以来、色んな所で『ナキア先生を幸せにしてください』ってコメント貰うようになっちゃってさ。

 正直なところ、そんな内容だった!? って思ってちょっと引いてる……。

 だってナーちゃんとのあんなやりとりって普通にしてるじゃん。俺からすればいつも通りだから、そんなこと言われても……って思ってるところはある。


『女子とプロフィール帳を交換してさ、『あ、これ好きなんだね~』とか『私たちって意外と趣味合うんだね~』とか『そうなんだ知らなかった~』とかさ、なんて言うか、見てるこっちが恥ずかしくなったよね。甘かったな~、空気が』


「いや、まあ、その。褒められてると思って受け取っておきます」


『あれ、照れてるの?』


「なんて反応したらいいのかわからないだけです……」


『へぇ。アズマって意外とそんな感じなんだ』


「どういうことですか?」


『恋愛とか、ソツなくこなしそうなのに』


「いやぁ、そんなことないですよ? だってほら、ラブコメ主人公なんて言われてますし。ラブコメ主人公って恋愛をソツなくこなせないから、ラブコメ主人公なわけじゃないですか。つまりそういうことです」


『ふぅん。まあいいや。僕らは僕らでやることやるだけだし。ね、トレーナー兼プロデューサー? って、あれ。ムエナちゃんは?』


 言われてみればさっきから黙ったままだ。

 どうしたんだ、ムエたん。何か機材トラブルとかか?


『あ、ごめんごめん。ちょっと考え事してたんだけどさ、相談に乗って貰ってもいい?』


「なんですか?」


『何?』


『これからさ、フメツ君とアズマさんはアイドルとして活動するじゃない?』


「仮、というか、本当にアイドルになるわけじゃないですけど、そういう体で配信しますね」


『アズマがブイクリに来たら、そのままデビューするけどね』


「え、そうなんですか!?」


『ううん。冗談。そうなったらおもしろいなって思っただけ』


「ちょ、驚かせないでくださいよ」


 びっくりしたぁ。

 こんなノリみたいなユニットでデビューするかと思ったじゃないか。

 ……まさかね? え、本当に冗談ですよね?


『むー。トレーナー兼プロデューサーが相談あるって言ってるんですけどー』


『あはは、ごめんごめん。黙ってるよ』


「なんでしょう、相談って」


『ちゃんと聞いててね? ……アタシさ、ふと思ったんだよ。これからアイドルとしてデビューするアズマさんに、ラブコメ主人公なんて許されるのかなって』


『──ッ! 確かに!!』


「いやいや、何が『確かに!!』ですか!?」


『だってアズマ。アイドルって言えば、恋愛禁止じゃないか!!』


『そう! そうなんだよ!! アタシがプレイしてるソシャゲとかでも、アイドルはファンのみんなのため、恋愛なんてもってのほかっていうキャラがいるの! あ、ちなみにアタシの推しなんだけどね。ストイックなところがカッコいいんだー』


『そうだよね。やっぱりアイドルとして頑張る以上、恋愛なんかに現を抜かすわけにはいかないよね。アズマ、ラブコメ主人公をやめよう!』


「やめませんよ!?」


 そんな企画を途中で投げ出すような真似、出来るわけないじゃないか!!


