第36話 リスナーの口角はきっと上がりっぱなし

『やったー! クラウンー!!』


「ナイファイー。GGー」


『当然ね』


 今日何度目になるかわからない『YOU GET THE CROWN』の文字を見つつ、ナーちゃんとミチエーリさんとねぎらい合う。


「お2人とチーム組んでると無限に勝てますね」


『イェーイ! 私たち最強ー!!』


『だから呼んだのよ。息抜きのゲームでストレスなんか溜めたくないもの』


「今、忙しいんでしたっけ?」


『締め切り締め切り&締め切りって感じね。日本一忙しいんじゃないかしら』


『ナキアってたくさん稼いでるの?』


『ふっふっふ』


『え、じゃあさぁ。アズマさんのこと養える?』


「──!? ミチエーリさん!?」


 何を聞いてるんだ、この人はッ!!


『美少女じゃないズマっちなんて養う気ないわよ』


「いつまでそのネタを擦り続けるんですか!? いい加減諦めてくれません!?」


『別の性癖がトレンドになるまで付き合いなさいよ。どうせ次の季節には変わってるわ』


「ファッショントレンドなんですか? ナーちゃんの性癖って」


『そうよ。今の季節は性転換』


「どこかに特集を組んでくれる雑誌があるといいですね」


『なければ私が作るわ。私の性癖着回しコーデを教えてあげる』


「いや、もう意味わかんないですよ。糖分足りてます? 頭働いてないですよね」


『実は三徹目なのは、ここだけの秘密よ』


「寝ろよ! ゲームなんかしてないで寝て、それは!!」


『甘いわよ、ズマっち。私の連続徹夜記録の最高は五徹よ』


「限界に挑まなくていいですから!! 記録より先に健康を守ってくれません!?」


 五徹は死ぬぞ、マズいっ!!。

 ていうか、それだけ徹夜しててのあそこまでのプレイが出来るって、やっぱりナーちゃんって化物なんじゃないの!?


『あ、やっぱり』


「? ミチエーリさん?」


 どうしたんだろう?

 なんかあったのか。


『今ね、私のコメント欄が『てぇてぇ』で埋まってるから、やっぱりそうなんだって思ったよ』


「普通に会話してただけですが!?」


 うわ、こっちのコメント欄まで!?


『てぇてぇ』

『てぇてぇ』

『アズマにママ味を感じた。おぎゃりたい』


 最後の違うなぁ!?

 って、コメントしてんのは《コミット米太郎》かいッ!! 優梨愛さんは、どこで『おぎゃりたい』なんて言葉を覚えてきたの!?

 ていうかさぁ、働き過ぎな人が多すぎないか? 

 頼むから健康に気を使って生きて欲しい。


『私、この締め切り地獄を抜け出したら温泉に行くのよ』


「死亡フラグを立てないでください」


『な~んにもしないでボーっと過ごしてやるのよ。そして美味しいものを食べる』


『いいなー。私も行きたい!!』


『あら。じゃあ、一緒に行く?』


『え、いいの!?』


『ミチェならいいわよ。うちに泊まりに来たこともあるもの』


『やったー!』


「……」


 俺は弁えているオタクなので、こういう時は口をつぐむのです。


『楽しかったわよね、あの時は』


『一緒にお風呂入ったよね! あ、そうだ。ねぇねぇ、ナキア』


『なによ』


『その時に撮ったナキアの写真をアズマさんに送ってもいい?』


「!?」


『は!?』


『この間ぴょんこさんのとこでコラボしたときに、アズマさんに送るねーって言ったんだけど、ナキアに許可取ってなかったなーって思って送ってなかったんだよね』


『ダメに決まってるでしょう!?』


『え、でもアズマさんは欲しいって言ってたよ?』


『ズマっち?』


「言ってませんが!?」


 アーカイブ見て、アーカイブ!!

 一言もそんなこと言ってないからね!?


『それはそれでムカつくわね。いいわよ、ミチェ。送ってやりなさい』


「ナーちゃん!?」


『私の美貌に恐れおののくといいわ』


「いやいやいや、そんなところで無駄に強気にならなくていいから!!」


『本当にいいの? コスプレ写真だよ?』


「だから何!? ていうか、何してるの!?」


『ミチェみたいな可愛い子が家に来て何もしないなんて、それこそありえないわ。普通コスプレ大会ぐらいするわよ』


「ナーちゃんは色んな意味で自重することを覚えてくれません!?」


『大丈夫だよ、裏でこそっと送るだけだから』


「だったらわざわざ配信で言う必要ないですよね!? 今まさしく全世界に配信されてるんですよ!?」


『本当に送ったのか否か。世界中が眠れぬ夜を過ごすわけね。おもしろいじゃない』


「何一つとしておもしろい要素ないですが!?」


 疲労と睡眠不足で何言ってるかわかってないでしょ!?


