第108話 虫とノリとオタクに優しいギャル
『ギャーッ!!!! 虫ッ!! 虫ッ!! 虫ッ!!!! ねえッ!! 虫だってばッ!!!! 無理なんだけどッ!?!?!?』
「このゲームやりたいって言ったのアゲハちゃんじゃないですか」
『だってこんな虫だって思わないじゃん!!!! ギャーッ!! キッモい!! 無理ッ!! 無理だってばーッ!!!! ミチェ助けてーッ!!!!』
『私、今手が離せないから無理ー』
『無理無理無理ッ!!!! ホンットに無理ッッッ!!!! アズマさんアズマさんアズマさんッ!!!! 助けてーッ!!!! ギャーッ!! 来たーッ!! ヤダーッ!!!!』
「とか言いつつめちゃくちゃエイムいいのは何なんです?」
『殺意ッ!! ウチ、ゴキブリも絶対に一撃で殺すよッ!! あいつらの存在は許さないッ!!!!』
「誰よりもこのゲームに向いてますね」
『そんなのんびり話してないでッ!!!! ねえ、来てるってばーッ!!!! キモいーッ!!!!』
『それだけ虫が嫌いなのに、なんで名前がアゲハなの?』
『ノリ!』
「ノリですかぁ。じゃあ、しょうがないですね。あ、そのままノリでその辺全部やっちゃってください」
『わかった!! って、そんなノリにはならないからッ!! 2人は何してんの!?』
「俺はこっちで回復してます」
『私もー』
『え、待って!? 戦ってるのウチだけ!? 絆は!? レジェンダリーカップを一緒に戦った絆は!?』
「何言ってるんですか、ここにちゃんとあるじゃないですか。今、俺とミチエーリさんは『このまま見てた方がおもしろそう』って同じ気持ちを抱いてますよ」
『これまでで一番心が繋がってるよね!』
「間違いないです。あ、アゲハちゃん右からも来てますよ」
『アゲハ。左からも来てる!!』
『戦えお前らーッッッッッ!!!!!!!!! いやーッ!! 虫に弄ばれるーッッ!!!! 来るなって言ってるじゃーんッ!! ねえ、無理ーッ!! 助けてーッ!!』
うーん、いいね。
カレンちゃんの悲鳴とはまた違った良さがアゲハちゃんの悲鳴にはあるよ。
あ、やっぱりリスナーさんたちもそう思う? だよねー。
「アゲハちゃんアゲハちゃん」
『何!? ウチ今、世界一忙しいんだけど!?』
「うちのリスナーさんたちが『アゲハちゃんの悲鳴が沁みる』って言ってますよ」
『何それどういう意味!?』
「『悲鳴を聞きながら飲む酒が美味い』『アゲ虐たすかる』『蜘蛛に食われる蝶って、なんかいいよね』だそうです」
『最後変なのいなかった!?』
「世界は広いですし、色んな人がいるんでしょう。あ、ミチエーリさんそっち来てますよ」
『了解ー。世界って広いよね! うちのリスナーたちからも人気だよ! よかったねアゲハ!! アズマさんこっち手伝ってー』
「OKでーす」
『なんもOKじゃないんだけど!? え、待って。なんで2人は一緒に戦ってるの!? ウチは!? ねえ、ウチも助けて!?』
「リスナーさんたちの愉悦を奪うなんて俺には出来ないですね」
『アズマさんも一緒に楽しんでる側だよね!?』
「リスナーと配信者は一心同体って言いますからね」
『最悪な絆だーッ!! おいこら、なんでウチのリスナーまで『たすかる』って言ってんの!? 『アズマに同意』って何!? みんなウチを推してるんじゃないの!?』
『大丈夫だよ。みんなアゲハのことを可愛いって思ってるから!』
『こんな推され方ヤダーッッ!!!!』
延ばし延ばしになってたレジェンダリーカップの打ち上げだけど、こんなに盛り上がるならもっと早くにやっておけばよかったな。
アゲハちゃんが『これやりたい!』って提案してくれたのは、《地球守備軍》というゲームだ。
わかりやすく言えば、地球を侵略しに来た巨大生物とかを倒していくシューティング系のゲームなんだけど……。
『もう! ホントになんでこんなに虫が沸いてくるのッ!?!?!? 無理なんだけどッ!!!!!』
攻めてくる巨大生物っていうのが、実在の虫をモデルにしてるんだよね。
しかもアゲハちゃんが提案してきたのがシリーズの最新作だから、グラフィックとかも結構繊細で。まあ、うん。苦手な人は本当にダメだろうねっていうビジュアルをしている。
「ミチエーリさんは虫は平気なんですか?」
『うん。食べれば一緒だし』
「え──」
『は? ミチェ。え……?』
『あはは! 冗談だよ!! 食べるわけないって!』
『え、ホントに? ガチで食べてたら、さすがに引くんだけど』
『アゲハが一緒に食べてくれるなら食べるよ』
『ヤッバい!! 今めっっっっっちゃ、ぞわってした──ッッッッッッ!!!! え、は? 何? 食べる? 虫を?』
『うん。たまに配信者でやってる人とかいるでしょ』
『いやいやいや! 無理だからッ!! あの人たちはきっと特別な訓練を受けてるんだよ!! ウチには無理ッッッッッ!!!!!』
『じゃあ、アズマさん!』
「地獄のようなお誘いですね!?」
『かわいい女の子からのお誘いだよ?』
「どれだけかわいくても断りますよ!?」
『ちょっと虫を食べるだけだよ!』
「逆になんで虫を食べさせたがるんですか!!」
『ノリ』
「『ノリ』で全てが許されるわけじゃありませんからね!?」
『ていうかミチェ。それウチの芸風なんだけど~ッ!?』
『私も言ってみたかった!』
『あ、うん。そっか』
「いきなり歯切れ悪くなりましたね」
『や、ちょっと今のミチェは可愛かったなって』
「ミチエーリさん。かわいく言えばアゲハちゃんが虫を食べてくれるそうですよ」
『言ってないからッ!!』
『アゲハ~。虫、食べて?』
『絶ッ対、無理──ッ!!』
『アゲハ~』
『無理だからッ!!』
『ねぇ~、アゲハ~』
『無理なものは無理ッ!!』
『アズマさ~ん。アゲハが無視するよ~』
「虫だけにって? ははっ! さすがミチエーリさん。うまいですね!!」
『…………』
『…………』
『…………』
『…………』
やめてよ、沈黙。
さっきまでノリ! って言って盛り上がってたじゃん!?
