第47話 あ、チームメンバーの人選ミスったかも……
『お、来たなー。待ってたでー』
『遅い。もう始めてるよ』
「え、始めてるって。あれ、クロファイは? 配信で練習してるって言ってませんでした?」
『遅い遅い。情報が遅いで、それは。そんなんもう大昔の話や。時代はすでに先を行ってるんやで』
『そういうことー。ということで、駆けつけ三杯ね』
「配信ですよ!? 飲み会じゃないんですけど!?」
『配信だろうがなんだろうが、円那が飲んでるんだから関係ないよねー』
「あー、つまりこれは巻き込まれたパターンですね」
せっかく狼森さんと円那さんが練習配信してるって言うから来たのに。
「ていうか、2人ともまさか配信開始から飲んでたんですか?」
ちなみに2人が配信を始めたのは3時間前だ。
そこから飲んでるとしたら、だいぶ出来上がっているに違いない。
『そんなわけないやろ! 最初はちゃーんと練習してたで。なあ、姐さん?』
『そうだそうだー。ちゃんと知りもしない内に決めつけるのはよくないんだぞー』
「今の状況を見せられたら誰だってそうなりますよね!?」
『細かいこと気にする男は嫌われるで』
『あ、じゃあ狼森ちゃんもだね』
『なんで!? 自分、姐さんに嫌われるようなことした!?』
『だってー、昨日の顔合わせ配信の時に、『自分が話してるのは似非関西弁ですー。本物の関西弁じゃないんですー』って言ってたし。だーれがそんな細かいこと気にするのさ』
『するやろ!! よう考えてみ? 自分が普段話してる言葉を、ちゃんと使えもせん奴がこれみよがしに話してたら、バカにされてる気にならん?』
『あ、それはなるかも』
『せやろ? だから、自分は『申し訳ないですけど、これが自分の話し方なんです』って意味を込めて『似非関西弁を使ってるー』って言ってるんよ』
『それは出来る男だ』
『そうなんよ! 自分こう見えてちゃんと考えてるんよ。わかって?』
『わかったわかった。でも、クロファイは円那より弱いよね』
『それは聞き捨てならんなぁ!? 何を根拠に言ってるんか聞かせてもらおうか!?』
『今日、円那の方が勝ってた』
『そんなわけ、あるわ。それはその通りや。でも待って! ちょっと待って欲しい!!』
『何?』
『相性ってあるやん。特に対人だと。あー、自分この人苦手やわーってのが絶対あるやん。自分、姐さんに関してはそれだと思うねん』
『うっわ。言い訳する男とか、ないわー』
『言い訳やない。ちゃんと正当に評価せなアカンという主張や。ということで、東野。自分と姐さん、どっちのが強かった?』
うっわ、話しかけられたよ。
このままシレっとフェードアウトしようと思ってたのに。
「まあ、そうですねー。お2人とも強かったですよ。だから呼んだんですし」
『いらんいらんいらん! そういうおもんない回答がいっちゃんいらん!! どっちかって聞いてんねん。どっちや?』
『円那って言ってくれたら、今度美味しいお酒送るよ』
「あ、じゃあ円那さんで」
『おいッ!! ええんか? それでええんか!? 違うやろ! ゲームを真剣にやってる人間に対して、一番やったらアカンことをしてるって自覚あるんか!?』
「狼森さんって意外と真面目ですよね」
『意外とってなんやねん。自分ほど真面目な人間は中々おらんぞ?』
「へー。でも、クロファイは俺より弱いと」
『ちょいちょいちょい!! 待てって!! 確かに昨日の顔合わせ配信ではちょーっと負け越したかもしれへん。でも、昨日の自分は本当の自分やないねん。言うたやろ? たくさんのリスナーさんがおって緊張したって』
「円那さん、肝っ玉の小さい男ってどう思います?」
『うーん。ないね』
『おいーッ!! 姐さんかてむちゃくそ緊張してたやないかッ!!』
『あれは愛嬌だから平気。ほら、ゴリゴリにゲーム強い女が『緊張しちゃってー』とか言ってたら、ギャップあるじゃん』
『ほんなら自分かて、明日からその路線で行くわ』
『まあ、お好きに。ところで東野ちゃん』
「なんですか?」
『呼び方ダルくない? 苗字にさん付けって』
「そうですか? 俺は全然違和感ないですけど。ていうか、お2人って随分仲良くなったんですね。狼森さんが円那さんのことを『姐さん』って呼んでますし」
『弱い男に円那の名前を呼ぶ資格はないからね』
「あ、なるほど」
『東野ちゃんは強いから呼んでもいいよ』
「ありがとうございます。え、でも何て呼べばいいですか?」
『トミー、かな』
……ナーちゃんばりのセンスが飛んできたな。
マジで言ってんのか!?
円那ひとみってかわいい名前が、一気に英語の教科書に出てきそうな名前になったぞ!?
