第41話 Q.てぇてぇ×てぇてぇ=???

『それで1時間もそのショタ君に付き合ってたって言うの? 相変わらずねぇ、ズマっちは』


「半端に聞いたままっていうのも気持ち悪いですから。とりあえず俺が納得できるまで聞いてみようって思っただけです」


『普通はそんな風に考えないものよ』


「じゃあ、職業病ですね。営業時代に『納得できないならそれを伝えてちゃんと聞け。会話をサボるな』って死ぬほど叩きこまれたので」


『ということは、私が電話した理由を聞いてこないのは会話をサボってるってことかしら?』


「人聞き悪いこと言わないでください!! チャットで『暇』って送って来てたの、ナーちゃんじゃないですか!!」


『責任を女になすり付ける男はモテないわよ?』


「テキトーな物言いをする人は信頼されませんよ?」


『あら、言うじゃない。でも残念。クリエイターが信頼を勝ち得る方法は、言葉じゃなくて締め切りを守ることよ』


「それはそう!!」


 この人から真っ当な発言が出ると違和感すごいなぁッ!?


「あ、ていうかナーちゃん、締め切りは大丈夫なんですか?」


『そんなものとっくに駆逐したわ。だから暇なのよ』


「ゆっくり休めてるって解釈しておきます」


『ねえ、ズマっち』


「なんです?」


『嬉しい? 私から電話が来て』


「それは、はい。嬉しいですよ。VTuberになってから、ひとりでいる時間が増えましたし」


『ふふ、嬉しいのね。しょうがないわねぇ、ズマっちは。これからもたまに電話してあげるわ』


 ナーちゃんの方こそ嬉しそうで何より。


『ところでズマっち。私、今何してると思う?』


 はて、何してるんだろう。

 ゆっくりってことは温泉にでも行ってるのか?


『遅いわよ。これぐらいパッと答えて頂戴。配信外だとツッコミのキレが落ちるタイプなのかしら?』


「ナーちゃんのボケがぬるいからですよ」


『あら、いいわね。そういうの待ってたわ。ご褒美に私が今何をしてるか教えてあげる』


 あー、これはボケられる可能性あるな。

 もしくは大喜利か。

 やれやれ、ツッコミ役も骨が折れるじゃないか。

 しょうがない。特別にノッてあげよう。ナーちゃんも締め切り明けでリラックスしたいだろうし、俺の冴えわたるツッコミで笑わせてやるか。


『私ね、今ミチェのおっぱいを揉んでるのよ』


「それはさすがにツッコめないッ!! は、え? 何ですって?」


『だからミチェのおっぱいを揉んでるのよ。気持ちいいわよ?』


「聞いてないからッ!! そんな感想1ミリたりとも聞いてないですからッ!!」


『ふふ、冗談よ。ズマっちは本当に欲しい反応を返してくれるから、話してて楽しいわ』


「こっちはいつ爆弾発言が来るかヒヤヒヤなんですが!?」


『いいお土産を買って帰るから許して頂戴』


「てことは、旅行に行ってるんですか……?」


『ええ、温泉よ。ミチェと来てるわ』


「だったら、そう言ってください! 何であんな言い方するんですか。ビックリしたじゃないですか!!」


『何言ってるのよ。一緒に温泉に入ったんだから、おっぱいも揉んだに決まってるじゃない。ズマっちは私が嘘を吐くような女だと思ってるのかしら?』


「ブレーキが必要な女だと思ってますッ! ていうか、今の言う必要ありました!?」


『事実無根の女だと思われても困るもの。あ、ちょっと待ってなさい』


 厚顔無恥ではあるよな。むしくは羞恥心皆無。

 ナーちゃんは、人生の全てをエンタメにしないと気が済まないのか……?


『本当にいいの? 話して』


『何を遠慮してるのよ。何回かコラボもしてるじゃない』


 あれ、電話の向こうでナーちゃんが話してる相手って……。


「ミチエーリさんですか? すみません、旅行中に。東野アズマです」


『あ、ミチエーリです。アズマさん、久しぶり』


 おっと、配信中の元気いっぱい! って印象よりおとなしめだな。

 こういうテンションのミチエーリさんも新鮮でいいね。


『あの、アズマさん』


「はい、なんでしょう?」


『すみませんッ!!!!!!!!!!!』


 はい!?

 え、何!? なんでいきなり謝られた!?


『てぇてぇに割り込んでッ、本ッ当にすみませんッ!!!!!!!!!!!』


「いやもう全然割り込んでくれていいですから! そんなことで謝らないでください!!」


『本当に? 大丈夫? 私リスナーに処されない?』


「大丈夫ですって!! ていうか、プライベートな通話をリスナーが聞いてたら怖いですよ!!」


『配信でこの話した時に『何で間に挟まったんだ!!』って言われないかな?』


「そもそも配信で話さなくていいですからね!?」


『そんなの嫌! だって絶対に盛り上がるもん!!』


「そういう盛り上げ方はやめてくれません!?」


『あ、ところで。今ナキアが温泉上がりの浴衣姿なんだけど、写真いる?』


「あんた、そのネタ好きだなぁッ!?」


 天丼芸はVTuberのたしなみなのか!?