『そうか。アズマは僕とアイドル道を極めるより、女の子と乳繰り合ってるのがいいって言うんだね!?』


「言い方!! 語弊ありますよ、それは──ッ!!」


『ダメだよ、アズマさん。そんなことじゃ《L⇔Read》で武道館に立つって言う、アタシたちの夢が叶えられないよ!!』


「いつそんな夢を語りましたっけ!? 今ようやくユニット名が決まったばかりですよ!?」


『夢はでっかく、目標は高く、だよ!! てっぺんに登ってこそ見える景色があるんだよ!!』


「志は立派ですけど、そういう話じゃないですよね!?」


『アズマ、選ぶんだ。夢か、恋か。君にはその2つを手にすることは出来ないんだ──ッ!!』


「待って待って何か始まってます!? ドラマ!? アニメ!? なんでそんなクライマックスみたいなテンションになってるんですか!?」


『どっちも、なんて。そんな中途半端なことは言わないでね。アズマさん、覚悟を決めるときだよ』


「ムエたんまで!? え、何々? なんですか一体!? 2人ともどういうテンションなんですか!?」


『アズマ、言っただろ? 僕は本気だって。だからアズマ。君にも僕も気持ちに応えて欲しいんだ』


『そうだよ、アズマさん。アタシだって本気だよ。本気で2人を超一流のアイドルに育て上げたいって思ってるの。だから、アズマさん。一緒に目指そう。日本一のアイドルを──ッ!!』


「そうですか。そこまで仰ってくださるなら、俺もちゃんと答えないといけませんね。本気だと言う2人には、この言葉を送ります。──『え、なんだって?』」


『………………………………』


『………………………………』


『………………………………』


『………………………………』


『………………………………』


『………………………………』


『………………………………』


『………………………………』


「あ、あれ……? 戸羽ニキ……? ムエたん……?」


 す、すべった……?

 今のタイミングなら最高にウケると思ったんだけど、違った……?


『………………………………』


『………………………………』


『………………………………』


『………………………………』


 あ、違ったね、これは!

 すべったね。間違いなく!!

 ぐわ、マジか……。え、どしよう。ど、どうする……?


『アズマ、何か言うことは?』


『アズマさん?』


「すみませんでした──ッ!!!!!! あのタイミングで言えばウケると思ったんです──ッ!!!!!!!!」


『これだから鈍感朴念仁唐変木ラブコメ主人公は』


「ぐわ──ッ!?」


『ラブコメ主人公というよりは、ただ空気が読めないだけなような』


「ぎゃあ──ッ!?」


『確かにアズマに恋愛をソツなくこなすことは出来なさそうだね。ごめん。僕の認識が間違ってたよ』


「く──ッ!?」


『この主人公を攻略しなきゃいけないヒロインサイドが、むしろかわいそうになってきた』


「そこまで言います!?」


『いやねぇ?』


『だって……』


「わかりました。わかりましたよ、さっきのは俺が悪かったです!! でもあそこはああするしかなかったんです!! だって、そうしないとこのラブコメ配信企画を守ることが出来なかったから!! 俺は主人公役として、身を挺してこの企画を守り抜いたんです!!」


『自己犠牲すれば何でも許されるわけないと思うなぁ』


『そういうセリフはもうちょっとカッコいいシーンで言って欲しいなぁ』


「辛辣!! 今日の2人はいつになく辛辣ですね!? 空気が読めなかったのって、そんなに罪ですか!?」


『うん』


「そんなあっさり頷かないでくださいよ!?」


『あ~、そういうことかぁ』


「ムエたん? どうしたんですか?」


『ユニット名の《L⇔Read》にはさ、歌を朗読しちゃうっていうアズマさんの個性から取ってるところあるじゃない?』


「ええ、不本意ながら。個性というかコンプレックスというか……」


『今日の配信でもうひとつ出来たよね。──空気が読めないっていうか、この場合は空気を読めって言うアタシたちからの命令形での“read”かな?』


「やめてくださいよ!! え、これ以上ユニット名に俺のコンプレックスを重ねるんですか!?」


『しょうがないな、アズマは。じゃあ、その辺も僕が“lead”して教えてあげるよ』


『よーし!! アタシもトレーナー兼プロデューサーとしてアズマさんを鍛えるよー!!』


「待って待って!! こんな流れで配信終わらないでください!! リスナーさんたちに誤解されたままに──って、あ」


 終わったああああああああ!!!!!!!!!!!

 ちくしょおおおおおおおお!!!!!!!!!!!

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