第33話 ハッシュタグは《社畜の異世界転生》かな
『我が魂永遠に滅することなく。戸羽丹フメツです。よろしくお願いしまーす』
『我が極めしは比類なき一刀。埼京ツルギ。お願いしゃーす』
『我が歩みこそが王道。英雄です。よろしく頼むぜ!』
「あざまるうぃーす! 東野アズマです。今日は兄さん方のコラボにお邪魔させていただきます。よろしくお願いします!!」
なんか俺だけ場違い感すごくない!?
ひとりだけ異世界転生した現代人みたいになってるよ!?
『生あざまるいただきましたぁ! いいじゃないスか。俺も今度から使っていいッスか?』
「埼京さんならもっと立派な挨拶ありますって。もったいないですよ、こんなペラッペラな言葉を使うのは」
『ペラッペラって! 自分で言っちゃう感じッスか!?』
「元営業なんで、ガツガツ行かせてもらうつもりですよ?」
『よし来ーい!! ドンドン来ーい!! せっかく遊ぶんだからな。絡まないともったいないぜ!!』
「お手柔らかにお願いします。トップVTuber3人に囲まれてバチバチにプレッシャー感じてるんですから」
『圧を感じてるのは僕らだけどね。アズマさんのハンターレベルが高すぎて引いてるよ』
「いやいやいや、ハンターレベルなんてお飾りですよ。プレイしてれば勝手に上がっていきますから」
『とか言っちゃって~? 本当はちょっとイキりたいんじゃないんスか~?』
「そんなわけないじゃないですか。ここでイキったら配信のハードルめちゃくちゃ上がっちゃいます」
『男ならばハードルのひとつやふたつ越えてみせようぜ! リスナーだってそんな姿を期待しているはずだ!!』
「エグいですって、その煽り。勘弁してくださいよ」
ヤバい。マジでヤバい。
戸羽ニキとのクロファイ配信やEX.大会とは、また別の緊張で胃が痛い。
ていうか、マジで俺場違いじゃない?
なんでチャンネル登録者数3万の俺が、チャンネル登録者数50万越えのトップVTuber3人とコラボしてるの!?
あー、ヤバい。プレッシャーが、プレッシャーで胃がねじ切れそう。
『まあ、そんな感じで。今日は僕、ツルギ、雄のいつもの3人に加えて、EX.大会で僕と一緒のチームだった東野アズマさんの4人で《クリーチャーハンター》をやっていこうと思いまーす』
《クリーチャーハンター》。略してクリハンとも呼ばれるゲームは、国内外問わず人気を集めるハンティングゲームだ。
大型のモンスターに対して、プレイヤーは10種類を超える武器の中から好きな武器を選び狩りを楽しむと言うのが、大まかなコンセプトだ。
狩ったモンスターからはぎ取った素材を使って武器や防具を作り、自分だけの最強装備を作っていくやりこみ要素もあるが、個人的にはクリハン最大の魅力は最大4人でパーティーを組み、協力してモンスターを狩るというマルチプレイにあると思っている。
俺と同世代の人なら、学校にこっそり持ち込んだポータブルゲーム機で放課後に友達と一緒にクリハンをプレイして楽しみ、教師にバレて怒られたなんて思い出を持ってる人もいるんじゃないかと思う。
あれ、当時も楽しかったけど、今思い返しても『青春!』って感じがしてめちゃくちゃ楽しかったなぁ。
『雄。今日オレたちはキャリーしてもらえるっぽくないスか?』
『そうだな! 今から風呂に入って来てもいいかもしれないな!』
『あ、じゃあ僕は宅配頼んでいい? お腹空いてきちゃった』
「いやいやいや、何言ってるんですか? コラボなんだから一緒にやりましょうよ」
『だけどな。このレベル差を見てしまったらな。英雄という自分の名前が恥ずかしくなってくるな……』
『レベル差200だもんね。いや、すごいよ。アズマさんどんだけやりこんでるの』
『これが俗に言う異世界転生チート系主人公ってやつッスか!?』
「違いますから。俺が転生したのは異世界じゃなくてVTuberですから」
『あ、そうじゃん! アズマさんってちゃんと転生設定持ってるじゃん!』
『どういうことだ?』
『何スか、転生設定って』
『初めて会った時に言ってたんだよね。俺は社畜からVTuberに転生したんだって。めっちゃカッコつけて』
「つけてないですって! ああもうほら、さっさとクエストに行きましょう!!」
『キャリータイムの始まりだぜ!!』
『あ、俺が採取しててもほっといてくれて大丈夫ッスから』
『あれ、ガチ装備で来たのって逆に空気読めてない?』
「そういうのやめましょうって! みんなで楽しみましょう!! せっかくのコラボじゃないですか!! 仲良くしましょうよ!」
これ酒飲んでから参加した方がよかったんじゃないか……?
オイラカートの時はとにかく全員バカみたいに酔ってたから何とかなったけど、今のこの感じ結構キツイぞ?
『じゃあ、仲良くなるために質問いいッスか?』
「もちろんです!」
ありがて~。そういうの待ってた!!
やっぱりね、初対面はお互いのことについて知るのが大事だよね!!
コミュニケーションの基本は自己紹介と挨拶って、新入社員時代に優梨愛さんから百回は言われたな。
『ぶっちゃけ安芸先生のことどう思ってるんスか?』
「一発目からそれ!? もうちょっとありません!?」
『何言ってるんスか。え、今日のコラボを何のためにやってるかわかってます?』
「少なともその話をしに来たわけじゃないですよ!?」
『どうなってるんだフメツ!! 話が違うぞ!!』
『あれ、おかしいな~。僕はちゃんと送ったと思ったけど……。あ、ごめんアズマさん。文章が途中で切れっちゃってたよ~。あはは~』
「それ絶対に確信犯じゃないですか!! いじめ!? いじめですか!? トップVTuberが新人をいじめて楽しいんですか!?」
『いじめなんてそんなことあるわけないじゃないスか。俺たちとお前の仲だろ? な、アズマ』
「いきなり名前呼び!? 一緒のチームだった戸羽ニキだって、まださん付けなのに!?」
『あれ、僕はもうアズマって呼んでたと思ったけど?』
「絶対嘘! 絶対呼んでない!! ていうか、EX.大会で優勝したらさん付けはやめるって約束だったじゃないですか!」
『最後クラウン獲ったし、優勝みたいなもんだよ。大丈夫大丈夫』
「俺的にはアツい約束って思ってたんですけど!? そんな雑に変えられるようなもんだったんですか!?」
『そうッスよねぇ? まあ、オレはフメツと違って優勝してるし、呼び捨てでも構わないってことで』
「構いますから!! そもそも一緒のチームですらないじゃないですか!!」
『そうだぞ。その点俺は、同じチームでもないし優勝もしてないな! だが心は通じ合ってる。そうだろ、アズマ!!』
「一番わけわかんない理由で入ってこないでくれます!?」
『よし、わかった。俺は今日からアズマに弟子入りする。それならいいだろう?』
「尚更わけわかんなくなりましたよ!? ていうか弟子入りって!! 何の!?」
『決まっている。モテだモテ』
「モテ……?」
え、いや、本当に何?
何の話をしてるの……?
『あの安芸ナキア先生とてぇてぇな関係になったアズマならきっと、女性ライバーから『暑苦しくて無理』だの『運動部で活躍してもモテなさそう』だの『残念イケメン』だのと言われ続けた俺のことを、誰もが認めるモテ男にしてくれるはずだ!!』
「勝手に変な期待しないでくれません!?」
『え、無理なのか……?』
「そして勝手に失望しないでくれません!? 俺に何を求めてたんですか!?」
『モテの伝道師として、ぜひ俺を導いて欲しい』
『雄、真剣なところ悪いけど、今僕らが聞きたいのはモテの秘訣じゃないんだ』
『そうッスよ。オレらが気になってるのは安芸先生とのことッス!!』
『リスナーの男女比率が4:6なお前らに何がわかる!! 俺のチャンネルを見てるリスナーの男女比率は9:1だぞ!? 何だったらたまに女性リスナーの比率が1割を切るんだぞ!?』
『ああ、うん。それは頑張れって思うけど、今じゃないんだよね』
『今度アズマと2人でコラボしたときにでも聞けばいいじゃないスか』
『おお! いいな、それ! アズマ。今度モテ講座コラボをしよう!!』
「嫌ですよ!?」
『なんでだ!? 俺を見捨てるのか!?』
『だからほら、雄はちょっと黙っててって。あ、クリーチャー来てるよ。ほらハントハント』
いやいやいや、あしらい方よ。
ていうかクリーチャーに襲われてるのは俺たちも同じだからね?
『実際だよ? ナキア先生とてぇてぇになれる男性ライバーがいるなんて思ってなかったんだよ、僕らは。ていうか、業界全体的に。リスナーだってそうでしょ?』
ちょっと待てリスナー。
戸羽ニキの枠で見てるならともかく、なんで俺のとこで見てる人たちまで一斉に『それな』『わかる』『奇跡の男』なんてコメントしてるんだよ。
『ちなみに、昨夜からオレのところにも色んなVTuberからめちゃくちゃ連絡来るッスよ。実際あの2人ってどうなんだって』
「それは聞き捨てならないですよ!? そんなやりとりしてるんですか?」
『そうッス。となると、オレとしてはこう言うしかないじゃないスか。まあ、待て、と。オレが確かめて来るから、まあ待て、と』
「断りましょうよ!! なんで代表格になっちゃったんですか!?」
『僕もツルギと全く同じやりとりしてきたよ』
「戸羽ニキ!?」
『わかる? アズマさん。いや、アズマ』
「わざわざ言いなおす演出とかいらないですから」
『今、みんなが注目してるんだよ。安芸ナキアのてぇてぇは、果たして本物なのかってッ!!』
「だったらナキア先生に聞いてくださいよ! 埼京さんも!!」
『嫌ッスよ。安芸先生、怖いじゃないスか』
「ヘタレ!! トップVTuberがそんなんでいいんですか!?」
『人間、時には恥も外聞も捨てる必要があるんだよ』
「そうかもしれないけど、間違いなく今じゃないですよね!?」
『一言でいいんスよ。たった一言教えてくれるだけで。ほら、いいじゃないスか。みんなが待ち望んでるんス』
「言うわけないですよね!? 今、一体何人のリスナーが見てると思ってるんですか!?」
『2万5千人』
「絶対言いませんからね!?」
『じゃあ、代わりにモテの秘訣を教えてくれ!』
「それも嫌です!!」
英さん、あなたも必死なんですね……。
そんなあなたを、俺は嫌いになれそうもありません。
頑張りましょう。お互いに色々大変でしょうけど。
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