第74話 クソガキ成分は定期な摂取がオススメです
『課題が終ったのでご飯に行きたいです!』
というカレンちゃんからの要望を受けたので、今日は久しぶりの外出。
VTuberを始めてから、本当に外出という外出をしなくなった気がする。
基本的に家で配信かゲームをしてるだけだし、買い物だって近所のスーパーに行くぐらいだしで、あれ、俺って実は引きこもりなんじゃ……? と疑い始めている。
仕事している時はあれだけ毎日外に出ていたと言うのに……。
まあ、営業をしてたからというのもあるけど。
「……っ」
そんなテンションだからか、繁華街の人ごみに少し気圧されてしまう。
以前カレンちゃんとの待ち合わせた時と同じ場所に立ちながら、目の前を行き交う人たちを物珍しく見ていると、トントンと軽く肩を叩かれた。
「オフで会うのは久しぶりですね!」
「喋るのも久しぶりだけどね」
「なーんでそういう言い方するんですか!? 素直に『カレンちゃんに会えて嬉しいよ』って言えばいいのに」
「カレンチャンニ会エテ嬉シイヨー」
「感情がこもってない! もっときゅるんってした感じで言ってくださいよ!」
「何、きゅるんってした感じって?」
「こう、カレンちゃんは可愛いなって気持ちを込めるんです」
「え、まさか自分で自分の事を可愛いって言っちゃうタイプ?」
「え、ダメですか?」
「ダメって言うか……」
問われ、改めてカレンちゃんを見る。
……うん。今日も絶好調で美少女だ。
もうビックリするぐらい美少女だ。
肌白っ、目元ぱっちりっ、髪の毛サラサラっ!
「全然ダメじゃないね。カレンちゃんぐらいの見た目だったら、普通に自分は可愛いって思うわ。俺でもそうなる」
「ふふん。わかればいいんです」
「でも」
「?」
「常にそんなこと言ってたら友達失くしそうだから、あんまり言いはしないかな」
「──ッんな!?」
「どうしたの? 早く行こう」
「さっきと言い、アズマさんってどうしてそうなんですか! 素直に『カレンちゃん可愛いねー』でいいじゃないですか!」
「お節介な大人からの忠告ってことで」
「なんですか、それ。あと、さすがに友達相手にこんなこと言いません! ていうか、こんなこと言うのアズマさんにだけです」
「いやいや、何で。あ、俺とカレンちゃんは友達じゃないってこと?」
「ツッコミ力への信頼ですッ! アズマさんだったら、あんなこと言ってもガチにならないだろうなって思ってるから言うんですよ。それぐらいわかってくださいよー」
「じゃあ、今度やられたらガチで受け止めよう。うん、今決めた」
「絶対次会うときには忘れてますよね」
「俺の記憶力舐めてる? 子どもの頃に好きだった漫画のセリフだってまだ覚えてるよ。あと、アニメでカッコよかった呪文の詠唱とか」
「うわー、本当にいるんですね、そういう人。あ、もしかしてオタクってやつですか?」
「なんでいきなりオタクをいじる陽キャムーブなんかしてるの?」
「わたしのツッコミ待ちに引っ掛かりましたね! これがいわゆる釣りと言うものです! 爆釣でした!」
「……くだんね」
久し振りに会ったって言うのに、このクソガキっぷりのせいで何の感動もない。
せっかく可愛いのに、言動で全てが台無しになってる感じが、なんというか全力で《アマリリス・カレン》だ。
すなわち、解釈一致。
「あ、ねぇねぇアズマさん。今日はちょっとお値段高いとこに行きませんか?」
「……奢れと?」
「奢ってくれるんですか?」
「奢らせようとしてるんでしょ?」
「違いますよーだ。これでもわたし、チャンネル登録者1万人越えのVTuberなんですよ? ちゃーんと収益化だってしてるんです。つまり、ちょっとぐらいなら贅沢できちゃうんです!!」
「あ、そっかこの間のクロファイでチャンネル登録者数伸びたんだ」
「もううなぎ上りです! まあ、それからちょっと落ち着いてたので、今はそんな勢いないですけど……。でもでも、実はもうすぐ1万5千人を超えそうなんです!」
「おー、すごい! おめでとう!!」
「えへへ~。おかげさまで何とかここまで来れました」
「まあ、俺は5万人行ったけど」
「な!?」
「企画が盛り上がってくれたおかげで、チャンネル登録者数5万人行きましたけど!!」
「言い方! せっかくおめでたいのに言い方が嫌味!! どうしてそうなんですかぁ!?」
……どうしてって、そりゃ。
「カレンちゃんと一緒にいるからかな」
「それ絶対いい意味で言ってないですよね!?」
「さあ、それはどうでしょう?」
カレンちゃんが相手だと、必要以上にからかってしまってはいる。
でもそれはいいリアクションをするカレンちゃんが悪い。
つまり、俺は悪くない。よし、完璧な理論武装だ!
「それで、つまるところだけど」
「はい?」
「今日はカレンちゃんの奢りってこと?」
「何でそうなんですかぁ!?」
「チャンネル登録者数1万人越えの人気VTuber様が奢ってくれるのかと」
「だったらアズマさんが奢ってくださいよぉ! わたしまだ学生ですよ!?」
「あ、自分無職です」
「くぅっ、確かに!!」
「いや、すみませんね。年下の女の子に奢ってもらうなんて心苦しいんですが、何しろ自分無職なもので! ん~、なんだか焼肉が食べたいな~」
「わたしはお寿司の気分なんですけど、どこかいいとこ知りませんか?」
「人の話は聞きましょうね」
焼肉が食べたいって言ってるだろうが!
「アズマさんこそわたしの話を聞いてくださいよー。今日はお寿司の気分なんですってばー。ねぇねぇ、お寿司行きましょうよー。おー寿ー司―」
この──っ、いつになくクソガキムーブが板についてるじゃないか!!
「それに、いいとこって言われても、普通のチェーン店ぐらいしか知らないよ?」
「え、社会人やってたんじゃないんですか?」
「俺がやってたのは社会人の中でも社畜と呼ばれるものです。社畜にとって飯を食べるのに重要なのは味ではなく時間です。つまり、提供時間が短いファストフードが最強」
「そんなこと自慢げに言われても困りますよ……」
「引かないでよ」
「引きますって。え、じゃあどうしよう」
「適当に調べて行こう」
「えー、エスコートしてくださいよー」
「だから今調べてるでしょうが」
「もっとスマートなのがいいなー」
「俺もエスコートするならもっとエレガントな大人の女性がいいなー」
「……ナキア先生みたいな?」
……?
…………???
……………………??????
「ナーちゃんが、エレガント…………???」
「え、なんですかその反応?」
「あまりにも理解不能過ぎてよくわからなかった。ごめん、もう一回言ってもらってもいい?」
「ナキア先生って大人の女性って感じじゃないですか?」
「……どこが???」
「どこって、……え、違うんですか?」
「あ、そっか! そういうことか!! 反面教師としてってことだよね? それなら納得だ! 確かにああいう大人になっちゃいけないって言う、いい見本だよね!!」
「わたし、ナキア先生に憧れてるんですけど……」
「……もしかして、違う人の話をしてる?」
「安芸ナキア先生のこと、ですよね……?」
「うん。安芸ナキア先生」
「すっごい素敵なイラストを描くイラストレーターさんで、VTuberのデザインも自分でしちゃったりして、ゲームが上手くて、アンチから何を言われても『それが安芸ナキアよ』って言える強さがある、カッコいい人のことですよね?」
「エッグい下ネタを所かまわず口にして、セクハラも躊躇いがなくて、カッコつける癖にめんどくさい甘え方してきて、あまつさえ嘔吐ASMRしてくるはた迷惑な人のことじゃなくて?」
「え?」
「あれ?」
……おや?
「ま、まあ! 人にはたくさん魅力があるってことですね!」
「色んな一面があるのって、個性的でいいよね!」
「それじゃあお寿司! お寿司行きましょう!」
「そうだね! いやぁ、寿司なんて久しぶりだから楽しみだなぁ」
「……えへへ」
「……あはは」
この気まずさも、きっと美味しい寿司が何とかしてくれる、はずっ!!
ということで、寿司だっ!!!!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます