社畜営業がVTuberに転生したら ～社畜時代に培ったトークスキル。それとゲームセンスで成り上がる！？～

第49話 練習しつつ皆をたすける

『ちょっ、あ、ダメ！！　わたしでお手玉しないでっ！！　ダメだってば、あーッ！？』

　なんてカレンちゃんの悲鳴に合わせて、コメント欄には一斉に『カレ虐たすかる』の文字が流れる。

　わかる。わかるよ。助かるよな、カレ虐は。

　コラボ中になんかダレてきたなーって感じたときにカレ虐すると、一気に配信が盛り上がるから、俺も助かってるんだ。

　やっぱりメリハリって大事だよね！！

『アズマさ～ん、なんでそんなに上手いんですかぁ。全然勝てないですよぉ』

「カレンちゃんだって上手くなってますよ。初めの頃に比べれば、随分戦えるようになってますし」

『それはそうなんですけどぉ。ていうか、ズルいですよ！！　アズマさんやレオンハルト君ってステージの外で戦うじゃないですか！　そんなの対応できないです！！』

「だからステージ外に連れ出してるんですよ。自分のペースで戦いを展開出来て、一方的な有利状況を保てるなら、やるに決まってるじゃないですか」

『ガチ過ぎますって！！　まだ練習なんですよ？』

「練習をしっかりやらないと本番で勝てないですよ。カレンちゃんだって、俺やレオンハルトに対応できるようになれば、かなり強くなれますよ？」

『その前に心折れますって！　だってほとんど何も出来ないままにやられるんですよ！？』

「今のはカレンちゃんが『一回ガチでやりましょう！』って言ってきたからじゃないですか。さっきみたいに、必殺技無し縛りに戻しましょうか？」

『うーん、それだと意味ない気がしちゃったんですよねー。本番で相手が必殺技無し縛りできてくるならいいんですけど、普通に戦うじゃないですか。だったら、ちゃんとした立ち回りを覚えないと、本番で変な負け方する気がして……』

