第59話 男は戦い傷つき強くなる──ッ!!

【甘いでッ!! 自分なんて女子がクラスの男子全員に作ってきたはずのバレンタインチョコを『作る個数間違えちゃった』って言われて貰えへんかったんやで!?】


【温いッ!! 俺なんてクラス対抗リレーで1位を取ってクラスを優勝させたのに、同じクラスの女子から『あんたが勝ったから私の好きな人が2位だった』って文句を言われたんだぞっ!?】


【なんやそれは!! 足が速いって自慢かいな!? どうせ小学校ではモテてたとか言いよるんやろ!?】


【そうだと言ったらどうなんだッ!! 俺のモテ期はランドセルを背負わなくなったときには終わってたんだッ!!】


【はッ!! 人生で一度でもモテた時期があったやつに、自分の何がわかるっちゅうねん!?】


【なんだと!? 小学校以来の友達から『童貞を捨てるにはモテ期が早すぎたな』って憐れまれる俺の気持ちがわかるのか!?】


【童貞を捨てる時期があっただけマシやろがい!! 自分なんて、自分なんてなぁ──ッ!! そんな時期一度だってあったことないんやで!?】


 じ、地獄だ……。

 こんな地獄のような配信がこの世に存在していいはずがないんだ──ッ!!

 もういいエイガ!! これ以上口を開くんじゃない!!

 ここから先は傷を広げるだけじゃすまない!! 致命傷になるぞ!?


『なんだろう。なんで盛り上がってるのかさっぱりわからないんだけど……』


『あはは……』


 女子にはわかるまい──ッ!!

 男のこの熱き悲しみの叫びは──ッ!!


『僕。今までよりエイガさんに優しくできそう』


「そうですね。エイガが戻ってきたら、勝敗なんて関係ありません。とにかく戦い抜いた彼を抱きしめてあげたいです」


『……わっかんないなー』


『あはは……』


 女子にはわかるまい──ッ!!

 彼らがなぜ戦っているのか、その理由を──ッ!!

 だけど、エイガ。本当にこれ以上はやめるんだッ!!

 ここはネットだぞ!?

 そこらの居酒屋じゃないんだぞ!?

 お前の言動は未来永劫ネットの海を漂い続けるんだぞ!?

 一生ぬぐえない黒歴史を生み出すんじゃないッ!!


【くそ、邪魔をするんじゃない!! 俺はマスターからモテの極意を教わるんだ!! そうしてもう二度とリスナーから『彼女いない歴=年齢』だの『魔法使い予備軍』だのと、からかわれない存在になるんだッ!! そのために、俺はお前を倒して先へ行く──ッ!!】


【させるか、ボケがッ!! 彼女いない歴=年齢!? 魔法使い予備軍!? あたかも自分にだって彼女を作ったり童貞を卒業するチャンスがあるかのように振る舞うんやない!! そんな甘い言葉でモテないことから目を逸らす奴に、自分は負けへん──ッ!! 負けるわけにはいかないんや──ッ!!】


