第62話 バトル脳は口よりキャラを動かす
「──ッ、──く」
『……ぬ。この──ッ』
「──ふ。っと」
『ぬ──ッ!? っく』
「……ぁっ。──ッ!」
『ふぬ──ッ! ……っ!?』
「──ッし!!」
『ぬかったか……』
『ズマちゃんってやっぱり強いね~。これで袈裟坊主は残り2ストック~。ていうか君たちさ~、──もっと喋ってよ~』
え、あ──ッ!?
「すみません!! 勝負に真剣になり過ぎました!!」
うわ、やらかした!?
『そんなに黙っていたか……?』
『ず~~~~~~~~~~~~っと黙ってたよ~~~~~???????? 対戦が始まってから~、ず~~~~っとね~~~~』
対戦が始まってからって……。え、マジで?
俺が1ストック落とされて、袈裟坊主さんのストックを2つ落としたけど、その間ずっと……?
『それだけの真剣勝負ということよ。それに俺たちが黙っていたのであれば、ぴょんこが喋って盛り上げてくれていたのだろう?』
『そりゃ盛り上げますよ~。なんてたって~、司会だからね~』
『ならば問題ないだろう。お前の喋りがつまらないわけないからな』
『はぁ~。信頼されているんだろうけど~、甘え過ぎだよね~』
これは申し訳ないことをした。
まさかずっと黙ってたなんて……。
「ここからはちゃんと喋りますね」
『ほう? それは俺程度ならば喋りながらでも相手が出来ると、そういうことか?』
「言ってませんよね!? そんなこと!! ちゃんと配信を盛り上げたいだけです!!」
『ふん。ならば問題あるまい。コメント欄を見てみろ。俺たちの勝負だけで十分盛り上がっているではないか』
いや、まあそうなんだけどさ。
それとこれとは違うじゃん?
『動きヤバ』
『ガチじゃん』
『これ、プロの試合じゃないよな……?』
『めっちゃいい勝負!!』
……やっぱり喋らなくていい?
袈裟坊主さんとガチでやるの楽しいから、集中してやりたい。
『しかし、やはり言うだけあるな。強いぞ、お前は』
「袈裟坊主さんだって。まあ、でも勝つのは俺ですけど」
『ストック数でリードしたからと言って、余裕を見せるではないか。勝負はまだまだこれからよ』
「だったら早く降りてきてくださいよ。いつまでそこにいるつもりですか?」
俺が撃墜した袈裟坊主さんのオロチは、とっくにステージに戻ってきている。
後は、今乗っている浮遊台から降りてくれば、いつでも勝負は再開できるのに。
『ぴょんこもああ言っているのだ。少しぐらい会話をしてもいいではないか』
「とか言いながらいきなりリスタートするのはやめてくださいね」
『それもまた駆け引きよ。お前がその程度のことにも対応できないと言うのなら、今すぐにでも再開しようではないか』
「あれ、もしかして図星でした? 会話で俺の気を引いて一気に決めるつもりだったんですか?」
『ぬかせ、小僧が』
「声、震えてません? やっぱり図星だったんですね」
『お前は随分と耳が悪いようだな。どこが震えていると言うのだ? 今度いい耳鼻科でも紹介してやろう』
『私は喋って~って言ったんだよ~? 会話で盤外勝負しろなんて~、一言も言ってないんだよ~。どこまでバトル脳なのさ~』
『ぴょんこよ、逆に聞きたいのだが。勝負の合間に交わす言葉が他にあるのか? ここで今日の晩飯について話し出すわけにもいかんだろうよ』
『それはのどか過ぎるね~。ていうか~、なんで晩御飯になるの~? 相手が使ってるキャラのこととか~、キャラコンについてとかでいいじゃん~』
「それこそ今話す内容じゃないですよ。だって、そんなの相手に手の内を晒すようなものいじゃないですか」
『その通り。今は自らの技量をひけらかす時ではない。そんなものはこの配信が終った後にでも枠を取ればいい』
『あ~……。2人ともガチ過ぎない~……?』
「そりゃガチにもなりますよ。これだけ強い相手なんですから」
『今回の企画どうなることかと思ったが、先ほどの円那といい対戦が楽しくて仕方ない』
「それに加えて勝利まで味わえますからね。もう最高ですよ」
『バトル脳同士の会話は~、殺伐過ぎるよ~……』
そんなぴょんこさんの嘆きを聞きつつ、俺は思考を整理する。
さっきラナさんとの対戦で見せた技量。そして今こうしてやりあっている中で感じたこと。
袈裟坊主さんの強さは本物だ。
だけど、ここまでは優勢に対戦を進めることが出来ている。
俺が残り3ストックあるのに対して、袈裟坊主さんはあと1ストック。このストック差のまま勝負を決めることが出来れば、俄然俺たちのチームが有利になる!!
『フメツに回す前に、俺の方で出来るだけ削るつもりだったのだがな』
「考えることは同じみたいですね。袈裟坊主さんには悪いですが、ここはサクッと勝たせてもらいます」
『そう簡単にはやられるつもりはない。少なくとも、あと1ストックは削らせてもらうぞ──ッ!!』
「やれるものならやってみてください──ッ!!」
そのやりとりを再開の合図とするかのように、袈裟坊主さんが使うオロチが浮遊台から飛び降りる。
戦いが再開する──ッ!!
袈裟坊主さんを迎え撃つ俺が使っているのは、ナーちゃんとやった時のビリチューではなく、《アルテナ》という女神をモチーフにしてキャラクターだ。
ビリチュー同様に高い機動力を活かした立ち回りが出来るほか、強い遠距離攻撃による牽制で相手の行動を制限することが出来る。
袈裟坊主さんを相手取るならば、遠距離からでもしっかりと立ち回りで優位に立ちやすいキャラの方がやりやすいと判断しての選択だ。
『中々にうまく圧をかけてくる』
「言いましたよね? 勝たせてもらいます」
『そう簡単に負けてやるつもりはない』
その言葉通り、袈裟坊主さん相手に気を抜く余裕はない。
優勢ではあるが、ここからまくられる可能性だってゼロじゃない。
最後まできっちりと集中しなきゃ──ッ!!
「ふっ──ッ」
『ふん』
「──くっ」
『……っ!!』
「……!?」
『ああもう~、また黙っちゃったよ~。ねぇねぇ~、リスナーのみんな~。これ逆に私も黙ったほうがいい~? ……そんことはない~? ありがと~』
ぴょんこさんが何か言っているけど、それすら聞く余裕はない。
全神経を集中して、袈裟坊主さんに勝ちに行く──ッ!!
「あ」
『ミスったな』
「くっそー……」
ほんのわずかなミスに差し込まれ撃墜されてしまった。
これで俺の残りストックは2。でも、撃墜されるまでの間に袈裟坊主さんにも十分なダメージを与えている。
「そのダメージで俺に勝てると思ってるんですか?」
『このゲームのいいところは、たとえどれだけダメージレースに差があろうとも逆転の可能性があるところだ』
「それは確かにそうですね。ですが、そんな逆転劇は許しませんよ」
『ならば、阻止してみせろ──ッ!!』
「そうさせてもらいます──ッ!!」
勝つ。
ただそれだけの意思で戦いに挑む。
牽制、読み合い、発生の早い技を振っては躱されてを繰り返し、わずかな隙すら逃さないように立ち回っている時間は、たったの数秒がその何倍にも感じられる。
考えるよりも早くキャラを操作し、撃墜へと至る勝ち筋を掴みにいく──。そして、
『くっ』
「──ッ!!!!!!」
チャンスは不意にやってくる。
それを逃さず詰め切れば、勝利は自ずとやってくる。
「──よしッ!!!!!」
『……負けたか』
モニターに大きく表示される『GAME SET』の文字。
そして続くリザルト画面では、俺が使っていたアルテナが勝利ポーズを決めていた。
『逆転劇はならず、か……』
「宣言通り、勝たせてもらいました」
『ああ。強いな、お前は』
「袈裟坊主さんも。ありがとうございます。対戦出来てめちゃくちゃ楽しかったです」
『俺もだ。いつかコラボでもしよう。その時までに俺もまた強くなっておく』
「はい! よろしくお願いします!!」
『ということで~、この勝負は新人VTuber連合の東野アズマの勝利~ッ!!!!』
……ふぅ、と一息ついてる場合じゃないな。
むしろここからが最大の山場だ。
何しろ相手は──、
『袈裟坊主さん相手にあの立ち回り。アズマって本当に強いよね』
「このまま戸羽ニキにも勝たせてもらいますよ」
『下剋上だっけ? やれるものならやってみなよ』
「そんな余裕こいてていいんですか? 負けたときのセリフ、考えてます?」
『必要ないから考えてないな~。あ、アズマに言ってもらいたいセリフなら考えてるよ』
「そのセリフを言うのは、俺じゃなくて戸羽ニキ自身ですよ」
レオンハルト。俺がこのまま戸羽ニキに勝っても許してくれ。
お前の気持ちは知ってるけど、俺だって負けたくないんだ。
『こっちもこっちでバチバチだ~。それじゃあ~、次の対戦は互いのチームのリーダー同士ってことでいい~?』
「はい」
『もちろん』
『OK~。それじゃあ~、次の対戦は~、トップVTuber連合の戸羽丹フメツ VS 新人VTuber連合の東野アズマ~ッ!!』
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