第107話 いつもと同じようで、いつもとはちょっと違う配信

「え、待ってください!? それ詰めてくるんですか!? 無理無理無理!! それは無理ですって──ッ!!!!」


 なんて騒いでる間にあっさりと倒される。

 いやぁ、マジか。あんなに強引に詰めてくることある!?

 味方!! 味方頑張って!!

 って、あー……。やられちゃったか。


「もう今のはしょうがないですね。切り替えて次のマッチ行きましょう!!」


 レジェンダリーカップでガッツリやったからか、最近EX.の配信をしてなかったけど、やっぱり久しぶりにやると楽しいな!!

 しかもめっちゃ気楽にカジュアル戦をやってるだけだし。

 ガチでやるEX.はそれはそれで楽しいけど、たまにはね、こうやって気楽にやるのもいいよね。こっちの方がリスナーとの雑談も楽しめるし!


「『なんか今日元気ですね?』 って、そうですか? いつもこんな感じじゃないですか?」


『確かに』

『最近声が疲れてた』

『仕事辛い時の俺みたいだった』


 最後のコメント!!

 ちょっとヒヤッとするようなこと言うのやめてくれません!?

 仕事してたことは配信じゃ言ってないんですから。


「レジェンダリーカップで結構張りつめちゃってましたかね? 参加されてるみなさんも強かったですし。でも、俺たちも結構いい線まで行けたと思いませんか?」


『ザ~コ♡ ザ~コ♡ アズマのよわよわエイム~♡』


「リスナーにメスガキがいますねぇ!? こんなところで遊んでないでお家に帰りなさい!!」


『お家って、なに……? やだ。かえりたくない……』


「いやいやいや。なんかシリアスな展開になりそうなコメントしないでくださいよ!! 皆さん!? これどうすればいいですか!?」


『保護』

『助けよう』

『連れ去ろう』


「連れ去ろうは違いますよねぇ!? お、お嬢ちゃん? どうしたんですか? 何か怖いことあったんですか?」


『あるわけないじゃん、バ~カ♡ こんなのに騙されるなんてザコじゃん♡ ザ~コ♡』


「誰かこのメスガキをわからせてください!! ムーブが完璧すぎません!?」


『アズマってロリ? ショタ?』


「って思ったらなんですかその質問!! スパチャしてまで聞きたいことなんですか!?」


『めっちゃ聞きたい』

『はよ教えろ』

『性癖語りをしよう』


「性癖語りはしませんよ!? そういうのは俺の役割じゃないんで」


『ナキア先生をお呼びですか?』

『ナーちゃん来てー』

『ナキア先生待機』


「いやいや呼びませんって!! 『性癖語りしたいから来て』とか、誘い文句として最低じゃないですか」


 いや、ナーちゃんなら来るか……?


『呼べ』


「赤スパされても呼びませんからね!? ていうか、さっきからスパチャの投げ方がおかしくないですか!? 嬉しいですけど、それでいいんですか!?」


『じゃあ、こう?』


「『じゃあ、こう?』じゃないんですよ!! え、なんで……? 赤スパってそんなお試し感覚で投げるものじゃって、ああ!? なんで? ちょっと待ってください皆さん!! なんでいきなりそんなスパチャを投げ出してるんですか!?」


『今が投げ時』

『ここしかない』

『これでいい?』

『足りない?』

『しょうがないなぁ』


「いや、え!? 何!? 何すればいいんですか!? こんなにお金を貰っても俺が出来ることなんて……っ!!」


『リクエストしていいのか?』


 限界赤スパ投げながら何言ってんだ、コミット米太郎!!

 優梨愛さん!?

 ちょっと冷静になってください!?


『米太郎さん!!』

『米太郎きた!!』

『米太郎さん。限界赤スパさすがです!!』


 ああ!? なんか優梨愛さんの限界赤スパが風物詩みたいになってる!?

 待て待て待て!! それはダメなやつだろ!!


『これでリクエスト出来るの?』


 あ、ほら!

 何も知らない無垢なリスナーが真似しちゃってる!!

 ていうか誰!?

 エ、エナたんさん……?

 普段の配信で見かけないんですが……。

 まさか……?


『初見です』


 エナたんさん!! エナたんさん!?

 初見で限界赤スパなんて投げないで!!