『アズマさん。炎上したらごめんね?』


「そう思うなら、最初から言わないでくれません!?」


『ほら、私も配信者だから』


「その盛り上げ方は絶対に間違ってますからね!?」


『でも、やっぱりリスナーの期待には応えないと』


「だったら普通にてぇてぇを供給すればいいじゃないですか!」


『私もそう思ったんだけど、私じゃてぇてぇの供給は出来ないから、代わりにアズマさんがやって?』


「あ、え!? 待ってハメられた!?」


 手口が鮮やか過ぎるだろ!

 プロの犯行じゃないか!!

 だが甘いな。この程度を切り返すぐらい、俺には造作もない!!


「ミチエーリさん、俺思うんですよ。てぇてぇって言うのは、やってもらうものじゃない、感じるものだって」


『キモいわね』


『うん。今のはキモい』


「それは酷くないですか!?」


『だってキモかったんだもの。何よ、てぇてぇは感じるものだって。鳥肌立ったわ』


「お~いおい。待て待て待て。普段下ネタ全開な人から、ここまでディスられるのは、おかしくないですか!?」


『私はいいのよ』


「なんでですか!?」


『安芸ナキアだから』


「これ以上ない最強の返しをしないでくれません!? 今もう何も言えなくなりましたよ!?」


『あー、これが夫婦漫才かー。私お邪魔? 敵と遊んでた方がいい?』


『先生ー。ここに味方をハブく不届き者がいまーす』


「だとしたら、ナーちゃんは共犯ですよね!? 何でひとりだけ言い逃れしようとしてるんですか!?」


『やっぱりお邪魔みたいなので、敵と遊んで来るね』


「そんなことないですから!! 大丈夫です! 一緒に行きましょう!!」


『えー、でもナキアは『構ってくれるの嬉しい』って言ってるよ?』


『……何言ってるの、あんた』


『今日ねー。私にゲームしよーって連絡してきたときなんだけどー』


『ミチェ、あんた黙りなさいッ!!』


『やだー。私をひとりぼっちにした罰でーす。でね、今日あと一人誰を誘う? ってなった時にね。私が『アズマさんはー?』って言ったの。そしたらナキア、なんて言ったと思う?』


『ミチェ!! ミチェ!! 何か、何か欲しいものはないかしら!? 何でもいいわよ!? 私が何でも買ってあげる!!』


『もう、ナキアうるさい。私今、リスナーと話してるの』


『敵敵敵!! あそこに敵がいるわ!! ほら、ズマっちも! 行くわよ!!』


「あ、はい。えっとー……?」


『何も言わなくていいの!! とにかく敵を倒すことに集中しなさい!!』


 ナーちゃんのこの慌てぶり。

 多分まあ、そういうことなんだろうなぁ。

 でも、ここで下手に口を挟むのもダメな気がするし。

 よし! とにかく今は敵を倒そう!!


『ナキアがね、『私から誘ったら、構ってもらいたがってるみたいじゃない……』って言ったんだよ!! 恥ずかしそうにしながらッ!! きゃはーーーーーーーっっっっ!!!!!』


『ミチェーーーーーーーーーッッッッッッ!!!!!!!!!!!』


『ね、ね、すごいでしょ!? 私もうすっごい興奮しちゃってさ!! 今日の配信始まってから、ずっとこの話をしたくウズウズしてたんだよ!!』


『黙れ黙れ黙れ』


『それでね、それでね。私が『アズマさんと一緒にやりたくないの?』って聞いたら、『それは違うじゃない……』って言うんだよ!! あっはぁッ!! てぇてぇなぁッ!!!!』


『ミチェあんた、本当に黙りなさい』


『あ、はーい。黙るー。怒られたー』


『ズマっち』


「はい。何でしょう」


『違うのよ!?』


「ええ、存じております。大丈夫です。何も心配しないでください」


『本当に違うのよ!?』


「100%、パーフェクトに承知しています。任せてください」


『ううん、なんか不安ね。ちょっと配信終わったら、ちゃんと話すわ』


「あんた締め切りは!?」


『締め切りより大事なものが世の中にはあるのよ!!』


『はい。お後がよろしいようで。クラウン獲ったし終わる?』


「この流れでよく終わろうと出来ますね!?」


『だってナキアが……、』


『ミチェ。あんた今日はもう本当に黙ってなさい』


『ほら。黙ってろって言うし。だったらもう配信出来ないし、終わるしかないよ』


 いや、うん。まあ、確かにそうね。


『ということで、今日の配信はこれまで!! みんなありがとう!! みんなの一日に、幸せあれ!! ばいばーい』


『終わるわ』


「あ、なんかもう本当に終わりみたいです。えっと、皆さん、あざまるうぃーす!!」


『ナキアとアズマさんはゆっくりしててもいいよ?』


『ミチェ!!』


 ちなみにこの日の配信は、かつてないほどに『てぇてぇ』というコメントが流れていたことだけは言っておく。

 だから何ってわけじゃないけどな!!

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