第51話 わーい、友達増えたぁ……。
『あんな。自分トラウマがあんねん。ほら、よくあるやろ。体育の授業で2人組を作りなさいってやつ。よく先生と組むのがツラいって話出てくるやろ。それもツラい。わかる。でもな本当にツラいんは、仲良いグループの誰かが休みで、全く仲良くない奴と無理矢理組まされることやと思うねん。一緒に体操とかしてるんは自分でも、仲いい人らと会話してるから、より疎外感が強くなるねん。わかるか、そういうときの気持ち?』
「あはは……。いやまあ、そうですよね。ツラいですよね」
『そうやねん。孤独ってなんで孤独やと思う? それは疎外感を感じるからやねん。学校でも職場でも、自分はこの中の一員じゃないって瞬間に直面した時が一番ツラいんよ。つまり昨夜の自分や』
「だから言ってるじゃないですか。昨夜は狼森さんを誘わなかったんじゃなかったんですって。たまたま流れで4人で合流したら、なんか物凄い盛り上がっちゃったんですってば」
『流れで合流って言うてるけどな。せやったら、その時に一言ぐらい言うてくれてもええやんか。これから4人でやりますよーって。そういう一言が人の孤独を和らげるんやで?』
め、めんどくせぇ……。
昨夜のチャットからしてめんどくさかったけど、今日配信を開始してからずーっとこのテンション。
もうかれこれ20分ぐらいになるんですが!?
まあ、理由は昨夜のことだけじゃないんだけどさ。
『でもな、自分かてそこまで子供やない。そらタイミングが合わない時があるのもわかる。昨夜、みんなで盛り上がってるのを見て、自分も入りたかったって思た。でもな、同時にこうも思ったんよ。これだけみんなが仲良くなってるなら、後はその輪に飛び込んでいくだけやって。きっとみんななら温かく迎えてくれるって。なのに、なのに──ッ!! なんで今日のコラボに誰一人来てないねん──ッ!!!!!!』
「来てます! 来てますって!! 俺がいるじゃないですか!!!!」
『他のメンツや他のッ!! カレンちゃんは!? 姐さんは!? レオンハルトは!? どこや!?』
「みんな用事があって今日は配信が出来ないそうです……」
『なんでやーッ!!!! 自分も仲間に入れてーな! さみしいやん!! 自分とも一緒に遊んでーな!! 悲しいやん!! ぼっちは嫌やねんッ!!!!』
「大丈夫。大丈夫ですよ。明日からは合宿配信ですから。ていうか、みんな明日から本番までの間でガッツリ練習できるように、今日配信を休んでるんですよ!!」
『嫌やーッ!! 今日一緒にいたいーッ!! この気持ちを明日まで持ち越すなんて自分には無理やーッ!!』
「狼森さん、狼森さん。俺がいます。東野アズマが一緒にいますから!!」
『ほんま? ほんまに一緒にいてくれる? 途中で放り出したりせぇへん?』
「しませんしません。今日はもうずっと狼森さんと一緒にいますって!!」
『うし。じゃあ、軽く10時間ぐらい耐久しよか』
「え」
『なんや嫌なん?』
「嫌ってわけじゃないんですが、さすがに寝たいなー、とか……」
『なんで? 自分より睡眠を取るん?』
「ええ、まあ。昨夜遅かったので……」
『なんで遅かったん? 配信はあの後すぐに終わってたやん』
「配信が終ったあと、明け方までみんなで話してたからですかねー……」
『みんなって言わんといて。そこに自分はいなかったんやから』
「あ、はい。すみません……」
地獄──ッ!!
これは紛れもない地獄──ッ!!
レオンハルトと初めてコラボした時とは、また別の意味で地獄──ッ!!
ていうか、なんで俺は同性からこんな粘着されてるの? あなたは俺の彼女なんですか?
『なんてな』
「はい?」
あれ、なんか雰囲気が変わった……?
粘着質だった声音が、前にラナさんとコラボしたときのカラッとした空気感になった……?
『全部冗談や』
「え?」
『いや、ちょっとは反省させたろって思ってんは確かよ。でも、ここまで重く考えてはないねん。8割は冗談や』
「それにしては、随分と迫真でしたが?」
『それはそうやろ。だって今みたいな会話は、一時ずーっと聞かされてたからな』
「どういうことですか?」
『ああ。自分な、姉貴がおんねんけど、いつだったかの彼氏と別れる前は、ずーっと今みたいなことを言ってたんや』
「いやいやいや」
『自分の実家な、壁が薄くて部屋で電話してる内容とか筒抜けやねん。さあ寝るぞーってときに、姉貴が隣の部屋で永久にあんな感じの電話しとるの想像してみ? だいぶエグいで』
「それはヤバいですね。今、実感しました」
『ほんまか!? いやー、あんときの自分の気持ちを理解してくれる人がおって安心したわ。痴話喧嘩は犬も食わんとは、よう言ったもんや』
「あはは……。大変だったんですね」
どっちにしろめんどくさッ!!
もうストレートに構って欲しいって言ってくれ!!
二次元美少女ならともかく、男のメンヘラがどこに需要ある!?
