第12話 イカしたメンバーを紹介するぜッッッ!! え、イカれたの間違いでは?
『師匠ー』
「だから師匠はやめてって言ってますよね?」
『師匠ー。あと1人って誰なんでしょうね?』
「無視とはいい度胸ですね。で、何の話ですか?」
『戸羽丹フメツさんと出るEX.の大会ですよ。あ、もしかして最後の1人はわたしって可能性は──!?』
「あるわけない。せめてジャックを抜けてからそういう冗談は言おうか」
『ちょっとはノッてくれてもいいじゃないですか! なんですか、有名VTuberと大会に出るからって大物気取りですか!?』
「そんなことないですからね!? 変な誤解を生むようなことを言わないでくれませんか!?」
戸羽ニキからEX.の大会に誘われた翌日、俺はカレンちゃんとEX.の配信をしていた。
うーん、配信内容的に同じのばかりってのはどうなんだ……?
これから大会に向けて戸羽ニキとのEX.練習配信も増えるだろうし、カレンちゃんとは引き続きやるだろうし……。
ソロ配信の時間を増やして、もっと他のゲームとか雑談とかやった方がいいか……?
『なんで黙ってるんですか?』
「ちょっと考え事」
『ゲームプレイ中に考え事なんて、随分と余裕ですね。よっ、さすが有名VTuberッ!!!!』
「絶対バカにしてますよね!?」
いいじゃないか、接敵してない時ぐらい。
戦闘は戦闘でちゃんとこなしてるんだしさ。
『きっとデート中とかも、女の子をほったからしてスマホ眺めたりしてるんだ』
「言いがかりですよね、それは!!」
『ダメですよ。女の子にはちゃんと優しくしてあげなきゃ』
「カレンちゃんがプライベートの俺の何を知ってるんだ!!」
『えー、言っちゃっていいんですかぁ? リスナーさんに誤解されちゃいますよぉ?』
「……もしかして燃やそうとしてます?」
せっかくチャンネル登録者数が1万人超えて収益化も申請出来たタイミングなのに、炎上なんて真っ平ゴメンだぞ!?
『師匠の生殺与奪の権はわたしが握ってます』
「弟子のくせに脅迫なんて──ッ!!」
『あ、弟子って言った!! これで師匠って呼んでもおかしくないですね!!』
「まさかの巧妙過ぎる罠だった!?」
随分と強かな弟子じゃないか、この子は!!
「あ」
『え?』
「ごめん。なんでもない」
『なんですか? 気になるじゃないですか。あ、もしかして女性から連絡ですか?』
「違うから。戸羽ニキからだよ。この後時間あるかって」
『この後って。もう22時回ってますよ?』
「VTuber的にはむしろ早い時間帯じゃない?」
『ダメですよ、そういう不規則な生活は』
「でも、社畜時代より健康的な生活してますよ?」
『やべー。社畜やべー。VTuberより不健康な生活って、それもう死ぬじゃないですか』
「実際、同期に入院した奴はいましたね」
『こっわ!! 本当にどんな生活してたんですか!?』
「じゃあ、今度の雑談配信でその辺を話しますか。社畜の実録でリスナーを恐怖のどん底に叩き落としてやる!!」
『逃げて!! リスナーのみなさん逃げて!! そんなの聞いちゃダメです!!』
「ねえ、カレンちゃん。ラスト一戦で終わりにしてもいいですか?」
『え、なんですか突然。わたしと一緒にいるの嫌になったんですか!? うわぁん!! アズマさんに捨てられるぅッ!!』
「人聞きの悪いことを言わないでくれません!? 違いますよ。戸羽ニキから、EX.大会の顔合わせ配信をしたいって連絡が入ったんです~」
『そうやってすぐ長い物には巻かれようとするんですね。東野アズマって男はそんなにつまらない男なんですか!? いいですけど』
「いいのかよ!? たまにカレンちゃんの情緒がわからなくなるんですが!?」
『まだまだですね。もっと女心を学んでください。じゃあ、ラスト一戦いきましょう!』
「ありがとうございます。勝って終わりましょう!!」
なんて息巻いていたのはいいが、最後の一戦は6位という何とも言えない結果で終わってしまった。
さて、それじゃあ戸羽ニキとの配信に備えるとしますか。
23時スタートってもう30分もないけれど、それでも間に合わせちゃう辺り、俺がどれだけ仕事が出来るかって話だ。
……ちなみに会社でこんなムーブ取ったら、さらに面倒ごとを押し付けられるので、社畜時代は絶対にこんなことしませんでした!!
「あと1人ってどんな人なんだろう」
気にしないようにしていたって、無理だ。
だって戸羽ニキが連れてくるんだぞ!? きっと大物VTuberに違いない!! ここで頑張って仲良くなって、さらに人脈を広げられれば今以上に大きなチャンスだって掴めるに違いない!
そうして準備を終えた俺の元に戸羽ニキからチャットが入る。
『ディスコードにサーバー作ったから入って』
いよいよってことだな!
どんな人が相手だろうと、ちゃんと東野アズマとして爪痕を残してやる!!
『えー、それじゃあ戸羽丹フメツの配信を始めるよー。今日は今度あるEX.大会の顔合わせ配信。ということで自己紹介よろしく。えっとまずはアズマさんから』
いきなり!?
