第127話 チャンスは掴みたい。夢は叶えたい。だってVTuberをやってるんだから

『アズマさん、わたしどうすればいいんですかぁ──ッ!?』


「ああ、うん。とりあえず落ち着こうか」


『落ち着いてなんていられるわけないじゃないですか!? ナキア先生だけじゃなくて、戸羽丹フメツさんまで参加するなんて、わたし聞いてませんよぉ!?』


「カレンちゃん。安心していいよ。俺も聞いてなかったから」


『そういうことじゃありません!!』


 戸羽ニキ参加からの怒涛の展開を見せた配信は、とりあえずいったんお開きということになった。

 そもそもがナーちゃんとの配信枠ってことと、《企画屋》の2人も色々と整理したいってことだったのと、あと俺がテンパってたし……。

 だって意味わかんなくない!?

 突然、ブイクリにスカウトしたいから一緒に頑張ろうなんて言われても、『何それ!?』ってなるじゃん!!

 というわけで、戸羽ニキとのチャンネル名もといユニット名決めも次回配信に持ち越しとなった。

 そして配信が終って一息つく間もなく、カレンちゃんから通話が来たと言うわけだ。


『片やトップVTuber。片や大人気イラストレーター。それに比べてわたしはどうですか。弱小個人VTuberで、アマチュア学生イラストレーターですよ!? あの2人と比べられるなんて耐えられません!!』


「そんなこと言ったら俺だってどうするのさ。アイドルデビューとか言われたんだよ!? カレンちゃんだって知ってるだろ? 俺の歌が壊滅的だってことは!! 嫌だよ!? 全世界に醜態をさらすなんて!!」


『そうなったってどうせうまく行っちゃうんじゃないんですか!? 主人公ですもんね、アズマさんは!! わたしなんてなんなんですか!? 当て馬にすらなりませんよ! あの2人とはステージが違うんですから!! モブですよモブ!!』


「目立たなくていいじゃないか。いきなり妙な企画に巻き込まれたと思ったら、いきなり大手事務所でのデビューをかけた配信活動だよ!? こんなことになるなんて思ってなかったのに──ッ!!」


『そんなのわたしだって同じですよ! ……うぅ、どうすればいいんですかぁ。イヤですよ、わたし。比べられて、けなされて、バカにされるんだぁ』


「俺だってそうさ。戸羽ニキたちがいくら頑張ろうって言ってくれたって、絶対に何か言われるに決まってるじゃないか。俺みたいな個人勢VTuberがブイクリからスカウトなんて……。ありえないだろ、普通に考えて……」


『そうですよ。ありえないですよ。なんですか、この状況』


「周りは大物ばかりで、どんどん話が大きくなって」


『絶対場違いなのに、わたしなんかが参加していいはずがないのに』


「でも、どこかで思ってるんだ。……ラッキーって」


『…………はい』


「話が大きくなってくに連れてドンドン注目されて」


『もっとたくさんの人に配信を見て貰えて』


「それって実はめちゃくちゃチャンスで」


『普通はこんな機会に巡り合えることすらなくて』


「だから、ちょっと期待もしてる。《東野アズマ》がもっと有名になるんじゃないかって」


『もっとたくさんの人に《アマリリス・カレン》を知ってもらえたらって』


「思っちゃうよね~」


『ですね。思っちゃいます』


 へへ、と2人して笑い合う。


「そうだよなぁ。こんなチャンス普通はあり得ないし」


『怖いですし、不安ですけど、……逃げたくはないです』


「わかるよ。俺も同じだから」


 そう。突拍子もない話になってビックリはしたけど、でも逃げたいわけじゃない。

 むしろどうすれば上手くいくのかって、本心ではそればっかり考えてる。


『あのですよ、アズマさん。もし、もしもの話ですよ……?』


「うん。何?」


『もし、アズマさんが本当にブイクリからデビューしちゃったらですよ』


「うん」


『わたしって大手事務所所属VTuberのママってことになるんでしょうか?』


「あ」


 そっか。カレンちゃんの場合、そういう可能性もあるのか。

 そうだよな! そうだよ!!

 だって、今俺が配信で使ってるアバターのキャラデザもLive2Dも、全部カレンちゃんがやってくれてるんだから……。そっか、そういう話にもなってくるのか!!


