第39話 ショタへのモヤモヤでラブコメが始まらない!?
わからせようと思ったショタには逃げられてしまいました。
って言うと、なんか犯罪臭がするな。
なんて冗談はともかく。
レオンハルトとの衝撃過ぎる再会から一夜が明け、俺はメスガキボイスを聞くために通話をオンにするのだった。
『聞きたいことってなんでしょうかぁッ!?』
おぉう、なんという大音声。
鼓膜だけじゃなくて脳まで揺れた気がする。
『あれ、アズマさんって今外出してるんですか?』
「ちょっと知り合いから呼び出されてね。カレンちゃんは?」
『家です! 学校の課題と配信の準備でもしようかなって思ってました』
「あ、忙しかった?」
『全っ然、そんなことありません!! むしろ暇です。暇なので作業してたまであります』
いや、その論法はおかしいだろ。
やらなきゃいけない作業があるなら、暇してないで作業しようよ。
「暇ならいいんだけど。忙しいなら今じゃなくても大丈夫だよ」
『何を言ってるんですか? アズマさんから『ちょっと聞きたいことがあるんだけど』ってチャットしてきたんじゃないですか。何ですか? コラボのお誘いですか? それともまたお寿司を奢ってくれるんですか?』
「どっちでもないし、なんでまた奢られる気満々なんだよ」
『いいじゃないですか~。またお寿司食べに行きましょうよ~』
「奢りじゃなくていいなら」
『それはダメです! わたし、お金ないんです』
「俺だってありませんが!?」
『収益化して、メンバーシップまで開設したのに!?』
「翌日から入ってくるわけないだろ。もうちょっと先にならないとお金は貰えません」
『じゃあ、お金が入ったらご飯行きましょうね。楽しみだなぁ、どんなご馳走が食べられるのかなぁ』
だから何でこの子は常に奢られる前提なんですかね?
ちょっとは遠慮ってものを覚えてくれません?
『あ、そう言えばもうちょっとでチャンネル登録者数が5万人になりますね』
「それ言ったらカレンちゃんだって1万人まであと少しじゃないか。あと300人ぐらいだっけ?」
『なんで知ってるんですか!? ストーカー!?』
「人聞きの悪いこと言うなって! この間コラボしたときに見たんだよ!!」
いきなり変なことを言わないでくれるかな!?
こちとら外を歩きながら通話してるんだぞ。すれ違った人に聞かれたらどうするつもりなんだ。
『あれ、なんで通話してたんでしたっけ?』
「カレンちゃんにちょっと聞きたいことがあったからだね」
『そうだったんですね。てっきりわたしとお喋りしたかったのかと思いました』
このガキんちょは……っ。
『あ、怒りました?』
「いいえ? この程度で怒るほど小さい人間ではないので」
『え~、本当ですか~?』
「一向に話が進まないので聞くけど、カレンちゃんってまだレオンハルト・レオンハートと連絡とってたりする?」
『あー……。なるほど、そういう感じの話ですか』
「うん。そういう感じの話。実はアンチにずっと粘着されてたんだけど、それがレオンハルトだったんだよね。で、昨夜クロファイした」
『なんで!? え、意味わかんないんですけど』
「ちょっとDMでやりとりしてたら、流れで。一戦したらすぐ抜けられちゃったから、ちゃんと話は出来てないんだけど、声は間違いなくレオンハルトだった」
あんな特徴的な声を聞き間違えるはずがない。
FPSで鍛えた俺の聴力は伊達ではないのだ。
「それでまあ、結構粘着されてたから、今どんな感じなのかなって思って。ほら、俺ディスコードのサーバーから追放されちゃったし」
『そう言えばそうでしたね。でも、わたしもよくわかんないです。あのサーバーが無くなった後に新しいサーバーに招待されたんですけど、ちょっと露骨過ぎると言うか、雰囲気悪いのでもう関わってないですし』
「ちなみに雰囲気悪いって、具体的に言うとどんな感じ?」
『いや、それは……』
言い淀むカレンちゃんの反応で何となく察した。
恐らくは俺に対する悪口なんかが書かれているのだろう。もしかしたら俺とコラボしているせいで、カレンちゃん自身も何か書かれていたりするのかもしれない。
『すみません。お力になれなくて』