「あ、はい。えっと、皆さんあざまるうぃーす!! 東野アズマです!! 30分前にいきなり呼び出されてここにいます!! よろしくお願いします!!」
『急だったけど来てくれてありがとう~。ごめんね、急遽予定が決まったからさ』
「全然大丈夫っすよ! 戸羽ニキからの呼び出しが迷惑とかないんで」
『なんか今日は素直だね。あ、あれか。初対面の人がいるからおとなしくしてるんだ』
「余計なこと言わなくていいんですよ!! 早くもう一人の紹介をしてください!!」
『図星で必死なのウケる』
「はあ!? 図星じゃありませんから!!」
『はいはい。えっとそれじゃあ、3人目は安芸ナキア先生で~す』
は!?
今なんて言った!? 安芸ナキア先生!?
『ナキア先生!?』
『マジ!?』
『本気かよ!?』
ざわつくコメント欄。それもそうだ。
もし本当に安芸ナキア先生だとしたら、とんでもないぞ!?
『あら、みんな。私じゃ嫌なのかしら?』
うっお!? マジじゃん!! マジで安芸ナキア先生じゃん!!
ヤバいヤバいヤバい!! コメント欄も大盛り上がりなんだけど!?
『いや、先生。お忙しいところありがとう』
『出たいってお願いしたのは私よ? むしろ応じてくれて感謝してるわ』
ヘッドホンから聞こえる大人びた女性の声。
そしてモニターに俺や戸羽ニキと並んで表示されるひとりの女性VTuber。
「安芸ナキア先生って、本物ですか!?」
『あら、私に偽物がいるの? ぜひ会ってみたいわ。どこにいるか教えて頂戴?』
「あ、いえ。すみません。ビックリし過ぎただけです」
『冗談よ。わかってるわ』
うわー! うわー!! すっげぇ!! 俺今、ナキア先生と喋ってるよ!!
マジかよ、すっげぇなぁ!!!!
『先生もちょうど締め切りが過ぎたとこらしくてね。余裕があるってことで今回お声がけをいただいたんだよね』
『あら、締め切りがなくてもあなたたちと出るつもりだったわよ』
『またまた~。売れっ子イラストレーターにそんな暇ないでしょ』
そう、今戸羽ニキが言った通り、安芸ナキア先生と言えば、今を時めくイラストレーターにして、大人気VTuberだ。
自分がデザインしたキャラクターで配信活動を行いつつ、本業のイラストレーターとしても、大手事務所に所属しているVTuberのデザインを何人も手掛けている。
いわばカレンちゃんの超上位互換みたいな存在だ。
『今抱えてる仕事もひと段落したし、ちょっと栄養分を補給しようと思ったのよね』
『栄養分って、まさか……』
本当にすっげぇなぁ。戸羽ニキぐらいのトップVTuberになれば、こんな人とも繋がれるんだ。
VTuberのデザインを手掛ける人気イラストレーターで、自分自身もVTuberとして活躍してるなんて、俺みたいな個人勢からすれば神みたいな人だぞ!?
『決まってるじゃない。アズマ×フメツという今一番アツいカップリングを一番近いところで浴びに来たのよ!!』
『あ~……』
「え、それってどういう……?」
感動している間になんか話が進んでるけど、何の話?
俺と戸羽ニキがなんだって?
『あら、アズマきゅんはこっち側の人間じゃないのかしら』
「ア、アズマきゅん!? え、こっち側って、何の話ですか?」
『アズマさん。そこはツッコんじゃダメだ。ていうか、そういことか~……。ストレス発散ってそういう意味かぁ。失敗したなぁ……。ごめん、アズマさん』
え!? え!? 何!? 何で戸羽ニキに謝られてるの!?
『その反応は本当に知らないみたいね。ねえ、アズマきゅん。私の配信を見たことあるかしら?』
「直接はないですけど、切り抜きならって──って、そういうこと!?」
『あ、気づいた? うん。多分そういうこと』
『なんだ知ってるんじゃない。それじゃあ、わざわざ説明する必要もないわね。楽しみだわ~。ジャンジャカ銃を撃てるのに加えて、推しカプの空気を吸えるなんて。はぁ~~~、本当にVTuberって最高ね~~~』
安芸ナキア先生。有名イラストレーターにして、有名VTuber。
当然ながらイラストは抜群に上手く、さらに喋りも面白いのに加え、戸羽ニキから誘われるぐらいにはゲームも上手い。
リスナーからは『何でもできる女』と呼ばれる一方で、面白おかしくこう呼ばれてもいる。
『禁欲だけは出来ない女』
と。別名VTuber界の『BAN女王』。
あまりにもセンシティブな発言をしたり、時には配信の限界を試すなどと言って、R18ギリギリのイラストを配信で書いたりするぐらいには、自分の欲望──性欲に素直な人として知られている。
性欲の権化。
理性を脱ぎ捨てた女。
守備範囲が無限大。
などなど、数々の二つ名を持つナキア先生のよりディープな一面として知られているのが、腐女子としての数多くある伝説だ。
そんなナキア先生が俺と戸羽ニキを『カップリング』と言ったということは──。
『こちとら締め切り明けで溜まってるのよね。推しカプの波動を浴びて思う存分ストレス発散させてもらうわ』
……俺、入るチーム間違えた。ていうか、どうしてくれるんだよ戸羽ニキ!?
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