第55話 お祭り前夜の空気感っていいよね

「と言うことで、今日はいつもより早いですが、これで終わりにしようと思います。1週間の合宿配信に付き合ってくれた皆様、あざまるうぃーす!」


『悔しー。最後あとちょっとでレオンハルトきゅんに勝てそうだったのにー』


『姐さん、シレっと上手くなってるんよね』


『ポチはあんまり変わらなかったよね』


『んなわけあるかい!! バリッバリに強くなったで!?』


『でも、円那に負け越してるじゃん』


『それは練習だからや。明日の本番の見とき? もう二度とポチって呼べへんほどに活躍したるさかい』


「あー、はいはい。この後裏で明日の打ち合わせするんですから、ボチボチ終わりますよ」


『ちぇー』


『ラナねえさんって意外と負けず嫌い』


『リベンジなら、いつでもいいよ。……今度、コラボ配信とか』


『!? レオンハルトきゅんが、コラボに誘ってくれた──ッ!?』


『自分は!? 自分もええか!?』


『あ、わたしもやりたい!!』


『わ、わかったから……っ。今日はもう終わるって、にーちゃんが言ってる』


『そうだったー。ごめんね東野ちゃん。終わっていいよー』


「ええ、じゃあ、そんな感じで。本当に今日まで見てくれてありがとうございました! 明日の本番、絶対に勝つので期待しててください!! それじゃあ今日も、あざまるうぃーす!!」


『ありがとうございました! また明日ねー!』


『ほななー。自分の活躍に期待してやー!』


『またねー』


『……じゃあね。また明日』


 コメント欄にも数々の応援の言葉が流れていく。


『頑張れ』

『応援してる』

『勝ってね!』


 そうしたコメントの数々に名残惜しさを感じながらも、配信を終了する。

 それはもうしっかりと、枠を閉じたことを確認する。

 人間、一回やらかすと慎重になるよな。


「みんないますかー?」


『円那いまーす』


『自分もおるで』


『わたしもいます』


『うん。いる』


「配信枠はちゃんと閉じてるか確認してくださいね」


『閉じんとどっかの誰かみたいになるしな。切り抜きとかめっちゃ上がってたで』


「やめてくださいって。マジで炎上するかと思ったんですから」


『みんなおもしろがってたよねー。安芸ナキアのツイートにも色んなVTuberがリプ飛ばしてたし』


『これで逆に他のてぇてぇがやりにくくなったんとちゃうか?』


「そんな大物VTuberでもあるまいし」


『わかんないよー? 明日だって下剋上するんだし』


『姐さんの言う通りや! いよいよ明日が本番。やったるでー!』


『あー、ドキドキしてきた! わたし、大丈夫かなぁ!?』


『大丈夫だよー。カレリンも練習頑張ってたし』


『せやで。バチッとええとこ見して、ガチっとリスナーの心を掴んだろうや!』


『……うんっ!』


 いよいよってことで、みんなも盛り上がっている。

 そして俺も。

 ていうか、どうしよう!?

 俺発案の企画で全然盛り上がらなかったら──ッ!?

 切腹!? 腹切って詫びればいいか!?


『ほらー、東野ちゃん。早く初めてー』


「あ、はい。わかりました。えっと、じゃあ明日に関してですが、大体はこれまで話してきたのと同じ感じでいいですか?」


『ええよー』


『わたしも大丈夫です』


『うん』


『あ、円那からひとつだけいいー?』


「なんでしょう?」


『東野ちゃんは全員平等に3ストックを持ってって考えてくれてるみたいだけど、やっぱり東野ちゃんとレオンハルトきゅんが多くストックを持つべきだと思う。勝ちたいなら、だけど』


「なるほど。それじゃあ、一回ルールを振り返りつつ、その辺を決めましょうか」


 俺はそう言うと、《企画屋》から送られてきたルール概要をみんなとのチャットに貼り付ける。


《ルール概要》

①1チーム15ストックを所持した状態でスタート。

②先に相手チームのストックを全て削ったチームの勝ち。

③ストックの割り振りはチーム内で自由にしてよい。

ただし1人あたりのストック上限は5までとする。

④新人VTuberチームは選手の入れ替え自由。トップVTuberチームは勝ち抜き制。

⑤ステージは固定。アイテム使用不可。使用キャラは制限なし。


 とまあ、概ねはこんな感じだ。


「ラナさんが言ってたのは③に関してですよね」


『その通りー。やっぱり本気で勝つなら、ちゃんと考えた方がいいと思うんだよね』


『あのー、それで言うなら、やっぱりわたしは少ないストックがいいなー、なんて。正直まだまだ弱いし、わたしがたくさんストック持ってても、あんまり勝てる気しないし』


『そうだねー。カレリンは2ストックか1ストックでいいんじゃないかな?』


「それなんですけど、俺は1人最低でも2ストックは持ってもらいたいと思ってます。せっかく企画に参加したのに、ろくに戦わないで終わっちゃうのは参加した意味がなくなっちゃうと思うので。せっかくなら、色んな人に自分たちのことを見てもらいたいじゃないですか」


『ほなら、カレンちゃんは2ストックでええんとちゃうか?』


『賛成ー』


『やった。これでプレッシャーが減りますね。みんながわたしの代わりに勝ってくれるってことですから!』


「やっぱりカレンちゃんも3ストックにします?」


『せやな』


『賛成ー』


『うん』


『待って待って、みんなよく考えて!? わたしが3ストック持っててももったいないよ!? だって、勝てないんだし!!』


『確かにー』


『せやな』


『そうだね』


「じゃあ、やっぱりカレンちゃんは2ストックってことで」


『うん! それでよし!!』


 カレンちゃん、潔過ぎるぞ……。

 もうちょっと、『わたしだって頑張ります!』って言ってもよかったんだぞ?