【初めから持たなかったお前に何がわかる!? ある日突然仲の良かった女子から『いい人だけど暑苦しいから』と距離を置かれた悲しみがわかってたまるものかッ!!】


【持つことすら許されへんかった者の嘆きがわかるんか!? 実の姉ちゃんからも『私もあんたとだけは絶対に付き合わへん』って言われた時の気持ちがわかるんか!?】


 ……今度、酒を飲もう。

 エイガとも、英さんとも。

 モテるとかモテないとかじゃないんだ。

 今あの場でああして戦っている2人と、ただ黙って酒を飲みたいんだ。

 彼らの話にじっと耳を傾けていたいんだ。

 この世界で懸命にもがく男たちに、敬意を──。


【これで仕舞や──ッ!!】


【ちくしょう──ッ!!!!!!】


 大きく表示される『GAME SET』の文字。

 今、決着が着いた。


『やるじゃん、ポチの奴。相手3ストックあったのに』


『すごいすごい! エイガさん勝ったよ!!』


 見てくれ、エイガ。

 聞いてくれ、エイガ。

 女子が、お前を褒め称えているぞ。

 きっと今日の配信で増えるのは男性ファンだろうけど、それでも今この瞬間、お前を褒め称えている女子がここにはいるぞ。


【えっと~、勝者は新人VTuber連合の狼森エイガさんでした~。……今の試合では勝てたけど~、人生で大切な何かを犠牲にしてる気がするよね~】


【何言うてるんですか、ぴょんこさん。傷は戦士の勲章っすよ──】


【……はい~、ということで~。次の試合行きましょうか~】


【無視せんといて!? そういうのが一番傷つくねん!!】


【繊細過ぎるのもモテない原因なんじゃないかな~?】


【そんな自分でも愛してくれる人をいつでもウェルカムやねん】


【え~、……英さんはどうでしたか~? 今の試合~】


【魂をぶつけ合うようなアツい戦いだったぜ! こんな戦いは久々で楽しかったぜ!!】


【惜しくも負けてしまいましたね~】


【実力では一歩及ばなかった!! だが! 勝敗以上に大切なものを、俺は見つけることが出来たッ!! それは、宿敵だッ!! 宿敵と書いて『トモ』と読むッ!!】


【……あ、はい~】


【狼森! いや、エイガッ!! 俺と、共に歩んではくれないか……?】


【英さん……ッ?】


【そんな他人行儀な呼び方はやめてくれ。俺たちは今、魂でぶつかり合った仲じゃないか! そうだろう? エイガッ!!】


【雄──ッ!!!!】


【きっとお前と出会えたことは運命だ!! 生涯の友として、共にマスターから教えを請い、モテの極意を手に入れようじゃないか!!】


【おおッ!!】


『東野ちゃん。どうするのー?』


「……とりあえず、今日が終ったらエイガとは距離を置いておこうと思います」


 変なことに俺を巻き込まないでくれないか!?


