第54話 君らは君らで何で付き合ってないの……?

「本当にすみません。あれは事故なんです、信じてくださいッ!!!!!」


『……自分らまだ何も言ってへんよ?』


『やらかしたって自覚はあるんだねー』


「もう本っ当にすみません。心の底から反省してます。だからこれ、これ見てください!! モニターに付箋を貼りました! 『配信切り忘れ厳禁』って!!」


『画像、用意したんだ。わざわざ……』


『さすがのレオンハルトもそういう反応になるんやな』


『だって、こういう時なんて言えばいいのかわからないし……』


『GGじゃない?』


『せやな、GG』


『……GG』


 うわ、やめてくれ!!

 コメント欄までこぞって『GG』って打ち始めたじゃないか!!


『いやな、自分らは別に何も思ってへんって言うか、むしろ本番前に注目度が上がっておいしいっていうか……。ほ、ほら! 安芸ナキア先生のツイートに対する反応もすごかったやんか!!』


『8千リツイートだっけ?』


『さっき見たら1万リツイート越えてたよ』


『はえー、まだ伸びてるんだ。すごいねー』


『切り抜きもたくさんあった』


『それな! 有名な切り抜き師もこぞって切り抜いてたで!! 中にはその後のVTuberたちのリプとかも合わせて載せてる人もおったな!!』


『ポチってそういうところミーハーだよね』


『でもな、正直ムカついてん。クロファイも上手い、トップVTuberとの繋がりも持っとる。それに加えてこれだけ話題になるてぇてぇまであるなんて、めっちゃ羨ましいんやけど!?』


『モテない男の嫉妬は見苦しいよ、ポチ』


『そない言ったってなぁ。事実やし。レオンハルトもそう思わん?』


『ぼ、僕は別に。そんなことは……』


『またまたー。正直に言ってええんやで?』


『……僕もあれぐらいにーちゃんと仲良くなりたい』


『カハッ──!?』


『姐さん!?』


『ショ、ショタの純粋さに尊死』


「みんな、本当に怒ってないんですか……?」


『全然』


『全く』


『別に』


 よ、よかった~~~~~~。

 今日の配信が始まるまで気が気じゃなかったから、ひとまず安心した……。


『炎上したとかって話じゃないしな。自分はそこまで気にしてないで』


『そうそう。これで逆に注目度上がってればいいなー、ぐらいかな。円那は』


『2人と一緒。だから気にしてない、僕は』


 頑なに“自分は”気にしてないと言い張る3人。

 その言外に込められた意味は恐らく……。


『………………………………………………………………………………』


 先ほどから無言を貫くあと1人を意識してのことだろう。


『…………』


『…………』


『…………』


 黙りこくった3人が暗に言っている気がする。

 早く声をかけろ、と。


「……っ、カレンちゃん?」


『…………ッ』


『…………ッ』


『…………ッ』


 やめてくれない? その無言の反応。

 無駄に緊張感が高まるんだけど!?


『はい、なんでしょうか』


 うっわ、冷え切ってやがる。

 なんだろうなー、なんなんだろうなー、こういう時って。

 めちゃくちゃ気まずく感じるのは、なんでなんだろうなーって、思ってたってしょうがないか。

 こういう時は、ちゃんと話すに限ります。


「カレンちゃん、今日は俺と練習しませんか?」


『……はい』


「ということで、みんな。いいですか?」


『『『どーぞどーぞ』』』


 ですよねぇ。

 ここで異を唱えられる人なんていませんよねぇ。

 ということで、俺とカレンちゃんはディスコードの部屋を移動したわけですが、 なんかコメント欄までザワついてない?

 ねえ、君らまでそんな情緒不安定だと、こっちも不安になるんだけど!?

 おい誰だ『審判の時、来たれり』とか打ったのは!?


「………………………………………………………………………………」


『………………………………………………………………………………』


「………………………………………………………………………………」


『………………………………………………………………………………』


 き、気まずい……。


『……ふふ。くっ、はははっ』


「カレンちゃん……?」


『あはは、おっかし~』


 あれぇ?

 なんか思ってた反応と全然違う。

 そんなに笑う?


『あははははは~。あ~、おもしろい~。ひーっ!!』


「笑い過ぎです。そんなおもしろいことあります?」


『だってみんなして、まるでわたしが怒ってるみたいに言うんですもん~。反応見てると、浮気現場ってこういう感じなのかなーとか思えてきて、あははははっ!!』


「え、あれ、怒ってない、んですか……?」


『逆に、なんでわたしが怒るんですか? あ、もしかして~。アズマさんってば、わたしに嫉妬して欲しかったんですか~?』


「んなっ!? そんなことあるわけないじゃないですかッ!!」


『本当ですか~? 怪しいな~』


「ないない。そんなことないですから。ほら、早く練習始めますよ」


『そうやって急かしてる姿を見ると逆に怪しく思えますよね。リスナーさん、どう思います?』


 リスナー、余計なこと言うなよ!?


『あ、やっぱり~? ほらほらアズマさん、みんな言ってますよ。『図星』『本当は嫉妬して欲しかった』『必死なのウケる』って~。いや~、そうなのか~』


 なるほど。そういうメスガキムーブをかましてくるわけか。

 なるほどねぇ。


「え、じゃあ逆に聞きますけど、俺がカレンちゃんに嫉妬して欲しかったって言ったら、カレンちゃんはどうするんですか?」


『え』


「ナーちゃんとのあのやりとりを見て、カレンちゃんに嫉妬して欲しいって、俺がそう言ったら、カレンちゃんはどうするって言うんですか?」


 って、合ってるのか、この切り返しで!? 大丈夫か!?

 いや、でもなー、カレンちゃんにあそこまで言われっぱなしなのは、なんていうムカつく。

 ムカつくから、ちょっとやり返さないと気が済まない。

 だからまあ、OKってことで!!


『え、や、ちょっとアズマさん~、何言ってるんですか~?』


「何って、だから聞いてるじゃないですか。俺がカレンちゃんに嫉妬して欲しいって言ったら、カレンちゃんはどうするんですか? って」


『………………それは』


「それは?」


 絶対に逃がさない。

 これこそ社畜時代に何度も食らった優梨愛さん直伝の詰め方だ!!


『──っすぅーーーーーーーーー。──ッ! ぶっちゃけ!! かなり嫉妬しました!!!!』


「え」


『しましたよ! 嫉妬!! はい、これで満足ですか!?』


「あ、はい。大丈夫です。ありがとうございます?」


 え、あれ、いや?

 なんかイメージしてた反応と違う……。

 ここでカレンちゃんが『困りますよ~』とか言って、なんとなくこっちも許しちゃって、それでなあなあに練習を始める感じだと思ったんですが……。

 ……あれ?


『…………』


「…………」


『…………』


「…………」


『…………』


「…………」


 今日何度目になるかわからない無言の応酬。

 どうしよう。この空気。


『……どうするんですか、この空気』


「今、全く同じこと思ってました。どうしましょう?」


『原因はアズマさんなんだから、アズマさんが何とかしてください』


「……とりあえず、練習始めますか」


『うっわ~~~~~~』


「なんですか、その反応」


『ダッサ~い』


「よし。今日の練習は俺のコンボ練習ということで、カレンちゃんはサンドバッグ役をお願いします」


『ますますダサ~い』


 このっ、クソガキが──ッ!!


『ま、いいですよ。しょうがないから、わたしがアズマさんの練習に付き合ってあげます。キャラクターのリクエストとかありますか?』


「なんかカレンちゃんが教える側に立ってないですか!? ナチュラルに立場が逆転してる!?」


『え、なんですか? 何かおかしいですか?』


「ええ、おかしいですよ」


『なんでしょう? そんなにですか?』


「はい。こんなはずはないんですッ!!」


『わたしはそんなにおかしいことはないって思うんですが』


「気づかないんですか!? この違和感にッ!!」


『いや~? ちょっとわたしには思い当たらないですね』


「そんなバカな!? こんなことになっているのにッ!!」


『ちなみにアズマさんは何がそんなにおかしいって言ってるんですか?』


「──世界」


『せ、世界!?』


「そう、世界。こんな世界じゃなかったはずですッ!!」


『わかんないですって! え、どういうこと!?』


「そうか。これはきっと間違った世界なんですッ!! 昨夜の配信切り忘れた辺りからおかしくなってしまったに違いないッ!!」


『ア、アズマさん……?』


「あの時に戻って本当の世界を取り戻すしかありませんッ!!」


『まさかのループもの始まってます!?』


「次にカレンちゃんが会う俺は、今の俺とは違う俺かもしれません。でも、忘れないでください。俺がカレンちゃんをサンドバッグにしたいという気持ちは偽りなんかじゃないと──ッ!!!!!」


『感動的と思わせて最低なこと言ってますね!?』


「きっと取り戻して見せます!! カレンちゃんをサンドバッグにしなくてもいい世界を──ッ!!」


『それはぜひ取り戻してくださいッ!! ていうかもう、言ってること意味わかんないですよ!?』


「ですよね。俺も途中からわけわかんなくなってました」


『ここで素のテンション!?』


「茶番はこれぐらいにして、ボチボチ練習始めますか」


『もう、なんなんですか。テンションの落差について行けないですよ……』


「練習始めますよ──ッ!!! 準備はいいですか!? カレンちゃんッ!!!!!」


『いきなりテンション上げないでくれません!?』


「カレンちゃんがテンション上げろって言ったんじゃないですかッ!!」


『言ってませんけどッ!?』


 結局この後は終始こんなやりとりをしつつ、真面目に練習をしたんだけど、配信が終ったあと、ラナさんから『東野ちゃんとカレリンって本当に付き合ってないの?』とチャットが来た。

 もちろん丁重にスルーさせていただきましたけどね──ッ!!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る