『アズマさ~ん。虫食べる~?』
「ちょっと今心が折れてるので放っておいてください」
『ヤダ!!』
いや、ヤダって……。
そんな子どもじゃないんだから。
『なーんてね、冗談! あははっ!!』
「本気で虫食べろなんて言われてたら堪ったもんじゃないですよ」
『さすがにそれはないよ。あ、ちなみにアズマさんの好きな食べ物って何なの?』
「この流れで食べ物の話しますか……」
散々虫を食べるだの食べないだの言ってたから、もうちょっと気分変えたいんだけど。
『いやいや、2人とも呑気に話してないでこっち手伝ってってばッ!!』
『アゲハはそのまま頑張って!』
『なんで!?』
『ノリ!!』
『ウチもう絶対にノリって言うのやめよう』
「ギャルからノリを取ったら何が残るんですか?」
『残るよ!? ギャルを何だと思ってるの!?』
「ノリがアイデンティティな人たち」
『ん~、間違ってなくもなくもない、かも!』
「ほら、ノリのないギャルなんてギャルじゃないんですよ」
『え~、でもさ。オタク君が好きなギャルって、ノリノリなギャルじゃなくて優しくて理解のあるギャルじゃないの?』
『オタクに優しいギャルだ!』
『それそれ。ほら、ウチってゲーム好きだし、マンガめっちゃ読むし、アニメ見るし、よくない?』
「みなさん、聞いてください。そして世界中に伝えてください。オタクに優しいギャルは、実在しました……っ」
『え~、普通じゃない? ウチの友達とかも結構マンガ読んだりしてるよ』
「あ……」
『ん?』
『アズマさん?』
「いえ、うちのリスナーたちがあんまりにも切ないことを言ってるので」
『なんて言ってるの?』
「『その世界線に俺はいない』『世界に実在しても俺の人生には出現しない』『来世に期待』って言ってます」
『じゃあみんなウチのリスナーになればいいじゃん。ウチと一緒に楽しくお喋りしよーよ。みんなの好きなマンガとかアニメとか教えてよ』
「おー!」
『さすがアゲハ!!』
「みなさん!! みなさんに優しいギャルはいますよ!!」
コメント欄の盛り上がりがすごい!!
みんなして『夢は夢じゃなかった』とか『人生に思い残すことはない』とか言ってるんだけど!?
どんだけオタクに優しいギャルに飢えてたの!?
『ちなみにアズマさんの好みってどんなタイプなの?』
『あ、ウチも聞きたい~』
「どんなって……。なんですか、そんな突然」
『ノリ』
「ノリですか」
『うん。ギャル好きなのかなーって思って』
『え~、まさかウチ狙われてるの~? 困る~』
「俺はもっと落ち着いた大人の女性が好みですね」
『おい。そこはノッておけよ』
「そのネタでノッたらさすがに炎上しますよね!?」
『あ、ねぇねぇアズマさん。うちのリスナーが『大人の女性。ナキア先生か』って言ってるよ!!』
「……ナーちゃんが大人?」
『あ、否定じゃなくてそこに疑問持つんだ』
「え、だって。大人ではないですよね。落ち着いてもないですし」
『アズマさんが落ち着かせてあげるって言うのは?』
『え、結婚!?』
「しませんよ!?」
『しないの?』
『してよ~』
「それこそノリでするようなものじゃないですよね!?」
配信でそんなこと口走ったら本気で炎上するぞ!?
▼
ちなみにこれは余談だが。
『ミチェ。私ってもっと落ち着いた言動を心掛けた方がいいのかしら? 自信ないわ……』
『ありのままのナキアを好きになって貰えるように頑張ろうよ! 私も応援してるから!!』
なんてやりとりを、配信を終えた後にミチエーリはしたそうな。
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