『ポチは不憫だねー。友達が出来たと思ったら、友達を失くすなんて……』


「そこまでは行きませんよ!? ただちょっと、あのノリに巻き込まれるのは嫌だなって……。それだけです。俺だってせっかく仲良くなった人と絡まなくなるのは嫌ですし」


 でも、今後エイガからコラボの誘いとかあった時には、英さんも一緒かどうかを確認してからにしよう。


【えっと~、盛り上がってるところ悪いんだけど~。次の試合を始めたいのでそろそろいいかな~?】


【もうそんな時間なんやね。……すまんの、雄】


【何を言っているんだ、エイガ! 俺たちの友情は始まったばかりだ! これからいくらでも時間はある!!】


【ちゃう。そのことやない。ア、アズマに戦いを挑んだお前ならわかってくれるはずや。自分もモテない男として、モテる男に戦いを挑まなアカンのや!!】


【──エイガ!? お前、もしかして……】


【せや。自分はこのままここに残る。そして、あんたと戦わせてもらうで、埼京ツルギ──ッ!!】


『アズマさん、いいんですか? エイガさんがあんなこと言ってますけど』


「あ、うん。なんか盛り上がってますし、もういいかなって思ってます」


『まあ、ここでポチが埼京さんに勝ってくれたら大金星だよねー』


『ラナねえさんはいいの? 出番なくなっちゃうけど』


『大丈夫大丈夫ー。だって、どうせポチじゃ袈裟坊主さんや戸羽丹さんには勝てないし』


『それはそう』


「ラナさんもレオンハルトさんも、エイガに辛辣過ぎません?」


 実力的にそう言いたくなるのはわかるけど、もうちょっと信じてあげてもいいんじゃないかな。


【ツルギ、俺からも頼む。友人であるエイガの挑戦を受けてやってくれないか?】


【いやいやいや。雄、お前どの立場なんスか】


【チームとしてはお前たちと共にある! だけど、友情を捨てるわけにはいかないんだ!】


【まあ、オレとしてはどっちでもいいんスけどね~。ていうか、待ちくたびれたッスよ。ちゃちゃっと始めましょ。どうせオレが勝つんスから】


【それは聞き捨てなりませんなぁ。自分がそう簡単にやられるって思われてんのなら、尚更負けるわけにはいきませんわ】


【ああ、狼森さんが弱いって言ってるんじゃないんス。オレが強いんスよ】


【随分な自信やないですか】


【だってオレ、フメツ以外に負け越したことないッスよ。うちの事務所で】


【確かに~。ルギーがフメフメ以外に負けてるところって見たことないかも~。ってことで~、次の試合はトップVTuber連合は埼京ツルギ~、新人VTuber連合は狼森エイガの継続でいいかな~?】


【いいッスよ】


【はよ始めましょ】


【OK~、それじゃあ次の対戦を始めるので~、英さんは戻ってね~】


【おう! ありがとうございました!! ツルギもエイガも負けるんじゃないぞ!!】


【って言うけど、勝者は1人なんスよね~】


【せやな。そしてそれは自分のことや】


【もう1ストックしかないのに、随分な自信ッスね】


【当然や。魂の戦いに勝った自分に、負ける要素はあらへん!!】


『今のポチのセリフ、死亡フラグっぽい』


『ラナねえさん、普通に応援しようよ』


「そうですよ! エイガならやってくれるますって」


 まあ、俺もちょっと思ったけど。

 エイガ、頼むから開幕即負けとかはやめてくれよ……?


【それじゃあ~、試合開始~】


【しゃあ! やったるでー!!】


【勝つッスよ!!】


 って、あれエイガ。本当に強くなってる!?

 え、マジで!? 埼京さん相手にめちゃくちゃいい勝負してない!?


『エイガさん、キャラコンの精度がよくなってる』


「ですよね!? え、本気で覚醒しました……?」


 レオンハルトが認めるのだから間違いない。

 なんか知らないけど、強くなってる!!

 モテない男の僻みパワー!?


【おー、中々ッスねぇ】


【その余裕、すぐに剝がさせてもらいます!!】


【お、マジ……?】


【逃がさへんで!!】


 え、すご。

 苦手にしてたコンボがちゃんと決まってる!

 いいぞ、エイガ! そのまま押し込め!!


【はい! はい! はいーッ!!】


【ったー! マジッスか!?】


【余裕ぶってるからやで!? このまま残り2ストック目も貰います!!】


【いやー、ここでストックを落とす予定なかったんスけどねぇ。仕方ない、ちょっと本気でいくッスよ】


【ぐっ、さすがにこれは……】


【ほらほらほらぁ。そこまでダメージ溜まれば、あと一発で勝っちゃうッスよ!】


【まだや! まだ負けへんぞ!?】


【残念ッスねぇ。これでオレの勝ちッス】


【ぬあ!?】


【はい~、試合終了~。勝者は~、埼京ツルギ~】


【当然ッスよ!】


【ぐわーっ! 悔しいーッ!!】


 うっわ、惜しい!! 

 あとちょっとで2ストック目も落とせそうなとこまでいけたのに!!

 いや、しかし本当にすごいな、エイガ。

 めっちゃ強くなってる!!


『惜しかったね、エイガさん』


『うん。全然勝てそうだった』


「そうですね。これならエイガに3ストック持たせてもよかったかもしれないですね」


 でも、なんか嬉しいな!

 チームメイトがこんなに強くなるなんて!!


『ねえ、東野ちゃん』


「なんですか?」


『次、円那が行ってもいいー?』


「いいですけど、……いいんですか?」


『うん。今のポチを見てたら、ちょっと燃えてきた』


 ──!?

 ラナさんがそんなことを言うなんて!


「わかりました。お願いします」


『任せて。サクッと勝ってくるから』

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