第57話 安芸ナキア界隈って、やっぱり変……。
【アマリリス・カレンです。えっと、安芸ナキア先生に憧れてるので、対戦出来て嬉しいです!!】
【あら、そうなの? でも、ファンだからって手加減はしないわよ】
そんな2人のやりとりを皮切りに対戦がスタートする。
カレンちゃんが練習の時と同じように《オイラ》を選択するのに対して、ナーちゃんが選んだのは《ベストレディ》!?
前作のクロファイでは最強キャラの一角だったけど、今作ではだいぶ弱体化食らったキャラだぞ!?
『普通ならチャンスって思うんだけど、安芸ナキア先生がベストレディを使うと一気に強キャラ感が出るのってなんでかなぁ……? カレリン大丈夫かなぁ』
『大丈夫やって! カレンちゃんだってここ最近はみっちりやりこんどったし、定番のコンボや立ち回りなら安定してるやないか』
『だから怖いんだってー。カレリンの戦い方って、まだ素直さが抜けないから、やりこんでる人からすれば逆にカモになるって』
『相手が前作からのベストレディ使いだったらって、こと……?』
『頑張って、カレリン……』
ラナさんが祈るように呟く中、カレンちゃんとナーちゃんがストックを調整する。
今回の企画ルールでは1人の上限ストックが5と決められているため、とりあえず全員に5ストックずつが割り振られ、対戦が始まったら申請もしくは現状残っているストック数まで調整することになっている。
そんな、俺たちが勝手に自滅タイムと呼んでる時間も、ぴょんこさんは配信を盛り上げるために2人に会話を振っていく。
【新人ちゃんたち頑張ってたよね~。合宿配信もたまに見てたよ~。みんなで一生懸命練習してたよね~。なんか学生時代の部活を思い出しちゃったよ~】
【そ、そうですね。雰囲気はそんな感じでした!】
【いいよね~。一緒の時間を過ごす内に仲良くなったり~、青春だな~、懐かしいな~】
【ぴょんこの学生時代にそんな思い出があったのかしら……?】
【……ナキちゃん~? それはライン越えだよ~? 自分だって似たようなものだよね~?】
【……この話はやめましょうか。お互い傷つくわ】
【あ、あはは】
『あ~、カレリン緊張してるよ~……』
『そら、相手はVTuber界隈で知らない人はいないってぐらいの大物やからな』
「しかもその内ひとりは憧れの人ですしね。さっきのでほぐれたとはいえ、やっぱり緊張はすると思います」
『勝てるかな……?』
レオンハルトの不安になる気持ちもわかる!
それでも俺たちに出来るのは、カレンちゃんが勝つのを信じて応援することだけだ。頑張ってくれ、カレンちゃん!
【お互いストックの調整も済んだし~、私の合図で対戦開始ね~】
【はい!】
【いつでもいいわよ】
【それじゃあ~、──スタートッ!!!!】
対戦が始まる!
まずはお互い出方を伺うように牽制技を放ちって、ヤバい!! カレンちゃん逃げてッ!! その技を食らったら、コンボが繋がっていっちゃうッ!!
【あ、ちょ、ダメダメダメーーーーーッッッッッッ!!!!!!!!!】
【美少女の悲鳴っていいわね。来季の性癖になりそうだわ】
【最低なこといいながら決めるコンボじゃないよね~。エグ過ぎるよ~。今作のベストレディって弱体化したんじゃなかったっけ~?】
【キャラは弱体化しても、私が弱くなることにはならないわ】
【あ、当たらない!? あれぇッ!? 練習だと上手くいったのに!!】
【見え見えよ。もうちょっと揺さぶりとか読み合いを経験しなさい。はい、とりあえず1ストック削らせてもらうわね】
【嘘!?】
と、カレンちゃんが叫ぶように、対戦が開始して二十秒も経たないうちに1ストック目が撃墜される。
まさしく瞬殺。華麗なコンボから一気に畳みかけるナーちゃんのプレイングに、コメント欄も大盛り上がりだ。
『なあ、相手かなり強ない? 少なくともカレンちゃんで手に負えるレベルやないと思うんやけど』
「人選失敗しましたかね……? ナーちゃんって配信でクロファイをやってなかったので、もしかしたら初心者か、よくて中級者って思ってたんですけど」
『あれはかなりやりこんでるねー。話を聞く限り、前作も相当やりこんでそうだよ』
『僕らならともかく、カレンさんだとキツそう』
レオンハルトの言う通りだ。
正直、見ている限り全然対応できないってほどじゃない。というか、対戦すれば9割がたは勝てるレベルだ。
でも、それは俺やレオンハルトだから言えることだろう。
いくら直近でみっちりやりこんだとは言え、初心者に毛が生えたレベルのカレンちゃんには荷が勝ちすぎてる。
【く、この、せめて1ストックだけでも……っ】
【何かしらこの感情。美少女が必死になって立ち向かうけど、でも勝てなくてボロボロになりながら弄ばれるのを想像したら、──滾ってきたわ】
【……ナキちゃん~。それは普通にドン引きだよ~】
【いいわ! いいわよ!! もっといたぶらせて頂戴!! うふふふ。締め切りで溜まったストレスが発散されていくわ!!!!!】