「もしかして今回の話って、カレンちゃんにとって、本当にめちゃくちゃ大チャンスだったりする……?」


『わかんないです。わかんないですけど、……そういう可能性もあるって思っていいんでしょうか?』


「わかんないけど、もしかしたらそういう可能性もあるのかもしれない」


『わぁ──ッ!!』


「カレンちゃん!?」


 いきなり驚いたような声を上げないでくれ。ビックリしたじゃないか。


『あはは。ごめんなさい。ちょっと興奮しちゃって』


「気持ちはわかるけど、落ち着こうか」


『でもでもアズマさん。もしかしたら、もしかして、わたしプロのイラストレーターとしてデビュー出来ちゃうかもしれないんですよ!?』


「果たしてそんなにうまくいくかな?」


『なんでそういうこと言うんですかぁ。わたしに気持ちよく夢を見させてくださいよぉ!!』


「カレンちゃん。人の夢と書いて──」


『儚いと読むんだよ、なんてテンプレみたいなことを、まさか東野アズマが言うわけないですよね?』


「──くッ」


『あれあれぇ、どうしたんですかぁ? なんだか言葉に詰まってる気がしますよぉ?』


「な、なんのことかな? あ、あ。ぅうん。あー、あれだ。さっきの配信でちょっと声を出し過ぎたから、ちょっと喉につまる感じがあるなぁ」


『白々しいですよ』


「なんだって?」


『な~んでもありませ~ん』


「言いたいことがあるならどうぞ?」


『え~、いいんですか~? 言っちゃってもいいんですか~?』


「ただし言葉には気を付けてね。カレンちゃんがブイクリ所属のVTuberのキャラデザ担当になれるかどうかは、俺の頑張りにかかってるんだから」


『わたし、アズマさんのこと全力で応援してます!』


「そっかそっか、ありがとう」


『アズマさんならきっとうまくいくって、信じてますから!』


「いやいや、そんなそんな。まだやってみないとわからないし?」


『いいえ、わたしには見えてます。アズマさんがブイクリのトップVTuberとして活躍してる姿が!!』


「はっはっはっ! そうかそうか。そんな未来が見えちゃってるか」


『ところでアズマさん。こんな言葉を知ってますか? 今のアズマさんにピッタリな言葉なんですけど』


「お、何だい? 今の俺にピッタリの言葉だって? なんだろう。『成功』かな? それとも『栄光』? 『明るい未来』なんてのもいいね!」


『いえいえ、何を言ってるんですか。もっと相応しい言葉があるじゃないですか』


「今の以上に相応しい言葉? 何々? 一体どんな輝かしい言葉なんだい?」


『──儚い』


「やかましいわ──ッ!!」


 薄々そんな気はしてたけど──ッ!!


『人の夢と書いて、儚いと読みます』


「だからなんだ! いいだろうが、別に!! たとえ儚くても夢を見たって!! VTuberをやってるんだぞ!?」


『ふぃ~。スッキリしたぁ』


「こらこら。ひとりで満足してるんじゃないよ」


『あれ、どうしたんですかアズマさん。何か言いたいことでもあるんですか?』


「──覚悟しておけよ」


『何をですかぁ!?』


「──覚えておけよ」


『だから何を!?』


「この恨みはらさでおくべきか」


『怨念!?』


「いや、本音」


『余計に怖いですよ!?』


「ふぃ~、スッキリしたぁ」


『人の言葉をパクらないでください!!』


「あ~、楽しかったぁ」


『追い打ち!? まさかの追い打ちですか!?』


「これが《カレ虐マスター》と呼ばれた俺の実力だよ」


『うわ、ダサ』


「いきなり素に戻らないで!?」


 冗談言い合ってふざけてる時に急に冷めた対応されると、普通に傷つくから……。


『嫌です。許しません』


「えぇ……。冗談じゃん」


『冗談でも言っていいことと悪いことがあるんですよ?』


「それはそうだけどさ……」


『許してほしかったら、わたしをブイクリ所属VTuberのママにしてください』


「随分と大きな代償になったな……」


『おまけでとっても美味しいご飯を作りに行ってあげます。あと、』


「あと?」


『おっぱい揉ませてあげます♪』


「なん──ッ!?」


『冗談です♪ 騙されました?』


「この──ッ! 大人をからかうもんじゃ」


『あはは~。それじゃあ、おやすみなさい』


「待てまだ──ッ、って切られてるし」


 ぬう。なんかカレンちゃんにいい様にやられると釈然としないぞ……。

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