「ああ、いや大丈夫。ありがとう、教えてくれて。何か知ってればって思っただけだから」
『あ、それで言うと、これは完全にわたしの予想なんですが、彼って多分高校生だと思いますよ』
「え、そうなの?」
『はい。前に高校のテストが話題になった時に、みんなは『懐かし~』とか言ってたんですけど、彼だけ『だるい』とか『めんどくさい』とか言ってて、ちょっとかみ合ってなかったので、もしかして現役なのかなって思ってました』
「そうだったんだ。ありがとう、教えてくれて。じゃあ、そろそろ着くから切るね」
『あ、アズマさん! 次のコラボの予定考えておいてくださいね!』
「了解。じゃあ、また連絡する」
『はい。今日してください。じゃないと寂しくて死んじゃうかもしれません』
「ウサギかよ。わかった。あとで連絡する」
絶対ですよ、と念押ししてくるカレンちゃんとの通話を切り、俺は目的地エントランスのガラス扉を開けて中へと入っていく。
中に設置されているインターフォンに部屋番号を入力し、呼び出しボタンを押して待っていると、
『今開ける』
そんな優梨愛さんの声と共にオートロックが開錠される。
「マジでオフモードですね」
「休みの日までメイクなんてしてられるか」
「言われた食材買ってきましたよ」
「冷蔵庫に入れておいてくれ。そっちがキッチンだ」
さて、努めて普段通りにしているけど、ぶっちゃけ内心ドキドキです。
だってそうじゃない!?
休みの日に優梨愛さんの家に来てるんだよ!?
まさかあんな酔っぱらってる時の約束を実施するなんて思わないって!!
「うわ、空っぽ」
「当り前だ。寝に帰ってくるだけの家に、食料なんてあっても意味ないだろ」
「だからってこの冷蔵庫はヤバいですよ。存在してる意味ないじゃないですか」
これならまだ酒しか入ってない冷蔵庫の方がマシな気がする。
少なくとも家に帰ってきて飲んではいるって思えるから。
優梨愛さん家の冷蔵庫は何ていうか、虚無だ。
マジで空っぽ。
かろうじて使われたであろう醤油とマヨネーズでしか生活感を感じられない。
「普段どんな食生活してるんですか」
「いいだろう、何だって。お前は私の母親か?」
「母親じゃなくたってこんなの見せられたら心配になりますって」
「じゃあ、お前が毎晩作りに来てくれ。そうすれば私だってちゃんと家で晩御飯を食べるようになるぞ」
「子供じゃないんだから、食事ぐらいしっかりしてくださいよ」
「なあ、今私が思ってることを言ってもいいか?」
「なんです、急に」
「今、お前にとてつもないママ味を感じているからおぎゃりたい」
「バカなんですか!? ていうか、どこでそんな言葉覚えたんですか!?」
「どこって、VTuberの配信で」
「確かにそういう言葉を使ってる人多いですけど、覚えなくていいですからね!?」
「なあ、私のママになってくれないか?」
「世界一最低な告白をしてる自覚あります!?」
「最低でも何でも、これが私の本音なんだ。なあ、受け入れてくれないか……?」
「無理ですッ!!」
「そうか。じゃあ、今ので私が傷ついたから美味しいご飯を作ってくれ。心を込めてな」
「傍若無人ってこういうことを言うんだろうなぁ」
あ、なんか悲しくなってきた。
仕事してる時はあんなにカッコよかった優梨愛さんの実態が、こんなおもしろバブちゃんお姉さんだなんて……。
俺、優梨愛さんに憧れてたんだけどなぁ……。
「あ、そうだ優梨愛さん。優梨愛さんって高校生の時ってどんな感じでした?」
「ふむ。今度からは制服姿の方がいいか? 確かに絶対領域が性癖だと言っていたな。わかった。少し恥ずかしいが通販で買っておくよ」
「誰もッ、一言たりともッ、そんなこと言ってないでしょうがッ!!!!!!」
「何、違うのか? 私はてっきり、ママになるならJKのママになりたいのかと思ったぞ」
「特殊性癖過ぎる!! 俺はそこまで歪んでませんが!?」
「と思い込んでいるだけ、という可能性は?」
「絶無ですッ!!」
ああもうダメだ。一向に話が前に進まない。
カレンちゃんと言い、何でこうすぐにふざけ始めるんだろうか。
俺か? 俺がすぐにツッコむからか? 今度から無視するか?
「ところで制服はセーラーとブレザーとシースルーだったらどれがいい?」
「最後の選択肢はおかしいでしょうがッ!! 何ですかシースルーの制服って!?」
「そういうものがあると飲み会で部長が言っていたぞ」
「それはセクハラじゃないんですか!?」
いや、無理だろ。
これにツッコみ入れないなんて、絶対無理だって。
「いや、もういいです。自分で考えて決めますから」
「なんでお前はすぐにそうやってさみしいことを言うんだ」
「優梨愛さんがすぐにふざけるからですが?」
「真面目な相談ならそう言ってくれ。でないと、お前と話してるのが楽しすぎて永遠にしゃべり続けてしまう」
「なんで微妙に俺が悪い感じになってるんですか……。まあ、いいですけど。えっと、最近アンチに粘着されてて──、」
「ほう。そいつを処せばいいのか?」
「そのアンチが知り合いのVTuberで、おそらく高校生っぽいって話です!! 処すって何ですか!!」
「どうしてアンチ行為なんてしたのかを激詰めする」
「あ、確かにそれは処されますね、メンタルが」
キッツいからなぁ、優梨愛さんの詰めって。
それで何度トイレに駆け込んだかわからない。
「要するに、その高校生が気になると言うことだろう? だったら簡単だ。ちゃんと話を聞けばいい」
「それをやろうとしたんですけどね。昨夜逃げられてしまいました」
「なるほど。だったら同じVTuber同士なんだから、コラボにでも誘えばいいじゃないか。そうすれば逃げられないだろう?」
「それはそうですけど、そもそも応じてくれないと思いますよ」
「誘い方によるだろう。そいつが本当にお前のアンチだと言うなら、リスナーが見ている前でお前をこき下ろせるような配信に誘えばいいじゃないか。応じないなら挑発でもしてやればいい。私の経験上、そういうやつは挑発してやれば十中八九誘いに乗ってくるぞ」
「たまに思いますけど、優梨愛さんって結構えげつないこと考えますよね」
「営業として結果を出したければ、感情を理解し、感情を操り、感情を利用しろと、お前にも教えたはずだが?」
「そうですけど、その場合チャットを晒されたら炎上する可能性もあるので、とりあえず普通に誘ってみます」
「何でもいいさ。とにかくモヤモヤすることがあるのなら、まずは行動してみろ。意外とスッキリするぞ」
バブってたかと思えば、急に仕事人な一面を見せてくる優梨愛さんって何なんだろうな。ギャップ差があり過ぎるだろ……。
だけど、優梨愛さんの言う通りだ。どうなるかわからないけど、モヤモヤと考えているくらいなら行動した方がマシだ。
『レオンハルトさん。よろしければ今度ゲームコラボをしませんか?』
これで応じてくれなければ、それはその時考えよう。
なんて思っていたら、あっさりと『OK』と返事が返ってきた。
……俺の周りって、何考えてるのかわからない人ばかりだな。
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