第103話 修羅場という名のマウント合戦

『なんで自分はモテないんやーーーーーッッッッッ!!!!!!!!!!!!! 自分もモテたいーーーーーッッッッッ!!!!!!!!!!!!!』


『いいぞー! ポチー!!』


『レオンハルト! 歌わんなら自分がもう一曲入れるで!? ええんか!? ほんまに!? ありがとうな!!』


『ポチのオンステージだー!!』


『ここが自分のライブ会場やー!!』


『いぇーい!!』


 ……隣、盛り上がってるなぁ。

 本当なら俺もあっちで一緒に盛り上がってたはずなんだけどなぁ。


「…………」


「…………」


「…………」


「…………」


 無言。キツイっす。

 せめて誰か何か話しましょうよ。

 4人もいるんですよ? ここ、カラオケなんですよ? こんなに盛り下がることある?

 もうエイガの歌声しか聞こえないんだけど?


「──ッ!?」


「──ッ!?」


「──ッ!?」


「あの、ドリンクを飲むたびに反応するのやめてくれません……?」


 喉が渇いて仕方ないのに、迂闊に飲むことすら出来やしない。

 本当に何なのさ、この緊張感は……。

 ライブ後だよ? ライブ後のカラオケなんだよ?

 今日のセトリを再現してバカほどブチ上がる予定だったのに……。

 ナーちゃんが『カラオケ? いいじゃない。私も行くわ』なんて言い出さなきゃこんなことにはならなかったのに……。

 もう当たり前のように優梨愛さんも付いてくるし……。

 ていうかエイガだろ!! 『そっちはそっちで積もる話もあるやろ?』とか言って、部屋を別にしやがって! アイツーッ!!!! 積もってるのは話じゃなくて沈黙だっての!!!!


『ハーレムなんて許さない~♪ 女難の相なんて言い訳よ~♪』


『Fu! Fu! 姐さん最高やー!! レオンハルトも歌おうや!!』


『デュエットしちゃう!? 一本のマイクを分け合っちゃう!?』


『姐さんは姐さんで自重してな!? レオンハルト。今は歌わん方がええかもしれん!!』


 ラナさん、それは人気ハーレムラブコメアニメのOPですね!?

 当てつけですか!? 嫌がらせですか!?

 俺だって好きでこんな状況にいるわけじゃないんですが!?


「私、ハーレムものって好きじゃないのよね」


 ナーちゃん。言いたいことがあるならはっきり言おうか。


「主人公があっちにフラフラ、こっちにフラフラするのを見てるとムカつくから、ストレス発散に二次創作でヒロインを寝取らせてるわ」


「最ッ低なことしてますね!? 寝取られは脳を破壊しますよ!?」


「大丈夫よ。どこにも公開したことないから」


「マジでストレス発散のためだけにやってるんですか!?」


「私、可哀想なのもイケるタイプだから」


「……もうちょっとこう、言い方ありませんか? 初対面の人もいるんですよ? あと、忘れてるかもしれませんが、カレンちゃんはナーちゃんのファンですよ?」


「その程度でブレるようじゃ、安芸ナキアは名乗れないわ」


「カッコつけてるところ悪いですけど、1mmもカッコよくないですからね? 言ってることは端から端まで全部最低ですよ?」


「それはそうよ。あなたのツッコミ待ちなんだから」


「……俺は何を期待されてるんですか?」


「てぇてぇよね。ズマっちとこういうやりとりしてると、大体コメント欄は『てぇてぇ』で埋まるわよ?」


「今は配信じゃないんですが!?」


「そうかしら? 今こそ配信以上にてぇてぇを見せつける瞬間だと思うのよね」


 ……やめてー。そういうこと言うの。本っ当にやめて。

 いやもうさっきから、カレンちゃんの引きつった笑顔と優梨愛さんの貧乏ゆすりが、言外でとんでもない圧をかけてきてるから!!


「私たちの仲を何万人のリスナーが証明してくれるか試してみる?」


「いやいやいや……」


 どうして火に油を注ぐかな!?

 カレンちゃんが今にも台パンしそうになってるんだが!?


「ふっ」


「? 優梨愛さん?」


「ああ、いや。私もVTuberの配信を見るようになって色々と覚えたんだが、イキリキッズというのはこういうものかと思っただけだ」


「あら? それは私のことを言っているのかしら?」


「他に誰がいる? てぇてぇだの配信だと仲がいいだのと言っているが、実際に会ったのは今日が初めてなんだろう? それで随分とデカい口を叩くなと感心しただけだ」


「私をキッズと言うなら、それを受け流せずにイラついているあなたは何なのかしらね?」


「ふっ──」


「ふふ──」


 いや、こっわ。

 何このやりとり。

 もういいや、こっちに矛先が向かないようにおとなしくしてよう。


「そう言えばまだ打ち上げの話をしてなかったな。配信の予定と被せるとマズいよな?」


「って思った矢先にこっちに振らないでくれません!? ていうか、打ち上げ!? 今する話ですか!?」


「当り前だ。これからまた忙しくなるんだから、早いに越したことはないだろう。逆に聞くが今じゃなければいつなんだ? 今が一番暇な時なんだぞ」


「いやまあ、それはそうかもしれませんが……」


「店だって予約しないとダメだろう?」


「いつもの居酒屋でいいじゃないですか。初めてですよ、優梨愛さんと仕事してて打ち上げで予約なんて言ってるの聞いたの」


「ふむ。確かにな。だったら、いつものッ、馴染みのッ、店にするか」


「ええ、まあ、はい。そうしましょう」


 ……なんなん?

 いつものッ、とか。

 馴染みのッ、とか。

 わざわざ協調する意味がどこにあるんですかねぇ?


「──チッ」


「んん──っ」


 効果はあったみたいですけどねぇッ!?

 場の空気を悪くすることにかけては効果覿面だよ──ッ!!!!


『ソワソワフラフラ~♪ あなたは一体どこを向いているの~♪』


 でもってあっちはあっちで何なんだ!!

 ハーレムラブコメアニメの主題歌縛りでもしてんのか!!

 ていうかこれ、ラナさんもブチ切れてる……?

 何しとんじゃお前ッ!! って、そんなテンションだったりする……?

 ……今度埋め合わせしよ。さすがにこれは申し訳なさすぎる。せっかく楽しみにしてくれてたのに。


「ふむ。でもそうだな、いつもいつも同じ店というのも味気ないか。たまにはうちでホームパーティーでもするのもいいかもな。お前は何回もうちに来てるから、飽きてるかもしれないが」


「いつもの店にしましょう。味気ないなら他のいい店探しますから!!」


「お前の料理は美味かったから、また食べたいんだが、ダメか?」


「俺の料理なんかよりお店の料理の方がよっぽど美味いですから。ね、なんだったら社長に掛け合って打ち上げ代を出してもらいましょう。高い店! 高い店で美味いものを食べましょう!!」


「この世にはプライスレスという言葉があるのを知っているか?」


 だから何だよって言うかさぁ──ッ!!

 なんかイライラしてきたんだが!? しょーもないマウント合戦やめてくんないかなぁ!? 俺か? 俺がスパッと答えを出せばいいのか!?

 そうだよなぁ!! 俺の言動のせいでこんな状況に陥ってるんだもんなぁ!!

 ハーレムラブコメ主人公って、いざなってみるとこんなにストレス溜まるものなのか!?


「本当にお前の手料理は美味いからなぁ。またいつもみたいに作りに来てくれないか?」


 ふふん、なんて勝ち誇る優梨愛さんを羨ましそうに見てたナーちゃんが、物欲しそうな目でこっちを見てくる。

 何ですかその、私もって言いたげな視線は。


「あ、そう言えばアズマさん」


「あ、──え。何?」


「なんですか、その反応」


「ああ、いや。何でもない」


 一瞬カレンちゃんのことを忘れてたなんて、口が裂けても言えない。

 でもしょうがなくない?

 ナーちゃんと優梨愛さんの迫力が半端じゃないんだってば!!


「料理の話で思い出したんですが、あれ、まだ持ってていいですよね?」


「あれ?」


「はい。だってほら、色々と置きっぱなしにしちゃってますし」


「はあ」


 ん? 何の話してる?


「あと、時間って大丈夫ですか?」


「時間?」


「レオンハルト君です」


「あ、ヤバいな、それは」


 そうじゃん。元々レオンハルトがいるから、サクッと飯も食えて遊べるカラオケにしようって話にしたんじゃん。

 そろそろ解散にしないとマズいよな。


「えっとぉ、すみません。積もる話はあるかもしれませんが、そろそろお開きにしないと。未成年者いるので」


「次は?」


「え」


「次よ次。次はいつ会えるのかしら? もちろんコラボ配信の予定も決めましょう」


「おい、それより打ち上げの予定を決めるぞ。ほら、早くスケジュールを教えろ」


「明日じゃダメですか、それ」


「アズマさん。それじゃあ、わたしは隣に声かけてきますね」


「あ、うん。お願い」


「それとさっきの話。まだ返さなくていいですよね、アズマさんの家の“合鍵”」


「ちょ!?」


「え──」


「は?」


「じゃあ、ちょっと待っててください。みんなを呼んできますから」


 うっわ、なんだあの圧倒的勝者ヅラ。

 クソガキでもメスガキでもない、マウントムーブに開いた口が塞がらなかった……。

 カレンちゃんってこんな子だったっけ……?

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