第89話 体調が悪くたって、俺はやるんだ……ッ!!

『アズマさんのタイプってどんな女?』


『あははははっ! アゲハ? どうしたのいきなり』


『だぁって暇なんだもーん。ねぇねぇ、アズマさん暇でしょ? 暇だよね? お喋りしよーよ』


『強気な振りして実は甘えたがりな、拗らせ気味な結構めんどくさい性格の人が好きなんだよね? 私、詳しいんだ!!』


「待ってください。あの、一応ね。一応確認ですよ。今、レジェンダリーカップの本番ですよね?」


『うん。クラウン獲るよ!』


『ウチらならガチ優勝っしょ!!』


「だったらもうちょっと緊張感持ちましょうよ!! ここまでいい感じに来てるんですから!! 一戦目も二戦目も5位以内に入ってるんですよ!?」


 ちなみに今は三戦目。

 全部で五戦だから、これ含めてあと三試合でいい順位に入れば、本気で優勝を狙える位置にいる。

 だって言うのに、この2人は……っ。


『だぁって暇じゃーん。物資いいし、安地が寄ってくれたから先入りでいいポジション取れたし。こうなったら恋バナぐらいしかすることなくない?』


「せめてもうちょっと選択肢持ちません? なんで恋バナ限定なんですか」


『だってウチ、ギャルだし』


「ギャルだからって恋バナしなきゃいけないルールは無いですよね!?」


『じゃあ、ウチがしたいから』


「……素直なことを言われると、それはそれでツッコミに困りますね」


『も~、ワガママじゃん! そんなんじゃモテないよ!?』


「それが意外なことに、ワガママ言ってくれると嬉しいって女性もいるんですよね、世の中には」


『誰!? 誰その女!?』


『え~、いいの~? アズマさん。モテるアピールすると、男性リスナーに嫌われるぞ』


「別にモテるアピールではないですよね!?」


『過去に付き合ってた女の話じゃないの?』


『だから誰!? その女が誰か教えろ!! リーダー命令だ!!』


「ミチエーリさんは何でそんなにキレてるんですか……」


『私がナキアズてぇてぇ厄介リスナーだからだ!!』


「自信満々に言うことじゃないですよね!?」


『え~、アズマさん最低~。てぇてぇ相手がいるのに、他の女にもちょっかいかけてるの?』


「風評被害はやめてくれません!? 一言もそんなこと言ってませんよね!?」


『だってモテるアピールするから』


「一度だってそんなことしてませんが!? むしろ、周りにモテるって勘違いされて困ってるんですが!?」


 エイガとか、英さんとかな……。

 あの2人とは二度と飲まないと決めている。


「と言うか、2人ともよく考えてください。俺、かなりオタクですよ? 家でゲームしたりアニメ見てるのが何より好きな人間ですよ」


『あ……っ』


『オタク君じゃん。ウケる』


「その反応は逆にムカつきますね!? 言ったのは俺ですが!!」


『自虐乙』


「さら.にムカつきますね!? モテるって言えば嫌味に聞こえるし、モテないって言うのはプライドが……っ。何ですかね!? この感情は!?」


『知らないって。ていうか、どっち? モテるの? モテないの? はっきりしてってばー』


「そんなこと言うなら、アゲハちゃんはどうなんですか!? そこまで言うからにはさぞかしモテるんですよね!? どんな男がタイプか教えてくださいよ!!」


『あ、ねぇねぇ。ウチ思うんだけどさ。そこできっぱり好みのタイプを言う人って、逆にモテない説ない? 夢見ちゃってんなーって感じで』


「じゃあ、なんで俺に聞いてきたんですか!? 罠!? 高度なトラップ!?」


 ていうか、話の逸らし方うまっ!!

 ギャルのコミュ力を見せつけられた気分だ。


『あははははっ!! 確かに!! すっごいね。アズマさん冴えてるよ!』


「エナドリ飲んでますからね。めちゃくちゃ冴えてますよ、今」


 ぶっちゃけ、若干気持ち悪くもなってるけど。

 疲れてるなって思ったからエナドリを飲んだんだけど、逆に体調悪くなってきてる気がする……。

 いや、頑張れ俺。こうなったら根性だ。気合いだ。

 仕事中の精神論は大っ嫌いだけど、ゲームは別だ!!

 気合と根性で勝利をもぎ取るんだ!!


『ねぇねぇ、ミチェはどう思う?』


『2人とも、そろそろ敵が来るよ! もっと集中して!!』


 ……あからさまに話を逸らしたな。

 ギャルのコミュ力とは大違いだ。


「ミチエーリさん……?」


『アズマさん! 今はレジェンダリーカップの本番だよ!! あ、ほらこの辺ちゃんと見てないと!! 敵に詰められたらしんどくなるよ!!』


「いやいやいや」


『ねぇねぇ、アズマさん。ミチェの好みのタイプ知りたい?』


『アゲハッ!!』


「それはぜひとも知りたいですね」


『アズマさん!?』


「ほら、俺たちって今かなりいい順位に着けてるじゃないですか。ここから優勝を目指すなら、さらにチームの連携を深める必要があると思うんですよね。つまり、もっとよくお互いのことを知っておく必要があると思います」


