第105話 修羅場のその後~最古参。そして最新参~
深夜2時。せっかくだからと円那の家でお泊り会をすることになっていたカレンは、風呂場でその実りに実った胸を揉みしだかれていた。
「ラナねえさん!?」
「なにこれー。なに食べたらこんなになるのー?」
「や、ちょ、そこはダメ……ッ」
「ダメだよカレリン。こんな胸が目の前にあったら止まらないって」
「んっ。触り方が……っ」
「これまで多くの胸を揉んできた円那でも、ここまのでものは初めてだよ。もっと堪能させてー」
「ダメだって言ってるでしょ──ッ!?」
と、仲睦まじい女子同士の、ある意味最も不健全なやりとりはカレンが円那の顔にお湯をかけたことで終了する。
「しょうがないなぁ。でも、後でまた揉ませてね」
「絶対イヤ」
「東野ちゃんには揉ませたの?」
「──ぶっ!? いや、ちょ。何言ってるの!?」
「え、まさかまだなの? 家まで上がりこんでるのに? しかも一回とかじゃなくて何度も行ってるのに。え、本気?」
「やめて。そんな目でわたしを見ないで……。そ、それにわたしはそんなやましい目的でアズマさんの家に行ってないもん! アズマさんが心配で、お手伝い出来ればいいなって思って……」
「でも、ワンチャン狙ってたでしょ?」
「そ、そんなわけないでしょ──ッ!!」
円那のあまりにも明け透けな物言いにさすがにカチンときた。
カレンのことをからかっているだけなのだとしても、アズマとのことをそんな風に言われたくはない。
「ごめんて。言い過ぎた」
「ラナねえさんってたまにデリカシーなくなるよね」
「カレリンが可愛い反応するから。ほら、よくコメントでも言われてるじゃん。『カレ虐GG』って」
「あれは配信じゃん……」
「あーもー、拗ねないでよー。可愛いなぁ」
「やーだー。くっつかないでー」
「カレリンとこうしてるとさ、広いお風呂が付いてる部屋に住んでてよかったって思うよ」
「わたしよりラナねえさんの方が、ひどいこと言ってるよね!?」
「でもでも、円那はカレリンにしかこういうこと言わないよ?」
「だから何」
「東野ちゃんから乗り換えない?」
「ラナねえさん──ッ!!」
「あはは。冗談だって。今まで色々話も聞いてきたし、円那はさ、カレリンのことを応援してるよ」
「ホント?」
「ホントホント。まあでも、ちゃんとカレリンがヤバい奴とも思ってるけどねー」
「どういうこと!?」
「え、だって普通にヤバいでしょ、やってること。自覚ないの?」
言われて思い返す。
……確かに、かなり考えなしに行動しちゃったことが多々あるのは否定できない。
できないけどっ!! そういう性格なんだししょうがないじゃん、とも思う。
そんなの言い訳にしかならないのもわかってるし、だからって誰かに迷惑かけるようなことをしちゃいけないこともわかってる。
カレン自身だって、考えるより先に動いちゃう自分をどうにか出来たらいいとは思っている。けど、そう簡単に変われればこんなに悩みはしない。
「う~……」
「大丈夫だよ。東野ちゃんは優しいから。今もカレリンのことは許してくれてるんでしょ?」
「……ちょっと甘え過ぎかもって思ったりもする」
「甘えさせてくれるなら甘えちゃいなよ」
「……あと、不安になる」
「なんでー」
「アズマさんが優しすぎて。今日も女の人といたし」
「あー……。それはねぇ、確かに」
「う~……」
アズマが優しいのは知ってる。何しろアンチだったレオンハルトと仲良くしてるぐらいなのだ。並大抵ではない。
普段の配信活動を見ててもそうだ。エイガや円那が突発的に声をかけても、快く応じているし、ナキアとのコラボも同じだ……。
アズマが楽しそうに配信をしている姿を見るのはカレンも嬉しい。でも、みんなに優しくしてるアズマを見ると、不安になる。
結局アズマにとってのアマリリス・カレンは、『仲良しなみんなのひとり』でしかないんじゃないかと。
その不安と、考えなしに行動しちゃう性格のせいで、……やらかしてしまう。
「今日もあんなこと言うつもりなかったのに」
「ん? なんの話?」
「合鍵。持ってるってナキア先生とアズマさんの上司さんに言っちゃった」
「うわちゃー。それはやっちゃったねぇ」
「だって、2人がアズマさんとのことを自慢してくるから……」
「悔しくなったの?」
「ううん。負けちゃうかもって、思った。あと、いいなって。わたし、アズマさんとてぇてぇって言われること少ないし、お仕事したこととかもないし……」
「そっかぁ……」
