第48話 このチームの人選は間違ってなかった! ……って思いたいなぁ
「え、レオンハルト?」
びっくりしたぁ!!
このタイミングでレオンハルトから通話がかかってくるとは。
でもまあ、ある意味いいタイミングか。
俺は今の通話相手に断りを入れ、レオンハルトからの通話に出る。
「もしもし?」
『……あ、もしもし。スゥーっ、今ってその……』
「時間あるよ。ちょうどクロファイの練習も一区切りついたし」
企画が決まってからこっち、一日50戦を最低ノルマにしている。
時間にして3~4時間は配信外でもクロファイをやっているせいか、ついには夢でもクロファイをプレイするようになってしまった。
今日のノルマはまだだけど、ちょうど中断していたところだ。
『あ、その、えっと……、ごめんなさい』
いきなり謝罪ってことは、まあ、その件についてだよな。
「どうしたの? なんか困ったことあった?」
『う……、その』
「話しにくいならチャットでもいいけど」
『いい。このままで。……その、カレンさんを、怒らせた』
「なるほど」
いつかやらかすと思ってたけど、意外と早かったよなぁ。
顔合わせ配信してから三日目だぞ。むしろ三日目まで誰ともトラブルが起きなかったことを褒めるべきか。
「とりあえず、何があったか教えてもらってもいい?」
『クロファイの練習をしてて……。あ、その、カレンさんが教えて欲しいって言うから、それで……』
「教えてたら怒らせたってこと?」
『うん。……はい』
「なるほどねー。ちなみにその練習って配信でやってた?」
『裏』
「OK。じゃあ、まあ、大丈夫だよ」
配信中にやらかしたんじゃないなら、とりあえずは大丈夫だろう。
リスナーが見てる前でバチバチにケンカして炎上なんてことになったら、目も当てられない。企画そのものが無くなる可能性だってあった。
そう考えれば、裏での練習中に衝突しただけだならまだマシだ。
さて、と。それじゃあちょっとお節介を焼きますか。
「ちなみにレオンハルトはカレンちゃんに何か言っちゃったの? それとも一方的にクロファイでボコボコにしたとか?」
『コーチして欲しいって言われてたから、教えてた』
「じゃあ、ちょっと言い過ぎちゃったって感じ?」
『……うん』
「なんて言っちゃったの?」
『ヘタクソって』
うわ。またドストレートな……。
『そんなんじゃ勝てないって、……言っちゃった』
あー、なるほどなぁ。
なんか、めちゃくちゃイメージつくな、そのシーン。
多分レオンハルトのことだから、伝えたいことの言い方がわからずに、そんな感じになっちゃったんじゃないかなぁ。
「レオンハルトはさ、カレンちゃんに何て伝えたかったの?」
『…………………………………………………………』
「…………」
『…………………………………………………………』
沈黙、と。
これは俺の聞き方が悪かったかなぁ。
「ごめん、聞き方が悪かった。レオンハルトは、どうしてカレンちゃんに『ヘタクソ』とか『そんなんじゃ勝てない』って言ったの?」
『カレンさんが、ヘタだと叩かれるみたいなこと言ってて』
「うん」
『この間の配信でも頑張るって言ってて』
「うん」
『みんなをビックリさせたいから教えてって言ってて』
「うん」
『なんか、嬉しかったから。……うまくなって欲しかった』
「うん」
『……それだけ』
「じゃあ、レオンハルトはカレンちゃんにうまくなって欲しくて、アドバイスしようとしたんだ」
『……うん』
「でも、うまく伝えられなかった?」
『……うん』
「そっか」
まあ、しょうがないよな。
相手のことを考えた言葉だって、相手に思ってることが伝わらない言い方になっちゃうと、全然違う言葉になってしまう。
わかるなー。
社会人になりたての頃、自分の伝えたいことばかり話してたせいで、クライアントからバチバチに怒られたこともあったし。
ムズイんだよ、コミュニケーションって。死ぬほどムズイ。
『ねえ』
「うん?」
『こういう時って、どうするの?』
「え」
『僕、友達いたことないから、……わかんない』
マジで?
え、マジで?
レオンハルト。お前、ここ最近素直になり過ぎじゃない!?
驚き過ぎて言葉を失くしたんだけど!?