 それもう一周回って怖いから!!

 どっから来たの!? 初見さんならもうちょっと様子見をしてていいんですよ!?


「ちょちょちょ!!! 皆さん、いったんスパチャやめましょう!! このままでと俺、胃が痛くなって配信どころじゃなくなりますから!!」


『これがアズ虐』

『札束で殴れ』

『悲鳴たすかる』


「わかりません!! 俺、リスナーさんたちの気持ちがわかりません!! 何してるんですか、皆さん!!」


『推しの悲鳴たすかる』

『もっと鳴け』

『はい。追加』


「『はい。追加』じゃないんですが!? エナたんさん!? あなた何してるんですか!?」


『名前呼んでくれた代』


「名前呼んだだけでスパチャ投げられたら堪ったものじゃないですよ!? これから俺、みなさんの名前を呼べなくなるじゃないですか!!」


 マジで何なのこの人!!

 良識の範囲を超えたスパチャって本当にどうすればいいのかわかんなくなるんですが!?


「えぇっと、ちょっと動揺してしまったのでEX.で緊張感を取り戻しますね。ちょっと集中するんで喋れなくなるかもしれません」


 よし、集中だ集中。

 配信者たる者、配信中に取り乱してばかりじゃ情けない。

 ここらでビシッとカッコイイとこ見せて、元の楽しい配信の雰囲気を取り戻そう。


「って頑張ろうとした時に限ってゲームが落ちるのは何なんですかね!?」


 リスナーだけじゃなくてゲームまで俺を虐めるの!?

 なんだこれは。配信のタイトルを『不憫配信』とかに変えた方がいいか!?


「あ、戻った。それじゃあ、今度こそ本当に気を取り直していきますよ」


 っとに、今日は散々だな。

 せっかくライブも終わって平穏な日々が戻ってきたと思ったのに。

 俺はVTuberライフを楽しく過ごしたいだけなんですが!?


「よっし!! ヘッドショット!! 行くぞ行くぞ!!」


 そうそうこれだよ。こういうのだよ!!

 リスナーの前でカッコイイプレイをしてる時ほど楽しいものはないんだよ。


『ナイス!!』

『いける!!』

『最強!!』


 コメントも最高だ!!

 スパチャが乱舞してるより、こういうコメント欄の方が落ち付くよなぁ。

 さっきのはマジでビビった……。


「味方ナイス!! こーれ、いけるぞッ!! いっちょクラウン獲っちゃいますか!!」


『フラグじゃん』

『フラグで草』

『負けたらウケる』


「いやいや、何言ってるんですか。そう簡単に負けるわけないじゃないですかって、敵来た!?」


『これはフラグ建築士』

『完全な負けフラグ』

『フラグ回収乙でーす』


「フラグなんてへし折ってなんぼですから!! ここから勝って皆さんをわからせますよ!? 見ててください!! って別チームも来た!?」


『フラグ立てすぎで草』

『乱立してる』

『マジで負ける5秒前』


「ここから逆転する5秒前ですから!! ちょちょちょ、待って待って!! ちょっと待とう!? それは待ってって!!」


『勝たないの?』

『あれ? やっぱりフラグ……』

『今なら謝れば許すぞ』


「ヒーローってのはピンチにこそ輝くものなんですよ!! 目を見開いて見ててください!! うおおおおおっっっ!?!?!?!? それは聞いてない!!」


 やっば、何今のフォーカスの向き方。

 ぐりんって。ぐりんって一斉にこっち向いて蜂の巣にされたんだが!?


『結局負けてて草』

『ごめんなさいは?』

『ごめんなさい、しよ?』


「ぐ、く……っ。これはしょうがない。マジで癪だけど本当にしょうがない」


『いいからはよ』


「ああもうわかりましたよ!! イキったことを言ってすみませんでした」


『誠意が感じられない』

『やり直し』

『それで本当に謝ってるの?』


「くっ、このリスナーたち調子に乗ってますね!? わたくし、東野アズマは勝てもしないくせに、絶対に負けないなどとイキりました。大変申し訳ございませんでした。これで満足ですか!?」


『ザ~コ♡ ザ~コ♡ アズマのザ~コ♡』


 次は絶対に勝ってわからせてやるからな!?

 見てろよ!?

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