『冗談』
「よかったー!! 今、一瞬そのセンスに言葉を失いましたよ!?」
『でも、東野ちゃんが呼びたいなら呼んでもいいよ』
「遠慮します。それなら普通に円那さんって呼びます」
『それはつまらないから、ラナって呼んで』
「円那から取った感じですか?」
『うん、そう。呼んで?』
「あー、じゃあラナさんで」
『んー。まあ、いっか。──狼森エイガはラナ様って呼ぶなら特別に呼ばせてあげる』
『なんで様付けやねん!! ていうか、自分のこと呼ぶときにフルネームにするのやめてくれへん!?』
『えー、じゃあなんて呼べばいいの?』
『なんでもええやろ。狼森でも、エイガでも』
『仲いいって思われるからヤダ』
『普通に名前呼ぶのを嫌がるほど仲悪いんか!? 昨日会ったばかりだし、何なら今日も3時間以上一緒に配信してますが!?』
『ねえねえ、東野ちゃん』
『放置!? ここで放置!?』
『うるさいぞ、エイガ。いいから焼きそばパンを買ってきて』
『結局呼び捨てかい!! ていうか、自分は姐さんのパシリちゃうぞ!?』
『……え、そうなの?』
『なんで迫真の驚きやねんッ!! もうー、勘弁してくれー。東野ー、ほんまにこの人でええんか、チームメンバー』
「わ、突然話しかけないでくださいよ。ビックリするじゃないですか」
『……自分、何か食うてるやろ?』
「今はスルメですね。あと、ジャーキーとチーたらがあります」
『めちゃくちゃ飲む気やないか!!』
「ちょうど面白い漫才が目の前で始まったので、もういいかなーって思いまして」
『え、そんなに面白い漫才やってるの? テレビ?』
『姐さん姐さん。皮肉やで。今のは自分と姐さんに向けた皮肉やで。この男、案外腹黒いで』
『え、嘘』
『嘘やない。この男、自分と姐さんのやりとりを肴に酒飲んでます』
『えー、円那とエイガでコンビなの? やだー』
『シンプルに傷つくこと言わんといてもらえます!? じゃあ、誰だったらよかったん!?』
『んー、レオンハルトきゅんかなー』
『え』
「え」
まさかの名前が上がり、俺と狼森さんの時が止まる。
『待って待って。姐さん、今なんて言った?』
『え、だからレオンハルトきゅん』
『レオンハルト“きゅん”!?!?!?』
『うん。レオンハルトきゅん』
『もう一度聞くで。“きゅん”!?!?!?』
『そう。レオンハルトきゅん』
「まさかラナさんの性癖って……」
『あ、円那はショタ好きだよ。半ズボンから伸びる足を見ながら飲む酒が世界で一番好き』
「ねえ、狼森さん」
『なんや』
「ラナさんをチームメンバーにしたのって正解だったと思います?」
『それ、答えなアカンか? 姐さんってアレやな、クロファイ以上に性格の癖が強い人やんな』
「これ、レオンハルトに何かあったら俺のせいですか?」
『安心し。ちゃんと供述したる。『この女はいつかやらかすと思ってました』って』
『あははー、2人とも何言ってるの? ショタは見守り慈しんでこそだよ。手を出すわけないじゃん』
『ほんまか? 信じていいんか?』
「頼むから変なことしないでくださいね? わかってると思いますが、レオンハルトってコミュニケーション苦手なんで」
『そういう子が少しずつ素直になっていって、懐いていくようになるのって、いいよねー』
『アカン。これアカンやつや』
「しばらくの間、練習配信でレオンハルトとラナさんがコラボするのは控えますか」
『なんで。何もしないってば』
信用ならないんだよ、こういう人は。
なぜなら俺をすぐ美少女に性転換させようとする人を知ってるからな!!
『あ、そや。姐さんにはカレンちゃんを任せたらええんちゃう? 昨日も意気投合してたみたいやし』
『うっわ、ないわー。待って。本気で言ってる? だとしたら、本当にないわー』
『なんでそこまで言われなアカンねん!?』
『これだから男ってやつは。どう考えたってカレンちゃんは東野ちゃんに教わりたがってるでしょうが』
『え、そうなん?』
『はー……』
『その本気のため息やめてくれへん? 普通に傷つくわ』
『無神経なこと言うからでしょ。ダメだ。これはダメだ。名前で呼ぶ資格がない。あんたはポチで十分』
『そんなアカンことしたかなぁ!?』
『東野ちゃん。チームメンバー、本当にこれで大丈夫?』
「……あはは」
俺、なんでつまみまで開けて酒を飲み始めちゃったんだろう。
さっさとフェードアウトすればよかった。
結局この夜の駄弁り配信は、ラナさんが寝ると言い出すまで続いたのだった。
ギリ太陽が昇る前に終われたのが、せめてもの救いだ……。
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