第30話 アルコールとはガソリンの同義語

『どけどけどけどけーーーーーーーーッッッッッ!!!!!』


『お前マジふざけんなッ!!!!!!』


『誰今ぶつかってきたの!?』


『待って待って待って!! 置いてかないでッ!!!!!』


『はい雑魚。ウェーイ』


『あれあれぇー、遅すぎませんー?』


『はぁ!? 舐めてんじゃないわよッ!!』


『あはははっはははっははっはははっ!!!!!!』


「誰誰誰!? 今の誰ですか!?!?!?」


 もうグッチャグチャだよ!!!!

 口悪いし、暴言バンバン出るし、みんな酔い過ぎじゃない!?


『はいトップー。あれー? みんな遅過ぎじゃないスかぁ???』


『あ、やっと1位取れたんだね。おめでとうー』


『おまわりさーん。煽り運転してる人がいまーす。逮捕逮捕ー』


『まぐれでもトップが取れると嬉ちぃでちゅねー。よかったでちゅねー。パチパチパチー』


『人の実力もろくに計れない人がなに言ってるんでちゅかー?』


『バブちゃん? バブちゃんいる? 私も赤ちゃんになるー。ママー』


『うわキッツ』


『それはない』


『ヤバいね、今の』


『何食ったらあんなこと言えるようになるんだろう』


『あんな大人にはなりたくないね』


『煽り過ぎじゃない!?』


「あははっはははっははははははは!!!!!!」


 ヤバいって! 笑い過ぎて腹筋よじれる!!

 あー、おもしろ。酒と大会終わりのハイテンションでわけわかんなくなってる。


『てか、もう2時間経ってるのヤバくない?』


『え、もうそんなに経ってる!?』


『全然気づかなかった』


『楽しすぎてヤバい』


 もう誰が何をしゃべってるのかすらわからない。

 とにかく集まった各人が好きなことを好きなように話すせいで、会話なんて1ミリたりとも成り立っていない。

 それでもめちゃくちゃ盛り上がってるのは、やっぱり酒の力かなぁ。


『っておい! 誰だよレース始めたやつ!!』


『終わる流れだったじゃん』


『はあ? 寝かせると思ってるの?』


『まだまだまだーッ!!!』


 あーあ、また始まっちゃったよ。

 楽しいから全然いいんだけどさ。


『行くぜ行くぜ行くぜ!!!!』


『わざわざ負けに来るなんてみんなバカッスねぇ』


『お、出たねフラグ芸。もう伝統芸能の域に達してるよね』


 どれだけ煽りあおうが、どれだけ酔っていようが、表示されたカウントが3から2に変わった瞬間、全員スタートダッシュの準備を始める。

 まあ、俺もなんだけどさ。やっぱりやりこんでようがそうじゃなかろうが、ゲームで負けるのは嫌じゃん?


『まさかスタートダッシュをミスる人なんかいないッスよねぇ?』


『え、そんな奴がいるのか!?』


『まさかねぇ』


『煽り過ぎー!!!! あはははっはははっはは!!!!!』


 EX.大会の打ち上げとして俺たちが死ぬほど盛り上がっているのは、《オイラカート8》というレーシングゲームだ。

《大激闘!クロスファイトスターズ》と同じゲームメーカーが作っているゲームで、タイトルナンバリングが『8』となっている通り、長い間ファンから愛されている長寿シリーズだ。

 レーシングゲームなだけあって、プレイヤーのドライビングテクニックが重要になるゲームだが、それ以上にゲームを盛り上げているのが、レース中に獲得出来る各種アイテムだ。

 スピードアップ系に妨害系、一発逆転が狙える打開系と、獲得できるアイテムによってレースの順位が目まぐるしく変わる運の要素が、このゲームを盛り上げる最大の要因だろう。

 アイテムの引きでどうにでも結果が変わるから、今日みたいに酒を飲んで盛り上がりながらやるには最高のゲームのひとつだ。


『オラオラオラァッ!! 轢くぞー。轢いちゃうぞーッ!!』


『てめぇ!! ふざけんなぁッ!!』


『おい誰だよ!! いちいちぶつかってくるなって!!』


 とまあ、白熱するとこうして煽り合い、罵り合い、暴言に罵詈雑言が飛び交うようになるのが玉に瑕かもしれない。


『ひっでぇwww』

『暴言やばwww』

『草しか生えないwww』


 ……リスナーが楽しめてるなら、いいのかもしれないけど。


『はい、1位ー!!』


『クッソ、最後負けたー!!』


『はいはいトップすごいトップすごい』


 最初はもうちょっとおとなしかったんだけど、みんな酒を飲んでるせいか時間が経つにつれてドンドンひどくなっていく。

 だけど何だろうね。アルコールで醜態をさらしてると、これぞVTuber!! って気分になってくるんだよね!


『あ、私そろそろ時間だわ』


『え、誰? 抜けようとしてるの』


『そんな人いるー?』


『中抜けッスかー?』


 いやいやいや、君らそれ誰を煽ってるかわかってる?


『今私を煽った人たちは全員、私の同人誌でネタにされる覚悟があるってことでいいかしかしら? 安芸ナキアを煽るとどうなるか、たっぷり教えてあげるわ』


 ……あ。


『あ』


『あ』


『あ』


 みんなして同じ反応してるの、本当に滑稽なんだけど。


『あ』

『あ』

『あ』


 リスナーたちまで。よかったぁ、余計な口を挟まなくて。


『それともズマっちと一緒に美少女になる方がいいかしら?』


「なんで俺を巻き込むんですか!?」


 とばっちり過ぎる!!


『てぇてぇ』

『てぇてぇ』

『てぇてぇ』


「待て待て待てッ!! 今『てぇてぇ』ってコメントした人たちッ!! どこにてぇてぇなやりとりがありましたッ!?!?」


『そこの男連中のBL本と、美少女化したズマっちと私の百合だったら、どっちの方が需要あるかしら』


『百合本』


『百合本』


『百合本』


「待って待って待って!? それはちょっと待ってくださいッ!! 性転換したとはいえ元が男なら、それは百合とは呼びませんッ!!!!」


『そっちなんだ』


『もう美少女化されることは受け入れてる』


『新しいバ美肉の形だ』


「美少女化も受け入れてませんから!!」


『ということらしいから、BL本で決定ね』


 もうさぁ!! 何この会話!?

 明日起きたら絶対に後悔してるやつじゃん!!


『というか、普通にナキア先生とアズマさんのイチャラブ本を書けばいいんじゃない?』


『それはちょっと、……違うわね』


『『『『『『『FOOOOOOOOOOOOOOOOOO!!!!!!!!!!!』』』』』』』


「どこで盛り上がってるんですか!?」


『ヤバい。ナキア先生がメスを出してきてる』


『ナキアズ来た』


『てぇてぇ』


『てぇてぇ』


『てぇてぇ』


『てぇてぇ』


『ナキア先生の照れ方がガチ』


『…………。違うわよ』


 やめろって!!!!

 ナーちゃんもさぁっ、否定するならいつもみたいに強気で否定しようよッ!!

 そういう反応するからからかわれるんだよ!?


『それじゃあ、あとはお若い2人にお任せすると言うことで』


『そうですね。もういい時間ですし』


『いやぁ、楽しかったですね』


「いやいやいや、この流れで終わるのおかしくないですか!? もう1レース! もう1回やりましょう!!」


『どうぞどうぞ。我々は先に落ちるのでナキア先生と仲良くどうぞ』


「だぁから、なんで!? みんなで楽しく遊びましょうよ!!」


『いやいや、そんなねぇ? てぇてぇの間に挟まるなんて出来るわけないじゃん』


『そうそう。その方がリスナーも喜んでくれそうだし』


 やめろってマジで!!

 本当に同接者数が増えてるから!!

 勘弁してくれ!!


『はい。それじゃあ、宴もたけなわではありますが、今回の配信はこれまでということで。お疲れ様でしたー!!』


 いや、マジで終わるの!?

 うわ、みんなして配信落ちてくし!! どうすんだよ、これ!!


『…………』


「…………」


 そして見事に俺とナーちゃんだけが残されると言うね。


『……何か言いなさいよ』


「……楽しかったです。またやりましょう」


『しょうがないから付き合ってあげるわ。お疲れ様』


「お疲れ様でした」


 ティロンと軽快な電子音と共に、ナーちゃんも落ちる。


『てぇてぇ』

『てぇてぇ』

『てぇてぇ』

『てぇてぇ』

『てぇてぇ』


 うるさいぞ、コメント欄!! そういうのじゃないから!!


「皆さんも遅くまでありがとうございました!! それじゃあ、また配信でお会いしましょう!! あざまるうぃーす!!!!」


『てぇてぇ』

『てぇてぇ』

『てぇてぇ』

『てぇてぇ』

『てぇてぇ』


 挨拶ぐらいちゃんとして!! お願いだから!!!!


 そして後になって気づいたが、この日俺のチャンネル登録者数は2万人も増え、とうとう登録者数が3万人を突破したのだった。

 ……EX.大会のおかげだよな? ナーちゃんとのてぇてぇ目的じゃないって信じるぞ?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る