第82話 こういうコラボなら先に言っておいてくれ──ッ!!

『今日はゲストにアズマさんとレオンハルト君に来てもらいましたー!!』


 あっぶな。まさか帰宅が配信開始ギリギリなるとは。

 退勤の時に元同僚に捕まったのが痛かったな。

 久し振りだからって話し込んでしまった。


『レオンハルト君は久しぶりだよね』


『うん。ちょっと忙しかったから』


『わかるよー。わたしもバタバタしてたから配信出来ない時とかあったし』


『気づいたらワルクラで城建築とか始まってた』


『エイガさんが張り切ってるからね! 全然開拓も進んでないのに、『せやけど城を作るんや!』ってずーっと言ってる』


「ラナさんが付き合ってあげてますよね。あの2人、見ると大体ワルクラで作業してますし」


『僕も誘われてる。今度やる。にーちゃんは?』


「レオンハルトに誘われてちゃあ、やらないわけにはいかないですよね!?」


『それ、エイガさん泣きますよ?』


「じゃあ、カレンちゃんはやらないんですね? いやぁ、残念だなぁ。久しぶりに5人で集まれると思ったのに」


『……残念』


『やりますけどぉ!? やるに決まってるじゃないですか!! 当然ですとも!!』


「……チョロ」


『何か言いましたぁ!?』


「いえ、何も。それでカレンちゃん、今日の配信は何をやるんですか? 俺、何も聞いてないですけど」


『露骨に話を逸らしましたね!?』


「そんなわけないじゃないですか。ほら、リスナーさんたちも早く知りたいって言ってますよ」


『わたしの枠ではひとつもそんなコメント見ませんよ?』


 あ、こら。『嘘乙』とか『カレンの話を聞け』とかコメントするんじゃない。

 話を逸らしたことがバレるだろうが。


『アズマさんって嘘を吐くような大人だったんですね』


「カレンちゃんに対してはいいかなって」


『どういう意味ですか!?』


「ほら、お互い秘密にしておきたいこととかあるじゃないですか。カレンちゃんも大人になりましょうよ」


『え、何!? なんの話をしてるんですか!? 秘密って何!?』


「いやぁ、ちょっとここでは言えないですね」


『本当に何!? 何かありました!?』


「いや、ないです」


『無いの!? ねぇ、サイテーなんですけど!?』


「でもカレンちゃんは許してくれますから」


『それすごい都合のいい女っぽくて嫌なんですけど』


「…………」


『なんで黙るの!?』


「反応が面白いから。それ以外の理由なんてあります?」


『ねぇえッ!! 本当にサイテーなんだけど!?』


 今日もまたカレ虐をお送りしております。

 やっぱり様式美って大事だよね。

 これがないと俺たちのコラボは始まらないって!


『もういい? そろそろコラボ始めようよ』


『レオンハルト君にもそんな扱いなの!? わたしって何なの!?』


『……聞きたい?』


『いえ、いいです。レオンハルト君にまで『カレ虐GG』とか言われ始めたら、……もしかしてちょっとおいしい?』


「まあ、ラナさんは間違いなくそっちを選ぶでしょうね」


『あ、はい。コラボ始めます! ラナねえさんと同じになるのは本当にダメな気がするので!!』


 へぇ、そんなこと言っちゃうんだってツッコもうと思ったけど、これ以上は本当に長くなるから、やめておこう。

 もうね。カレンちゃんとの会話って無限に続けられちゃうからよくないよね。

 この先ずっと雑談コラボだけしてればいいんじゃないかって思ってしまう。


『今日、アズマさんとレオンハルト君を呼んだのは、他でもありません! 2人ともちょっと見た目に気を使ってないんじゃないの!? って思ったからです!!』


 はい? 見た目?

 え、俺カレンちゃんと会うときにそんな変な格好してた?

 ていうか、レオンハルトもカレンちゃんと会ったことあるの!?


『2人とも、いわゆるパパやママっていないですよね』


 パパ? ママ?

 え、カレンちゃん何の話してるの?


『…………?』


 あ、レオンハルトもわかってないっぽい。


『あ、えっとだから。わかりやすく言うと、2人の見た目ってアプリとか使って自分でやったんですよね? って話です』


「あ、あー!! はいはいはい!! そういうことですね。理解しました!! そうです。俺は自分でやりました」


『あ、なるほど。それなら、うん。僕もそう』


 要はVTuberとして活動するにあたって、イラストレーターに自分のデザインを頼んでるかどうかって話か

 いきなりパパだの、ママだの言い出して何かと思ったじゃないか。

 確かに界隈じゃ、VTuberとしての自分を生み出してくれた人って意味で、イラストレーターさんのことをパパとかママって呼ぶけど。


『ですよね!? あ、よかった伝わって!!』


「一瞬カレンちゃんにファッションセンスをバカにされたのかと思いましたよ」


『そんなことないからね!? 偏向報道やめてください! 切り抜かれたらどうするんですか!?』


『危なかった。僕、カレンさんのことを嫌いになるとこだった』


『なんで!?』


『クラスの集まりで遊びに行ったときに、服をバカにされたことを思い出して』


『待って待って待って。それはリアルな黒歴史っていうか、トラウマだよね!?』


『うん。あの時のことを思い出して、とても悲しかった』


「ちょっとカレンちゃん!! うちのレオンハルトに何してるんですか!?」


『あぁああああっ!!!! ごめん!! ごめんね!? 大丈夫だよ、わたしがレオンハルト君をうんとカッコよくしてあげるから!!!!』


『それ、今の僕はカッコ悪いってこと?』


『そんなことない!! そんなことないよ!! レオンハルト君はカッコいいよ!! あ、じゃあ今日の配信は予定を変えようか? ね!? その方がいいよね!?』


「……ちなみに今日は何をするつもりだったんですか?」


『わたしの新衣装お披露目』


「え!?」


『え!?』


『本当は2人の見た目をもっといい感じにして、わたしのセンスを見せつけてからババーンッって発表しようと思ってたんだけど』


「待って待って待って!! え、待ってください!!! 新衣装お披露目!?」


『うん。新衣装というか、見た目をバージョンアップしたから、それをみんなにお披露目しようと思ってたの』


『……嘘』


『本当だよ? ほら』


 で、出てくるアマリリス・カレン新ver。

 って、いやいやいや!! だからさぁ!! そんなポンと出すようなもんじゃなくない!? もっとこう、焦らして発表みたいな感じじゃないの?


『ね、可愛くなったでしょ?』


「それは確かに……」


『うん……』


 あ、ダメだ。

 俺もレオンハルトもビックリし過ぎて反応が悪い。


『もー、反応悪いよ2人とも!! こーんなに可愛くなったのに』


「可愛い! 可愛いいんですよ!? ただ何て言うか、タイミングというか、事前に教えてもらいたかったというか……」


『それじゃあ、サプライズにならないじゃないですか!!』


 サプライズにはならないかもしれないけど、事故ることはなかったんだよ!!

 さすがにそんなことないだろって思うリスナーさんもいるかもしれないけど、ここに至るまで一切何を教えられてないからね?

 逆にすごくない? 未だにビックリしてるもん。


『あの、なんかごめんなさい』


『えー、レオンハルト君が謝ることじゃないよー。むしろわたしの方こそごめんね? 嫌なこと思い出させて』


『あ、いや、全然。それは、大丈夫。えっと、可愛い』


『ムフフー。でしょー? 可愛いでしょー? 本当に世界一可愛いと思うんだ。アズマさんは? どう? わたし可愛い?』


「それはもう、めっちゃ可愛いですよ。元から可愛かったですけど、さらに可愛くなりましたよね!!! ビックリどころの騒ぎじゃないですよ!!」


 盛り上げだ! こうなったらもうとにかく盛り上げるしかない!!

 カレンちゃんの配信を世界一盛り上げるしか、俺たちに出来ることはない!!!


『ちなみに、どこが変わったかわかる?』


 ──ッ!?

 え、これ答えミスったらさらなる事故につながる奴では……?

 オフィスで適当に『前髪切った?』とか言っとけばよかった、同僚との会話とは違うよね!?


「化粧! 化粧が変わりましたよね!! 前より女の子らしくて可愛くなりました!!」


『……化粧? 化粧って言うのかな、これ』


 あ、違った……?


『あー、でも化粧でいいのかも。そうですね、肌の色とか目元とか、前よりもちょっとこだわってみたんです! ほらほら見てください。顔がもっと可愛くなったんですよー。えへへ~、ガチ恋距離~』


「これは好きになっちゃうやつですね。レオンハルトもそう思いません?」


『うん。服も可愛くなってる』


『そうなの!! これ本当に苦労したんだよね。デザインとかいろいろ勉強してさ』


 おや、コメント欄の様子が……?

 あ、そっか!

 うちのリスナーにはカレンちゃんが自作で全部やってるって知らない人もいるのか!!


「カレンちゃんって確か、そういうデザインとかも全部自分でやってるんですよね?」


『そうですよー。どうしたんですか、今更?』


「うちのリスナーに知らない人がいたので」


 コメントめっちゃ盛り上がってる!!

 みんなして『マジ?』とか『すご』とか言ってる! あとでカレンちゃんに見せよう。絶対喜ぶし。


『え、全部自分で……? 本当?』


『あれ、レオンハルト君も知らなかったんだっけ?』


『うん。初めて聞いた』


『そうだったんだ!? 実はわたし、全部自分でやってるんだよねー。この自分の可愛さをみんなに伝えるためにVTuberやってまーす! よろしくねー。ブイッ!!』


 それは知ってたけど、こうして見せられるとマジですごいな。

 これ全部カレンちゃんが自分でやってるのか。天才じゃん。

 元々俺ら5人の中じゃ見た目がよかったけど、さらによくなった。

 細部が作りこまれたのもそうだし、新しい衣装もシンプルに可愛い。


『ねえ、どうしよう。今日やること終わっちゃった』


「じゃあ、せっかくなので、カレンちゃんに俺らの見た目をよくしてもらいましょう」


『うん。カッコよくしてもらいたい』


『もう、しょうがないなぁーっ。このままわたしが2人のママになっちゃおうかなー』


「カレンちゃんが、ママ──ッ!?」


『うん、そう。どうー?』


「解釈違いというか、脳がバグりそうですね」


『どういう意味!?』


 だって、カレンちゃんからはママ味って感じられなくない?

 まあ、本人には言わないけど。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る