第34話 てぇてぇは外堀から埋められていくんだよなぁ

『ぴょんぴょこり~ん。月々ぴょんこだよ~。今日は~、大会後恒例の~、気になったVTuberへのインタビュー配信だよ~。ということで~、早速自己紹介をお願いします~』


『はーい! ミチエーリです。よろしくねー』


「あざまるうぃーす! 東野アズマです。よろしくお願いします!!」


『個人最強を獲ったミチェちゃんと~、色んな意味で話題沸騰中の新人VTuberである~、ズマちゃんです~』


 色んな意味っていうのが、引っかかるなぁ!?

 この間の戸羽ニキたちとの配信以降、雑談枠とかしててもリスナーから聞かれるようになって大変なんだぞ!?


『せっかくなので~、3人でゆる~くEX.をプレイしながら~、大会の感想とかは聞いていきたいと思います~』


「袈裟坊主さんはいないんですね」


『大会後のインタビューは私の趣味だからね~。誘うのも私が気になった人だし~。私がやりたくてやってるんだよね~』


『私、優勝してなかった時にも呼ばれたよ』


『だって~、ミチェちゃんってめちゃくちゃ暴れまくる時あるし~』


『私、最強ッ!!』


「それは間違いないです。今回の大会のキル数もヤバかったらしいじゃないですか。ツイッターで見ましたけど、5試合で28キルは化物過ぎません?」


『今度から~、ミチェちゃんを誘うチームは~、3人一組じゃなくて~、2人一組にするルールに変えようかな~』


『え、おもしろそう! やろうよ、それ!!』


「そこでノリノリなのが、強キャラの証ですよね」


 いくつか大会の切り抜き動画を見たけど、ひとりだけ別ゲーやってるんじゃないかって思ったからな。

 参加者全員、かなりガチで臨んでるし、その分立ち回りとかチーム連携だってしっかりしてるはずなのに、全部を蹂躙していってた。

 あれを見て思ったね。

 ミチエーリさんが戦車って呼ばれてるのは正しかったんだって。


『あ、そっちいるから行ってくるね』


「スキャン入れておきますね」


『ありがと~!!』


『私とズマちゃんはこっち警戒してるね~』


 今だって普通にひとりで敵を倒しに行ってるし。

 カジュアル戦とは言え、相手3人いるよ!?


『勝った!! こっちおいでよ』


『了解~』


「当り前のように勝ちますね」


『うん! 強いでしょ?』


「強すぎてビビりました。大会中もずっとお手本にしてたんですよ」


『私を?』


「はい。ミチエーリさんのジブロンドが強すぎるんで、何か参考にならないかなーって思って、動画見て勉強してました」

『え、嬉しいー! それめちゃくちゃ嬉しいんだけど!!』


『ミチェちゃんのジブロンドって~、強すぎて参考にならないって言われるけど~、ズマちゃんは違ったの~?』


「いや、ぶっちゃけ強すぎて参考にならないとこもありました。『え、何それ!?』って何回ツッコんだかわかりませんよ」


 これ絶対勘だ! ってムーブをしてるシーンとかも多かったからなー。


「強いのはわかるけど、なんで強いのかわからん!! って、裏で戸羽ニキやナーちゃんに愚痴ってたりしたんですよ、秘密ですけど」


『もう言っちゃってるよ! 秘密じゃないじゃん!!』


『でもでも~、最終戦の対面では勝てたよね~?』


「あれはその前の乱戦でミチエーリさんが削れてたからですね。ダメージトレードは絶対に勝てないって思ってたんで、とにかく先にミチエーリさんが安地外に出るように立ち回って、何とか勝てました」


『え!? あの時そんなこと考えてたの!?』


「はい。じゃないと勝てないですから」


『すごいよ!! それすごいって!! あの場面でちゃんと周り見れてるじゃん!! 私、絶対無理!!』


 ……さっきから思ってたけど、ミチエーリさんってめちゃくちゃいい人じゃない?

 すごい褒めてくれるし、素直に喜んでくれるし、話しててものすごく気持ちいいぞ!?


『ねぇねぇ、アズマさん』


 あと、人懐っこい印象。ん~、なんだろう。元気で明るい大型犬って感じ。


「なんですか?」


『このマッチ終わったら1vs1やらない?』


「え、マジですか? 俺じゃ絶対にミチエーリさんに勝てないですよ」


『だって悔しいんだもん! 最後に負けたのが!!』


「それ以外は勝ってるじゃないですか!! 俺、何回かミチエーリさんと対面しましたけど、勝てたのあの1回だけですよ!?」


『だから悔しいの!! あそこでも勝ちたかったの!!』


『ズマちゃん~、諦めな~。ミチェちゃんってものすごい負けず嫌いだから~、1vs1をやるまでず~っと言い続けるよ~』


 マジかよ。

 それは知らなかった。


「わかりました。このマッチでクラウンが獲れたら1vs1をやりましょう」


『やったー! よーっし、敵はどこだー?』


『気づいてると思うけど~、ミチェちゃんはやるよ~?』


「それはそれで見て見たいなって思いまして。敵のミチエーリさんしか知らないので」


『味方は味方で大変だよ~? ほら~、早速走り出してる~』


『敵敵敵ー! どこだー!!』


 うーん、なんていうか。さすが戦車。


『ミチェちゃんのことを~、バーサークタンクって呼ぶ人もいるからね~』


「あはは! マジですか!?」


『だってあれだよ~? 狂戦士にしか見えないでしょ~』


『大会中は血を鎮めてるんだよ!! あと本能も!!』


「発言がマジもんの狂戦士じゃないですか!?」


『ちなみ~、このあとの1vs1なんだけど~』


「あ、もう1vs1やることは確定なんですね」


『ああなったミチェちゃんがクラウンを逃すはずないしね~。ランク戦ならまだしも~、カジュアル戦だし~』


『クラウンはすでに、我が手にあるッ!!』


 ノリノリ過ぎだろ。楽しいからいいけど。


『1vs1って~、何か罰ゲームとか賭けるの~?』


「え、そんなつもりは──、」


『おもしろそうだから賭けよう!!』


「え!? ミチエーリさん!?」


『さすがミチェちゃんだね~。ズマちゃんは~? 配信者でしょ~?』


 その煽り方は卑怯だろ!! 逃げられないじゃん!!


「内容によりますね」


『うわ~、逃げ腰~』


「だってミチエーリさんとやるんですよね!? 負ける確率の方が高いですよ!?」


『それをひっくり返すカッコいいところが見たいな~』


『見たい見たい!!』


「対戦相手に期待されてるのはおかしくないですか!?」


 強キャラのセリフじゃん、そんなの!!

 我を負かせる強者はどこだ……、的なノリでしょ!?


『大丈夫だよ!! ぴょんこさんはひどいことしないから!!』


『そうだよ~。私を信じてよ~』


「だから罰ゲームの内容次第だって言ってるじゃないですか。一体何をさせようって言うんですか!?」


『簡単過ぎて拍子抜けするよ~?』


「いいから教えてください」


『私から10個質問するから~、それに答えてもらうだけ~』


「お断りします」


『なんで~? 10個の質問に答えてくれるだけでいいんだよ~? インタビューだと思ってさ~』


「絶対にッ、嫌ですッ!!」


『だからなんで~?』


「わかりました。じゃあ、その10個の質問を教えてください。その中にナーちゃんに関する質問がないなら受けましょう」


『……ないって』


「ダウト!! その間と、喋り方はダウト!! 絶対に入ってますよね!?」


 どんな地雷が埋まってるかわかったもんじゃない。

 そんな罰ゲーム受けてたまるか!!


『しょうがないな~。じゃあ~、質問は1個だけにするから~』


「何を聞くつもりですか?」


『ナキちゃんのことどう思ってるの~?』


「減らした意味はッ!?!? 質問を減らす意味ありました!?!?!?!?」


『私~、ショートケーキのイチゴは絶対に食べる派なんだ~』


「誰だってそうですよね!? だから先に食べるか、後から食べるかって問いかけが成り立つんですよね!?」


『じゃあ~、私が袈裟坊主をどう思ってるか教えてあげるから~』


「どこにトレード要素があります!? まさかそれで等価交換になると思ってませんよね!?」


『あ、私ナキアの写真持ってるよ!』


「だから何ですか!?」


『欲しくないの?』


「──ッ!」


 あっぶな。よく直前で言葉をひっこめた。

 罠だ。これは罠だ。

 いらんわ! って答えたらワンチャン炎上コース。

 いる! って答えたら絶対にからかわれる。

 よくぞ気づいた、俺。偉いぞ。さあ、この危機を無事に乗り切ろう!!


『ねぇねぇ、欲しくないの?』


「あ、ラスト1組ですね。サクッと倒して配信を終えますか」


『逃がさないよ~?』


『あ、死んじゃったー。これはもう一回だね』


「まさかの自殺!? 絶対に逃がす気ないじゃないですか!!」


 今、悟った。

 てぇてぇっていうのは、こうやって外堀を埋められていくんだ。

 ……さて、そうとわかれば、配信終了まで逃げ続けるぞ~。

 頑張れ、俺。ファイト!!

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