第52話 このチームならきっとやれる!!……きっと、多分、大丈夫なはず

「あざまるうぃーす!! 東野アズマです!! 本番まで残り1週間! 今日からは最後の追い込みってことで、全員参加の合宿配信を始めていきます!! 1日目ってことなので、せっかくだからみんなの意気込みを聞いていきたいと思います!!」


『ほなら、自分からやな。何しろ自分は、ア、アズマの親友やからな』


「それ、いちいち言うんですか? ちょっと、ていうか結構キモくないですか?」


『なんで!? そんな悲しいこと言わんといて!? それにほら、こういうのって一部の女子に需要あるって言うやんか! なあ!?』


『確かにそういうのが好きな女子はいるけど、ポチのはなんか違う』


『なんかってなんや!?』


『うーん、なんだろう。カレリンわかる?』


『なんでわたしに聞くの!?』


『や、特に理由はないけど。逆に聞くけど、なんで慌ててるの?』


『べ、別に慌ててませんけど……?』


『ショタをきっかけに、そっちにも目覚めた?』


『そんなことないよ!?』


『そっかぁ、まあいいか、カレリンの趣味は別に』


『聞いといてその反応!?』


「えー、せっかくだからそれっぽく始めようって思ったけど、このメンバーでそんなことは無理そうなので、サクッと自己紹介お願いします」


『え』


「……レオンハルト?」


『あ、や、その、……なんでもない』


 こいつは、本当に……。


「レオンハルト。いいんですよ、思ったことを言っても。せっかく仲良くなったんだから、遠慮とか失くしていきましょう!」


『あ、うん。その、……部活とかやったことないから、合宿っていうのも初めてで、意気込みとかやってみたいなって、思って……』


 うわぁ、最後のもじもじした感じとか、なんでこうも的確にショタを可愛く思えるポイントをついてくるかな?

 もしこれが天然なら、ショタ系VTuberってこいつの天職なのでは……?


『よし、やろう。レオンハルトきゅんがそう言うなら、やろう』


『他にもやってみたいことがあるなら言ってね?』


『……なあ、自分の時との対応の差に泣きそうなんやけど』


『遠吠えならミュートにしてからしてね』


『やるわけないやろ、そんなことッ!! なんやねん、遠吠えってッ!!』


『負け犬だから』


『はあ!? 誰が負け犬やねん!! 自分の姿よう見てみぃッ!! こーんなカッコいい狼なんやでッ!!』


「狼も遠吠えしますし、負け犬とは相似関係にありますよね」


『狼が絶対遠吠えすると思ってのか!? 浅い!! それは浅いで!! 狼界の最新トレンドは、クールな一匹狼やッ!!』


「つまり、エイガとは正反対のキャラってことですね。残念、トレンドに乗り遅れたんですね」


『じゃあ、そんな流行遅れの狼は放っておいて』


『ほっとかんで!? もっと大事にして!?』


『ポチ、うるさい。お座り。……で、えっとー、円那ひとみでーす。意気込み、意気込みかー。なんかムズイね、そういうのって。うーんと……、とにかく勝つ。それだけです』


「シンプルですね。でも、大事です。勝ちましょう! みんなで!!」


 ちなみにエイガはミュートになった。それが彼なりのお座りらしい。

 ていうか、いいのか、それで……?

 ガチでラナさんのペットみたいになってきてるぞ……?


『あ、じゃあ次わたし行きます! アマリリス・カレンです。えっと、正直ゲームは苦手なんですけど、でも今日までいっぱい練習してきたし、今日からもいっぱい練習するので、本番も頑張りたいです! あと、安芸ナキア先生と対戦したい!!』


『あれ、カレリンってナキア先生のファンなの?』


『ファンって言うか、憧れ? 目標?』


「上位互換です。ナーちゃんはカレンちゃんの」


『アズマさん!? その言い方は悪意ありません!?』


「冗談ですよ。カレンちゃんがナーちゃん相手にもちゃんと立ち回れるように、きっちり指導していきますから、覚悟しておいてくださいね?」


『う、アズマさんがそう言うときってボコボコにしてくるんですよねぇ。やだなぁ』


「……いやいや、頑張りましょうよ」


『そうだよ、カレリン。東野ちゃんに色々教えてもらって、2人の絆でナキア先生に勝ったらアツくない? ナキア先生に見せつけてやろうよ、東野アズマと本当にてぇてぇのは自分だって』


『──ッ!? ラナねえさん!?』


「ラナさん!? 何言ってんですか!?」


『えー、何ー? 円那的にナキアズよりカレアズの方が推せるってだけだよー?』


「いやいやいや……。さて、気を取り直して──、」


『東野ちゃんは逃げるそうでーす』


「──ッ!!」


 ノるな、俺。

 こういう時はグッと堪えるんだ。

 でないと本当にワンチャン炎上するから──ッ!!


「じゃ、じゃあ、レオンハルトかエイガ、行けますか?」


『自分やッ!! 先に行かせてもらうでッ!!』


「あ、はい。ミュートから帰ってきたんですね。どうぞ」


 なんか、これはこれでいいキャラなんじゃないかって思えてきたぞ?