「あー、なんでこんな性格なんだろう」
ブクブクと口元までお湯につかり膝を抱える。
どうしてこんなにも欲張りなのか。アズマが他の女性と仲良さそうにしてるを見てしまってから、ずっと不安でたまらない。
もし、アズマがあの2人のどっちかと付き合うことなんかになってしまったら、もう自分と仲良くしてくれることもなくなってしまうのかもしれない……。
「わたしが最古参なのに……」
「やめなって、そういうマウントの取り方は。虚しくなるよ」
「だって……っ!! って、ラナねえさん何してるの?」
「いや、このエッッッッな景色を永久保存しようと思って」
円那は両手の親指と人差し指で四角形を作り、そこからこっちを覗いていた。
ちょうど膝を抱えたことで押しつぶされた胸の谷間にフォーカスするように。
「──ッ!?!?!? 最っ低──ッ!!!! 最低だよ、ラナねえさん!!!!」
「おお。やっぱり動くとド迫力。すっご。やっば」
「わたしのことをヤバい奴扱いしてたけど、ラナねえさんも大概ヤバいからね!?」
「円那は自分に正直な性格だから」
「正直すぎるよ!!」
「だからさ、カレリン。正直に言うね? おっぱい揉ませて」
「やだ!!!!」
「いいじゃ~ん。東野ちゃんに独占される前に揉んでおきたいんだよ~」
「絶対ダメ!!!!」
「ちなみにカレリン。このお風呂、円那の家のお風呂だからね」
「だから何……?」
「家主に逆らうな。揉ませろ」
「低音イケボで言っても、最低なものは最低なの!! だからダメだって。やーだー!! 触らないでー!!」
「やっば、ホントにヤバい。なにこれ。柔らかさがもう暴力じゃん」
「意味わかんない意味わかんない意味わかんない──ッ!!!!」
「いやいや、カレリン。もう襲っちゃいなよ。東野ちゃんも男だしいけるよ。ていうか、なんで合鍵でマウント取ったの? おっぱいでマウント取れば楽勝だったじゃん」
「そんなので勝っても嬉しくない~!!」
「母性とはすなわちカレリンのおっぱいである。甘えたい。円那のママになって!」
「やだッ!!」
バシャバシャとお湯が零れるのもお構いなしに暴れる。
深夜、ライブ後、そして湯船につかってるせいもあるのか、円那もついには「ママ、ママ」とうわ言を言いつつ手を伸ばしてくるばかりになってしまった。かなり怖い。
もしかしてアズマもこんな風になってしまうのだろうか……? と思わず考えてしまい、あまりにも嫌すぎるイメージに慌てて想像を打ち消す。
しかしその瞬間、カレンは逆に閃いた。
自分がさらにアズマにとって特別な存在になれる方法を。
「ラナねえさん! わたしアズマさんのママになる!!」
「おっぱいで?」
「違う!! アズマさんの公式絵師になる!!」
「あー、そっか。東野ちゃんってまだフリーアプリのモデルを使ってるんだっけ」
「わたし全部出来るもん!! キャラデザも、イラストも、Live2Dも!! だから、アズマさんのママになる!!」
「おっぱい揉ませた方が早いと思うんだけどなー」
「それは絶対にいや!!」
▼
三者三様に行動を開始する者たちがいるなんてことを知らない彼女は、ホテルの部屋でカチカチとパソコンを操作していた。
「ライブ、楽しかったなー」
ニコニコと笑みを浮かべて見つめる先には、ハッシュタグをつけて呟かれた今日のライブの感想がたくさんある。
その中のひとつが目に入った。いや、目に入ったのは感想ツイートではなく、その感想を呟いたアカウント名か。
『ブイクリのライブ最高だった!』
そんなありきたりな感想を、だけど彼女は特別なものとして受け取る。
楽しそうにニコニコとしていた表情に、どこか嬉しそうな、そして愛おしそうな感情が混ざる。
「……」
部屋にはひとりしかいないというのにキョロキョロと辺りを見渡した彼女は、そのアカウントのアイコンをクリックし、プロフィールに記載されていた動画サイトへのリンクをクリックする。
「どんな配信してるんだろう」
そう呟きつつまずはと『チャンネル登録』のボタンを押そうとしたところで、今のアカウントじゃさすがにマズいかと思い、プライベート用のアカウントへと切り替える。
改めて『チャンネル登録』のボタンを押した彼女は、アーカイブから最も再生数の高い『戸羽ニキと約束のコラボ!!』と書かれた動画の視聴を始める。
そんな彼女のアカウント名は『エナたん』と言った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます