第50話 そして性癖の扉は開かれた──ッ!!
「レオンハルト!! 大丈夫ですか!?」
『わ!?』
『え、何ー?』
『ちょっとアズマさん、いきなりすぎますって!!』
だってレオンハルトの貞操がピンチかもしれないじゃん!!
あ、ちょうど一試合終わったところか。
『東野ちゃんにカレリンじゃん。どうしたの?』
『ラナねえさん。いや、なんかアズマさんが飛び出して行っちゃったんですよ。『レオンハルトがピンチだ!!』みたいなこと言って』
『何それー? むしろピンチなのは円那なんですけどー。今日一回も勝ててない』
「その前にちょっと聞かせてもらっていいですか。カレンちゃんとラナさん、いつからそんなに仲良くなったんですか? 普通にあだ名で呼んでるじゃないですか」
ラナねえさんにカレリンって……、まだ会って数日だよね?
『共に虚無ASMRを経験した者同士ですから、絆は深いんです』
『あの地獄を知ってると知らないとじゃ、仲良くなり方が違うよねー』
「仲がいいことは素晴らしいです。ですが今は、そんな場合ではありません!!」
『いや、聞いてきたの東野ちゃんじゃん』
「いいんですよ、細かいことは!! それよりラナさん。レオンハルトにセクハラしてないですか!?」
『え、していいの?』
「よくないです!!」
『なんだー。許可してくれるのかと思ったのに。違うのかー』
「そんな許可するわけないじゃないですか。って、あれ、セクハラしてないですか!? 俺はてっきりしてるもんだとばかり思ってましたけど」
『してないよ、まだ』
「まだってことはこれからする予定だったんですか!?」
『んー? レオンハルトにクロファイで勝てたらするつもりだった』
はい、アウト。それはアウトです。
『でも、全然勝たせてくれないんだよね。かれこれ5時間ぐらいやってるけど、1回も勝てない』
『5時間!?』
「本気で言ってます!?」
うわ、マジだ。配信開始が5時間前になってる。
『終わりたいけど全然やめてくれないから。何とかしてほしくてチャットした』
「紛らわしい書き方しないでくださいよぉ。本気で心配したじゃないですか~……」
『うっ、……ごめん』
『東野ちゃんがレオンハルトきゅんをいじめてるー。いいぞー、もっとやれー』
「何でそうなるんですか!? 普通止めません!?」
『え、だってシュンとしてるレオンハルトきゅんって可愛くない?』
『ラナねえさん、それは最低な発言だよ』
『えー!? なんでぇー!?』
何でも何もあるか!!
これだから自分の性癖に正直すぎる人間は。
ほら見ろ、レオンハルトがついて行けずに黙っちゃったじゃないか!!
『ねぇねぇ、レオンハルトきゅん。ちょっと東野ちゃんに“にーちゃん”って言ってみない?』
『ラナねえさんッ!!』
「あなた本当に何しようとしてるんですか!?」
『いやぁ、ちょっと聞いてみたくなって。聞いてみたくない?』
「どうして俺たちがそこで頷くと思ったんですか!?」
『2人もショタが性癖なのかなーって思って』
「これまで一度だってそんな素振り見せました!?」
『え、でもカレリンはそうだよね。この前オススメしたショタものの作品を、よかったって言ってたし』
……はい?
「えっと、カレンちゃん……?」
『──ッ!? なななな、なんですか!?』
「まさかとは思いますが、……図星?」
『ままままさかですよッ!! 何言ってるんですか!! そんな性癖なんて、そんなッ!?』
あー、これは。
語るに落ちるってやつだな。
「カレンちゃん、正直に話してください。ラナさんから勧められたショタ作品はどうだったんですか?」
『…………………………………………』
「カレンちゃん?」
『ちょっと、……フヒッってなりました』
すぅ、ふーーーーーーーーーーーーー。
さて、と。……どうしよう?
『大丈夫だよ、カレリン。それが普通なんだよ。男の子が可愛い女の子が好きなように、女の子は可愛い男の子が好きなんだよ。これはもうどうしようもない世界の摂理なんだよ』
『ちょっと待ってください違うんです!! 全ての元凶はラナねえさんなんです!! わたし本当にショタとか興味なくて、でもラナねえさんがあんまりにもおしてくるからちょっと見てみただけなんです!! 本当そんなじゃないんです!! 信じてくださいって!!』
「でも、フヒッてなったんですよね?」
『いや、それはそのぉ……』
「どう思います、レオンハルト?」
『カレンさんが僕に優しくする理由がわかった』
『違うの!! 違うんだよ、レオンハルト君!! お願い信じて!? 本当に違うんだってば!! そ、そうだッ!! レオンハルト君、アズマさんに“にーちゃん”って言ってみて!?』
『え、ヤダ』
「カレンちゃんまで何を口走ってるんですか……」
『だってこうなったらアズマさんもこっち側に来てもらうしかないじゃないですか!?』
「意味わかんないですよ!?」
『そう、それでいいんだよカレリン。一度沼に落ちた者に出来るのは、違う誰かを沼に引きずり込むことだけなんだから』
『お願い。一回! 一回だけでいいから、アズマさんに“にーちゃん”って言ってみて。それでわたしが救われるから!!』
『絶対にヤダ』
よし、いいぞレオンハルト。
妙な誘いに乗ってはいけないって小学校でちゃんと学んできたようだな!!