 とりあえず雑に扱えて楽だ。

 まあ、本人には言わないけど、きっと泣くから。


『ふっふっふ。今この配信を見とるみんな! 自分がとっておきのてぇてぇを教えたるッ!! ナキアズ? カレアズ? 無い無い。今いっちゃんアツいのは、そうッ!! エイアズやッ!!』


「やめて」


『は?』


『ないわぁー』


『──チッ』


『最後に舌打ちしたん、誰!? レオンハルトッ!?』


『イラついたから』


『どッストレート!!!!! え、待って? レオンハルト、お前そんなキャラやった? なんかもっとこう、『にーちゃん?』って甘える感じやなかった?』


『──チッ』


『舌打ちやめてぇ!? アカン。レオンハルトにまでそんな対応されたら、ほんまに心折れる。ア、アズマ! やっぱり自分にはお前しかおらん!!』


「…………………………………………」


『無言もやめてぇ!? み、味方!! ここに味方はおらへんの!?』


『ポチ、いいから自己紹介と意気込み。後ろがつかえてるの』


『はいッ!! 任してください、姐さん。自分、姐さんの期待に全力で応えるさかい! 狼森エイガやッ!! 意気込みは、……みんなと仲良くなること。友達欲しくてVTuber始めたので、みんなともっと仲良くなりたいです』


「…………………………………………」


『…………………………………………』


『…………………………………………』


『…………………………………………』


『なんでぇ!? なんでみんなして無言なん!? こういう時って普通、『大丈夫、俺たちはもう友達ですよ』とか言うもんやないの!?』


「逆にそう言ったら負けかなって思いました」


『ツッコミ待ちのタイミングだと思ったので』


『配信者的には無視一択だよねー。盛り上がり重視』


『……なんとなく』


『コラぁッ!! レオンハルトぉッ!! こう言うところで一歩踏み出す勇気が、ぼっちからの脱却に繋がるんやないんかぁッ!?』


「踏み出して踏み込み過ぎるとエイガみたいになるってことですね」


『それは辛辣過ぎやない!?』


『あー、なるほどねぇ。レオンハルトきゅんは喋らないから友達出来なくて、ポチは喋り過ぎて友達失くすタイプかぁ』


『ちょ──!?』


『姐さん!?』


『ラナねえさん、それはひどいよ……』


「冷静な分析って一番人を傷つけますよね」


『あれぇ? 円那なんかやっちゃいました? ごめんねー?』


 この人こそいつかどこかでやらかしそうだな……。

 もうちょっとオブラートって概念を身に着けた方がいいと思う。


「えっと、じゃあ次はレオンハルト。よろしくお願いします」


『──ッ!? あ、うん。えっと、……………………………………、ごめんなさい』


『謝らなくていいんだよー? レオンハルトきゅんのペースでゆっくり話せばいいからねー? ……かわゆい』


『なんかキショいオタクおらんかった?』


「いましたね」


『……なにかなー? なんか言ったかなー?』


「言ったのはエイガです」


『嘘やろ!? 親友を売るんか!?』


『ポチ、うるさい。レオンハルトきゅんがしゃべるの。お座り』


『く、すまんな、ア、アズマ。自分はここまでや。あとは頼んだで! 親友ッ!!』


 で、ミュート、と。

 ていうか、いいのか?

 何度でも言うけど、本っ当にそういうキャラ付けでいいのか、エイガ!?


『すぅーーーーー、──ッ!! レオンハルト・レオンハート、です……っ。戸羽丹フメツ、さんに勝ちたいです。あと、……に、にーちゃんと一番仲いいのは、ぼ、僕だからッ!!!!』


「レオンハルト!?」


『……え』


『──ッァ!?』


 1人消滅したオタクがいない!?


『参戦!? レオンハルトきゅんも参戦なの!? きちゃぁあああああああああーーーーーーーっっっっ!!!!!!!!』


 いや、そのまま消滅しててくれてよかったな。

 シンプルにうるさい。音量下げよう。

 いっそのことミュートでもいいか?


『あ、う、その。違くて、えっと……。に、にーちゃんと、もっと仲良くなりたいなって、思って』


『うんうん。なろう! ドンドンなろう! もっともっと仲良くなろう!! 大丈夫だよ、世界中が敵になっても円那はレオンハルトきゅんの味方だからッ!!』


「最高にカッコイイセリフを最低な欲望を叶えるために言うのやめません?」


『うるさいなぁ。円那はオタクなんだよ? オタクが性癖に従うのは当たり前でしょ。あ、ごめんカレリン。円那、もう応援出来ないかも』


『──ッ!? 余計な事言わなくていいから!! ア、アズマさん!! 早く自己紹介と意気込みをッ!! 練習時間が無くなっちゃいますよ!!』


「確かにそうですね!!」


 ……これは、ツッコまない方がいいやつだよね。

 ていうか、ラナさんこえー。あの人に弱み見せるのだけはやめよう。


「改めてまして、東野アズマです!! そうですね、今回の企画テーマは下剋上ってことで、戸羽ニキたちトップVTuberにバッチリ下剋上を決めていきたいと思います!! 応援よろしくお願いします!!」


 とまあ、挨拶するだけでめちゃくちゃ時間がかかったけど、本番までのラスト1週間、この5人で頑張っていこうと思う。

 ……頑張れる、よな? 大丈夫だよな?

 ちょっとクセの強い人が集まっちゃっただけだよな?

 きっと、なんとかなるよな──ッ!?

 頼むぞ!! みんなぁッ!!

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