第61話 アツくなってきた──ッ!!!!!!

【円那ひとみと言ったか。お前、強いな】


【どーも。だけど、そっちはまだ余裕がありそうだよねー】


【相手との力量差が測れるということは、すでに近い力を持っているということだ。強い弱いだけでなく、なぜ強いのか、なぜ弱いのかが見えているかどうかが、次のステップに上がるには必要なことだ】


【名前の通り堅苦しい感じ? 円那はもうちょっと気楽に行きたいんだけどなー】


【ならば強くなることだ。そうすれば、俺との対戦も楽しめるものになるだろうよ】


【カッチーン。それ、遥か高みから見下ろしてますよねー? そういうの、ちょっとムカつきます】


【ならば牙を立ててみよ。リスナーも期待しているようだぞ】


 袈裟坊主さんの言う通りだ。

 ラナさんと袈裟坊主さんの対戦が始まってから、コメント欄はこれまでとは違う盛り上がりを見せていた。


『立ち回りうま』

『袈裟坊主と張り合ってるのはすごい』

『この人ガチじゃん。強い』


 すでに強さが知られている袈裟坊主さんと真っ向から対戦をしているラナさんへの称賛、そして彼女への興味がコメント欄を流れていく。


『まだこんな強い人がいたんだ』

『VTuberってすげぇな』

『これでVIP帯じゃないってマ?』


 さっきの埼京さんとの戦いではあった余裕が、今ラナさんにはない。

 それが逆に彼女の強さを浮き彫りにする形になっていた。


【どれぐらいだ?】


【何がー?】


【クロファイのプレイ時間だ】


【そんなでもないよ。特に今作は】


【ただ楽しみたいだけの者であれば、そもそもそのような言い回しはしないだろうよ。お前が本当に上を目指そうと思ったら、いくらでも手は伸ばせるだろうに】


【何ー? 円那に説教? 名前の通りなわけ?】


【お前ほどの強者がこのまま埋もれることをもったいないと感じただけだ。どうだ? 今度コラボ配信をしてみないか?】


【と思ったらナンパだったパターン? 円那はそんなに安くないよ。自分がやりたいと思ったことしかやりたくないし】


【ならば少しでもやる気になって貰おうではないか】


【え──】


 うわ、エグ……!?。

 一瞬にして袈裟坊主さんが使う《オロチ》がラナさんのナイスにダメージを入れていった。


『姐さん、頑張ってくれ!!』


『ラナねえさん──!!』


 エイガとカレンちゃんが祈るように見守る中、ラナさんも着実にダメージを与えんと立ち回る。

 しかし袈裟坊主さんは巧みな立ち回りと間合いの管理で、ラナさんに思った通りの展開を作らせない。

 ていうか、袈裟坊主さんってマジで強い──!!


『強い、この人』


 レオンハルトが思わずつぶやくのもわかる。

 今回の企画に自ら名乗りを上げただけのことはある。

 袈裟坊主さんは俺やレオンハルトから見ても、十分な強さを持っている。


 そんな袈裟坊主さんが使う《オロチ》というキャラクターは、とあるスニーキングミッションものゲームの主人公だ。

 軍人らしく、手榴弾を始めとした爆弾や携行ミサイルなんかを使った独特な間合いでの立ち回りに強みがあるほか、パラシュートを用いた復帰力の高さが長所となっているキャラクターだ。


 袈裟坊主さんはとにかくこの爆弾を用いた組み立てが、本当に上手い!!

 地面に設置するタイプの高威力な爆弾で地上での動きをけん制しつつ、空中に飛んだラナさんを崩しつつ着実にダメージを積み重ねていっている。

 しかも何がいやらしいって、ちゃんと自分へのダメージを勘定に入れた立ち回りをしていることだ。

 多少の被弾は受け入れているものの、撃墜されないようにしている。


「とにかく技を押し付けて行って、圧をかけるしかないですね。間合いの管理を徹底されたら袈裟坊主さんのペースになるので、こっちから積極的に仕掛けていって間合いを潰すのが先決だと思います」


『うん。あとは後隙とか着地とか復帰もだけど、そういうのをちゃんと狩るしかないと思う。僕ならそうする』


 それはレオンハルトに同意だ。

 後隙や着地からしっかり組み立てていって場外に押し込み、復帰に対してもちゃんと圧をかけてメテオによる撃墜を狙ったり、今見せられている袈裟坊主さんの立ち回りに対していくつか選択肢を持っておかないと勝つのは難しいだろう。


「ラナさんが食いついてくれるおかげですね。動画は見て研究しましたけど、こうやって直に戦っているのを見れた方が参考になることが多いです」


『勝てそう?』


「勝ちますよ。まあ、さすがにいくつかストックは削られると思いますけど」


『うん。わかった』


『そんな冷静なやりとりしてへんで、姐さんを応援しようや!』


『そうですよ。ラナねえさんだって頑張ってるんですから!!』


「そうですね。すみません、つい」


『……ごめん。相手が強かったから』


 俺やレオンハルトだってもちろんラナさんに勝って欲しいって思っている。

 ただ、それとは別にこうも思ってしまう。

 この強い相手と対戦してみたいと──!!

 それはきっとラナさんに対戦を申し込んだ袈裟坊主さんも同じだったに違いない。相手が強いから、自分の腕に自信があるから、挑まずにはいられない。


「危ない!! 落ち着いてください!!」


『姐さん!!』


『頑張ってラナねえさん!! いけるよ!!』


『撃墜圏内に入った』


 だから、こうしてラナさんの応援をしつつも、ワクワクしている自分がいる。

 強い相手と戦えることを楽しみにしている自分がいる。


『あ、ダメ──ッ!!』


『姐さん!!』


『あ、マズい』


「これは……」


 最後まで粘りに粘ったラナさんだったが、着地に合わせられた攻撃によって撃墜されてしまった。

 うっわ、惜しかったー!!

 あと少しで袈裟坊主さんのストックを1つ削れてたのにッ!!


『クッソー!! あとちょっとやったのに!!』


『ラナねえさん、カッコよかった──ッ!!』


『強かった』


「めちゃくちゃアツかったですね!!」


 俺たちと同じようにラナさんを応援していたリスナーたちも、その戦いっぷりを称えてくれている。


『ナイファイ』

『すごかった!!』

『GG』

『カッコよかった!!』

『ラナさんに惚れた!!』

『普段とのギャップがエグイw』

『これがギャップ萌え』


 拍手の絵文字が連打されるコメント欄に、みんなもたくさん応援してくれていたのを感じる。

 このあったかさに触れたら、ラナさんだって感動して泣いちゃうんじゃないかなぁ、なんて思っていたら──、


『……ぐす。みんなぁ、……負けたぁ。ごめぇん』


 って、マジで泣いてる!?


『ラナねえさーん!!! カッコよかったよー!!』


『カレリンー。負けちゃったぁ……』


『大丈夫だよー! みんなラナねえさんのことすごかったって言ってるよ!!』


『マジですごかった!!』

『泣かないで!』

『ラナラねえさん最高!!』

『アツかった!!』


『みんなぁ、ありがとぉ……』


 まさか。ラナさんがこんなガチになるなんて……。

 これは──、なんかヤバいな。

 なんか今、すごいアツくなってる。


『頼むわ、2人とも。勝ってくれ』


「わかってます、エイガ。ですよね、レオンハルト?」


『うん』


「ラナさん、カッコよかったです。あとは、俺たちに任せてください」


『勝つから』


『東野ちゃん……。レオンハルトきゅん……。ごめんねぇ。1ストックも削れなかったぁ……』


「謝らないでください。埼京さんには勝ってましたし、ラナさんのおかげで袈裟坊主さんのことがわかりました」


『大丈夫。僕らが勝つから』


 あー、なんだろうこのテンション。

 ちょっと抑え切れないかも。すごい高まってる。

 今日までは『楽しい企画になればいいな』って思ってたけど、今は『絶対に勝ちたい』って思うようになってる。

 めちゃくちゃアガってる──ッ!!


「じゃあ、行ってきますね」


『アズマさん、頑張ってください!!』


『頼むで!!』


『お願いぃ……』


『にーちゃんなら勝てるよ』


「そんなこと言っていいんですか? レオンハルトの活躍が魅せられなくなりますよ」


 なんてぶち上ったテンションのままにカッコつけたことを言いつつ、みんなに送られながら対戦用の通話へと移動する。


「お待たせしました」


『ほう。お前は大将だと思っていたがな』


「うちには後を任せられるエースがいるので、俺は露払いですね」


『悪いが、そう簡単に払われる露ではないぞ?』


「とか言って、あっさり負けないでくださいね?」


『ぬかせ』


『それじゃあ~、次の対戦は~、トップVTuber連合の袈裟坊主 VS 新人VTuber連合の東野アズマ~──ッッッ!!!!!』

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