『ほなら、自分も2ストックでええわ』


「エイガ!?」


 どうした、一体!?


『今、自分らの中での順位を考えると、どう考えてもア、アズマとレオンハルト、そして姐さんが強い。その3人に任した方が勝てるやろ?』


『へえ、カッコイイじゃん、ポチ。見直した』


『それなら、もうポチって呼ぶのやめてくれへん!?』


『それは無理。本番で活躍したら考える』


『言うたな!? ほなら、自分は2ストックで暴れたるさかい、1ストック分はみんなに託したで!!』


「それじゃあ、ラナさんがエイガのストック分持ちます?」


『冗談はやめて。なんで最強の2人を差し置いて、円那が多くストック持たなきゃいけないのー? 任せるよ、2人に』


「てことだけど、レオンハルトは何かありますか?」


『ううん。大丈夫。がんばる』


『なんだったら、円那も2ストックでもいいけど?』


「俺かレオンハルトが5ストックってことですか?」


『そうだねー』


 ……ふむ。ちょっと悩むな。

 俺とレオンハルトの強さを認めてくれてるのは嬉しいけど、ラナさんだって練習中に俺たちに勝つ場面は何度かあった。

 VTuber界でも相当の実力を持ってる人だと思っている。


「レオンハルト、どう思います?」


『……円那さんは、3ストックでいいと思う。強いし、勝って欲しい』


『よっしゃー!! 明日はやったるどーッ!! 見ててねレオンハルトきゅん。円那やっちゃうから!!』


『わかりやすくテンション上がったな』


『ポチ。何か言った?』


『いや、なんも?』


 まあ、オタクの原動力は性癖ってことだ。

 特にラナさんやナーちゃんみたいなタイプにとっては。


「OK。それじゃあ、カレンちゃんとエイガが2ストック、ラナさんが3ストック、レオンハルトと俺が4ストックでいいですか?」


『OKー』


『問題ないで』


『大丈夫です』


『うん』


「よし。それじゃあ、後はそれぞれの対戦相手だけど、これは変更なしでいいですか?」


 そう問いかけると、4人から了承の返事が返ってくる。


「それじゃあ、こんなところですかね」


『明日は緊張し過ぎてチビらんような』


『今のは減点。下品すぎ。あーあ、せっかく見直したのになー』


『嘘やろ!? みんなの緊張をほぐそうとしただけやん!?』


『言葉選びって大事だよねー』


『あはは』


『ふっ』


『レオンハルトにまで笑われたぁ!? なんでや!!』


 もう特に話すことはない。

 みんなそれはわかっている。

 それでも何となく喋りつづけてしまうのは、今日までの時間を名残惜しく思ってだろうか。

 ひとつの企画から始まり、偶然集まったメンバーたち。

 最初はうまくやっていけるか心配だったけど、気が付けばこんなににも居心地のいい関係になっていた。

 ……って、俺は思ってるから、みんなもそう思ってくれてたら嬉しいね。


「今日、夜更かしして明日遅刻とかやめてくださいよ?」


『それ、姐さんに言っといて。どうせこの後飲むんやろうし』


『うっさいなー。だったらポチが起こしてくれれば問題ないでしょ』


『起きたら鬼電したる』


『モーニングコールがポチかー。最悪』


『自分で言ったやないか!?』


『レオンハルトきゅんがいいなー』


『うっ。……僕は、そういうの苦手、だから』


『断られてるやん。しかも『うっ』とか言って引かれてるし』


『ポチ。お黙り』


『お座りですらなくなった!?』


『あはは。2人は相変わらずだなぁ。でも、うん。明日は頑張りたい』


「そうだね。カレンちゃんにはぜひ修行の成果を見せて欲しい」


『任せてください!!』


「じゃあ、まあ、今日はこんなところで」


『ほな、また明日』


『遅刻は厳禁だよー』


『この後すぐに寝るから大丈夫です!』


『うん。また明日』


 そんなレオンハルトの一言で、ひとり、またひとりと通話から落ちていく。

 完全に通話が切れた後、ひとりきりの部屋に、ふとしたさみしさを覚える。

 いよいよ明日か、と思いつつ、何とはなしに今日までのことを思い返していると、


「レオンハルト……?」


 まさかの相手から通話が来ていた。


「もしもし?」


『……もしもし』


「どうした?」


『あ、その、大したことじゃないんだけど……』


「なんだよ。明日が楽しみで寝れなくなったのか?」


『それは違う』


「そうか、違ったか」


『あ、いや、その、楽しみは楽しみなんだけど、でも寝れないのは違うって言うか……』


「大丈夫。わかってるから」


『うん。あ、あのさ、にーちゃん』


「ん?」


『ありがとう。あと、前にひどいことしてごめんなさい』


「え」


『そ、それだけ。じゃあね』


「あ、レオンハルト!」


 通話を切ろうとしたレオンハルトを思わず呼び止めてしまった。


『なに……?』


「明日、勝とうな」


『うん。勝つっ』


「じゃ、おやすみ」


『おやすみ、なさい』


 通話を切り、大きく伸びをする。

 なんだか今日はぐっすり眠れそうな気分だ。

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