『ねえってば』
「あ、うん。ごめん。えっと、まずは謝ることかな」
『うん』
「それで、ちゃんと話すのが大事。どうしてレオンハルトがそんなことを言ったのか、ちゃんと自分の口から伝えるんだ」
『……う』
「自信ない?」
『……なんて言えばいいか、わかんない。やったことないし』
「じゃあ、一個お節介してもいい?」
『何?』
「言う前に先に謝っておく。ごめん。お前に何も言わずに勝手にやってしまった」
『……何を?』
「この通話にカレンちゃんを追加してた。今までの話、全部聞かれてる」
『──!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?』
あ、気づいてなかったんだ。
通知は行くから、気づいたうえで話をしてるかとも思ったけど、その反応を見るにそうじゃないみたい。
『え、ちょ、えぇ!?』
「レオンハルトがそんなに驚いてるの、初めて聞くな」
『え、だって。え………………………………………………………………?』
あ、フリーズしたっぽい。
そりゃそうか。
「まあ、というわけなので、カレンちゃんいる?」
『この空気で呼び出すって、アズマさんは鬼なんですか?』
「じゃあ、後はお若い2人に任せて俺は」
『いなくならないでくださいよ!?』
「え、ダメ?」
『ダメに決まってるじゃないですか!! 無理ですよ、この空気で二人きりなんて!!』
「むしろこういう空気だからこそ、いなくならないとダメじゃない? 俺、邪魔でしょ」
『責任!! チームリーダーとしての責任です!! 絶対にいてください!!』
「君らの赤裸々トークを聞いてろって?」
『この際わたしの羞恥心はいいですから!! この空気で放り投げられる方がキツイです!! ですよね、レオンハルト君!?』
『え、あ、うん。……いて欲しい』
なんだかなぁー。
ラナさんがショタ好きって言ってた意味が理解できてしまうかもしれない。
レオンハルトが可愛く思えてきた……。
人はこうやって性癖を増やしていくんだな。
「わかった、いるよ。でも、ミュートにはするからね」
さすがにこれ以上、2人の会話に口を挟みたくない。
『……………………………………………………』
『……………………………………………………』
『……………………………………………………』
『……………………………………………………』
『……………………………………………………』
『……………………………………………………』
いや、沈黙長っ!!!!
せめてどっちか喋ろうよ!!
「あー、ごめん。このままお若い2人に任せてると寝落ちそうなんで、差し込むけど。レオンハルトから通話来る前にカレンちゃんからも相談貰ってたのね」
『アズマさん!? 何を言うつもりですか!?』
「だって、君ら話さないじゃん。さっきレオンハルトにお節介したから、今度はカレンちゃんね。1人1個ずつ」
『そんな平等精神いりませんが!?』
「遠慮しなくていいって」
『全くもって遠慮とかじゃないですから!!』
「でまあ、話し戻すけど」
『ちょっと待ってわたしの話を聞いてください!!』
ああもう、うるさいな。
いいや、ミュートにしちゃえ。
「カレンちゃんもレオンハルトと全く同じ相談をしてきたんだよね。『レオンハルトが教えてくれたのに、わたしが上手く出来ないせいで怒らせちゃった』って」
『え』
「カレンちゃん言ってたよ。『わたしが教えてって言ったのに、上手く出来なくて不貞腐れて通話切っちゃった』って。『せっかく時間をくれたレオンハルトに悪いことした』って」
『……そんなこと、ないのに』
「だよねぇ。だから、レオンハルトから話を聞いてる時、実はちょっと面白くなっちゃったんだよね。おんなじこと悩んでるなぁって」
『うわ、うるさ』
「カレンちゃん?」
『そう。聞こえてないの?』
「喋らないしうるさいからミュートにしてる」
『ひどい』
「ちなみに今、何て言ってる?」
『全部ちゃんと話すからやめてください!! って。あ、チャット』
ん?
あ、本当だ。チャットに送られてきてる。
ふーん。『自分で話すからもうやめてください』ね。
さっきは耳が痛くなるような沈黙を貫いてたくせに。
『──さん!! アズマさん!! 聞こえてます!? ていうかチャット見てください!! もうやめてください!! わたしちゃんと話しますから!!』
「じゃあ、今度こそ若いお2人に任せて俺は退散しますか。はい、カレンちゃん後よろしく」
『って、ええ!? ここで投げられるんですか!?』
「だって自分で話すんでしょ? ここで投げようがどこで投げようが関係ないじゃん。それとも、やっぱり俺から話す?」
『自分で言います!! ああいうのを他の人から話されるのが一番恥ずかしいんですから!!』
「OK。じゃあ、後よろしく。レオンハルトも」
『あ、うん』
そうして俺が通話から抜けてから2人が何を話したのかはわからない。
それでもお互いに言いたいことは言えたようで、その後2人揃って『クロファイの練習を一緒にしたい』とチャットを送ってきてくれた。
その時の2人がなんだか姉弟みたいな雰囲気で、レオンハルトがカレンちゃんにツッコミを入れてて驚かされた。
そしてクロファイの練習が終わった後に、レオンハルトから1通のチャットが届いた。
『カレンさんとアンタと一緒に出来て楽しい。このチームでよかった』
その一言に嬉しさがこみ上げるのと合わせて、こうも思ったんだ。
レオンハルトがラナさんの性癖を知った時、このチームはどうなるんだろうって。
……いや、今は考えるのはよそう。せっかくいい感じにまとまったんだから。
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