第56話 応援してくれる人がいるから頑張れる! みんなのあったかさが力になる!

【ぴょんぴょんこり~ん。毎度お馴染みの~、月々ぴょんこだよ~】


『始まったで』


 どこか緊張しているエイガの言う通り、待機画面になっていたぴょんこさんの配信がスタートする。

 同時にこっちのコメント欄の流れも速くなる。


【みんな待った~? 私はもう首を長くして今日を待ってたよ~。トップVTuberと新人VTuberのどっちが強いのか気になって~、夜しか寝れなかったよ~】


 軽いジョークを挟んだぴょんこさんの司会に、コメント欄も『寝れてるじゃん』『草』『VTuberが夜に寝ている……?』などと答えていく。


【ちなみに今日の配信は~、対戦は私の枠でやるけど~、待機中の様子はそれぞれのチームのリーダーの枠で配信してるよ~。興味があったら見に行ってみてね~。袈裟坊主の奴も~、今日は選手だからなんて言って~、フメフメの枠にいるんだよね~。みんな~、《企画屋》の仕事しろ~ってコメントしてきて~】


『ねえ、今見たら戸羽丹フメツの枠の同接数が3万超えてたんだけど』


『ぴょんこさんのとこも5万人ぐらい集まってるよ』


『エグいやろ、何やその同接数』


『……うっ』


「なんでわざわざ緊張するようなこと言うんですか……」


『だってー。気になるじゃんどれぐらいなんだろうって』


『そらそうやけど……、アカン。意識したら胃が痛なってきた……』


『……吐きそう』


『わたしも』


「みんな意識し過ぎですって。ほら、大丈夫ですよ。俺の配信には1万5千人ぐらいしかいませんから!! 俺らの注目度なんてそんなものです!」


『い、1万5千……。わたし、そんな同接数今まで見たことない』


『自分もや』


『僕も』


『円那だってそうだよー』


 ダ、ダメだ──ッ!!

 みんな企画の規模に呑まれてる!

 ど、どうする!?

 このままじゃ緊張でまともに対戦なんて出来ないぞ!?


【それじゃあ早速対戦~、っていきたいんだけど~、その前に~、ルールのおさらいをするね~】


 今のうちだ。今のうちに何とかするしかない──ッ。

 でも、どうする!?

 どうすればみんなの緊張が解ける!?

 ──ッ! 

 そうだ! これを伝えれば、きっと大丈夫になるはずッ!!


「『大丈夫?』『緊張してる?』『いけるぞ』」


『え?』


『なにー?』


『どしたん?』


『にーちゃん……?』


「『めっちゃ練習してたから勝てる』『下剋上を見せてくれ』『応援してます!』」


『アズマさん? いきなりどうしたんですか?』


『バグった?』


『緊張しとるんか?』


『……あ』


 レオンハルトは気づいたか……?


