第15話 札束で殴らないでください! 俺が狂っちゃいます!!

『アズマさん。収益化通ったら、やっぱり宅配サービスとか頼めちゃうんですか?』


「頼んじゃったよねぇ。めっちゃ贅沢―っ!! って思ったけど、収益化通った後ぐらいはいいかなって思ってやっちゃいました」


『いいなあ。わたしも早く収益化したい!』


「行けますよ! カレンちゃんのチャンネル登録者数も少しずつ伸びてきてるじゃないですか」


 実際カレンちゃんのチャンネル登録者数も伸びてきており、もうちょっとで1000人に届きそうなところまで来ている。

 そうなれば収益化の申請が行えるようになるので、俺としても応援したい限りだ。


『今わたしは欲しいものリストに助けられてますからね。リスナーさんが送ってくれるおかげで生きながらえてます』


「わかります。俺もそうでした。水とかお茶を送ってくれるのがめちゃくちゃありがたいんですよね」


『あー、わかる! 2L×10本で1000円近くするのか……、とか思っちゃうんで!』


「それですそれです! 水は高いけど水道水はちょっと……ってなったりするので、欲しいものリストから送ってくれると本当に助かるんですよね」


『なんて貧乏くさいことを言ってるアズマさんも、ついに収益化。宅配サービスを使うようになっちゃうなんて……。遠くに行っちゃいましたね、アズマさん』


「カレンちゃんもすぐに追いつける距離ですよ」


『あ、今度わたしの家に宅配サービス頼んでおいてください』


「住所も郵便番号すら知りませんから!! やめてくれません!? そういう誤解を生むようなことを言うの!!」


『えー、いいじゃないですか。匂わせてぇてぇって憧れません?』


「炎上するリスクがあるならごめんこうむります」


 本当に勘弁してくれ。こんな界隈の片隅で息をしているようなVTuberに誰も見向きもしないだろうけど、それでも炎上リスクは回避できるならしておく方がいい。


『わたし、アズマさんとなら噂になってもいいですよ』


「だからやめてくださいって言ってますよね!?」


『キャー、怒られたー♪』


 このっ、最近ますますメスガキムーブに拍車がかかってる気がするんだが!?

 って、え!?


「コミット米太郎さん!?」


『え、え? 何ですか?』


「あ、いや。すみません。うちのリスナーなんですけど……、その」


『何々? 何ですか? もしかして荒らしコメとか……?』


「いや、そんな物騒なものではないんですけど……」


 逆に荒らしコメの方がいいんだよなぁ!?


「……赤スパをいただいてしました」


『え!?』


「しかも限界赤スパ……」


『5万円!?』


「ちなみに、……二日連続です」


『えぇッ!? え、え、二日連続って。二日連続で赤スパッ!?』


「うん、そう」


『はぁあッッッ!?!?!?!? なんですかそれッッッ!?!?!?』


 俺が聞きたい。いや、マジで?

 だって、10万円だよ?

 この二日間で10万円だよ? 意味わかんなくない!?


『どういうことですか、それ!?』


「俺が聞きたいですよ!! いや、ありがたい。ありがたいんですよ!? たださぁ、こんなに限界赤スパなんて投げられると、どうすればいいのかわかんなくなるんですよ!?」


 あまりの衝撃に今めちゃくちゃ脳内バグってる。

 だって10万円だよ!? 

 新卒社会人の月給の半分ぐらいの額だよ!?

 あんなに頑張って働いて稼いだ金額が、こんな簡単に手に入ってしまっていいの!?


『アズマさんアズマさん。とりあえずお礼、お礼しましょう。こういう時はまずお礼しないと』


「あ、そう。そうですね。テンパってしまってつい。……えっと、コミット米太郎さん、スパチャありがとうございます!! ちなみに、無理しないでくださいね? 俺も俺で限界赤スパにどう反応したらいいのかわからなくなっちゃってるのでッ!!」


『わたしからしたら異次元の話ですよ。スパチャ自体まだ経験ないですし、それが限界赤スパなんて……。すごいですねぇ』


「いや、本当にすごいですよ。あー、まだドキドキしてます」


 なんか、なんかさぁ、やっぱりVTuberってすげぇなぁ!?

 意味わかんなくない? 何だよ、5万円スパチャって。

 いやぁ、金銭感覚おかしくなりそう。


『これで今日も宅配サービスを使えますね!』


「いや、逆に使いにくいですよ!? なんか、もうちょっとちゃんとした使い方をした方がいいんじゃないかって気になってきます」


『なんですか、ちゃんとした使い方って』


「わかんないですけど! それでも、5万円貰ったんで今日も宅配サービスでーす! って、なんか軽くないですか!?」


『リスナーさんからしたら嬉しいんじゃないんですか? 自分のスパチャで推しがいいものを食べてるなんて』


 そういうものか……?

 貰う側からしたら上げる側の気持ちなんてわかりませんよ!?


『アズマさんは誰かにスパチャを投げたこととかってあるんですか?』


「VTuberに?」


『ですです』


「ありますよ、そりゃ。社畜時代、自分が何のために働いてるかわからなくて、せめて推しのために仕事を頑張ってるって思いたくてスパチャを投げてました」


『うわぁ、悲しい理由……』


「はぁ!? これだから社会を知らないメスガキは。見てくださいよ、俺のコメント欄を。みんな同意してますよ!?」


 社会人は大変なんだよ!!

 今、『わかる』『それな』『労働はクソ』なんてコメントをしてくれてるみんな。俺はみんなの味方だからな。


『若者に社会の闇ばかり見せるのやめません?』


「社会の闇を見た俺がVTuberとして輝くことで、社会人に夢を見せたいんですよ、俺は!!」


『カッコいい、んですか……? それは』


「え、カッコよくないですか!? ねえ、みなさん!!」


『カッコいい』

『頑張って欲しい』

『社畜に夢を見せてくれ』


 ほら!! みんな応援してくれてる!!

 社畜の夢を背負ってるんだよ、俺は!!


「カレンちゃんだって掴みたいだろ、VTuberドリームを!」


『それはまあ、そうですけど。今のわたしからは遠すぎて……』


「頑張りましょうよ、一緒に。頑張ってのし上がりましょうって!!」


『え、なんか今日のアズマさん暑苦しいですよ……。赤スパでバグりました?』


「はい、そうです!!」


『あははは! そうなんだ! やっぱり人間お金で殴られるとおかしくなりますよね!!』


「いや、本当そうですよ。札束には人間特攻がのってますからね。やられないように気を付けないとですよ!!」


 人間を狂わすものランキングなんてものがあれば、金は優勝候補に上がる。間違いない。

 って、言った側から!?


「ちょっっっと待ちませんか!?」


『え、まさか……?』


「『こう……?』じゃないんですよ!! 何やってるんですか、コミット米太郎さん!! なんでたった2回の配信の間に3回も赤スパ投げてるんですか!?」


『はぁあああっ!?!?!? え、なんですか、その人!? 石油王!?』


「わかんないわかんない。え、待って……。本当に怖くなってきたんですけど!?」


 何!? 誰!? コミット米太郎さんって誰!?

 なんでそんな無造作に赤スパなんて投げてくるの!?


『まさか3回目の限界赤スパ……?』


「いや、さすがに限界赤スパではないですが、それでも赤スパは赤スパですよ!?」


 大丈夫!? それ、あなたのお財布大丈夫ですか!?


「え、怖い。ちょっともう今日の配信やめようかな」


『全然ありだと思います!! わたしまで怖くなってきちゃいましたもん』


「リスナーの財布を守るのも配信者の役目ですよね……?」


『そうですよ! 社畜の夢を背負う前に、リスナーの財布を守りましょう!!』


「はい、ということで今日の配信はここまでにします! 皆さん、今日もあざまるうぃーす!! あと、コミット米太郎さんは本当にありがとうございます。でも、本当に無理はしないでくださいね」


 VTuberがスパチャから逃げるなよって言われそうだが、俺にはもう無理だ。

 あれ以上スパチャを投げられたらどうなるかわかったもんじゃない。


「何者だよ、コミット米太郎……」


 なんで俺なんかにそんなスパチャを投げるんだ?

 実家の親に見つけたから投げた、と言われたって納得できない金額だぞ……?


「世の中にはすごい人もいるもんだ」


 貰った金額に恥じない配信をしよう。

 と、これからのVTuber活動へ心新たに臨むことを決意した瞬間だった。

 ふと見たスマホにメッセージが届いているのに気付いた。


「は? なんで……?」


 もう切れたと思った存在。嫌でも思い出すからずっと忘れていたかった存在。

 社畜時代の元上司である梓川優梨愛(アズサガワ ユリア)からのメッセージが入っていた。


『久しぶりに飲みにでも行かないか? 《東野アズマ》さん』

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