第58話 濃すぎるキャラたちのせいで、シンプルにカオス

「この空気、行かないとダメですよね……?」


『そら、そうやろ』


『当然』


『た、多分』


 全っ然、気が進まねー……。

 恨むぜ、ぴょんこさん。


「じゃあ、行ってきます」


『気張りやー』


『ラブコメはほどほどに』


『が、頑張って!』


 くそー、こっちの配信のコメント欄まで『てぇてぇ』で溢れかえってるよ。


『お~、来たね~。ほらほら~、挨拶してよ~』


「さっきもしたじゃないですか。──えーっと、皆さん改めて。東野アズマです! 呼ばれたんで来ました!!」


『そんな『仕方なく来ました~』みたいな言い方は良くないよ~』


「他に言いようなくないですか!?」


『弟子の仇うちに来た~、でいいんじゃないかな~?』


「じゃあ、それで」


『ノリ悪いな~。せっかく盛り上げようとしてるのに~』


「こういう盛り上げ方は違くないですか!? クロファイの配信ですよ? 対戦で盛り上げましょうよ!!」


『それは君たち出場選手の役割だよ~。私の役割は~、対戦外を盛り上げること~』


 ここで確かに──ッ、とか思ったら負けなんだろう。

 それでも、確かにぴょんこさんの言うことは正しいッ!!

 なんだったら、俺が提案した企画を盛り上げようとしてくれてるんだから、こっちから文句なんて言えるわけない!!


『アズマさん~。ごめんなさい、負けちゃいました~』


「1ストック落としたじゃないですか。大金星ですよ」


『本当ですかッ? じゃあ、もっと褒めてください!!』


「カレンちゃんはよく頑張りました。あとは、俺に任せてください」


『お? なんだかんだやる気じゃないですか! カーッコいいーッ!!』


「いいから。カレンちゃんは俺の枠に戻ってください。みんなも待ってますよ」


『は~い。それじゃあ、わたしの仇を取ってくださいね! あ、絶対に手加減とかしちゃダメですからね?』


「そんなことするわけないじゃないですか」


『さすがアズマさん!! それじゃあ、わたしは戻ります。ナキア先生。対戦ありがとうございましたッ!!』


 最後にきちんと挨拶をして、カレンちゃんはみんなのところに戻っていく。

 そうして後に残されたのは、俺とナーちゃん。あと、ぴょんこさん。


『ズマちゃん~? 私もお邪魔だったら黙ってるよ~?』


「司会を放棄しないでください! 放送事故になりますよッ!?」


『え~、だってさ~、てぇてぇの間に挟まると刺されそうだし~』


「今から対戦するんですよ!?」


『わかってる~。乳繰り合いでしょ~?』


「全く違いますが!?」


『でも~、ナキちゃんはそうは思ってないんじゃないかな~?』


「え?」


 そう言えばさっきから黙ってるけど、ナーちゃん……?


『ズマっち。あなた、随分とあの子と仲がいいのね』


「あー、まあ。言っても同じチームですし」


『そう。同じチームになれば誰とでも仲良くするのね』


「それは、そうじゃないですか……? せっかくだし仲良くなりたいじゃないですか」


『つまり、敵チームの私とは仲が悪いということかしら?』


「誰もそうは言ってないですよね!? 曲解し過ぎじゃないですか!?」


『まあ、いいわ。この程度でショックを受ける私じゃないもの。ええ、全くもって何の問題もないわ』


『ナキちゃん~。声が震えてるよ~?』


『うるさいわねッ!! いいからさっさと対戦を始めなさいッ!!』


『了解~』


 え、マジ!?

 この流れで始めるの!?


『ふっふっふ。覚悟しなさい、ズマっち』


「何を!? 俺、何かしました!?」


『大袈裟に言って誤魔化してるだけだよ~。ズマちゃんと遊べて嬉しくてテンション上がってるだけだから~、気にしないであげて~』


『ぴょんこ! 余計なことは言わなくていいのよ!!』


『はいはい~。やれやれ~、手のかかる友人を持つと大変だ~』


 てぇてぇゴリ押しをする厄介な知り合いを持つのも、同じぐらい大変です。


『ナキちゃんは~、キャラクターはそのままでいいの~?』


『当然じゃない。ていうか私、他のキャラ使えないもの』


 ナーちゃんがベストレディで来るなら、俺は……。


「OKです。キャラ決まりました。俺はビリチューで行きます」


『了解~。それじゃあ、最初はストック調整してね~。ズマちゃんは4ストックで~、ナキちゃんは今の対戦で1ストック削られたから~、2ストックになるようにしてね~』


『ズマっち、交渉よ』


「嫌です」


『まだ何も言ってないわ』


「自滅しろとか、そういう話ですよね?」


『あなたのリクエストに沿ってイラストを描いてあげるわよ?』


「真剣勝負の場に盤外交渉を持ち込まないでくれませんか!?」


『イラストレーターの私として、真剣勝負を仕掛けてるつもりよ』


「今はVTuberとして真剣勝負をしてください」


『釣れないわねぇ』


 そんなものに釣られて堪るかッ!!


『乳繰り合いはその辺にして~。それじゃあ~、第二試合スタート~ッ!!』


『ふふ。ズマっちに私の実力を見せてって、早い!? 早いわよ!! 何よその動き!? もうちょっと手加減しなさいよッ!!』


「カレンちゃんから手加減するなって言われてるので」


『この、生意気よ──ッ!? くっ、あ、ダメよそれは!?』


「俺、思うんですけど。メスガキわからせよりも、プライドが高い女をわからせる方が需要ありませんか?」


『それはわからせじゃなくて、くっころと言うのよって、あ、ダメ。違う。そうじゃないッ!!』


「ふぅー、気持ちーッ!!!!!!!!」


『クッソ、こいつ──ッ!! 絶対に許さない!!』


『ナキちゃん~、口が悪くなってるよ~』


『大体こんな感じよ、私はッ!! それよりズマっちをどうにかしなさい!! 私を虐めて楽しむなんて許せないわッ!!』


「そう言うならナーちゃんの実力で黙らせてみてくださいよ。あ、ほら。またコンボに捕まっちゃいますよ」


『くっ、こんなもの──ッ!!』


「あれあれ~? 抜け出せませんね~? どうしました~? それでも安芸ナキア先生なんですか~?」


『このッ、調子に乗って──ッ!!』


「残念、ジャスガ」


『ムカつく──ッ!! あんた本当に覚えておきなさいよ!?』


「え、怖。何されるんですか、俺」


『EX.で私を姫キャリーしてクラウン獲るまで終われまテンをやらせてやるわ。それが嫌なら──、』


「あ、その程度でいいんなら大丈夫です。はい、終わり」


『あぁ──ッ!?』


「圧勝。あれ、ナーちゃんどうしたんですか? 今日、体調悪いんですか?」


『この男ムカつく──ッ!!』


『いや~、なんていうか~、横で見ているこっちは胸焼けするって言うか~、リスナーさんたちはどうだった~?』


 そんなぴょんこさんの問いかけにコメント欄が一斉に『てぇてぇ』の文字があふれかえるばかりか、『リア充乙』『爆発しろ』『姫キャリー配信待ってます』などと、リスナーの様々な感情を乗せたコメントが流れていく。


『ふ、ふん。しょうがないから、今日はこの辺で許してあげるわ』


「負け惜しみここに極まれりって感じですね」


『うるさいわね!? いいのかしら? あんまり言い過ぎるとひどい目に遭わすわよ』


「例えば?」


『私の煩悩の中にあるようなこと』


『え~と~、ヤバいこと口走る前に~、ナキちゃんは退場してもらってもいいかな~?』


『しょうがないわ。今日のところはぴょんこに免じて許してあげる』


 捨て台詞大会全国一位かってぐらい華麗な捨て台詞を残して、ナーちゃんは戸羽ニキの配信枠に戻っていく。

 向こうの配信枠ってどんな雰囲気なんだろう。

 ちょっと怖いもの見たさで覗きたくなるな……。


『ズマちゃんは~? このまま残るの~?』


「いや、一回戻ろうかと思ってます」


『待て待て待てェイッ!!!!』


 誰だよ、こんな大仰な登場をするのは!?


『俺だッ!! 英雄(ハナブサ ユウ)だッ!!』


『あ、リスナーのみなさん~。ここからはちょっと音量下げた方がいいかもしれないです~』


『ぴょんこさん、それはどういう意味だッ!?』


『君がうるさくて暑苦しいって意味だよ~?』


「さすがにストレート過ぎませんか……?」


『大丈夫だ、もう慣れた』


「嫌なことに慣れてますね……」


 ああ、そうだった。

 英さんって『残念勇者』とか呼ばれて、色々と悲しみを背負ってるんだった。


『東野アズマッ!! 俺と勝負だッ!! そして俺が勝ったなら、ぜひモテの伝道師として俺を導いて欲しいッ!!』


「まだそれを言うんですか!? 随分前に断りましたよね!?」


『お前は三顧の礼というものを知ってるか?』


「何度訪ねられようと、お断りです」


『お百度参りならどうだ!?』


「回数の問題じゃないって言ってますよね!?」


『それじゃあ、仕方ない。お礼参りの時間と行こう』


「もう言葉の響きだけで会話してますよね!? そんなんだからモテないんですよ!?」


『──ッ!? 早速マスターからのアドバイスが!! これはしっかりメモを取らなければ』


「だから違いますって! っていうか、マスターって何ですか!?」


『師匠、伝道師が嫌なら、マスターって呼ぶしかないと思うのだが……?』


「そういう問題じゃ──、」


『待て待て待てェイッ!!!!』


 今度は何──ッ!?


『自分を差し置いてア、アズマからモテを教わろうなんて、どういう了見や!?』


『誰だ!?』


『ア、アズマの親友にして一番弟子! 狼森エイガやッ!!』


 いつそんな関係性になった──ッ!?!?!?!?!?


『英さん。あんたがトップVTuberのひとりだろうと、これだけは譲るわけにはいかん。どっちがモテの極意を教わるに相応しいか、勝負して決めようやッ!!』


『乗ったッ!! 俺こそがモテを教わるに相応しい男だと証明してやる──ッ!!』


 え、いや、あらゆるものを置き去りにして2人だけで盛り上げるのやめてくれない? 全然ついて行けてないから……。


『えっと~、なんかよくわからないけど~、トップVTuber連合の英雄vs新人VTuber連合の狼森エイガで~、試合を始めるよ~』


 ……よし! 全てをぴょんこさんに任せて俺は去ろう。

 ぴょんこさん。後はよろしくお願いします──ッ!!

 俺はこんなカオスに付き合ってられません!!

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