第101話 届け──ッ!!!!!!!!!!!!!!

 見ろ──ッ!!

 見ろ──ッ!!

 鳳仙花ムエナを見ろ──ッ!!

 世界一カワイイVTuberを、見ろ──ッ!!

 すごいだろ!? 俺の推しは──ッ!!

 メジャーデビューだぞ!?

 これからもっと高く、もっともっと高く羽ばたいていくんだぞ!?

 これまで知らなかった人は今知ってくれ!

 これまで応援してた人は、これからも一緒に応援しような!!

 俺たちの推しは、本当にすごいから──ッ!!


『~♪ ~♪』


聞けよ、この歌声を──ッ!!

すごいだろ? 最高だろ!?

この声がたくさんの人たちのところに届けられるんだ。

ムエたんの歌が、たくさんの人たちに届くんだ。

そんなとびっきりの未来を、みんなで一緒に楽しもう──ッ!!


『~♪ ~♪』


 きっとその時も、ムエたんは今みたいに歌ってるから!!

 歌って、笑って、みんなで一緒に楽しんで、最高に輝いてるから!!

 だから楽しもう!!

 俺たちも一緒に、ムエたんと一緒に楽しもう──ッ!!


『~♪ ~♪』


 そして、力を貸して欲しい!!

 ムエたんが今日のライブを、このステージを失敗だと思わないように!!

 アクシデントがあって、ステージに立てなくなって、俺みたいな奴を代役にして。

 きっと心のどこかで思うはずだ。

 やってしまったと──ッ。

 やらかしてしまったと──ッ。

 失敗したと──ッ。


『~♪』


 だからみんな。届けて欲しい。伝えて欲しい。

 サイリウムを振って、ハッシュタグをつけて、ムエたんに教えてあげて欲しい。

 鳳仙花ムエナは最高だと。その歌を聞けて最高だったと。

 そうすればきっとムエたんも思ってくれるはずだ。

 ──今度は完璧なステージに立ちたいと!!

 こんなまがい物で偽物が躍ることのない、本物の鳳仙花ムエナのステージをみんなに届けたいと!!


『~♪』


 これまで頑張ってきたムエたんならきっと、ステージに立てなかった悔しさを武器に、もっとすごいものを見せてくれるはずだから。

 今日のステージが失敗で終わらずに、悔いが残る先へ続くものになれば、ムエたんなら絶対にこの先で輝いてくれるはずだから。

 それが俺の推し、鳳仙花ムエナだから──ッ!!


『~♪』


 だからムエたん。俺は今、全力で踊るよ。

 拙かろうが、下手だろうが、俺は踊るよ。

 それが今、俺に出来る、俺にしか出来ない推しへの応援だから!

 だから見せてくれ。

 いつか絶対に、本物の鳳仙花ムエナのステージで俺を、俺たちを魅せてくれ!!


『~♪』


 会場にいる君たち!!

 配信で見ているみんな!!

 そして、ムエたん!!

 届いているか? 聞こえているか? 見えているか?

 もし、届いているなら、聞こえているなら、見えているなら、──絶対に満足しないで欲しい。

 本物の鳳仙花ムエナは、こんなもんじゃないから──ッ!!!!


『~♪ ~♪ ……♪』


 そうしてムエたんの歌声がフェードアウトしていくのに合わせて、曲も終わる。

 ステージ上でひとつ大きく息を吸い、顔を上げるとそこには──。


「……ぁ」


 それが自分に向けられたものじゃないことはわかっている。

 本来それを受け取るべき人間が俺じゃないことはわかっている。

 それでも、わかっていて尚、その光景には思わず涙ぐんでしまう。


「……大丈夫?」


 気付けば側に来ていたムエたんが、マイクにすら入らないほどに小さな声で問いかけてくる。

 それに俺は小さく頷いて返す。

 ここはまだ、ステージの上だ。まだ、気を抜いていいわけがない。

 なのに、目の前に広がる光景があまりにも嬉しくて、感動してしまった。


『みんなー!! ありがとうー!! サイリウムがすっごいきれいで感動しちゃったー!!!!』


 ムエたんの言う通り、今俺たちの眼前には光り輝くサイリウムが広がっている。

 満点の星空のように、夜空に咲く花火のように、眩い光が会場中で輝いている。

 はは! 踊るのに夢中で全然気づいてなかったよ。

 これだけ多くの人に、ちゃんと鳳仙花ムエナは届いていたんだな。……よかった。


『まだまだライブは続くから、まだまだ楽しんでいってね──ッ!!!!』


 その一言を最後に、鳳仙花ムエナの出番は終わる。

 本当は他のライバーとの絡みや、ステージのトークなんかももっとあったみたいだけど、今回のアクシデントを受けて変更になった。


「……ありがとね」


「……いえ」


 ムエたんが座る車椅子を押しつつ、本当は叫び出したいのを我慢する。

 今すぐにでも大笑いして、ステージを終えた興奮のままに声を上げたい。

 そんな欲求を抑えて戻った控室、そこには──。


「お疲れ」


「めっちゃよかったッス!」


「感動したぞ!!」


 すでに出番を終えた戸羽ニキたち含め、多くのライバーたちが待っていた。


「ムエナ~。よかったよ~」


「さすがムエナ。最高」


「ありがと~!! よかったよ~。歌えてよかった~!!」


 ムエたんの周りにもライバーが集まり、口々に労いの言葉を伝えている。

 その光景を見て、みんなの中心で涙を流すムエたんを見て、なんだかめちゃくちゃ嬉しくなってしまい、


「あ、アズマが泣いた」


「にひひ~。そうッスよね~。泣いちゃうッスよね~」


「わかる! わかるぞ、アズマ!! 泣けるよな!! いいぞ、思う存分泣け!!」


「いや、ちょ、違っ。違くて……っ」


「いいじゃん、いいじゃん。こういう時は素直に泣いときなって」


「戸羽ニキ。やめてくださいって!! ちょ、みんな見ないでくれません!?」


「あ~。なんか懐かしいなぁ、その感じ」


「俺らも初めてのライブの時はそんな感じだったッスよ!」


「みんなが通る道だ!! 安心して泣け!!」


「だったらこっち見ないでくださいよ!! こんな注目されてたら、恥ずかしくて涙なんて引っ込みますから!!」


「それはそれでもったいないから嫌だ。僕たちの見てる前で泣いて」


「なぜ!?」


「感動はみんなで分かち合うもんッスよ~」


「面白がってるだけじゃないですか!!」


「だったら俺も一緒に泣こう!!」


「それは意味わかんないですよね!?」


 あ~、もう!! わちゃわちゃだ!! 

 こんなんじゃ本格的に泣けるもんも泣けないって!!


「わー!! アズマざーん!! ありがどー!! よがっだよ~!!」


「ムエたん!?」


 涙で声がぐちゃぐちゃなんだが!?


「ダンス。ダンス、すごい一生懸命で、アタシ、本当に感動しちゃって……。わぁーん!!」


「あーあ。ダメだよ、アズマ。女の子を泣かしちゃ」


「最低ッスね」


「お前のモテ街道もこれまでだな!」


「そういう話じゃないですよね!?」


 なんだよ、モテ街道って!!


「ムエたん。こっちこそありがとうございます。なんか、すごかったです! 踊ってる時は必死だったけど、最後に会場のサイリウムが見えて、めっちゃ感動しました!!」


「うん! うん……ッ!! すごかった。すごかったよね!!」


 そう。すごかった。

 今まで見たことがない光景に震えた。

 俺に向けられた光じゃないとわかってても感動した。

 でも、だけどやっぱりこう思うんだ。

 ファンのひとりとして、ムエたんを応援したかったって。


「本当なら俺もあの中のひとりだったんです。サイリウムを持って、ムエたんを応援してたんです。ステージから見るサイリウムはすごかったけど、でも俺はやっぱりムエたんのステージが見たかったです」


「……うん」


「だから次は、本物の鳳仙花ムエナのステージを見せてください。俺、楽しみにしてますから」


「──ッ! うん! 任せて!! とびっきりに楽しいステージをやるね!!」


「約束ですよ」


「うん。約束。破ったら針千本飲ませていいから」


「わかりました。その時は針千本を飲む耐久配信やってもらいますから」


「こわっ! 絶対にステージやらなきゃ!!」


 なんて話している間にもスケジュールは消化されていき、いよいよライブも終わりを迎えようとしていた。


「最後だ。行くよ」


 そんな戸羽ニキの声に合わせて、ライバーたちが続々とステージへと向かっていく。


「あともう少しだけ、お願いね」


「はい。最後まで楽しみましょう!!」


「うん!!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る