第45話 少しずつ素直になっていくショタっていいよね
「銀河ランドウ(ギンガ ランドウ)さん、対戦あざまるうぃーす!! 次は蓬莱玉枝(ホウライ タマエ)さん、で読み方あってますかね? よろしくお願いします!!」
すでに配信を始めて3時間半。
一体何人のVTuberと対戦したかなんて覚えているわけもなく。
それでもチャンスを求めて続々と集まってくるVTuberたちは後を絶たない。
よかったー。配信は4時間限定って制限を設けておいて。
でないと一生対戦を続けなきゃいけなくなるところだった。
「お、ジャストガードからきっちりコンボを決めてきますね。これは油断するとやられてしまうかー?」
裏返せば油断しなきゃやられる可能性は皆無なんだけど。
挑戦してくるVTuberは、さすがにそこそこクロファイをプレイしている人たちが多く、全くの初心者はいない。それでも、戸羽ニキたちを相手取ることを想定すると、どうしても物足りなく感じる。
とりあえず、本番と同じ3ストック制で行い、俺に勝てるプレイヤーは優先的にチームメンバーの候補にしようと思っているが、現状該当者は5人しかいない。
まあ、逆に選ぶのが楽でいいんだけどさ。
「蓬莱さん、対戦あざまるうぃーす!! ラスト30分を切ってるし、ガンガン行きますよー。次は風切隼人(カザキリ ハヤト)さんですね。よろしくお願いします!!」
ていうか、しくったなー。
この企画、対戦に来たVTuberたちと一切会話が出来ないから、対戦をこなしていくだけになってしまっている。
こっちもガチでやってるから、リスナーのコメントを拾って気楽に雑談ってわけにもいかないから、ふとした瞬間に虚無になる。
もうちょっと時間短くてもよかったか……?
いや、それだと強い人を取りこぼす可能性が高くなるし、うーん……。
「って、そこから拾うの!? 本気で言ってます? この人上手いですよ!!」
ただ、上手いけど脅威は感じないのが残念だなー。
もうちょっと立ち回りや技の振り方でプレッシャーがあると、こっちも色々と仕掛けにくくなるんだけど、これぐらいなら対応できちゃうんだよな……。
あ、ダメだ。
疲れてきてる時のドライモードが発動してる。
社畜時代もそうだったな。
クライアントが仕事を始める前にメールの返信が出来てれば大丈夫とか、こんな時間に稟議書を提出しても結局明日になるとか、なんかそんな感じ。でないと、業務量に心が折れてた。
優梨愛さんも言ってたけど、わけわかんない量の仕事を振られてたからな。本当にあの当時はよく頑張ってたよ。
「あ、すみません。まだまだたくさんのVTuberさんが待機してくれてると思うんですが、俺もそろそろ限界なので、今いる温守ココア(ヌクモリ ココア)さんまでで締め切らせてもらいます。今回戦えなかったVTuberさんたちとは、いつかまたどこかで対戦出来るのを楽しみにしてます!!」
やっと、終わりが見えてきたー!!
4時間もよく頑張ったぞ、俺!!
もう一息だ、ファイトッ!!
「今回の企画をやって改めて思いましたけど、やっぱりVTuberってたくさんいますね。きっと俺が知らない面白い人とかもいるって思ったら、もっと色んな人と絡んでみたいなって思いました!! 対戦してくださったVTuberさんは、もしよろしければツイッターとかで絡めると嬉しいです。これからよろしくお願いします!! 長時間見てくれたリスナーさんたちも、あざまるうぃーす!!!! 今日の配信はこれで終わりになります」
《企画屋》の企画配信ってこともあってか、リスナーも常時8千人近くいた。
こんな俺に付き合ってくれて感謝しかない。もっと頑張りたいね!
さて、ということでここからは裏作業に入ろうか。
「あ、もしもし? どうだった?」
『みんな弱いよ』
「こらこら、そういう言い方はよくないって。これからチームメンバーとして頑張っていく人もいるんだからさ」
『別に、……本当のことだし』
俺はレオンハルトがチームメンバーとうまくやれるかが心配だよ。
なまじ強い分、今みたいな物言いをしそうだし。
「でも、俺に勝った人も何人かいたでしょ」
『それは、そうだけど』
「でしょ? 強い人もちゃんといたって」
『……あんなミスで負けるなし』
「って言うけど、俺のミスを誘発した相手の立ち回り上手くなかった?」
『あ、ちが……っ。そうじゃ、なくて……』
「? どういうこと?」
『アンタが負けると、戸羽丹フメツも弱く思われるから……』
あー、と……? どういう意味だ……?