「つまり、ガチでボコっていいってことですね！？」

『違う！！　誰もそんなことは言ってません！！　仮にもコーチなら、ちゃんと教えてください！！　なんですぐボコボコにしようとするんですか！？』

「や、楽しくて……。つい」

『最低だーッ！！　ここに最低な人がいるよーッ！！　って、なんでぇッ！？』

「え、なんです？　どうしたんですか？」

『リスナーがみんなして『わかる』とか『楽しくなっちゃうなら仕方ない』とか『いつも良質なカレ虐をありがとう』とか言い出したんだけど！？　どういうこと！？』

「それだけカレンちゃんが人気ってことですよ。よかったですね」

『こんなので人気って言われても嬉しくないぃッ！！！！　リスナーさんたちのいじわる！！　バカ！！　もう知らない！！』

　ほらぁ、またそういう反応するから。

　そんな言い方されたらもっとからかいたくなっちゃうって、カレンちゃんはわかっててやってるのかな？

『アズマさん、もう一回ガチでお願いします！！』

「いいんですか？　コンボの練習でも何でも付き合いますけど」

『それは1人でも出来るので、今は対戦がしたいです！！　アズマさん相手に立ち回れるようになれば、本番でもいけると思うんです！！』

「わかりました。じゃあ、今日は対戦多めでいきましょうか」

『あ、でも～、もうちょっと手加減してもらいたいな～、なんて～』

「どっちですか……」

『だってあんまり強すぎても練習にならないんですよ！！　一方的にボコボコにされても意味ないんです！！』

「まあ、確かに。じゃあ、そこそこのガチさでいきますね」

『お願いします！！』

　そうして再びカレンちゃんとの対戦を始める。

　カレンちゃんが使っているのは、《オイラ》と呼ばれるキャラクターだ。

　オイラカートのタイトルにも名前がついている他、テニスやゴルフ、パーティーゲームなども作られている、世界的にも有名なキャラクターだ。

　メーカーの顔でもあるキャラクターなためか、クロファイでは比較的初心者でも扱いやすいキャラクターとなっている。

　牽制技となる遠距離攻撃に、コンボが繋ぎやすい通常攻撃に加え、ステージから場外に飛ばされた時の復帰性能も、そこまで悪くはない。

　初心者に毛が生えたカレンちゃんには、とにかく徹底的にオイラを練習するように伝えている。

　今回の大会だけじゃない。

　もし、今後カレンちゃんがクロファイを配信でやるようなことがあれば、絶対に必要となる基礎を身に着けられると思ったからだ。

　まあ、見た目がひげ面のおじさんだから、カレンちゃんからは『もっと可愛いキャラクターがいい～』なんてごねられたけど……。

『あー！！　復帰阻止はダメ！！　戻らせてーッ！！』

「戻りたければ、自分で復帰ルートを考えてください」

『鬼！！　バカ！！　いじわるーッ！！』

「ゲームに慈悲はありません」

『冷血ゲームバカーッ！！！！』

「大会に向けての練習ですからね。それは誉め言葉として受け取っておきましょう」

『うー、せめて1ストックぐらい削りたいのにー』

「欲張るからです。一発逆転はこのゲームの醍醐味ではありますが、隙の多い技ばかり振っていては相手に読まれます。まずは相手を崩すことを意識してください」

『それが難しいんです～。簡単に言わないでください～。で、どうやるの？』

「文句を言うのか素直に聞くのか、どっちかにしてくれませんか？」

『教え子にワガママ言わないでください。師匠のくせに』

「教え子からも学べるのが一人前と言うものですからね」

『何それー！？　わたしがワガママだって言いたいんですか！？　こんなに素直なのに！？　あと可愛い！！』

「ふてぶてしさと図々しさも学べそうですね」

『何この師匠。口が減らないんですけど』

「そっくり同じ言葉を返します」

　どう考えても人からものを教わる態度じゃないだろ。

『あ、そうだ師匠。わたし目標を考えてきました！！』

「ろくなものじゃなかったら怒りますよ？」

『じゃあ、真面目なものなので褒めてください。わたし、安芸ナキア先生に勝ちたいです！！』

「あ」

　そっか、今の今まで忘れてた。

　レオンハルトだけじゃない。

　カレンちゃんも今回の企画で憧れの人とコラボ出来るんだ。

『アズマさんには前に言ったことありますけど、わたし、安芸ナキア先生に憧れてるんですよ。だから、今回の企画で絶対にナキア先生と対戦して、わたしのことを覚えてもらいたいんです！！　そのために強くなりたいんです！！』

「それはいい目標です」

『でしょ～？　もっと褒めて褒めて』

「嫌です」

『なんで！？』

「目標を立てただけで褒めるなんてもったいない。どうせなら目標を達成した時に褒めさせてください」

『お～。なんか今の師匠っぽい』

「俺のことを『師匠』って呼んでたくせに、全然師匠だと思ってなかったみたいな発言ですね」

『だってアズマさんだよ？　師匠って感じじゃなくない？』

「はい。次はガチガチのガチでいきます。二度と生意気な口がきけないようにボコボコにするのでそのつもりで」

『ねぇ～、ごめんなさい～。いじめないで～』

　いやいや、先にケンカを売ってきたのはカレンちゃんだし。

　俺はただそれを買っただけだから。

『うわ、ホントに本気だ！？　大人げなさすぎる……』

「なんでちょっと引いてるんですか……」

『だってわたし何も出来なかったよ！？　瞬殺だよ！？　ボコボコにされて、一発ぐらいしか攻撃当てられなかったんだよ！？』

「じゃあ、せめて攻撃が当てられるようになるぐらい強くなってください」

『うっわ、ムカつく～。いつか絶対にわからせてやりますから！！』

「その時を楽しみにしています」

　と、息抜きも兼ねて水を飲もうとペットボトルに手を伸ばした時、それに気が付いた。

「え、レオンハルト……？」

『どうしたんですか？』

「わかんないですけど、レオンハルトから『たすけて』ってチャットが来てます。5分前に」

『レオンハルト君って、今日はナラねえさんとコラボしてなかったでしたっけ？』

「OK、わかりました。全てを把握しました」

『え！？　どういうことですか！？』

「カレンちゃん、レオンハルトたちのコラボと合流しましょう」

『あ、はあ。いい、ですけど……？』

「大丈夫です。合流すれば全てがわかりますから」

　待ってろ、レオンハルト！！

　今すぐ助けに行くからな！！

　ショタコンお姉さんの魔の手から必ず救い出してやる！！