第90話 ギリ耐えたと思ったら、美少女襲来!?

『え、総合6位? マジで? ウチらすごいじゃん!!』


「これならまだまだ優勝狙えますね」


『最終戦でちゃんと順位上げて、キルポイントも稼げればいけるよ!!』


『ウチらめっちゃ強いじゃん!! 最強だって!!』


『う~、緊張してきた~』


「大丈夫ですよ。最後まで俺たちらしく戦いましょう!」


『そうだよ!! ここまで来たら絶対勝てるって!! 大丈夫だよ、ミチェ!!』


『ありがと~。最後、絶対に勝とうね!』


『当然っしょ!』


「もちろんです!!」


 ……ようやっとここまで来た。

 全5試合の内、4戦目まで終了。

 残すは最終戦と、結果発表のみ。

 なんとか、なんとか体調ももってくれている。もうレジェンダリーカップが終ったら、そのままベッドに直行だな。

 目眩までしてきたのは、さすがにヤバい。


『ウチ、ちょっと水取って来るね!』


「あ、俺もいいですか?」


『いいよ~。いってらっしゃーい!』


では、失礼して。ちょっとトイレに……。


「……かはっ」


 って言っても出てくるものなんて何もない。

 ただただどうしようもない吐き気があるだけだ。

 これが緊張によるものなら、どれだけよかっただろうか……。


「う……っ」


 いっそのこと盛大に吐ければいいものを。

 とにかく気持ち悪いだけっていうのが、本当に嫌になる。

 飲んだら吐きそうだから水すら飲めないし……。

 キッツいなぁ。

 自業自得って言われればそれまでだけど、これはさすがにキツい……。


「……戻るか」


 時間にすれば後1時間もないのだ。

 もうこれで最後なんだから、……頑張るしかない。


「戻りましたー」


『おかえり~』


『おか~』


「最後、頑張りましょうね」


『もちろん!』


『うん!』


 リスナーさんたちもコメントで応援してくれている。

 アゲハちゃんの頑張りだってずっと見てきた。

 ミチエーリさんが楽しい時間を作ってくれた。

 ……よし! 最後、気合入れていくぞ!!


『最終試合、来たッ!!!!』


『よーし!! 負けないよーッ!!!!!』


「やってやりましょう!!!!」


『これ、最後ってどんな感じになるかな』


『んー、どうだろう』


「キルポイント狙いで動いてくるチームとか、結構出てきそうですよね」


『ウチらみたいに?』


「はい。さっき順位を見たんですけど、結構団子になってたんで、どこのチームも優勝狙えるって思って仕掛けてきそうです」


『大丈夫だよ!! 私たちが全部倒せばいいんだから!!』


『確かに~。ミチェがそう言うと頼もしさしかないよ!!』


『任せてよ!!』


「おっと、これは『ミチエーリ最強』のコメントが乱舞する流れじゃないですか?」


『え~、ウチもそれ見たい!』


『アゲハもコメントしてもらえば?』


『お~、確かに! みんな、ウチが活躍したら『アゲハちゃんマジつよつよ』ってコメントして~。あとでアーカイブ見てテンション爆上がりするやつ、お願い!! アズマさんもなんかやって貰えば?』


「俺ですか? 何がいいでしょうか」


 本音なら『アズマ休め』なんだけどね!!

 さすがにそういうわけにもいきません、と。


「あ、敵いますね」


『本当だ。どうする? ミチェ』


『やろう。多分、向こうもキル狙いでこっちに寄ってきたんだと思うし』


『オーケー。ウチらの力、見せてやろう』


「いつでもいいですよ」


『せーの、で撃とう。行くよ? せーの!!』


『割った割った!! ひとりダウン!!』


「ナイス!! 詰めます!!」


『オーケー!!』


『こっちこっちこっち!! ラスト1人!!』


『あと少し! やったやった!!』


「マジでナイスです!! ミチエーリ最強!! アゲハちゃんマジつよつよ!!」


『う~わ~、アズマさんの掛け声を決めておけばよかった~』


『まだ間に合う! まだ間に合うよ!』


『オッケ、任して。今ウチの脳みそフル回転してるから』


「とかやってて回復するの忘れないでくださいね?」


『うわっち!? あっぶな!! アズマさんナイス!!』


「本当に、このタイミングでのやらかしはやめてくださいね……?」


『そうだよ、アゲハ。それに先に私が思いついたからね。アズマさんは『ズマっち強すぎ!』にしよう!!』


「せめて『ズマっち』はやめません?」


『ふ~ん? やめて欲しいんだ~? やっぱりそう呼ぶのはナキアだけにして欲しいの~?』


「さて、物資も漁りましたし移動しましょうか」


『スルーが鮮やか!! くそぉ、擦り過ぎたか』


『ミチェ、大丈夫! ウチにはまだ新鮮だから!!』


『よし、擦ろう』


 スルースルー。

 知らんぷり知らんぷり。

 今はゲームに集中するとき。

 なぜなら優勝が懸かっているのだから!


「遅いですよ、2人とも!! 早く早く!!」


『アズマさんが足並み乱したんじゃん!!』


『そうだそうだー。ちゃんとミチェにツッコめー』


「だったらもっとツッコみがいのあるボケをかましてくださいよ」


『辛辣!! 辛辣過ぎるよ、それは!!』


『ミチェ、大丈夫!?』


『……思ったよりダメージが大きかった』


『でも、確かにアズマさんの言う通りだよね』


『ここにきてまさかの裏切り!? 嘘だよね、アゲハ!?』


『アズマさん、ここからどうしよう?』


「とりあえずここに向かうのはどうですか?」


『アズマさんに任せる。ウチよりオーダー力あるし』


「了解です。じゃあ、こっち行きましょう」


『ちょちょちょ、待って!! 待ってよ!! リーダーを置いて行かないで!?』


「ミチエーリさん、急いでください」


『そうだよ、ミチェ。足並み乱さないで。もうこれ最終戦だよ』


『う、うん。ごめんね? 私もちゃんとついて行くから、だからごめんね?』


「……ねえ、アゲハちゃん」


『なに?』


「ミチェ虐って需要あると思います?」


『何言ってんだ、お前ッ!?』


「いえ、謝ってるミチエーリさんに何かを刺激されまして」


『何それ!? 私何されちゃうの!?』


「じゃあ、新しい楽しみが増えたところで、敵です」


『うわ~お。本当に今回は接敵多いじゃん』


『なんかモヤモヤするけど、せーので行くよ! せーの!! ──ッ!? 撃ってきたぁッ!!!!』


「いったん引きましょう!! 無理しない無理しない!!」


『引く引く引く!! 大丈夫!! 落ち着いて!! アゲハ!!』


『大丈夫!! ちゃんと引いてる!!』


『ナイス引きナイス引き』


「ヤバかったですね、今の。詰めてきてます?」


『来てない、ね……。うへぇ、エグかった』


「──ッ!?」


 こっちもエグイなぁッ!?

 なんだ今の目眩は!?

 あー、クソ。あと少しだって言うのに……。

 頼むからもってくれぇ……。


『──ズマさん! アズマさん!?』


「ん? あ、……何?」


『何って……。とりあえずこっちの敵どうにかしようって話し!!』


「あー、オーケー。わかった」


『このタイミングで集中力切らさないでね』


「すみません。大丈夫です」


 ヤバいヤバい。集中しないと……。

 うわ、なんか視界がポヤポヤする。なんだこれ。


『じゃあ、行くよ』


『ウチはいつでもイケる!』


「俺も大丈夫です!!」


 大丈夫。大丈夫だから。問題ないはず。

 なんて言い聞かせ続けていたって、結局は限界を迎えた体に鞭を打っているようなもので、唐突にその瞬間はやってくる。


「──あ」


 すっぽ抜けたマウスが明後日の方に転がっていく。

 併せて画面上では戦闘中だった俺のキャラが敵に撃たれて死ぬ。


『アズマさん!?』


『あ、これウチもヤバい』


『アゲハ──ッ!!』


 そうして声を上げる間にも、ミチエーリさんもやられてしまう。

 チーム順位、11位。

 そんな何とも言えない結果がリザルト画面に表示される。


『ごめーん! やられちゃった!!』


『ドンマイドンマイ!! 色んなチームから詰められてたし、しょうがないって!!』


「あの、ちょっとすみません……」


『アズマさん……?』


『どうしたの……?』


 問いかけてくる2人に応えることなく、俺は席を立ちトイレへと駆け込む。

 せめて音は漏らすまいと扉を閉め、そして便器へと突っ伏すように吐き出した。

 口の中に酸っぱいような苦いような嫌な味が広がる。何とも言い難い匂いが鼻を抜けていく。唯一の救いは胃の中が空っぽだったせいで、固形物の感触がないことか……。


「は……っ、は……っ、はぁ……っ」


 肩で大きく息をしながら落ち着ける。


「はぁ、ふぅー……」


 ひとつ深呼吸をして、気合を込めて立ち上がる。

 ……まだ、配信は切れていない。


「……すみません。戻りました」


『もーっ!! いきなりいなくなるからビックリしたじゃん!!』


『そんなにトイレ我慢してたの?』


「あはは。そんなところです」


 頑張って明るい雰囲気にしてくれようとしている2人に応えつつ、何とかいつものテンションで話そうと努める。

 最終試合のクラウン、そして総合の結果発表と、最後の力を振り絞りながら刻一刻とスケジュールが消化されていくのを耐え続ける。


『総合8位かー』


『んー。でもナイファイ! 私は2人と参加出来て楽しかったよ!!』


「俺もです……。本当に誘ってくれてありがとうございました……」


『今日はこれで終わりだけど、また一緒にやろうね!!』


『ウチも2人とはまた遊びたいよー』


「ぜひぜひ! また一緒にやりましょう……!」


 そう名残惜しむようにミチエーリさんとアゲハさんと別れ、ようやっと1人になれた俺は、最後の挨拶をする。


「あの2人との配信はずっと楽しかったですね。なんて言うか、もっとちゃんとやれたと思うので悔しい気持ちは大きいんですが、それでもこのチームはすごく楽しかったです。応援してくれた皆さんにも感謝しかないです。それじゃあ、今日の配信はこの辺で終わりにしますね。今日も、あざまるうぃーす」


 ……終わったぁ。

 何とか、かんとか、最後の最後でやらかした感あるけど、とりあえず終わったぁ。

 ヤバい。しんど。キツイ……。

 とにかく早く寝よう。

 そう思った矢先だった。

 インターフォンが来客を告げる。

 って、何時だと思ってんだよ。勘弁してくれ……。

 居留守を使おうかとも思ったが、なり続ける音にいら立ち、文句のひとつも言ってやろうと思い、オートロック解除用のディスプレイを見るとそこには──、


「カレンちゃん?」


 とびっきりの美少女が、何やらとても心配そうな、そして真剣な面持ちで映っていた。

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