「『本番も楽しんでください!』『きっと勝てます』『カッコいいとこ見せてください!』」


『それ、もしかして……』


『そういうことー……?』


『そんなん、泣いてまうやろ……』


『……ありがと』


 みんな、気づいたかな……。


「『エイガ泣いてて草』『ラナ姐さん、やっちゃってください!!』『レオンハルトきゅんをよしよししてあげたい』『正直、カレ虐には期待してる』」


『最後のはおかしくない!? わたしだけ期待されてる方向がおかしいッ!!』


『僕も、なんか……』


『これがリスナーからの需要ってことやな』


『円那は同担拒否なので、レオンハルトきゅんをよしよししたいって言った人とは、今度白黒つけないといけないねー』


『ラナねえさん!?』


『姐さん、それはマズやろ!?』


『リスナーとケンカ……?』


「本番直前にとんでもないこと言わないでくれませんか!? せっかくリスナーさんたちが応援してくれてるのに!!」


『あ、やっぱりそういうことなんですね』


『いきなり何を言い出したんかと思ったやないか』


『ビックリしたよねー』


『緊張してるのかと思った』


「緊張はしてますよ? 俺だってこんなに注目されるのは初めてですから」


『EX.大会に出てたやないか』


「戸羽ニキとナーちゃんと一緒でしたからね。あの時はまだ、2人のおまけ気分でいられたんですよ」


 というか、数万人の同接者数がいても普通にしてられるあの2人が側にいたからこそ、俺もそこまで緊張することはなかった。

 でも、今は違う。

 今、俺の配信を見ている人たち、そしてぴょんこさんの枠で配信を見ている人たちは、俺たちを見に来ている人もいるはずなのだ。

 そりゃ、緊張だってする。

 だけど、それ以上に、


「応援してくれる人たちなんですよ。今、ここに俺たちを見に来てくれてるリスナーさんたちは」


『確かに。そうですね』


『せやな。数字を見てビビってたってしゃあないわ』


『だねー。コメントでこんなに応援してくれてるんだし』


『うん。たくさんの人が『がんばれ』って言ってくれてる』


「そうですよ! 今見に来てくれてる人たちは、俺たちの配信を楽しみにしてて、そして俺たちを応援してくれる人たちです! リスナーさんたちは敵じゃないんですよ。一緒に配信を盛り上げてくれる味方なんです。すごくないですか? 味方になってくれる方がこんなにたくさんいるんですよ?」


『なんか、大丈夫な気がしてきた』


『むしろやる気出てきたわ』


『ふふーん。テンション上がってきたかもー』


『……うん。やれる』


「緊張なんてしてる場合じゃないですね。応援してくれるリスナーさんたちに応えるためにも、下剋上してやりましょう!」


『おーッ!!』


『やったるでー!』


『やっちゃうよー!』


『お、おー……!』


「レオンハルトだけ照れがありましたね。もう一回やっときますか?」


『えッ!?』


『賛成!』


『ったく、しゃあないな。レオンハルト、次はちゃんとキメようや』


『えー。円那的には今のレオンハルトきゅんも可愛くてありなんだけどー』


「こういう時ぐらい性癖よりノリを優先してくださいよ……」


『くっ、それは円那のオタクとしての矜持が許さぬ……っ』


『あの、もう一回やりたい、んだけど』


『よーし、やろうッ!! ほらほら、東野ちゃん。号令かけて号令』


 っとに、この人は……。

 まあ、こういうのも俺たちらしくていいか。


「じゃあ、行きますよ。下剋上するぞーッ!!」


『おーッ!!』


『おーッ!!』


『おーッ!!』


『おーッ!!』


 みんなの掛け声に合わせて、コメント欄もものすごい速さで流れていく。


『おーッ!!』

『おーッ!!』

『おーッ!!』

『おーッ!!』


 リスナーさんありがとう!!

 絶対に勝とう!!


【それじゃあ~、対戦を始める前に~、各チームのリーダーに意気込みを聞いてみよ~。フメフメ~、ズマちゃん~、こっち来て~】


「じゃあ、呼ばれたので行ってきますね」


『おう。バッチリかましたれ!』


『しっかりねー』


『頑張ってください!』


『よろしく』


「任せてください!!」


 よかったよ、皆の調子がいつも通りになってくれて。

 リスナーのあったかさって、本当に力になるな。


『逃げてもよかったのに、わざわざやられるために来るなんてアズマも物好きだね』


「その言葉、そっくりそのまま返しますよ。戸羽ニキ、今日はきっちり下剋上させてもらいますからね」


『いきなりバチバチだね~。どっちも負ける気はなさそうだね~』


「当然です。今日、俺たちは勝ちに来たんですから!」


『いつまでそんなことを言ってられるか見ものだけどね。言っておくけど、僕ら強いからね?』


「そんなの俺たちだってそうですよ。今日のためにめちゃくちゃ練習してきたんですから」


『合宿配信とかしてたもんね~』


『せっかくだけど、そんな努力も全部無駄だったって教えてあげるよ』


「戸羽ニキこそ、その自信を砕かれて泣かないでくださいよ?」


『お互い一歩も譲る気がないね~。それじゃあ~、対戦を始めて行くよ~。まずはフメフメのチームから~、一戦目は誰が出るの~?』


『うちのトップバッターはこの人。安芸ナキア先生です!』


 !?

 マジか。ナーちゃんがトップバッターだなんて……。


『お~、いきなり来たね~。それじゃあ~、ズマちゃんチームのトップバッターは~?』


 こういう順番になったのなら、もうしょうがない。

 腹をくくって挑むしかない。

 きっと大丈夫。この対戦のためにたくさん練習してきたんだから!


「うちのトップバッターはこの子です! アマリリス・カレン!!」


 頼んだぞ、カレンちゃん──ッ!!

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