第106話 対極の才能

「男3人オフコラボ歌枠やあああああああああああああ!!!!!!!!!」


「いぇーい」


「わー」


「ちょちょちょ!!! アズマ? レオンハルト? なんで2人してそんなテンション低いん? もっと盛り上がろうや」


「疲れてるんですよ」


「……眠い」


「エナドリ飲めや──ッッッ!!!!」


「僕、エナドリ嫌い」


「俺も苦手です」


「いやいや、待ってな? せっかくやで? せっかく3人集まってるのに、なんでそんな感じなん。普通もっと盛り上がるやろ。わーって」


「わー」


「わー」


「もう嫌や、この2人!! 自分1人で配信してた方がマシや!!」


「じゃあ、ここからはエイガのソロ枠ということで」


「二度寝してていい?」


「なんでいっつもそうなん!? 自分がせっかく準備したのに!!」


「いやいや、ここ俺の家ですから。機材もパソコンも全部俺のですからね? 何なら今朝の朝食を作ったのも俺ですからね?」


「みんな! アズマの手料理美味かったで!!」


「美味しかった。また食べたい」


「あはは。ありがとうございます」


 今のやりとり、微妙に昨日のカラオケを思い出すな……。

 一晩寝ればあれは全部夢だったことにならないかと思ったけど、そんな都合のいい展開にはならなかったなぁ。残念。


「それで何でいきなりオフコラボって話なんやけど。昨日のブイクリのライブ、一緒に現地行ってきたんよ。で、自分とレオンハルトがアズマの家に泊まったんよね。だから、オフコラボ」


 本当はオフコラボって言うか、詫びコラボなんだけどね。

 さすがに昨日のカラオケはないなって思ったから、お詫びになんかするって言ったら、エイガがオフコラボって言った来た。

 実はレオンハルトは泊る予定なかったけど、せっかくだしってことで親御さんに許可を取って貰ったのだ。

 親御さんに挨拶させてもらったけど、レオンハルトがVTuberってことを当たり前のように知ってるのに驚いた。冷静に考えればそうなんだけど、なんかね。驚いた。


「ほんでまあ、何する? って話になったんやけど、アズマもレオンハルトも『ゲーム』ってしか言わへんのよ。昨日、あんなすごいライブを見た後やのにッ!!」


「だって俺音痴ですし」


「僕も、歌は自信ない」


「ということで歌枠や!!」


「ひとつも文脈が繋がってないんですが!?」


「人の話聞いてる?」


「なんて言われようが、自分の燃え上がった歌唱欲を抑えることは出来ひんよ!?」


「じゃあ、俺とレオンハルトは合いの手入れるんでエイガが歌ってていいですよ」


「順番に歌うで」


「なんで」


「その方が楽しいやろ? ほら見てみい、リスナーさんたちも期待してるで」


『楽しみ!』

『何歌うの?』

『初歌枠代』


「あ、ミヨミヨ仮面さん。スパチャありがとうございます。でもせっかく歌枠代を貰ってんですが、俺としてはやっぱりゲームの方がいいかな~って思うんですが、ダメですか?」


『ダメ』

『歌』

『歌って』


「アズマ。自分の言うことは聞かなくてもええかもしれん。けどな、リスナーさんたちの期待を裏切ったらアカンで?」


「歌ったらその瞬間に期待を裏切ることになると思いますよ」


「そんなことない。リスナーさんたちはあったかいんやから、きっと受け入れてくれるはずや」


「ちなみに俺、学生の頃の合唱コンクールは歌うなって言われてたタイプです」


「でも今はみんな歌って欲しいって言ってるで?」


「……何が何でも歌わせる気ですね」


「何が何でも歌ってもらうつもりや」


「やめましょうよぉ……」


「いーや、泣いて請われようが、土下座されようが歌ってもらうで!!」


「なんでそこまでするんですか!?」


「普段いじられとるからな、こういう時ぐらいやり返さんと」


「最低ですね!?」


「お、それはアズマ自身が普段最低なことをしとるって自覚してるってことやな?」


「うぐぐ……」


「ついでに言うとな、お前の音痴が知れ渡ることで、少しはモテ補正が下がることを期待しとんねん」


「僻みじゃないですか!!」


「当り前やッ!! ええか、ひとりモテる男がいるということは、それだけモテない男がいるということなんや!! だからモテない自分はモテるアズマをいじんねん!!」


「逆恨みもいいとこじゃないですか!!」


 ていうか、リアルで脇腹小突くのやめてくれません!?

 昨日のことは散々謝ったし、この後お詫びに焼肉奢ることになってるじゃん!!


