第44話 ラブコメは配信外でこそはかどる
『よくあんな面白い企画考えついたね。僕らも負けてられないなって思ったよ』
なんて戸羽ニキからのチャットの他にも、埼京さんや英さんからも同じような連絡が入っていた。
全員が自信に溢れている。それはきっとトップVTuberとしてのもの。
登録者数も知名度も実力も、何もかもが俺たち新人とは違う。
そして、それはこの人も同様だ。
「まさかナーちゃんが参戦するとは思わなかったですよ」
『するに決まってるじゃない。それより、どういうつもりなの? なんで企画を思いついた時にまず私に相談しなかったのよ』
「忙しいって散々愚痴ってたじゃないですか」
『それはそうよ。私が一体いくつ締め切りを抱えていると思っているの? それがわかっていて相談しないなんて、本当にどういうつもりよ』
「いや、言ってる意味わかんないですよ。忙しそうにしてるから、邪魔したくなかったんですが」
正直、この通話だって心配なのに。
『そう。だったら今後のために覚えておいて頂戴。忙しい時ほど、その先にある楽しみが頑張る理由になるのよ。だから、こういう面白そうなことをするときは、真っ先に私に声をかけなさい』
「わかりました。次からそうします」
『あ、言っておくけど、企画なんてなくても連絡してきなさいよ。作業通話って結構はかどるのよね』
「かしこまりました。全ては先生の仰せのままに」
『そう。じゃあ、これからは締め切りに間に合わなかったら、ズマっちが連絡くれなかったからって担当には伝えるわね』
「それはさすがに違くないですか!?」
責任転嫁が過ぎると思うんだが!?
『冗談よ』
「勘弁してくださいって」
『じゃあ、本番を楽しみにしてるわ。せいぜい足掻いてみなさい』
「絶対にその鼻っ柱をへし折ってやりますから」
とは言ったものの、実際どうするかなー。
正直トップVTuber連合ってみんな強いんだよな。
戸羽ニキと袈裟坊主さんは全VTuberでもトップクラスの実力だし、埼京さんや英さんだって別に弱いわけじゃない。
ん? そう言えばナーちゃんの実力ってどうなんだ? 配信でクロファイやってるのは見たことないけど。
「って、DMの数がエグ過ぎるぞ!?」
今、ちょっとナーちゃんと話してる間に信じられないぐらいのDMが来てる!!
これ全部新人VTuberたちからか。
まあ、それはそうだよな。こんなチャンスがあるってわかれば、俺だってこうする。
ただなぁ、これだけ見ず知らずの人たちから連絡が来るのに、肝心の相手からの返信が全然来ない。
レオンハルト~。頼むよ~。お前の実力が頼りなんだって~。
「まあ、来ない相手のことばかり気にしててもしょうがないか」
待っているなら待っているで、その間に出来ることはある。
ということで、もう1人誘いたい人に通話をかける。
『ひゃい!? なんでひょうかッ!?』
「カレンちゃん、噛み過ぎ」
『いきなり通話が来たらそうなりますって! じゃなくて!! 見てましたよ《企画屋》の配信!! なんですか、あれ!?』
「配信見てたのに聞くの?」
『アズマさん、その返しはモテないですからやめた方がいいですよ』
「余計なお世話を言う人には何も答えたくありません」
『嘘嘘、冗談ですって!! なんですぐそうやっていじわるを言うんですか!?』
「カレ虐が需要あるってわかっちゃったからだね」
『今、配信も何もしてないですよ!? 裏でくらい優しくしてください!!』
「あはは。いや~、カレ虐が需要ある理由がよくわかるな~」
『どういう意味ですか!?』
「リアクションが面白いって意味。あ、そうだ。チャンネル登録者1万人突破おめでとう」
『なんでこのタイミングで言うんですか!? 通話してきた時に言ってくださいよ!!』
「つながった時のリアクションが面白くて、つい」
『わたしをリアクション芸人みたいに言うのやめてください!! 美少女VTuberなんですよ!?』
「え、なんで? 可愛くて面白いって最強じゃない?」
『──ッ!! このタイミングで褒めないでくださいッ!! 何も言い返せないじゃないですか!?』
「あ、ところで通話した要件なんだけど」
『切り替えのタイミングッ!! もうちょっとこっちを気遣ってください!!』
えー、何それ。
ナーちゃんと言い、カレンちゃんと言い、リクエストが難しいんだけど。
『それで、何で通話してきたんですか?』
ツッコんだ割には切り替えられてるじゃん、と思ったけど口にはしない。
そんなこと言ったらきっとまた、無限にボケとツッコミが続いて話が一向に前に進まない気がするから。
「配信を見てたなら話は早いよ。カレンちゃんにもうちのチームの一員として、一緒に大会に参加して欲しい」
『……はい?』
「あ、もちろん予定が入ってるなら、無理にとは言わないんだけど……」
『いやいやいや、そういうことじゃなくてですね!! ていうか、予定はガラガラなので全然大丈夫なんですけど!! って、そうじゃなくてッ!!』
テンパり過ぎでしょ……。
確かに急な話だけどさ。
『なんで私を誘うんですか!?』
「なんでって、……ダメ?」
『ダメとかそういうことじゃなくてッ!! だって私ゲーム得意じゃないし。クロファイだって裏で一緒にやったことあるから知ってますよね!? 私、配信で出来るほどうまくないですよ!?』
「うん。だからあと二週間で死ぬほどうまくなって貰おうと思ってる」
『いやいや、そういう話じゃなくてッ!! いや、そこも気になりますけどッ!! だって、本当に全然下手で……。だから、……なんで私なんですか?』
「あー……、なんでって聞かれると」
『まさか理由なしですか!?』
「いや、ある! あるよ、理由は!! ただ何ていうか、ちょっとカッコ悪い理由で……」
あー、クソ。この展開は考えてなかった。
カレンちゃんなら誘えば来てくれると思って油断してたーッ!!
『なんですか、カッコ悪い理由って。教えてください』
「一回しか言わないし、ここだけの話にしてくれる?」
『約束します。誓って誰にも言いません』
「……一人だと心細いじゃん」
『え』
「だーっ、もうっ!! あれだけのメンツが集まる企画で、リーダーなんて心細いって言ったんだよ!! だから仲いい人が1人ぐらいチームにいて欲しいんだよッ!! それだけッ!!」
うっわ、死ぬほど恥ずかしい。
年下の女の子に何言ってんだ、俺。
『へぇ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~?????????』
「……なんですか、その反応は」
『いやいやいや、何でもありませんよ? 最近勢いがあって? トップVTuberにも知り合いがいて? チャンネル登録者5万人間近のアズマさんが、心細い? へぇ~~~~~~~~~~~~~~~~~。そうですか~~~~~~~~~~~~~~~。ふ~~~~~~~~~~~~~~~~~ん????????』
「ムカつくなぁッ!! その反応!!」
『とか言ってても、アズマさんはわたしがいないと心細いんですよね? じゃあもう、しょうがないなぁ。いいですよ、アズマさんと一緒に出てあげます!!』
「うっわ、言わなきゃよかった。上から目線が尋常じゃない」
『それはそうですよ。あんな理由聞いちゃえば、誰だってそうなります。……でも』
カレンちゃん?
『わたしも不安なので、そこはアズマさんが何とかしてください。わたし、このままだと絶対に恥をかきます。バカにされます。叩かれます。だから、アズマさんがわたしを強くしてください!!』
「もちろん、任せて」
『絶対! 約束ですからね!? これでわたしが叩かれたら、焼肉を奢ってもらいますからね!?』
「わかった。約束する」
チームとして出る以上、カレンちゃんも勝ってもらうのは当然だ。
そのために俺がしなければならない努力は、絶対にする。
『それで、他のチームメンバーはどうするんですか?』
「レオンハルトは今誘ってる」
『え』
「何、その反応」
『いやいや、だって粘着されてるって! アンチ行為されてるって言ってたじゃないですか!?』
「でも、その後コラボもしてるし」
『そう言えばそうでした!? え、じゃあ、仲直りしたんですか!?』
「うーん、微妙」
『なんですか、それぇ。そんなので大丈夫なんですか?』
「だけど、戸羽ニキたちに勝つには、レオンハルトの強さは必要だから」
それに、あいつなら絶対に本気でやってくれるから。
『そこまで言うならいいですけどぉ。……他のメンバーももう決まってるんですか?』
「それはこれから。明日の配信でクロファイの参加型をやって、実際に戦ってみて決める予定」
『何かわたしに手伝えることってありますか?』
「カレンちゃんにはクロファイを強くなって貰うのが最優先だね。ちなみにこの後時間ある? ちょっとでも練習出来たらって思うんだけど。時間遅いから──、」
『大丈夫ですッ!! あ、でもお風呂には入りたいので1時間だけ待っててください!!』
「それはもちろん」
大丈夫。と言い終わらない内に通話は切れた。
直後に慌てるように『あがったらすぐにれんらくします』と全文字ひらがなのチャットが送られてきた。
やる気なのは嬉しいけど、そこまで急がなくてもいいんですが……。
「あ」
と思っていたら、レオンハルトから返信が入っていた。
『いいよ』
相変わらずの素っ気なさだが、らしいと言えばらしい。
まあでも、とりあえずこれで3人は集まった。
出来ればあと2人、強い人を集めたい。
だから俺は、チャンスにウズウズしてるであろうVTuberたちに向けて、ツイッターを投稿する。
『集え仲間たち!! クロファイ大会、参加オーディション開催!! 明日20時より東野アズマの配信枠で会おう、強者たち!!』
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