『あ、せや。ちょっと話し変わるんやけど』
「なんですか?」
『自分のことを『狼森さん』って呼ぶのやめへん? なんか他人行儀で嫌やわ』
「……それ、話し変わってます? 『みんなはあだ名で呼び合ってるのに、自分だけ違うのは嫌や!!』みたいなノリじゃないですか?」
『………………ちゃうよ?』
「なんですか、今の間は?」
『ちゃうねん』
「本当ですか?」
『ちゃう』
「本っ当に本っ当ですか!? 俺の目を見て言えます!?」
『………………ええやん、自分もあだ名で呼ばれたいねん。ていうか、なんでそないイジワルすんのや!!!! 性格悪いで!?』
「狼森さんはめんどくさいですよね」
『それが自分の個性やからな!!』
「変なとこで前向きになるのやめません!?」
落差についていけなくなるっての!!
『大体、東野が悪いねん!!』
「何が!? 俺が一体何をしたって言うんですか!?」
『ツッコんでくれへんかったやん!! いきなり初対面で『東野』なんて呼び捨てにしてるのに、なーんにも反応なしッ!! 普通ツッコむやろ!? そこから『じゃあ何て呼びましょうか』『自分のことはエイガでええよ』って、そういう流れやろ!?』
「妄想を押し付けないでくれません!?」
そんな流れ知らないっての!!
『ああもう、ツッコんでくれへんから自分でボケの解説なんて、冷めることまでさせられてもーた。東野ってドSやな』
「狼森さんが勝手に自爆してるだけですよね!?」
『あ、また『狼森さん』ゆーた。そこは流れで『エイガ』って呼ぶとこやろ。しゃーない、もっかいやり直すで』
「なんで俺が許される側なんですか!?」
おかしいだろ、それはッ!!
『じゃあ、いくで。いきなり初対面で『東野』なんて呼び捨てにしてるのに、なーんにも反応なしッ!! 普通ツッコむやろ!?』
「うわ、マジでやり直し始めましたよ、この人!?」
『…………………………………………』
「…………………………………………」
『…………………………………………』
「…………………………………………」
あ、圧が……っ。
無言の圧がすごい……っ。
これ絶対、俺がノるまで許さないやつだ……。
ああ、もう!! しょうがない!!
「『ジャア何テ呼ビマショウカ』」
『何で棒読みやねん!! もっと感情込めて!?』
「めんどくせぇな!! いいだろ、もう!?」
あ、つい素が出てしまった。
『あれ? あれあれあれ~? 東野、お前いつもの口調とちゃうねんな? もしかして素か? 素が出たんか?』
「……だったら、なんですか」
『しゃあないなぁ、東野は。チームメンバーで自分にだけやろ、素を見せたんわ。つまり、自分が東野の親友ってことや』
「ウッザ!? え、かつてここまでウザい人いました?」
『ああ、ああ。照れんでええ照れんでええ。大丈夫。自分はちゃーんと東野のことをわかっとるから』
「それは何もわかってない人のセリフですよッ!? いやもう、何? この人何なの!?」
『何ってそんなん決まってるやん。……嬉しいからや』
「……はい?」
『これまでの人生ろくに友達も出来んと、ゲームだけしてた自分みたいな奴の相手をしてくれる人がおる。これ、めっちゃ嬉しいことやねんで?』
「……ツッコミにくいこと言いますね。ていうか、レオンハルト!? 『わかる』ってコメントしました!?」
『何!? レオンハルトが見てるんか!? 大丈夫やで、自分はお前の味方や。というか同類や!! 一緒に頑張ろうな!!』
「『うん』、って。なんで俺の配信枠でコメントしてるんですか!? 狼森さんの枠でやってくださいよ!! いちいち俺を間に挟まないでくれませんか!?」
『しゃーないやんな? だって東野、いやア、アズマが自分らをつないでくれたんやから』
「嚙むぐらいなら無理して名前呼びをしなくてもいいですよ?」
『いーや、するね!! いつか絶対に噛まずに呼ぶから覚悟しときーや、ア、アズマッ!!!!』
「声、裏返ってますよ」
『誰かを名前で呼ぶなんて初めてやから、緊張してもうたんや。可愛いやろ?』
「いえ、別に」
『なんで!? 可愛いって言うて!? 自分にはもうア、アズマしかおらんねん!!』
「やめてくれません!? 今、何人のリスナーが見てると思ってるんですか!? また変な誤解が広まるじゃないですか!!」
『あ、皆さんどうもよろしゅうに。ア、アズマと自分のツーショイラストとか、待ってますんで。……へへ』
「うーん、キツイ!!」
結局、この日の配信は終始こんな感じのテンションだった。
あんまりにも『自分のことを名前で呼べッ!!』とうるさいので、最後に『エイガ』と呼んだら──、
『これで自分らは一生ものの友達やな。……へへ、なんや嬉しいわ』
と、友達出来たばかりの幼稚園児みたいな返事をされた……。
これ、明日からの合宿配信大丈夫か!?
メンバーが個性的過ぎて、俺のメンタルが本番までもつか心配なんだけど!?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます