第40話 ゲームは楽しいんだ、ゲームは……。でも地獄
『ふ、ふん。やるじゃん。えっと、次は……』
「あー……」
さて、どうしたものか。
優梨愛さんのアドバイスによって実現したレオンハルトとのコラボなのだが、正直空気感が……。
「レオンハルトの得意なキャラってなんですか……?」
『あ、ッスー……。えっとぉ……。な、何……?』
「あーっと、レオンハルトの得意なキャラを聞ければと思ったん、ですけどー……」
『あ、あ。得意キャラ、得意キャラ。ッスー……、シャドーボーイ』
「シャドーボーイですか! コンボが決まると気持ちいいですよね!!」
『!? ……はい』
「あはは。俺も一時期使ってましたよ。ただ中々立ち回りを極めるまでやり込めなくて、結局今メインで使ってるのは昔から使ってたビリチューなんですよね」
『あ、はい。そう、なんだ』
「そうなんですよー」
『あ、ッスー……』
地獄ッ!!
控えめに言って地獄ッ!!
何を投げかけてもレオンハルトから返ってくるのは、そばをすするような呼吸音だけだし、おかげで会話がまるで広まらないし、マジでどうしよう!?
ていうか、こんなだったっけ? 前にコラボしたときはもうちょっと普通に喋れてた気がするんだけどなぁ。
『あ、次。始まった……』
「次も負けませんよ?」
『あ、あ。……はい』
頼むからもうちょっと喋ってくれ!!
俺たちよりクロファイのゲームボイスの方が発してる言葉多いぞ!?
『なにこれ地獄配信?』
『もはや放送事故で草』
『コミュ障乙』
リスナーもそういう反応になるよねぇ……。
わかる。俺だって自分が配信者側じゃなかったら、同じように思ったし。
ていうか、それでも見てくれてるのはありがたしさしかない。
「それにしても上手いですよね。ランクも結構高いんじゃないんですか?」
『ッスー……』
喋ろうとするたびに一回すするのをやめてくれ!!
なんかすごい気まずいんだよ!
変なことを言ったんじゃないかって心配になるんだよ!!
『ランクは、……普通』
「いやいや、でもキャラコンめちゃくちゃうまいし、かなりやりこんだんじゃないんですか?」
『……そこそこ』
「なるほどー」
何がなるほどなのかは、俺もわからない。
ただ気まずさを埋めるための相槌でしかないしな!!
『うっま』
『なんで今の避けれるの!?』
『コミュ力× クロファイ◎』
ちなみにこのコメントは俺に向けたものではない。
全部レオンハルトに向けたものだ。
実際リスナーたちのコメント通り、レオンハルトのクロファイはめちゃくちゃ上手い。
俺もこのゲームに関してはかなり自信があるけど、接戦になってヒヤッとする場面が何度もある。
「え、マジで。今の狩るんですか?」
『……よしっ』
「えーっ! どうやったんですか、今の!?」
『あ。なんか、普通に……』
「あとで練習方法とか教えてもらいたいですねー」
『ッスー……』
はい、会話終了!!
いやもう本当にレオンハルトがクロファイ上手くて助かったよ!!
でなきゃ、このコラボを配信としてもたせる自信が俺にはなかったぞ!?
『がんばれアズマ』
と、俺の内心の叫びを知ってか知らずか、コメント欄には俺を励ます言葉と共にスパチャが流れてきて嬉しい、のはそうなんだけど……。
あのさぁ、コミット米太郎さん。
確かに赤スパ投げてもドン引きしないって言ったけど、さすがにひと配信で3回も投げられたら話が変わってくるよ?
ただなー、優梨愛さんにそれを言ったとて『限界赤スパを1回投げるより、1万円赤スパを5回投げる方が満足感が高いんだ』とか言われそうだから何も言い返さないけどさ。
ていうか、実際に言われたし。この間ご飯を作りに行ったときに。
「あ、もう1時間半ぐらい経つんですね! ボチボチいい時間かなって気もするんですがどうします?」
『あ、その。じゃあ、ラストで』
「了解です! 最後は勝って終わりますよ!!」
『ぼ、僕も負けないし』
あー、よかったー。
ここでレオンハルトが『まだまだ』とか言い出したらどうしようかと思ったよ。
クロファイが上手いから対戦してるのはめちゃくちゃ楽しいんだけど、やっぱり会話が続かないのは配信してるって考えるとかなりキツイし。
「最後はやっぱりガチで行きますか?」
『あ、ッスー……。うん』
「了解しました! じゃあ、俺はビリチューで」
『シャドーボーイ……』
「負けませんよー」
まあ、ぶっちゃけもう勝ち負けなんてどっちでもいいんだけど。
とにかく早くこの空気から脱する方が先決だ。
とは言え手を抜く気はサラサラないので──、
「うっま! え、そこからまくるんですか!?」
『え、マジ……?』
と、お互いに読み合いからキャラコンからでバチバチにやりあい、クロファイの対戦としてはめちゃくちゃ白熱している。
これ、対戦中の会話が必要ないようなガチの大会だったら、もっと楽しめた気がするんだよなぁ。
レオンハルトってマジでクロファイが上手いから、対戦してるだけで勉強になること多いし、これだけ強い相手に勝てるとやっぱり、めちゃくちゃ嬉しい。
ていうか、クソ。考え事してたらリードされてる。
「リスナーさん、すみません。ガチるんで、ちょっと黙ります」
先ほどからも何回かこういうことがあった。
余りにも鮮やかなレオンハルトの立ち回りに、意地でも負けたくなくて配信そっちのけでゲームに集中してしまう瞬間が。
そして真剣に対戦をすればするほどに、レオンハルトの実力に魅せられている俺がいるのを自覚する。
上手さ、強さ。レオンハルトの力を実感すればするほどに、彼がどれだけクロファイをやりこんでいたかがわかる。
その時間と努力がわかるからこそ、配信での会話の少なさやアンチとして粘着されていたとしても、彼のことが嫌いになれなくなってきている。
努力出来る人間って、単純に好きだしね。
「よっし!!!!」
『チッ』
そしてラスト一戦を何とか勝ち切り、この配信は俺の勝利で終わりとなる。
「それじゃあ、今日も配信を見てくれてあざまるうぃーす!! また次の配信でお会いしましょう!!」
『バ、バイバイ』
それぞれに終わりの挨拶をして配信を切る。
あー、終わったー。つっかれたー!
ガチでクロファイをやりつつ、まるで会話が続かない中で配信をしなきゃいけないのは、死ぬほどキツかった。
もう二度とやりたくねー。
と、ぐったりとした頭で考えていたら、まさかの当の本人から通話が来た!
え、マジか。
「はい。もしもし」
『次』
「え?」
『つ、次だよ。コラボ! いつやるの?』
「え、次のコラボ?」
『そ、そうだよ! いつやるんだ』
「いや、いつって言われても……」
正直やりたくない。
今日みたいな気まずい空気で配信をしたって、全然楽しくない。
「やりたいの? またコラボ」
『あ、ッスー……。悪い?』
「いや、悪いとかいいとかそういう話じゃなくて。だってレオンハルトって、元々俺のアンチだったわけだよね。なんでコラボしたがるのかなって思って」
『裏だと敬語じゃないんだな』
「それ、今関係あるの?」
『!? ──ッ、なんだよ』
「あー、別に怒ってるとかそういうわけじゃないんだ。ただ、配信直後だからちょっと疲れてて」
『ダッサ』
……怒るなよ、俺。
相手は高校生かもしれない相手だ。
若気の至りがあったって多少は見逃してやろうじゃないか。
「レオンハルトが強かったからね。めちゃくちゃ消耗したよ」
『ふ、ふん。そっちもそこそこ、強かった、と思う』
「あはは、ありがとう。それで話が戻るんだけど、何で俺とコラボしたいの? それと、何であんなに粘着してたの?」
『ッスー……。っ……』
沈黙。
何かを言い出そうとしては言葉を飲み込むような気配に、俺も黙って言葉を待つ。
『……お前が』
待つこと30秒。ようやく言葉が聞こえてくる。
これまでのどんな言葉より、その声には感情が宿っていた。
『お前が、戸羽丹フメツに勝ったから』
「どういうこと?」
『……すん。……ぅうっ』
え、まさか泣いてる?
待って。なんで?
混乱する俺をよそに発せられたレオンハルトの言葉は、この日最も彼が大きな声で伝えてきたものだった。
涙にまみれて、声を震わせながら。
でも、だからこそ本音だと伝わってくる声で、レオンハルトは俺に、嘘偽りのない言葉を伝えてきた。
『僕は……っ。戸羽丹フメツになりたくてっ、VTuberになったんだ……っ!!』
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