第11話 トップVTuberにだって負けない、俺のゲームセンスを見ろ!!

『行ける行ける行ける! ナイスゥ~!!!!』


「ナイスゥ!! これでクラウン何回目ですか?」


『え、わかんない。何回か取ってると思うけど』


「俺にキル数負けてるんですから、それぐらいは数えといてくださいよー」


『はあ!? 僕の方がキル数勝ってるんだけど!?』


「戸羽ニキは数が数えられないんですか? 今の一戦で俺の方が上になりました~」


 EX. Destinyを開始してからすでに3時間弱が経過している。

 その間はひたすらに戸羽ニキと互いを煽り合い、どっちが勝ってるか言い争いをしている。

 ただ、そんな会話をしながらも、すでに複数回も1位になった証であるクラウンを取っている辺り、やっぱり戸羽ニキはゲームが上手い。

 いや、俺が強いからか。うん、そういうことにしておこう。


「さて、それじゃあそろそろ終わりにしましょうか。時間も時間ですし」


『おいおい、聞いた? リスナー。アズマさんってば、配信者のくせに配信から逃げようとしてるよ』


「誰が逃げるてるって言うんですか? 俺はリスナーの健康を気遣って言ってるんですよ。そろそろいい時間ですし、こんなに付き合わせるなんて、それこそリスナーに悪いと思わないんですか?」


『アズマさんのとこのリスナーはそうかもしれないけど、僕のとこのリスナーを舐めないで欲しいな。12時間耐久にも付いてくる精鋭たちだよ』


「いや、それは付き合わせる戸羽ニキがおかしいですって」


 もうさっきからずっとこんな感じ。

 どっちが勝利で終わらそうとすれば、もう片方が絶対に引き止める。あの手この手を尽くして引き止める。お互いに負けず嫌いが過ぎるって思うけどしょうがない。だって勝ちたいから。

 人気ではトップVTuberである戸羽ニキに勝てなくても、ゲームでは俺の方がすごいって見せつけたいじゃん?


「あ、リスナーがめちゃくちゃいいこと言ってますよ。『2人でキル数が同じになるようにすれば?』って」


『あ、いいね。それで行こう。今、キル数差ってどれぐらいある?』


「俺の方が2キル多いですね」


『アズマさんが僕に2キル分を献上してくれるってことね』


「は?」


『あ?』


「いやいや、何言ってるんですか。そんな接待プレイをするわけないじゃないですか。それともあれですか? 戸羽ニキは俺にお姫様扱いされないとキルも取れないんですか? あー、それじゃあしょうがないな。うん、しょうがない。いいでしょう、キルをプレゼントしてあげますよ」


『全く何言ってるんだろうね、この新人は。先輩を立てるってことを知らないのかな? それでよく社畜やってました、なんて言えるね。今どきその程度の礼儀ぐらい中学生でも知ってるよ』


「うわー、皆さん聞きました? 先輩風吹かしてきましたよ。え、これはあれですか? いわゆる新人潰しってやつ……? まさかねぇ。チャンネル登録者数70万人を超える大人気VTuber様がそんな新人潰しなんてねぇ?」


『あれ? あれあれあれ? この業界でやっていくのに必要な礼儀とマナーを教えてあげようという先輩の優しさがわからないのかな? どれだけゲームが上手くたって謙虚さのない人はこの先やっていけないよ?』


「あ、戸羽ニキ。始まります」


『OK。行こう』


 直前までの煽り合いとの落差よ。


『不仲なのか仲がいいのか』

『あれだけ煽り合っててなぜチームプレイが出来るのか』

『喧嘩するほど仲がいいってことわざの本質を知った』


 コメント欄もいい感じに混乱してる。

 それはそうだ。待機画面であれだけバチバチに煽り合ってるくせに、いざゲームが始まればめちゃくちゃスムーズにコミュニケーション取り合ってるんだから。


『アズマさんのキル数どれぐらい?』


「今、5キルですね。戸羽ニキは?」


『僕は6』


「じゃあ後1キルすれば俺とイーブンですね。頑張ってください」


『君が僕にキルを差し出すんだよぉ!!』


「絶対に嫌だっ!!! って、来てる!! 敵来てるからッ!!!!」


『君が大声出すからだろ!?』


「画面の向こうまで聞こえてるわけないでしょう!?」


 あ、嘘。ゲーム中もちょいちょい煽り合ってた。

 でも、だからこそテンション上がるんだよなぁ!?

 カレンちゃんとのコラボの時とは違う方向でスイッチ入るんだよなぁ!?

 主に戸羽ニキには負けたくないって方向でッ!!!!


