第68話 酒は飲んでも飲まれるなって言葉を覚えてください!!

『ねえ~、実際どうなの~? はっきりしなよ~。男でしょ~?』


『ぴょんこの言う通りだ。潔く答えたらどうなのだ?』


 ──失敗したッ!!

 クロファイ企画の打ち上げをやるぞ!!

 そう《企画屋》の2人に呼ばれたから晩酌配信でコラボしてるけど、何だこの絡み酒は!?

 始まって30分ぐらいまでは普通だったのに、どうしてこうなった!?


『ほ~ら~、はっきりしなよ~。ナキちゃんのことどう思ってるのさ~』


『よし! ではこうしよう。俺も自分の秘密をひとつ言うから、そうしたらお前もはっきりと答えるのだ!!』


「のだ!! じゃないですって!! 絶対言いませんからね!?」


『なぜだ!? ちなみに俺の秘密はな──、』


「それ言いたいだけですよね!? 何にもちなんでないですからね!?」


『まあまあ、聞け。俺の秘密を。とびっきりだぞ、これは』


「ただの言いたがりじゃないですか!! それ本当に秘密なんですか!? そんなに軽くていいんですか!?」


『あれは俺がデビュー間もない頃のことだ』


「語り出した!! 語り出しちゃいましたよ!? え、なにこれ。どうすればいいんですか!?」


『ほっとけばいいよ~。こいつ酔うと大体こうだから~』


 うわぁ、上司にいると一番嫌なタイプだ……。

 いや、喋らせておけば言い分まだ楽か?

 ダル絡みしてこないなら、まあ……。


『聞いているのか、東野?』


「って、してくんのかいッ!! リスナーが聞いててくれますから好きに喋ってていいんですよ!?」


『む。そうか。じゃあ、続きだが……』


 ……袈裟坊主さんには悪いけど、ちょっとボリューム下げさせてもらおう。


『ねぇ~ねぇ~、ズマちゃん~』


「はいはい、今度はなんですか」


『服脱いだ~』


「着ろッ!! 今すぐ着てくださいッ!!」


『え~、やだ~。暑いし~』


「わかりました。服装は好きにしててください。ただ、それを配信で言う必要はないですから!!」


『なんで~? コメントだとみんな『たすかる』って言ってるよ~。わ~、服脱ぎ代~。いいの~? ありがと~。ラブ~』


 おい、リスナー!!

 助長するなって!!


『下着の色~? んふふ~。何だと思う~?』


「ぴょんこさん!? それ以上はマズいですよ!? BAN!! BANされますから!! 俺と袈裟坊主さんの枠も漏れなくBANされますから!!」


『大丈夫だって~、わかってるから~。いえ~い、よっぱっぱ~』


「絶対わかってないですよね!? それいつかやらかしますよね!?」


『いつかじゃないよ~、ズマちゃん~。今やらかすんだよ~』


「本当にやめてくださいね!?」


『嘘ぴょ~ん。やらかさないよ~。あははははは~』


 全く勘弁してくれ。

 楽しい晩酌配信かと思ったら、とんでもない。

 ただただ疲れるだけの配信じゃないか。

 お、うまいな。今『介抱配信』ってコメントしたの誰だ~?

 まさしくその通りだよ!!

 なんでこんなに介抱してるんだよ!!

 ……よし、ぴょんこさんのボリュームも下げておこう。


「なんか、こういうことをしていると社会人時代を思い出しますね。飲み会では大体酔った上司や同僚の世話をしてました。ははは、懐かしいですね」


 思わず漏れる乾いた笑い。

 そうだったな、あの頃は毎日がこんな感じだった気がする。

 仕事をしては飲みに行き、はしゃぐ人たちの面倒を見て、あ、なんだろう目に涙が……。


『アズマに介抱されたい』


 ええ、そうでしょうねぇ!?

 コミット米太郎さん!!

 あなたのことも何回か介抱してますもんねぇ!?

 ていうか、コメント欄。なんなんだ、お前らは!!


『ママだ』

『ママ……?』

『アズマはママだった……?』

『ママー』


 いやいやいや!

 何言ってるの!?


「あれ、もしかしてリスナーさんたちも酔ってます!? 大丈夫ですか!? 俺は皆さんのママじゃないですよ!?」


『アズマはママじゃない……?』

『え、ママだよ……?』

『ママー。ビールー』


 ビールをねだる子供がどこにいる!?

 大丈夫か、うちのリスナーたち……?

 え、あれ……? 一体いつからこんなことに……?


『あれ~? ズマちゃんってば~、お酒足りてないじゃないの~?』


「いやいや、そんなことないですから。飲んでますから。大丈夫です」


『俺は瓶一本空けたぞ』


「え、早くないですか?」


『ちなみに日本酒だ』


「小さい奴ですよね? 300mlくらいの」


『ふ、俺がそんなしみったれたものを買うと思っているのか? 男は黙って一升瓶よ』


「バカなんですか!? バカなんですよね!?」


『はっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっ』


「完っ全に出来上がってるじゃないですか!? 大丈夫ですか!? 倒れないでくださいね!?」


『嘘だ』


「は?」


『ほとんど飲み切っていた瓶を空にしただけだ』


「おいッ!!」


『この程度のことでうろたえるとは、まだまだ修養が足りんな』


「黙れよこの生臭坊主がッ!!」


『ちょっと~、ズマちゃん口が悪いよ~』


「俺のせいじゃないですよね!?」


『あ~、人のせいにするんだ~。先生~、先生いる~? ズマちゃんが人のせいにする~』


『東野!! お前告げ口をするとは。見損なったぞッ!!』


「俺は今絶賛あなたたちを見損なってるところですけど!?」


『ふっふっふっ~。つまりこれからズマちゃんの信頼を取り戻す戦いが始まるんだね~』


『我々の活躍を刮目して見よ!』


「会話出来てるようで全く出来てないですよね!? ひとっ言も俺の話聞いてないですよね!?」


『え~、だってズマちゃんがイケボやってくれないから~』


「どういうことですか!?」


『私の耳って~、イケボしか聞こえないようになってるんだ~』


「え、じゃあこれまでずっと俺の声は届いてなかった……?」


『大丈夫だよ~。ちゃんとインターフェイス噛ませてるから~』


「それはそれで失礼ですね!? 俺の声を何だと思ってるんですか!?」


『あはは~、冗談だよ~。ズマちゃんって本当におもしろいね~』


『よし、東野。次の企画も一緒にやるぞ!』


「絶対嫌なんですが!?」


『え~、なんで~? なんでそんなこと言うの~? ……っぐす』


『東野。お前、女を泣かすような男だったのか』


「逆に聞きますが、今の惨状を見てOKする人がいるんですか!?」


『あ、ねえねえ~、今食べてるおつまみが美味しい~』


『なんだと? 俺にも食べさせろ』


『え~、絶対やだ~』


『この兎畜生が』


『うるさい坊主だな~』


「ねえ、会話!! 会話の流れぶった切ってケンカしないでくださいッ!!!!」


 いや。ちょっとマジで誰か助けてくれ……。

 こんなん俺一人じゃどうしようもないぞ!?


『おい、東野。最近何か面白いことはないのか?』


「つい先日クロファイの企画終わったばかりですよ!? そうそう面白いことなんてあるわけないじゃないですか!!」


『それはダメだよ~。配信者たるものいつだってエンターテイナーでいないと~』


「今のお2人みたいにですかね?」


『そうそう~。ウィ~ア~エンタ~テイナ~。いぇ~い』


『ウィーアーエンターテイナー!! いぇーい!!!!』


 いやいや、直前までケンカしてたじゃん!?

 もう本当に色々勘弁してくれー!!


『それで~? なんかないの~?』


「ないですって。クロファイメンバーで打ち上げにワルクラ配信したぐらいですし」


『あるではないか』


「え?」


『次の企画決まったね~』


「は?」


『RTAとハードコア、どちらがいいと思う?』


『両方~。ドラゴン討伐RTAをハードコアでやろうよ~』


『有りだな。そっちの方が盛り上がる。して、誰を呼ぶ?』


『ポンする人がいいな~。手堅く進められると盛り上がらないし~』


『初心者を集めてもいいな。そして各チーム1人ガイドを付ける』


『あり~。各チームのガイドが初心者を引き連れてドラゴン討伐するまでの~、RTA対決~』


『そして我々は高みの見物、と』


『わ~、それ絶対楽しいよ~。いいね~』


『よし。次の企画は決まったな』


 いやいやいや!

 落差よ! ギャップよ!

 直前までデロデロに酔ってたくせに急に《企画屋》としての顔を出さないでくれません!?

 温度差についてけませんから!!


『東野のおかげでいい企画を思いついた。感謝するぞ』


『ありがとね~』


「あ、いえ。まあ、はい。どういたしまして……?」


『では、飲みなおすか』


『そうだね~』


 で、結局この後はまたデロデロ泥酔絡み酒モードになったわけだが。

 配信が終った後に、『よくあの2人の晩酌配信に参加したわね。私なら全力で逃げてたわよ』ってナーちゃんからチャットが来てた。

 ……先に言ってよ、そういうのは。

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