「自分もモテたいーーーーーーーーーーーッッッッッ!!!!!!!! VTuberやればモテると思ってたんやーーーーーーーーーーーッッッッッ!!!!!!!!」


「そんなに叫びたいんでしたらエイガが歌ってくださいよ」


「いーや。トップバッターはアズマや。じゃあ、曲流すで!!」


「あ、こら。勝手に……、あーもう!! 一曲だけですからね!?」


「いよ、待ってましたー!!」


「にーちゃんの歌。楽しみ」


「レオンハルトは寝たんじゃなかったんですか!?」


「にーちゃんの歌が聞けるなら起きてる」


「いいんですか? このあと絶対に寝れなくなりますよ?」


「そんなに下手なの?」


「ええ、まあ」


 テストの時、優梨愛さんたちに聞かれたけど、その後は顔を合わせるたびに爆笑されたからな!!

 マジで嫌だけど、俺もVTuberだ。恥を捨てようじゃないか!!


「本当にこの一曲だけですからね?」


「もちろんや」


「じゃあ、いきます」


 結論から言うと、配信は過去一なんじゃないかってレベルで盛り上がった。

 コメントは爆速、スパチャも投げられまくり、俺が歌ってる間は笑いが絶えないとてもとても明るい時間になったよ、ちくしょう──ッッ!!!!

 エイガは爆笑し過ぎだし、レオンハルトもそんな声出せたの!? ってレベルで笑いやがって!!

 そしてリスナー! 腹筋を鍛えられた筋トレ代って何ですかね? 落ちてたメンタルがケアされましたってどういう意味ですかね? 

 俺はみんなが笑顔になってくれて嬉しいよ──ッッ!!!! やけくそだよ、バカ野郎!!

 しかもさ、しかもだよ? 『今度歌を教えようか?』ってチャットがムエたんから来てたんだけど!?

 推しに一番見られたくない姿を見られたんですが!? 泣きそうだよ、俺は!!


「あっひゃっひゃっひゃっひゃっひゃ!!!!! あっひゃっひゃっひゃ!!!!! ひー! アカン!! これはアカン!! ひーっひゃっひゃっ、ごほっ、ごほっ」


「せき込むほど笑わないでくれませんか!?」


「いや、いや。ここまでやとは思ってなくてな……。あっひゃっひゃっひゃ!」


「ぼ、僕は笑ってないよ? っくく、ふ、ふふふっ」


「笑ってますよね? 爆笑でしたよね?」


「ご、ごめ。ごめん、にーちゃん」


「謝るぐらいならレオンハルトも俺と同じ目に遭ってもらいます。さあ、次はレオンハルトの番ですよ」


「アカン。この流れでそれはアカン。自分らの腹筋が死んでまう」


「ちなみにレオンハルトは歌は自信ないってことでしたが、どうなんですか? 俺を越えられますか?」


「そんなん人類ならみんな余裕やろ」


「エイガ──ッッ!!!!」


「ええやないの。なんか自分、今ならアズマの全てを許せる気がするわ」


 そう言われると何にも言えなくなるだろ!?

 いいよもう! 俺の音痴で君らと仲良くいられるなら、それが一番だよ!!


「じゃあ、レオンハルト。頼むわ」


「うん。ちょっと恥ずかしいね」


「大丈夫ですよ。俺以上に恥をさらすことはないですから」


「確かに」


「レオンハルトからも同意された!?」


「そらそうやろ。ほら、アズマ。レオンハルトが歌うさかい、ちょっと静かにしてようや」


 そして、俺の心は折られた。

 エイガにいじられた? 音痴を爆笑された?

 そんなもの目じゃないぐらい、今日一で俺の心はバキバキに折られた。


「レオンハルト!?」


「マジなんか、これ!?」


 俺とエイガだけじゃない。

 コメント欄のリスナーたちもみんなが驚愕している。

 それぐらいレオンハルトの歌はとんでもなかった。


「え、レオンハルト。本当に歌に自信ないの? それで?」


「うん」


「冗談やろ?」


「だって、たくさんの人の前で歌うのって緊張するし……」


 そういう意味!?

 いやいや、もったいないって!!

 こんだけ歌上手いのに、それを披露しないなんて!!


「エイガ。俺、初めて才能というものを目にした気がします」


「自分もや。こんな狭い部屋で歌わせとくのもったいないで」


「狭い部屋とは心外ですが、その意見には同意です」


「え、えっと……?」


「レオンハルト。君の歌はもっとたくさんの人に聞いてもらうべきものです」


「え、え……?」


「さ、レオンハルト。もう一曲いっとこか。リスナーさんたちも期待しとるで」


「え、でも」


「大丈夫。君の歌は最高です!!」


 そしてこの日、レオンハルトのチャンネル登録者数が過去一の伸び方をしたのだった。

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