第46話 昇り始める俺たちの戦いはこれからだッ!!

『ども。自分、狼森エイガ(オイノモリ エイガ)言います。しゃべりがエセ関西弁って、よくいじられてますが、出身は関西じゃないんで、そこんとこよろしく。ちょっと事情があって数年関西で過ごしてたら、言葉が移っただけやねん』


『円那ひとみ(ツブラナ ヒトミ)でーす。ダウナー系VTuberって言われてるけど、円那的にはそんなつもりないから。あと、酒が好き。飲める人いたら晩酌配信とかしよ。よろしく』


『アマリリス・カレンです! ゲームは正直苦手なんですけど、練習がんばって、みなさんの足を引っ張らないようにしたいです!』


『……レオンハルト・レオンハート。あ、その、……よろしく、お願いします』


「東野アズマです!! ということでね、今日はクロファイ下剋上大会に向けての顔合わせ配信ってことで、この5人でトップVTuberたちに挑んでいきたいと思います!!」


『ちょいちょいちょい!! 東野、もうちょっと自分に自己紹介させてーな。お馴染みの人らはええけど、自分は初めましてやねんで? リスナーさんたちも誰やコイツーって思てるやろ』


『抜け駆けー。それなら円那にもさせてよ。ていうか、酒飲んでいい?』


『いきなり飲酒かいな! のっけからとばすやん』


『えー、だって緊張しないー? 東野ちゃん、今同接何人いる?』


「俺のとこは1万人ぐらいですね。顔合わせ配信って告知したおかげか、期待してたくさん集まってくれました!! リスナーさん、あざまるうぃーす!!!!」


『出たな、その挨拶。あんな、自分もあんねん。やってええか?』


「もちろんです! どうぞやってください」


『あ、だから抜け駆けー。ていうか、ごめん。やっぱり酒飲みたい。1万人見てるとか、考えただけで胃が痛い』


『そんなん自分かてそうや。でもな、それにも慣れな。本番ってもっとすごいんやろ?』


「ですね。たくさんリスナー来てくれますよ!」


『VTuber冥利に尽きるってことやな! ていうか、全然挨拶させてくれないやんッ!! どないなってん!?』


「していいって言ってるじゃないですか。あ、もしかして狼森さんも緊張してます?」


『してへんけど?』


「してますよね?』


『してへんよ?』


「してますって」


『だからしてへんって。何を根拠に言ってんねん!!』


「だって、声震えてますよ?」


『そ、そそそ、そんなことあるわけないやろ!! それは自分の事舐めすぎや!!』


『あー、ごめん。酒、あけたから』


「早ッ!? そんなペースで大丈夫ですか? 一応、今日2時間はやる予定ですよ!?」


『緊張で吐くのと、飲み過ぎて吐くのだったら、どっちの方が許される?』


「どっちも許されませんけど!?」


 とは言え、狼森さんと円那さんの気持ちはわかる。

 声をかける前に2人のチャンネルを見に行ったけど、恐らく同接人数は多くても20人ぐらいじゃないだろうか。

 それがいきなりこんなところに引っ張り出されたとあっては、緊張するなって方が無理に決まっている。


『でも、お二人の気持ちもわかります。わたしだって普段1万人の人に見てもらう機会なんてないですから、緊張しちゃって……』


『……僕も』


『そうやんな!? それが普通やんな!? 1万人いて普通にしてる東野がおかしいんよな!?』


『東野ちゃんもトップVTuber説あるよね』


『東野。お前、自分らを裏切ったんか!?』


「あ、気づいちゃいました!? ってそんなわけないじゃないですか!! 俺だってついこの前まではリスナーじゃなくて、虚無に向かって話してたVTuberですよ!?」


『あー、虚無トーク……。死にたくなるやつね』


『あれ以上に過酷な罰ゲームはあらへんよな』


『部屋にひとりでいる自分に気づくと、何やってんだってなりますよね!? わたし、虚無を相手にASMRやったことありますよ』


「それはエグ過ぎません!? カレンちゃんは一体何を癒してたんですか!?」


『わたしが聞きたかった!! だーれもいないのに『ここが気持ちいいんですかー?』とか言うんですよ!?』


『円那もそれ、やったことある。途中からマイクの掃除音ASMRになった』


『一緒です!!!! え、円那さんってASMRやるんですか!?』


『やるよー。前に酒飲みながらやったら、途中でゲップしちゃってこととかある』


『え、それは大丈夫だったんですか?』


『んー、なんか逆に変な性癖の人に刺さったみたいで、その後ちょっとチャンネル登録が増えた』


『どんな層のリスナーやねん。ていうか、自分らで盛り上がってるけど、こんな話しててええんか?』