『あんなミスで負けられると、戸羽丹フメツもその程度だと思われる』
ふむ……?
なんか会話が嚙み合ってなくないか?
まあ、レオンハルトが戸羽ニキをリスペクトしてるのはわかったけど。
「……レオンハルトって本当に戸羽ニキのことが好きなんだね」
『いいだろ、別に』
会話になってるようで、微妙にすれ違ってる気がするな……。
まあ、今はいいや。ちょっとずつレオンハルトとの会話にも慣れていこう。
「あ、そうだ。俺のことを《アンタ》って呼ぶのはいいけど、他のVTuberさんたちのことは、あんまりそういう呼び方をしない方がいいぞ」
『う、でも……』
「でも?」
『どうすればいいのか、わかんないし……』
「名前で呼べばいいんだよ。俺だったら東野さんでも、アズマさんでもどっちでもいいし」
『アンタのことを名前で呼ぶのはヤダ』
……この、生意気なガキンチョが。
「ま、いいよ。ただ、俺以外の人たちにはもうちょっと愛想よくしような?」
『……わかった』
「よし」
少しずつ、少しずつだ。
この調子で少しずつ会話も出来るようになっていけばいい。
目標はそうだなー……。今回の企画中で、一回ぐらいはレオンハルトが笑ってるところを見ること!
そのために少しずつ仲良くなっていこう。
「で、良さそうな人ってどれぐらいいた?」
蛇の道は蛇と言うべきか、レオンハルトには俺の配信を見ながら、目についた強者をピックアップしてもらっていた。
コミュ力はともかく、クロファイの実力は本物だから、こいつが強いって判断すれば、戸羽ニキたちを相手にしても十分に勝負が出来る人たちに違いない。
『2人』
「少なッ!? え、あれだけ対戦したのに!?」
『だって、みんな弱かった』
「練習すれば強くなりそうな人とかいなかった?」
『いたかもしれない』
「その人たちをチームメンバーにいれるのはダメ?」
『強くならなかったら、戸羽丹フメツに失礼だから』
あ~~~、そういうことか~~~。
「レオンハルトって本当に戸羽ニキのことが好きなんだな」
『それ、さっきも言ってた』
「いいんだよ、こういうことは何回言ったって。だって、レオンハルトなりに推しのために頑張ってるんだろ?」
『……それは、まあ。そう。当たり前』
「人のために頑張るのはいいことだよ。それで企画が盛り上がれば、戸羽ニキだけじゃなくてみんな喜んでくれるし」
『……うん』
あ、ちょっとわかってきたかも。
こういう接し方をすれば、レオンハルトって素直になるんだ。
「さて、それじゃあレオンハルトの眼鏡にかなったVTuberを教えてくれ」
『もうチャットしてる』
「ありがとう。仕事早いのは助かる」
どれどれ~?
「狼森エイガ(オイノモリ エイガ)さんに、円那ひとみ(ツブラナ ヒトミ)さんか。OK。この2人のチャンネルを見に行ってみて、良さそうだったら声かけてみるよ」
『わかった』
「それじゃあ、もう遅いし今日はこの辺で解散にしよう。ありがとう、付き合ってくれて」
『別に』
「じゃあ、おやすみ」
『……おやすみなさい』
あ、挨拶してくれた。
そう思った瞬間には、もう通話は切れていた。
「ふー……」
思わず深く息を吐きだしていた。
企画をやるってこんなに大変なんだ。
ぴょんこさんも袈裟坊主さんもよくこんなことやってるな。すごいよ、あの2人。
「さて、俺もやることやるか」
途切れかけた集中力をつなぎなおし、早速レオンハルトが候補に上げてくれた2人のチャンネルを見に行く。
いい人たちだったらいいな~。
せっかくの企画だし、どうせなら楽しくやりたい。
そして、ちゃんと見ているリスナーにも楽しんで貰いたい。
そのための仲間を集めたい。
そんなことを考えつつ、俺は狼森エイガと円那ひとみの動画を見るのだった。
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