【うっわ~、ファンだって言ってくれてる女の子相手にやることじゃないよ~。幻滅されるよ~?】
【幻滅なんてしませんッ! でも、攻撃が当たらないッ!!】
【ほらほら、私はこっちよ!! せめて一矢報いたいわよねぇッ!? せめて後一撃は入れたいわよねぇッ!?】
【あ~、なんか変なスイッチ入っちゃった~……。ねえ~、誰かこの変態摘まみだしてくれない~?】
【ダメです! 今、いいところなんですから!!】
【それをどうして君が止めるの~……? ファンなんだよね~? こんな仕打ちされていいの~?】
【いいんですっ!! だって、わたしが憧れた安芸ナキア先生って、こういう人なんですよ!?】
【あ~……、うん? どうしよう~、全然理解出来ないよ~。本人が本人ならファンもファンだよ~。これの何がいいの~?】
【くっ、このっ! 当たれっ!! ──安芸ナキア先生は、自分が好きなものは好きだって言えて! バカにされたって否定されたって、『だけどそれが私』って真正面から言える人なんです!! そんな先生に憧れて! わたしも自分が可愛いと思った姿でVTuberになったんです!! アマリリス・カレンはわたしの性癖なんです!! だからわたしが最高に可愛いって思ってる姿で、憧れのナキア先生が興奮してくれるのは、わたしにとってご褒美でしかないんですッ!!】
【……気持ちはわかんないけど~、気持ちがこもってるのは理解したよ~】
【ありがとうございますッ!!!!! ──当ったんない!! このぉッ!!】
【でもさ~、ナキちゃんって好きなものを好きって言えても~、好きな男に好きって言えない女だよ~?】
【ぴょんこ!?】
【チャンスッ!!】
【……この程度で動揺するなんて~、ナキちゃんもまだまだだね~】
【やった! 1ストック撃墜ッ!!】
【ぴょんこ。あんた後で覚えておきなさいよ】
奇跡的に1ストック削れたけど、でもナーちゃんの残りストックは2。
対してカレンちゃんの残りストックは1しかない上に、ダメージもかなり溜まっている。
これはかなりキツイ……。
【名前】
【え】
【あなたの名前、もう一回聞いてもいいかしら?】
【アマリリス・カレンですッ!!】
【ありがとう、カレン。今日あなたと会えたことで、私は来シーズンの性癖を見つけられたわ。これで次の締め切りも乗り越えられそうよ】
【雰囲気はカッコいいのに言ってることは最低なんだよね~】
【ちょっと、ぴょんこ。いいところなんだから邪魔しないで頂戴】
【え~、だって~……】
いや、わかります。
ぴょんこさんの言いたいことはめちゃくちゃよくわかります。
これがファンサービスとして成立してる安芸ナキア界隈がおかしいんです。
【お礼に最後は全力で相手してあげるわ。あなたも全力でかかってきなさい】
【はいッ!!】
いや、本当に展開だけ見たらクライマックス感すごいな。
ここまでのやりとりを全て無視すればだけど。
アニメだったらオープニングテーマとか流れそう。ここまでの流れを全部無視すればだけど──ッ!!!!!!
【あ、ダメ。やめてッ!! ダメーーーーーーッッッッッッ!!!!!!!】
【ふふ。カレン、あなた本当にいい声で鳴くわね。ほら、これでとどめよ】
【あーーーーッッッッッッ!?!?!? 負けちゃったーーーッッッ!!!!】
【はい~、終了~。ということで~、1戦目は~、ナキちゃんの勝ち~……!!】
【ちょっと、なんで微妙にやる気ない感じなのよ。もっと高らかに宣言しなさいよ】
【え~。だったらもっとやる気出る試合内容にしてよ~】
【十分華麗だったじゃない。何が不満なのよ】
【発言内容かな~】
それはぴょんこさんに同意。
【アマリリス・カレンさん~、負けちゃったけど~、最後に一言ありますか~?】
【ナキア先生と戦えたことは嬉しかったですけど、チームのみんなには申し訳ないです。特にアズマさんはたくさん教えてくれたのに】
殊勝なことを言ってくれるじゃないか!
「カレンちゃんは頑張りました!」
『そうだよ、カレリン。カレリンは頑張った』
『せやで! 1ストック落としたんやから、十分頑張った!』
『うん。よかった』
カレンちゃんの言葉に俺たちは思わず、そんな風にコメントする。
こっちの配信枠に戻ってきたら、ちゃんと褒めてあげないと!
【もしかして~、カレンさんの師匠ってズマちゃんなの~?】
【そうです! ゲームを教わり始めたころは、よく師匠って呼んでからかってました!】
【そっかそっか~、それじゃあ~、弟子の仇は師匠がとらないとだよね~?】
ん? ぴょんこさん……?
【ほらほら~、こっちにおいでよズマちゃん~】
【え、アズマさんがナキア先生と対戦を……?】
【そうだよ~。リスナーさんたちも見たいよね~? 安芸ナキアvs東野アズマのてぇてぇ対決を~。ズマちゃん~、早くおいで~】
これは、謀られた──ッ!?
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