『あいつをキルするのは僕だ!!』


「いや、俺です!!」


『あ、漁夫』


「これヤバ!? あ、死んだ」


『なぁにやってるんだよぉ!? ヤバいヤバい!! これヤバいって!!!!』


「逃げて戸羽ニキ!! 生き延びて俺を生き返らせてください!!」


『嫌だね! 僕は僕のために生き延びる!! ……あ』


「うわダッサ。カッコいいこと言った直後にキル取られることほどダサいことはないって知らないんですか?」


『うるっさいよ。僕より先に死んだくせに!!』


「戸羽ニキの強さを試したんですよ。あの状況から逆転してこそ、本物ですから」


 いやー、しかし本当にすごいな。

 戸羽ニキが相手だとポンポン言葉出てくる。

 このテンポ感めちゃくちゃ気持ちいい。


『あれ、でもキル数は同じになった?』


「っぽいですね。どうしますか? 切りがいいですし、終わります?」


『そうしよっか。なんだかんだ3時間もやってるし』


 ふと時計を見ればすでに深夜1時を回っている。

 VTuberからすればむしろこれからが本番って時間帯だろうが、リスナーはそうじゃないしな。終わるにはボチボチいい時間だろう。

 すでに3時間以上もやっているわけだし。


「あ、でも終わる前にひとつだけいいですか?」


『ん? 何?』


「俺の呼び方って、この場合どうなるんですか?」


『それは今まで通り《アズマさん》でしょ。僕よりキル数取れたらって話だったんだし』


「取ってましたけどね。戸羽ニキがどうしても言うから、妥協して最後のルールにしたんですよ?」


『そんなこと言ったら、僕の方がキル数取ってたタイミングだってあったじゃんか』


 うわぁ、これ一生会話が終わらないパターンだ。

 俺も引く気ないし、戸羽ニキも絶対譲るつもりない。


『あ、じゃあこういうのはどう?』


「なんですか?」


『今度あるEX. Destinyの大会に僕と出て、優勝したら《アズマ》って呼ぶことにするって言うのは』


 ……え!?


「は? え!? 何!?」


 ちょ、ちょっと待って。コメント欄がめちゃくちゃ盛り上がってるけど、いや待って!! 俺が追い付けてないから!! え、何だって!? 戸羽ニキは今なんて言った!?


『あれ、知らない? 今度VTuber限定のEX. Destinyの大会が開かれるの。ちょうど昨日かな、開催するって告知が出てたけど』


「いやいや、それは知ってるけど。え、待って。俺が出るの? 戸羽ニキと!?」


『うん、そう。嫌?』


 嫌? ってそんなん──、


「嫌なわけないじゃなですか!!」


『じゃあ、決まりね』


「そんなあっさり……。え、待って。それって有名VTuberとかが出る大会ですよね?」


『大会のレギュレーション的には、出場資格はVTuberとして活動していること以外は特にないよ。ただ、チームリーダーになる人は割と有名な人ばかりだから、自然と有名なVTuberが集まっちゃってる感じかな。ほら、僕らも出るなら知ってる人と出たいし』


「……ちなみにですけど、なんで俺を?」


『強いから。あと、今言った通り、どの大会でも知り合い同士が呼ばれるから、似たり寄ったりな顔ぶれになっちゃうんだよね。1人ぐらい新人がいた方が楽しくなりそうじゃない?』


 そんな理由で俺を……。

 いや、違う。ビビるな、俺。これはチャンスだ。有名VTuberが出る大会なら注目度も高い。よりたくさんのリスナーに《東野アズマ》を知ってもらうチャンスだ。

 だから、ビビるな。


「いいんですか? 俺が出たら戸羽ニキの活躍が無くなっちゃいますよ?」


『出来るもんならやってみなよ。じゃあ、そういうことで。今回の大会は3人1組でチームを組むから、もう1人のメンバーも決まったら連絡するね』


「どうせなら俺より強い人を連れてきてくださいよ。大会でキャリーなんかしたくないですし?」


『あはは。いいね、そういう生意気なところに期待してる。せいぜい盛り上げてよね』


「上等です。戸羽ニキにだって負けませんから」


『同じチームだってば。まあ、いいや。じゃあ、今日の配信はここまでってことで。バイバーイ』


 言うが早いが、戸羽ニキはサッサと俺とのディスコード通話も切ってしまう。

 残されたのは俺と、俺の配信枠で見てくれていたリスナーたちだけ。


「ははっ。あはははははははっっっ!!!!!!!」


 そんな物好きなリスナーたちの前で、俺は思わず笑い声をあげてしまう。

 何なんだ!? 何なんだろうな、ここ最近の俺は!?

 残りの人生の運を全て使い果たしてんじゃないのか!?


「ヤバいよ。ヤバいですよ、皆さん!! 東野アズマはまだまだ止まらないですからね!? 皆さんもちゃんと付いてきてくださいよッ!!」


『もちろん』

『当然だろ』

『これからも応援してる』

『頑張れ!』


「ありがとうございます! 頑張ります! それじゃあ、今日の配信はこれで終わります!! あざまるうぃーす!!!!」

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