『もう大丈夫!! 大丈夫だから!! これまでの練習試合で十分お互いのことは知ったよ!!』


 きっと夢見がちなことを言ったんだろうなって言うのが、ミチエーリさんの反応から伝わってくる。


「でも俺。もっとミチエーリさんのことを知りたいですよ」


『そうやってナキアのことを口説いたの?』


「今はナーちゃん関係ないですよね!?」


『ねぇねぇ、アゲハ。アズマさんの口説き文句知りたくない?』


「無いですから!! それよりミチエーリさんの好みのタイプについてを──ッ」


『敵!! ウチ撃たれた!!』


「え」


『え』


『早く撃ってって!! 詰められる!!』


「はい!」


『こっちこっち!! 私も撃たれてる!!』


『カバーカバー!! ウチ回復したい!!』


「回復了解です! カバーします!!」


『グレネード!!』


 ヤッバい!!

 ものすごい勢いで激戦区になっていってる!?


『こっちでやりあってる!!』


『そこは無視!! 私たちはこことここのチームを弾くよ!!』


「さらに別チーム飛んできてます!!」


『増えすぎ増えすぎ!!』


『一気に来たーッ!!』


「撃たれ過ぎ撃たれ過ぎ!!」


『ヤッバーいッ!!!!』


『どうしようこれ、引ける?』


『無理無理。耐えるしかない』


「耐え了解です!! 回復は!? あります!?」


『ウチまだ平気!』


『私も!』


「了解です!! 俺もあるんで、いったん耐えで!!」


『安地の収縮、あと40秒ね!!』


『次、どこ行こう? そろそろこのポジションもキツいよね』


「最終安地からは外れますね」


『こっち? ここのポジション取れれば強いよ!』


『ミチェ、それ取れる?』


『無理かなー?』


『キツいと思う』


「こっちはどうです?」


『そっちもキツそう』


『みんな集まって来てるしね』


「どっかでは戦わないといけないんで、後はタイミングですね。今、こことこことここにいるのは確認できてます。で、俺らが先に動くと、多分このチームが後ろから撃ってきます」


『え~、チキンレースじゃん』


『先に動きたくないね』


「でも、後入りするとポジションが取れなくなりますよ」


『うへぇ~、地獄。どうする? リーダー』


『リーダー的には先入り!! 後ろはいったん無視!!』


「オーケーです!! ボチボチ安地収縮まで30秒切るんで行きましょう!!」


『ゴーッ!!』


『いぇーい! って、いったい!? めっちゃ撃たれてる!! ねぇ!! ヤバいって!!』


「マズいマズいマズい!! すんごい撃たれてます!!」


『2人ともあとちょっと!! とりあえずそこの岩の裏!!』


『あ、ごめん。ウチ無理』


「俺もです。あ、ヤバ」


『アゲハ!! アズマさん!!』


『ごめーん、ミチェ~』


「すみません。やられました」


『ドンマイ!! しょうがない。見ててね、こっから私が頑張るから!』


『リーダー!!』


「さすがリーダー!!」


『リーダーに任せてよ!! って、嘘!? あ、ダメ!! ダメだってばーッ!!』


『逃げて逃げて!!』


「めっちゃ来てます!! 逃げてください!!」


『無理ーッ!!』


『ん~、ナイファイ!! さすがミチェ。最後粘った!』


「今のはしょうがないです。後ろからの圧が強すぎた」


『動くの早かったかなぁ……?』


「残ったら残ったでキツかったですしね。いやぁ、惜しかった」


『あ、でも9位だよ!! ウチらまだ行けるって!!』


『ここまで5位、4位、9位だから。あと2戦頑張ろう!』


「そうですよ! まだ行けます!! 頑張りましょう。そして頑張るために、俺は一度トイレに行ってきます」


『は~い、行ってら~』


『私も行ってくる』


『マジ~? ウチが2人の配信ジャックしちゃってるじゃん』


 そう言うアゲハさんの声を背後に聞きつつ慌ててトイレに駆け込む。

 もちろん音声をミュートにするのは忘れていない。


「うっ……」


 扉を閉めるのももどかしく、便器をのぞき込む。


「はっ、はっ、はっ。やば……」


 吐きこそしないものの、吐き気がヤバい。

 胃がひっくり返ってるような気持ち悪さがある。

 マズいなぁ、これ。エナドリなんか飲むんじゃなかった。

 でも、飲まなかったら飲まなかったで、こんなテンションで配信出来てないしな……。

 あー、ヤバい。マジでヤバい。

 EX.の戦闘が激しいのもあるけど、確実にキてる。

 ……でも、いいところまで来てるんだ。

 あと2戦ぐらい、踏ん張ってみせるさ。

 口をゆすぎ、水を飲み、ひとつ大きく深呼吸をして、気合を入れて配信へと戻る。


「すみません。戻りました」


 体調のことはおくびにも出すな。

 いつも通り配信を盛り上げろ。

 俺は、東野アズマだ。

 そう、自分に言い聞かせる。


『おかえり~』


『戻ったー』


『おかえり~。今ね、リスナーさんたちにあと2戦がんばるねって言ってたとこ』


『絶対勝つからね!』


「もちろんですよ。勝ちましょう!!」


『がんばれ!』

『いけるよ!』

『ファイト!』


 リスナーさんたちも応援してくれてるんだ。

 体調が悪いからって負けられない。負けたくない!!

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