「大丈夫だと思いますよ。逆にリスナーたちは盛り上がってます」


『本気で言うてんの!?』


「赤裸々地獄トークおもしろいってコメントありますね」


『こんなんでいいならいくらでも話せるよ』


『新人VTuberあるあるですよね』


『リスナーが0か1かって、自分らからしたら天と地ぐらいちゃうしな』


 ほんとそれ。

 今でこそ配信すれば一定数のリスナーが見に来てくれるけど、デビューした直後なんて悲惨でしかなかった。

 デビュー日から日に日に目減りしていく同接者数を見ては凹んだものだ。


「そんな俺たちが、チャンネル登録者数50万人を超えてるようなトップVTuberに下剋上するわけですよ!! これは勝つしかないと思ってます!!」


『でも、東野は戸羽丹フメツと仲ええやん』


『安芸ナキア先生とはてぇてぇとかしてますもんねー。ふん、だ』


 カレンちゃんの含みがありそうな反応はともかくとしてだ。


「当然、感謝はしてますよ。戸羽ニキがチャンスをくれたからこそ、今の俺があるわけですし。でも、このまま彼らの人気におんぶにだっこでいいなんて思ってません。ちゃんと俺だってやれるってところを、リスナーだけじゃなくて戸羽ニキやナーちゃんにも知ってもらいたいんです」


『東野って、見た目に似合わず結構熱血系なん?』


「どうでしょう。でも、今回の企画は絶対に勝ちたいって思ってます。なので、クロファイが強いって思ったみなさんを呼ばせていただいたんです」


『それ、わたしも入ってます?』


「1名を除いて、クロファイの強いみなさんを呼ばせていただいたんです!!」


『ねぇーーーーーーーーッッッ!!!!! 今、言いなおす必要ありました!?』


「だってカレンちゃんだし」


『そこはもっとこう、秘めた才能があるとかポテンシャルはピカイチとか、言い方ってありますよね!?』


「カレンちゃんの戦いはこれからだ!!」


『わたし打ち切られるんですか!? アズマさんって、わたし相手になら何言ってもいいと思ってません!?』


「嘘嘘、冗談ですって。大丈夫、約束通りカレンちゃんのことはしっかり鍛え上げますから」


『えー? 本当ですかぁ? また調子のいいこと言ってません?』


「さて。じゃあ、カレンちゃんのことはひとまず置いておいて。これから本番当日までのスケジュールについて話しますね」


『ねぇえッ!!!! どうしてそういうこと言うんですか!? わたしの扱いおかしいですよ!!』


「いやいや、おかしくないですよ。ちゃんとリスナーの需要には応えてますから。ほら、俺のコメント欄が『カレ虐たすかる』で埋まってますよ」


『なんでわたしのコメント欄もそれで埋まってるんですか!? リスナーさん!?』


『ちなみに言うとな、自分のとこもやで』


『なんで!?』


『あ、円那のとこもー』


『嘘でしょ!? まさか、レオンハルト君のとこも!?』


『……うん』


『ねぇーーーーーーーー!!!! どういうことーーーーーーーーー!?!?!?』


「多方面のリスナーの期待に応えられて、俺としては嬉しい限りですね」


『もしかしてこれ、本番までずっと続くの?』


「本番以降も続くんじゃないですか? カレンちゃんが配信を続ける限り」


『うわーん!! いじめだー!! 罰ゲームだー!!』


 こればっかりはしょうがない。

 だってカレンちゃんのリアクションがいいんだし。

 こんな反応されたら、誰だってつつきたくなるに決まってる。


「じゃあ、まあそんな感じで今後のスケジュールを話しますと、今日から本番一週間前までは個人練習の期間とします。それぞれスケジュールもあると思うので、各自で練習をしつつ、もしタイミングが合えばコラボ配信とかで一緒に練習をするって感じで行きます。そして本番直前一週間前。この期間で俺たち新人VTuber連合は、特別強化のため、合宿配信をします!! 毎日21時~23時の間で5人一緒にクロファイ配信を行い、リスナーさんたちを相手にした100人組み手や、俺たち同士で立ち回りを突き詰めたりしていこうと思います!」


『死ぬ気でスケジュール調整したで』


『円那もー』


『わたしは元々その時間は大丈夫なので』


『……僕も』


「ということで、トップVTuberたちに、俺たち新人VTuberが本気の下剋上を見せてやろうと思います!! リスナーの皆さんもぜひ応援よろしくお願いします!!」


 ちなみに今一番心配なのは、レオンハルト。

 今日の配信でもほとんどしゃべってなかったよな?

 大丈夫か、あいつ……。

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