第126話 ラブコメ主人公企画のはずじゃなかったっけ……?

『やあ、アズマ。久しぶり』


「と、戸羽ニキ。一体──、」


『ちょっとちょっとちょっと!! どういうことよフメツ! え、え。これってつまりそういうこと!? フメツったら本気でズマっちのことを!? フメアズはあるということかしら!?』


『うわ、びっくりした。急に出てこないでよ、ナキア先生』


『急にぶち込んできたのはそっちでしょう!? それでどうなの!? あるの!? ないの!? 当然あるわよね!? フメアズはあるのよね!? ああもう、暑くなってきたじゃない!!』


 って、おい!!

 まさか今脱いでる!?

 なんか衣擦れっぽい音がしてるんだけど!?

 ナーちゃん!? それはどういうことですか!?


『ふぅ──。ところでフメアズのてぇてぇ配信では何が見れるのかしら? やっぱり私的にはイケイケなフメツにわからせれるズマっちに期待したいのだけれど、いえ、待って頂戴。ズマっちの誘い受けもありね。なんだったらズマっちヘタレ攻めも……おほっ』


『ナキア、おほ笑いはやめよう。さすがに』


『何言ってるのよ、ミチェ!! 目の前に性癖が現れたのよ!? そんなの無理に決まってるじゃない!!』


『開き直ればいいわけじゃないからね!?』


『今更開き直りなんてしないわ。私は安芸ナキア。誰より性癖に素直な女』


「カッコつけてるつもりかもしれませんが、何もカッコよくないですからね!?」


『アズマさん。今更遅いけど、ヒロイン役がナキアで本当によかったの?』


「俺も今まさしくそう思ってました」


『弱気になってちゃダメよ! こんな私を愛するために頑張りなさい!!』


「絶対にヒロインのセリフじゃないですよね……」


 この前ご飯に行ったときは、ナーちゃんって可愛いなって思えてたはずなんだけどな……。

 あれ、どうしてだろう。

 あの時の気持ちが思い出せないや……。


『あの、僕が話してもいい?』


『もちろんいいよ~。ナキアは今ミュートにしたから~』


『そろそろあの女には慎みというものを学んで貰わんとな』


『でもでも~、ナキアのああ言うところがズマちゃん的には可愛かったりするんじゃないの~?』


「いえ。残念なことに、たった今ナーちゃんを可愛いと思っていた記憶がなくなりました」


『おっと~、先行き不安なラブコメになりそうだね~』


『ふ、追加ヒロインにより既存ヒロインが脱落するのもラブコメあるあるだな。それで、戸羽丹フメツ。お前はどうして今回参加したのだ? まさか本当に安芸ナキアの言う通りだと……?』


『そんなわけないでしょ。やめてよね、袈裟坊主さん』


 だ、だよな!?

 大丈夫。俺は初めからわかってた。戸羽ニキがまさか本気でそんなわけないって。

 ああそうとも、最初からわかってたさ!! ……本当だよ?


『あ~……。『フメアズはないの!?』ってナキアからチャット来てるけど~、無視でいい~?』


「はい」


『もちろん』


『無論だ』


『……すみません、うちのナキアが』


『大丈夫~。ミチェちゃんが謝ることじゃないよ~』


 うわぁ、俺のとこにまでチャット来た……。

 いいや、放置。ついでに通知も切っておこう。


『私たちも~、盛り上がるからいいかな~って思って~、詳しく聞いてなかったけど~、フメフメはなんでこの企画に参加しようと思ったの~?』


『詳しく聞かせてもらおうか』


 って、いやいや、あなたたちは聞いておいてくださいよ!

 らしいっちゃらしいし、戸羽ニキの信頼あってだと思うけど、一応主催なんだし。ねぇ?


『さっき言ったでしょ。アズマを奪いに来たって』


「いやいや、意味わかんないですって。どういうことですか、俺を奪うって」


『簡単だよ。アズマにブイクリに入って貰いたいってこと』


「え」


『お~!?』


『何!?』


『え、アズマさんをブイクリにって……、それってつまり、スカウトってこと──ッ!?』


「スカって、ええ!? スカウト!? 俺を!? ブイクリに!?」


 待って待って待って!?

 え、何!?

 どういうこと!?

 どうしてそうなった!?

 ブイクリって、だってブイクリだぞ!?

 この群雄割拠のVTuber業界においてトップを走ってる企業系プロダクションだぞ!?

 オーディションをすればとんでもない数の応募が殺到するっている噂の、あのブイクリだぞ!?

 そんなブイクリが、俺をスカウト──ッ!?

 え、待って。……頭が追いつかないんだけど!?


『まあまあ、落ち着いてよ』


「いやいや、落ち着けるわけないじゃないですか!! 完全に予想外っていうか、──なんで!?」


『いや~、いきなり過ぎて私もビックリだよ~』


『コメント欄も凄まじいことになっているな』


 うわ、本当だ。

 戸羽ニキが登場した時の比じゃないぐらいに盛り上がってるし、混乱してる。

 すっごいカオス。

 全然目が追い付かないけど、『うおおおおおおおお!!!!!!!』とか『おおおおおおおおおお!?!?!?!?!?』とか『は?』とか『マジで!?』とか『すげぇ!!』とか『おめでとう!!』とか、もうなんか色んなコメントがものすごい勢いで流れていってる!!

