第38話 アンチは君だったのか。俺が追放されて以来だね
「ということで! お待たせしていましたが、無事にメンバーシップも開設することが出来ました!! 皆さんいつもあざまるうぃーす!!!!」
『入った』
って、早っ!? 誰だよ!? と思ったら案の定コミット米太郎じゃんか!!
優梨愛さんって本当に仕事してるの?
めっちゃ残業してるって言いつつ、実は家に帰って配信見てない?
「コミット米太郎さん、いつもあざまるうぃーす!! あ、どんどんメンバーシップに加入してくれてる。Mabyドン助さん、りりりっ独楽さん、佐藤楓さん、redさん、サン・丸出しさん、あざまるうぃーす!!!!」
いや、サン・丸出しはハンドルネームとしてどうなんだ……?
触れると微妙な空気になりそうだから、そのまま流すけどさ。
「あ、メンバーシップ記念のスパチャもあざまるうぃーす!!!! ちゃんとメンバーシップのバッジが着いてるのも見えてますよ。いいですね、これ。めちゃくちゃ嬉しいです!!」
本当にここまで頑張って来ててよかったよ。
収益化に続いてメンバーシップも開設出来たってなると、俺も一端のVTuberになれたんだって実感がより大きくなる。
チャンネル登録者数も順調に伸びて、4万人超えたしな! もう少し頑張れば5万人って思うと、もっともっと配信がしたくなってしょうがない。
営業時代も感じてたけど、やっぱり数字が伸びるってモチベーションになるな!
「えっと、『また誰かとコラボ予定とかありますか?』。リザーブルさん、スパチャコメントあざまるうぃーす! 今のところ次のコラボ予定は決まってないですね。ただ、また突発的にカレンちゃんとかとはコラボするとは思いますが」
『カレ虐期待』
『楽しみ!』
『いいね。待ってる』
「あとはそうですね。もし予定が合えば戸羽ニキとも久しぶりに何かやりたいなー、とは思ってます。色々と忙しそうにしてるんで、いつになるかわからないですけど」
『今度イベントあるしな』
「あ、そうそう。戸羽ニキっていうか、埼京さんや英さんもですけど、今度イベントあるんですよね。本当は現地参加したかったんですけど、チケット戦争に負けちゃいまして。おとなしく家で配信を見ようと思ってます」
『チケットもらえたりしないの?』
『関係者で入れると思ってた』
『頼めばくれそう』
「いやいやいや、何を言ってるんですか皆さん。そんなことをしたらもったいないじゃないですか。戸羽ニキたちトップVTuberのイベントですよ? 自力でチケットを勝ち取って現地参戦するからこそ、全力で楽しめるんじゃないですか。関係者チケットを貰うなんて甘えは許されません」
『ただのオタクで草』
『ガチオタじゃん』
『信者乙』
『ちなみに推しは誰なの?』
「推しは《鳳仙花ムエナ(ホウセンカ ムエナ)》さんですね。配信の空気感がめちゃくちゃいいので、見たことない人はぜひ見てみてください。あと、歌がバカみたいに上手いです。作業用BGMに歌枠を聞こうと思ったら、手が止まって聞き入っちゃうので、聞くならガチで聞いてください」
『ムエたんはいいぞ』
『歌上手いよね』
『推しトーク助かる。もっと聞きたい』
「推しトークですか? いいですけど、これ以上喋るとマジでただのキモオタになるんで自重しときます。いつか晩酌配信やるときとかにやりたいですね。あ、それかメン限配信とか。皆さんが知らない東野アズマのガチオタっぷりを見せてあげますよ」
ゲーム配信やコラボ配信も楽しいけど、こうやって雑談枠を取ってリスナーとコミュニケーション取るのもやっぱり楽しいな。
普段配信を盛り上げてくれるリスナーたちだからこそ、もっと色々と話したいと思うし、みんなが色んな期待を寄せてくれているのがわかって嬉しい。
ただ、その一方で──、
「それじゃあ、今日の配信はこれで終わります。みんないつもあざまるうぃーす!!!!」
『あざまるうぃーす』
『あざまるうぃーす!』
『あざまるうぃーす!!』
『あざまるうぃーす』
配信を終え、切り忘れがないか確認をしてふっと一息を着くと同時に、それを横目に見る。
『つまんな』
『カス』
『もうやめろよ』
ここ最近、配信中に必ずツイッターへ送られてくるDMのアンチコメントの数々。
内容は決まって一言で収まる暴言や罵詈雑言。
始めの内は送ってくる奴を全員黙ってブロックにしていたけれど、とある可能性に気づいてからは無視し続けている。
『無視すんな』
『返信しろよ』
『黙ってんなよ』
あくまで俺の予想だが、こうして送られてくるDMの数々は、複数アカウントから届いているように見えて、ひとりの人間が送ってきているんじゃないかと思う。