 ナーちゃんの性転換といい、どうしてみんなして、ひとつのネタを擦りつづけるんだよ!?


『ミチェのおっぱいを揉んだ話はもうしたわ』


『ナキアッ!! なんでそういうことするのッ!!』


 お、いいぞ。

 そのままナーちゃんに、その手の発言は慎むように言ってくれ。


『だって気持ちよかったんだもの。ミチェだっていい反応してたじゃない』


『ナキアッ!!!!!!!!!!!!』


『わかった。わかったわよ。もう言わないから、そんな大きな声出さないで』


『ごめんね、アズマさん。締め切り明けのナキアっていつもこうだから』


「締め切り明けじゃなくても、大体こんな感じだと思いますが……」


『うーん、締め切り明けの時の方が下ネタが雑なんだよ。クオリティが低いって言うか』


『それは聞き捨てならないわね!? 安芸ナキアに向かってクオリティが低いですって? いいわ、今渾身の下ネタを披露してあげるわ』


『わかった。ナキアが考えてる間、私はアズマさんとお喋りしてるから、外出るね』


『……ひとりぼっちにするのは、ダメよ』


『じゃあ、もうさっきみたいな下ネタは言わない?』


『それは、……考えものね』


『アズマさん、移動するからちょっと待っててー』


『言わない! 言わないわよ!! 少なくともこの旅行中は!!』


『じゃあ、このまま3人で話そう』


 すげー。

 あのナーちゃんを手玉に取ってるよ。

 ていうかさ、俺とナーちゃんなんかより、この2人の方がよっぽどてぇてぇと思うんだけど……。


『あ、ミチェも聞きなさいよ。ズマっちって最近アンチに絡まれてるらしいのよ』


『え、それ大丈夫なの?』


「問題無しです。アンチだと思ったら同じ新人VTuberでしたし、コラボもしましたから」


『何それ!? どういうこと!?』


「言った通りですが……?」


『ミチェ。あんたもズマっちのコミュ力は知ってるでしょう? 企業勢でもない新人VTuberが、ここまでたくさんの大物VTuberとコラボしてるのよ』


『確かに。アズマさんってもしかしてヤバい人?』


「褒めるんならもうちょっと素直に褒めてくれませんか?」


 その言い方は語弊があるだろ!?


『アンチとコラボかー。私無理だー。ケンカしちゃうと思う』


『普通はそうよ。この男が変なのよ。しかもコラボが終わった後にも1時間ぐらい話してたらしいわよ』


『仲良しだ!! でも興味あるなー。アンチの人とどんなこと話したの?』


「これは本当にオフレコでお願いしますよ。そいつ、レオンハルトって言うんですけど、戸羽ニキに憧れてるんですよね。ゲーム上手いし、トークもそつがないし、人気だしって理由で。それでまあ、色々話を聞いてたら、どうやら俺にアンチ行為をしてたのも、俺が戸羽ニキと絡んでたのが羨ましかったからなんですよ」


『ただのやっかみじゃない』


『なんかそれはわかるかも』


「そうなんですよね。俺もミチェさんと同じで、レオンハルトからそう言われた時に『あ、わかる』って思っちゃったんですよ。昨日まで同じところにいた新人VTuberが、いきなり自分の憧れのトップVTuberと仲良さそうにしてるの見たら、普通に嫉妬するだろうなって」


『だからってアンチ行為をしていい理由にはならないわよ』


『うん。アンチ行為はダメだよ。批判的な意見を持つのはしょうがないけど、それを直接本人に言ったりするのは絶対にダメ』


「あー、まあそれもしょうがないと言うか、彼の事情を聞くと、そこまで目くじら立てることはないかなって思ってます。秘密ですけど」


『何でよ、教えなさいよ』


『えー、聞きたいー!』


「言いません。個人情報なので」


 カレンちゃんから聞いてた通り、レオンハルトは高校生だったって話なんだけど、さすがに本人が配信でも言ってない個人情報を言うのは憚られる。


『ズマっち。教えてくれたらミチェの寝顔写真をあげるわ』


『なんで私!? ナキアのでしょ!?』


「例え入浴中の写真を貰っても言いませんから!」


『ちょっと聞いた、ミチェ? この男、私たちの裸の写真を欲しがってるわよ』


『やーん、アズマさんのえっちー』


「ぬかったぁッ!! 今のは隙を見せた俺が悪い!! ちくしょう、こんなはずじゃなかったのに!!」


『ふふふ、今更後悔しても遅いわよ』


『大人しくお縄に着けー。あははは!』


 なんていつも通りのふざける流れになったから、ナーちゃんとミチエーリさんに話すことはなかったけど、レオンハルトの話を聞いて俺の脳裏にはとあるアイデアが思い浮かんでいた。

 うまくやればきっとめちゃくちゃ盛り上がるであろう配信企画。

 餅は餅屋。蛇の道は蛇。

 企画は《企画屋》に。

 俺はぴょんこさんと袈裟坊主さんへとチャットを送っていた。


『面白くなりそうな企画案があるんで、相談に乗ってもらえませんか?』と。

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