 気持ちはわかる!!

 俺も今そんな感じ! 急な話過ぎて全然理解が追い付ていない!!


『まだ正式なスカウトにはなってないから、いったん僕の話を聞いて欲しいんだけど、いいかな?』


「あ、はい。もちろんというか、ぜひ聞かせてください」


『前々から運営に話してはいたんだよ。アズマをブイクリに入れられないかってさ。僕もそうだし、ツルギや雄も。アズマと一緒にVTuber活動が出来たら楽しいよねって』


 埼京さん……! 英さんも……っ!!


『だけどうちも大所帯だし、うちに入りたい人なんて星の数ほどいるから、僕らだけのワガママでそんなことは出来ないって言われちゃってさ』


『ブイクリの規模だとそうだよね~』


『大手事務所ゆえに、といったところか』


『そうそう。運営もアズマが伸びてるのは知ってるし、配信の内容とかゲームの腕前とか、いいって言ってはいるんだけど、そんな気軽にスカウトして入れるって言うのは難しいんだってさ。事務所が立ち上がったばかりなら出来たかもって言われたけどね』


「それは、……しょうがないですね」


『そ、だからさ思ったんだ。みんなが認めるぐらいの実績を作って、アズマがブイクリに必要なVTuberなんだってみんなに思ってもらえれば、正式にスカウトが出来るんじゃないかって』


「まあ、そりゃそうですよね。そんな簡単にいいよって言えるわけもないでしょうし」


『うん。だからこの企画に参加した』


「話が飛躍してません!?」


『そこが一番聞きたいとこだよ~』


『フメツ。お前、話すのがめんどうになってないか?』


『それはないよー』


『あはは。ごめんごめん。要するにさ、アズマの実力と、ブイクリの一員としてやっていける存在だって言う実績を示したいんだよね。ずっとその機会がないかって思ってたんだけど、この企画ならそれが出来ると思ったんだよね』


「というと……」


『ごめんね。先に謝っておく。──僕とアズマのチャンネルは、他の2人のチャンネルの10倍以上の登録者数まで伸ばす。これは本気。なんだったら他の2人が霞むぐらい、本気でアズマを獲りに行くから』


 ……マジか。


『覚悟しておいてね、アズマ。その目標が達成できたとき、僕は正式に運営からアズマのスカウト権を勝ち取るから。そしてその時、正式に君をブイクリの一員として迎えるつもりだよ』


「本気、なんですか……?」


『もちろん。その証拠を見せてあげる。……お待たせ。いいよ』


 ?

 なんだ?


『もー、待ちくたびれたよ!! 女の子を待たせるなんて、フメツ君も悪い男だなー』


 って、え!?

 その声は!?


『ごめんごめん。ちゃんと話しておかないといけなかったからさ』


『いいよ。許す。あ、みなさんこんにちはー! 鳳仙花ムエナです!! フメツ君にどうしても協力して欲しいって言われたから、この企画に参加させてもらうことになりましたー!! よろしくね!!』


「エ、──ムエたん!?」


『あ、どうもー。これからよろしくお願いします!!』


 ええええええええ!?!?!?!?

 待って待って。どういうこと!?

 なんでエナっていうか、ムエたんが!?


『アズマ。君の最推しのVTuberはムエナちゃんだったよね。だから、手を貸してもらうことにしたんだ』


「ちょ、ちょっと待ってください!? 怒涛の展開過ぎて全く頭が追い付かないんですけど!? どういうことですか!? つまり、俺はムエたんとラブコメするってことですか!?」


『あはは。それは夢を見過ぎだよ。そんなことしたら炎上するに決まってるじゃないか』


「で、ですよね。よかった」


 ムエたんは言わばアイドル売りの気があるVTuberだ。

 当然ながら、そういうことに敏感なファンもいる。

 まあ、ブイクリっていう男性ライバーも多くいる事務所に所属してるから、他のガチなアイドル系の事務所に比べればその辺の空気も緩いけど、炎上のリスクが無いかって言われればそうではない。


『彼女は僕らのトレーナーであり、プロデューサーだよ』


「ん? プロデューサー?」


 待って。全然話が見えてこなくなったんだけど……?

 あれ、これってラブコメ企画じゃなかったっけ……?

 なんかどんどん話が違う方向に向かっていってない……?


『アズマ。君にはこの企画中、僕とユニットを組んでもらう。──2人で武道館を目指そうじゃないか』


『えっと~、つまり~……?』


『どういうことだ……?』


『はっきり言って欲しいな』


『トレーナー兼プロデューサーの鳳仙花ムエナです。つまり、戸羽丹フメツと東野アズマで、架空の男性アイドルユニットを結成しちゃおうって話です』


「はい!? アイドル!?」


『あ、心配しなくても大丈夫だよ! アタシ、アイドルプロデュースもののソシャゲとかやり込んでるから!! 2人の関係性含めて、バッチリサポートしてあげる!! まずはチャンネル名改め、2人のユニット名を決めよう!!』


 いや、本格的に待って!?

 展開に追い付いてないよ!?

 ラブコメはどこに行った!?

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