根拠は薄いけれど、全て捨て垢からのDMになっていること、決まって俺の配信中に送られてくること、そして配信ごとに送ってくるアカウントがひとつに絞られることにある。
まるでバイトのシフトで決まっているかのように、ひとつのアカウントからDMが送られてきている間は、その前やさらに前の配信でアンチコメントを送ってきたアカウントからDMが送られてくることはないのだ。
「さすがにおかしいよな」
そんなわけで、俺の中ではこのアンチコメントを送ってくるDMの主はひとりしかいないという見立てになっている。
だったら変に反応を返すより、無視を続けた方がいいだろうという判断だ。
きっとそのうち飽きてやめるに決まっている。
アンチコメントも配信と同じで、反応がなければモチベーションはいつか切れる。
それまで多少の我慢をすればいいだけだ。
なんかなぁ、こういう時に社畜としてしばかれまくってメンタルが強くなったって実感するのが、すっごい嫌だ。もっと純粋に傷つく方が健全って気がするけど、まあいいや。
「シャワーでも浴びるか」
配信はしゃべり続けるから、なんだかんだ終わったら汗をかいていることもある。
というか、単純にちょっとスッキリしたい。
と思いシャワーを浴びてきたら、さすがに看過できないDMが届いていたのを見つける。
『どうせ裏で女Vとヤッてるんだろ。クソビッチじゃん』
女Vが誰のことを指しているのかは知らないし、聞きたくもない。
ただ、もし今俺が仲良くさせてもらっている誰かのことを言っているのなら、それは許すことが出来ない。
『さすがにその物言いは失礼じゃないですか?』
無視をしようと決めてはいた。
ただ、それは俺へのアンチコメントに対してのみだ。
知り合いを侮辱する言動をされて黙っていられるほど、俺は大人じゃないし、ヘタレでもない。
『俺自身には何を言ってもいいですが、他のVTuberの方々を悪く言うのはやめてください』
DMを送り返すと、すぐさま既読マークがつく。
『は? お前ら全員雑魚だろ。雑魚乙』
『つまんないんだよ。お前らの配信』
『だったら見なければいいんじゃないですか?』
『うるせぇよ』
『カス』
ああ、これはダメだ。
何を言っても通じないし、相手にはコミュニケーションをとるつもりがそもそもない。
だったら──、
『そんなに言うなら、今度ゲームをしませんか?』
『俺が雑魚だってことを教えてくださいよ』
『は?』
『おもんな』
『カス』
『あなたが俺に勝てたら、カスでも雑魚でも好きに言ってくれていいですよ』
『ただ、もし俺に勝てなかったら、あなたが言った他のVTuberたちへの失礼な言葉を取り下げてください』
しばらくの無言。
そして送られてきたのは、いくつかの数字と『クロファイ』という一言だった。
数字は《大激闘!クロスファイトスターズ》のオンライン対戦時に使用するIDだ。つまりこのアンチコメントの主は、クロファイで勝負を仕掛けてきたってことになる。
上等だ。
クロファイなら俺が負けるはずがない。
そうして意気揚々と対戦相手が待つオンライン対戦部屋へと乗り込んだ俺は、早速ゲーム内のボイスチャットを使って相手に話しかける。
「さっき言ったこと、約束してください。俺に勝てなかったら、ちゃんと他のVTuberへ失礼な言動をしたことを謝ってもらいますからね」
『やだ』
「──え」
その驚きには二つの意味が込められていた。
ひとつは相手が応じてくれたことへの驚き。
そしてもうひとつは、そのあまりにも特徴的な声に聞き覚えがあることへの驚き。
「《レオンハルト・レオンハート》……?」
『ちちち、違う! 違うよ!? レ、レオンハルト? 何それ知らない』
「いやいや、声震えてるじゃないですか」
『そそそ、そんなことなし、──ないしッ!!』
明らかに図星な反応を示す相手。
男と言うよりは男の子といった印象の強い、いわゆるショタボイスと呼ばれる一度聴いたら忘れられなくなる声音。
俺はこの声の主を知っている。
なぜならレオンハルト・レオンハートは、デビュー直後に一度だけ、ボイスチャット付きの複数人ゲームコラボで一緒になったことがある相手だからだ。
声のイメージ通り、可愛い容姿の美少年アバターで配信を行うショタ系VTuber。
そして、かつてディスコード上にあった、《新人個人Vの励まし合い》サーバーの管理者。
つまりは、俺をサーバーから追放した張本人だ。
『レオンハルト・レオンハート? 何そのダサい名前。僕がそんなダサいわけないじゃん。バーカ』
「いや、自分でつけた名前じゃないですか」
しかし、なるほどな。
まさかカレンちゃんの他にも、わからせが必要なクソガキがいるとは思わなった。
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