第83話 お酒で剥き出しになるのは、本性と本能

『なんやねん、距離感って!! 自分らはそういうことを聞きたいんやないねん。モテる秘訣が知りたいねん!!』


『そうだぞ! 価値観が合えば、なんてフワフワした回答に逃げるな! 男らしくビシッと教えるんだ!! さあ、ほら!!』


「なんでこの人たちは教えを乞うてるのに、こんなにクレーマーじみてるんですかね?」


『そら、自分らの欲しい答えを教えてくれへんからや』


『まさか自分だけモテてたらそれでいいって、そういう考えか!? 見損なったぞ、東野アズマッ!!』


「鏡を見て喋ってくれます? エイガと英さんこそ、都合よくモテたいって魂胆が透けてますよ? やっぱりまずはそういうところなんじゃないんですかねぇ、直さなきゃいけないのは」


『正論なんか求めてないねん!!』


『正論で殴るな!! 卑怯だぞ!!!!』


「ああ、はい。つまりこういうことですね? そのままの2人で十分魅力的だから、いつかそれを理解してくれる女性が現れるから大丈夫って、そういう話をして欲しいんですね? なんで俺が2人を慰めなきゃいけないんですか」


『そらそうやろ。さっきから、距離感が大事とか価値観が合えばとか、そんなネットの記事に書いてあるようなことばっか言いくさってからに。自分が読んでへんと思ってるんか!?』


『そんな記事なんてな、穴があくほど見てきてに決まってるだろ!? その度に、結局どういうことだ!? と頭を抱えた来た俺たちの気持ちがわかるのか!?』


「なんで俺はこう、知り合いと晩酌配信をすると厄介な絡まれ方をするんでしょうね? なんか一周回って冷静ですよ、今。酔いも醒めました。あ、ちょっとお酒無くなったんで、新しいの持ってきていいですか?」


『もちろんや!! 今夜はこのまま盛り上がっていくで!!』


『酒が進めば口も滑る! 今日こそはモテる秘訣を教えてもらうぞ!!』


 はいはいそうですね、なんて思いながら立ち上がる。

 まあ、今日の配信はね、エイガと英さんから誘いが来た時点で悪い予感はしてたんだよ。

 ずーっとコラボしろコラボしろってうるさかったからコラボしたけど、案の定地獄で草しか生えない。

 楽しいからいいんだけど。こうやって適当なノリで駄弁り続けてるのって、なんでこんなに楽しんだろうな。──仕事の後だからかな!!

 あー、……嫌だ。

 チラッと見たけど、優梨愛さんからのメールが二、三通来てた……。

 今日も配信あるからって抜けてきたけど、逆に明日はちょっと早起きして仕事しないとダメっぽいな。


「戻りましたー」


『なあなあ、ちょっと聞いてくれへん!? 信じられるか!? 雄の奴、巨乳より貧乳って言うんやで!?』


『小さい方が可愛いだろうが!!』


『ロリコンってだけやろ!?』


『黙れドスケベ!!』


 ……戻ってきたの失敗したかなぁ。

 一生2人だけで喋って貰えばよかった。


『アズマはどっちなんだ!?』


『そら巨乳やろ。ナキア先生も『私は巨乳よ』ってなんかの配信で言ってたで!?』


「ナーちゃんは関係ないですよね!?」


『ある!!』


「なんでそんな断言を!?」


『VTuberになればモテるという俺たちの希望になるからだ!!』


「俺に託さずに自分で頑張ろうとは思わないんですか!?」


『出来るもんならやるに決まってるやろ!? 出来ひんから希望を託してるんや!!』


『それともアズマが俺たちをモテるようにしてくれるのか!?』


 あーもう!!

 結局そこに戻ってくるのかよ!?

 ひたすら堂々巡りじゃないか!!

 こんなの飲まなきゃやってられないぞ!?


『で、何の話だった?』


『おっぱいやろ。巨乳と貧乳という、永遠のテーマについて語ろうやないか』


『だが待てエイガ。どうして俺たちは巨乳と貧乳、世の中にはおっぱいが2種類しかないかのように語ってるんだ?』


『──ッ!?!?!?!? さすがやで雄。そこに気が付くとは、やるやないか!!!!』


『そう! 世の中には普乳、爆乳と呼ばれるカテゴリーのおっぱいもある!! そしてきっと俺たちがまだ知らないおっぱいもきっとある!!!!』


『パラダイス過ぎるやろ。世の中ってのは案外悪いもんやないんかもな』


『だがしかし!!!! 小さくて可愛いと言う点においては貧乳には及ばない!! つまり、議論は終了だ』


『勝手に完結すなや!!! こっからやろ盛り上がるのは!!!!』


『とは言うが、もう結論が出たものをこれ以上どうやって広げようと言うのだ』


『なーに固いこと言ってんねん。せっかくおっぱいの話をしてるんやから、もっと柔らかく行こうや。こう、ぷにっとした感じやな。ぷにっと』


『それもそうだな! ぷにっと行こうぷにっと!!!!』


 いやまあ、どう考えてもこの2人がモテないのは、こういう言動のせいだと思うんだ。ていうか、今って俺も2人と同じ立ち位置にいたりするの?

 すっごい嫌なんだけど。


『ところでずーっと気になってたんやけど、アズマって立ち絵新しくしたん?』


 いきなり話題が変わるな!?

 配信開始直後に触れて欲しかったんだけど!?

 今更感あって逆に話しにくくなるじゃん!


「答える前に俺もひとつ気になったこといいですか?」


『なんや?』


「エイガは俺を呼び捨てで呼ぶのに抵抗なくなったんですか?」


『酒の勢いや! ツッコまんといて!! 意識したらまた呼べなくなるやんか!!』


 逆にその意識のされ方はなぁ……。

 なんか微妙に気持ち悪い……。


「でも、そうですね。立ち絵に新しいバージョンが増えまして」


『あれ待って? 会話繋がってるん? 呼び名の件は?』


「ツッコまないでと言われたので、スルー推奨かと思いましたが……?」


『それはそれで寂しいやんか』


 ──めんどくさッ!!


『エイガ、お前って実はめんどくさい奴なのか?』


『雄はデリカシーがないんやね』


『なんだと!?』


『なんや!?』


 どっちもどっちだよ!!

 本当に思うんだけど、この2人がコラボしてる配信に俺いる!?

 エイガと英さんだけで十分な気がするんだけど……。

 あれ、これもしかしたら、エイ雄てぇてぇ過激派に刺されるかもしれないやつ……?


『それでなんの話や。そうや! アズマの立ち絵の話や!!』


「なんか1人で楽しそうですね」


『自分は元来孤独に愛された男やかなら』


『俺はぼっちですってのをイキって言うと、ここまでダサくなるんだな』


『雄にはこのセンスがわからへんのやね。所詮、その程度の男ってことやな』


「なんでエイガが上から目線なのがわかりませんが……」


『ふ、アズマもまだまだやな』


 ……今日のエイガ、本格的にめんどくさいな。


『それで。アズマの立ち絵が変わったのはどうしてなんだ?』


「とうとう英さんからの質問に変わりましたね。……えっと、カレンちゃんが描いてくれました」


『はぁあああああああああああああ!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?』


『おいおいおいおいおいおいおい──ッ!!!!!!!!!!! おい──ッ!!!!!!!』


 あー、うるさいうるさい。


『カレンちゃんに描いて貰ったぁッ!?!?!?!? どういうことやねん!?!?!?』


「そのままの意味です。この間コラボしたときに描いてくれました。ちなみにレオンハルトも描いてもらってましたよ」


『はぁ!? はぁ!? はぁあああああ!?!?!?!?!?!? ……ちなみに自分の分は?』


「無いですね」


『ガァッッッデム!!!!!!!!!!! 世の中なんてクソやッ!!! クソがッッッッ!!!!!!!』


『わかる。わかるぞ、エイガ。世の中はくそったれだ!!!!!! ちくしょーッッッッ!!!!!! 俺も可愛い女の子に自分を描いて貰いたいッ!!!!!』


「これ以上ないぐらい欲望丸出しですね」


『女の子からプレゼントをもらったことがない男の気持ちがお前みたいな奴にわかって堪るかッ!!!!!』


『あー、アカン。飲まんとやってられん。……飲むわ』


 その後もエイガと英さんのしょーもない会話に巻き込まれつつ配信は終了した。

 そして優梨愛さんからのメールがさらに増えているのを発見し、その日はの飲み過ぎとは別の頭痛に悩まされながら眠りに就くのだった。


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