後はこのまま配信を終われば──、
『ふ、まだまだ甘いねカレリン。人を沼にハメて幾星霜。円那が釣り針の垂らし方を伝授してあげる。──ねえ、レオンハルトきゅん。東野ちゃんを“にーちゃん”って呼んでくれたら、みんなともっと仲良くなれるよ?』
『──ッ!?』
「いや、その言い方はズルいですよ!?」
友達がいないレオンハルトに一番効果的な言葉じゃないかッ!!
『アズマさんは少し黙っててください』
「カレンちゃん!? 君は俺の味方じゃないんですか!?」
『これからも仲良くするために、いえ、もっと仲良くなるためにレオンハルト君の力が必要なんです!!』
「こういう仲の良くなり方は違うと思うんですが!?」
『あのね、レオンハルトきゅん。よく考えてみて。今、仲間外れなのは誰? 円那? カレリン? 違うよね? 今、仲間外れになってるのは東野ちゃんなの』
「いいですから!! そこに関しては仲間外れでいいですから!! レオンハルト!! ダメですよ。絶対にノらないでください!!」
『仲間外れはさみしいよね? 悲しいよね? でも、レオンハルトきゅんが一言“にーちゃん”って言ってくれれば、東野ちゃんも仲間外れじゃなくなるんだよ。今、東野ちゃんをひとりぼっちから救えるのは、レオンハルトきゅんだけなの!!』
「終わりましょう!! 今すぐに配信を終わりましょう!!」
いやもうどんなテンションだよ!!
意味わかんないから!!
こんな配信見せられたって、リスナーだって困るだろ!?
終わろう、早く!!
『レオンハルトきゅん。君ってVTuberだよね? 配信者としてももっと色んな人に見てもらいたいと思うわない? そのためにはいつもの自分と違うことをして、殻を破るのが大事だって思わない? 今ここで東野ちゃんを“にーちゃん”と呼べば、レオンハルトきゅんは今までの自分から変わることが出来るんだよ?』
『──ッ!? 変われる? 僕が?』
「ダメですレオンハルト!! そんな言葉を聞いてはいけません!! 今回の大会が終わった後も、俺と一緒に一歩ずつVTuberとしての道を歩んでいきましょう!!」
『たった一言。たった一言でいいの。ほんの少しの挑戦がレオンハルトきゅんをもっと魅力的な配信者にしてくれるんだよ。だから、ね? 言ってみよ?』
みんなと仲良くなれる。
魅力的な配信者になれる。
自分が変われる。
そんな甘い言葉の数々が、レオンハルトに勇気を与えてしまった。最悪なことに!! そして──、
『……に、にーちゃん?』
俺の中で何かが爆発した瞬間だった──ッ!!
──ッ!?!?!?
な、なんだこれ!?!?!?!?!?
なんだこの感情は──ッ!?!?!?!?!?
『カハ──ッ!!!!!!』
『ッア!!!!!!!!!!』
ショタで尊死するオタク×2人。
いや嘘。もっといる。コメント欄がすさまじいことになってる。
こ、これがショタ系VTuberの本領──ッ!?!?!?!?!?
『も、もう一回言ってみようか? 今度はそう、もっと東野ちゃんに甘えるように』
『……にーちゃん?』
『ッン!!!!!!!!!!!』
『ハァッ!?!?!?!?!?!?』
「くっ、か──ッッッ!!!!」
ヤバい。これはヤバい!!!!
なんか開いてはいけない扉を開いている気がするッ!!!!!!
『はぁ、はぁ……。いい、いいよ!!! 最高だよ、レオンハルトきゅん!!!!!』
『もう一声ッ!! もう一声いってみようッ!!!!』
ああ、ラナさんのわけわかんないテンションに巻き込まれて、カレンちゃんもおかしくなってしまった──ッ!!!!!
『アズマにーちゃん』
「ヴぁ──ッ!?!?!?!?!?!?」
『アズマにーちゃん。僕、にーちゃんとクロファイしたい』
「アァアアアアアアアアアアアアアッッッッ!!!!!!!!!!!!」
俺史上ともいえる高音ボイスが響き渡る。
な、って、えぇッ!?
ど、どうしよう!? どうすればいい!?
『……わが生涯に一片の悔いなし』
『ラナねえさんッッッ!!!!!!!!!!!!!』
この日VTuber界隈の片隅で、俺たちはかつてない盛り上がりを見せた。
いや、うん。無理だって。
これは目覚めるなって方が無理だからッ!!!!!
今ここに新たな性癖の扉は開かれた──ッ!!!!!!!
あ、ちなみに配信が終わった後に見たら、狼森さんからチャットが来てた。
『随分盛り上がってたみたいやけど、自分呼ばれてないで? 仲間外れにされると、さみしいんやけど……』
……ごめんね!? 今度埋め合わせするからッ!!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます