第10話 約束の時は来た! 戸羽丹フメツとのコラボ配信!!

「あざまるうぃーす!! 戸羽丹フメツファンの皆様、お久しぶりです!! 東野アズマが再び舞い戻ってきましたー!!」


『テンション高っ!? 自枠だともうちょっと大人しくなかった?』


「そりゃそうですよ。戸羽ニキとのコラボ枠なんですから。ていうか、戸羽ニキって俺の配信見てくれてたんですね」


『たまにね』


「またまた~。そんなこと言って、毎回見に来てくれてたんですよね? 戸羽ニキもそろそろ正直になっていいと思いますよ。ちなみに俺はあれから戸羽ニキの配信は毎回見てました」


『変なところで健気だなぁ。えー、ということでこの間の約束通り、東野アズマさんがチャンネル登録者数1万人行ったってことで、お祝いコラボになります』


 戸羽ニキの言葉に、コメント欄も『おめでとう!!!』や『おめでとうございます』といったお祝いの言葉で溢れかえる。


『それにしても遅かったよねー。僕、待ってたのにいつまでたっても1万人いかないんだもん』


「一週間経たずに行きましたが!?」


『遅い遅い。今のVTuber業界でそんな速度じゃ置いていかれちゃうよ?』


「あ、戸羽ニキは今の瞬間で多くの新人VTuberを敵に回したね。俺がデビューして二ヶ月の間でチャンネル登録してくれた人数知ってます? 21人ですよ?」


『始まりの21人じゃん。大事にしなよ、そのリスナーたち』


「21人以外のリスナーもみんな大事にしますが!? 俺の愛がどれだけデカいか知らないでしょ!?」


『それでも僕には及ばないね。僕は70万人を愛してるから』


「それってつまり誰でもいいってことでは……?」


 開幕から止まらないトークにコメント欄も大盛り上がりだ。


『フメツは浮気者だった……?』

『フメツひどい』

『最低やなw』


 同時接続数も2万人を超え、あのクロファイ配信の時ほどじゃないが、それに迫る勢いで視聴者数が増えていく。

 それじゃあ、今日も新たなファンの獲得に向けて頑張りますか。


『ねえ、アズマさん。配信やめない? 君とコラボしてると僕の印象がどんどん悪くなってくんだけど』


「え、いいんですか? そしたら戸羽丹フメツは新人との約束をぶっちした最低の男ってことになりますけど」


『よっし、今日も元気に配信しよう!! さあ、アズマさん。今日は何をやるのか、リスナーのみんなに教えてあげてくださいよ』


「いやいや、何で今の話を流そうとしてるんですか。え、もしかして戸羽ニキって俺とのコラボ配信を嫌がってます……?」


『ちょっ!? ガチトーンでそういうこと言うのやめてよ!! リスナーが本気にしちゃうじゃん!!』


 やっぱり戸羽ニキって最高だな。カレンちゃんとのプロレス会話も楽しかったけど、戸羽ニキとのはまた格別だ。楽しすぎて口が止まらない。


「リスナーの皆さん。俺、戸羽ニキのこと信じても大丈夫ですか? 彼は素直になれてないだけなんですか……?」


『そうだよ』

『大丈夫』

『アズマを泣かせるなフメツ』


 リスナーもノリがよくて気持ちいいなぁ。

 よし! それじゃあ、もっともっと配信を盛り上げていこうじゃないか!!


「はい、ということで今日は戸羽ニキと《EX. Destiny》をプレイしていこうと思います!」


『え、今までの流れは? ぶった切り過ぎじゃない?』


「何言ってるんですか、戸羽ニキ。いつまでもダラダラと同じ話をしてたらリスナーが飽きちゃうじゃないですか」


『もうさぁッ!! 妙なところで配信者気質を見せるのやめない!? 寒暖差激しいよ!?』


「俺は過去を引きずらない男なので。社畜だったあの頃は二度と振り返らない!! 振り返ってやるもんかッ!!!!」


『それはもうただの恨み言じゃん』


「だってひどいんですよ、あの会社!? 理不尽なことばっか言ってきて!!」


『わかったわかった。ほら、今のアズマさんはVTuberなんだからさ、過去を振り返ってる暇があるなら未来を見ないと。クヨクヨしてる間に置いて行かれちゃうよ』


「わかりました!!」


 そうだよ、俺はもう転生したんだ。

 終電がなくなっても煌々と電気が灯るくそったれなオフィスから、たくさんのリスナーが見てくれるキラキラしたVTuberへと。

 だったら、今を楽しむしかない!!


『あ、コメントにクロファイをやらないの? ってある。えっとね、最初は僕らもクロファイをやるつもりだったんだよ。でもね、ちょっと事情があってさ、ねぇアズマさん』


「ああ、はい。そうなんですよ。クロファイになると戸羽ニキも俺もガチになり過ぎて、黙っちゃうんですよね。お互いに負けたくなさ過ぎて」


『そうそう。コラボで何しようって話してた時にちょっとクロファイをやったんだけど、ガチ過ぎて逆にリスナーが楽しめないってなったんだ』


「なので、今日のコラボは《EX. Destiny》にしました! これなら同じチームでプレイできるし、ランクマッチじゃなくてカジュアル戦なら、リスナーの皆さんと一緒に楽しめるかなーって思ったんですよね」


『やっぱり対戦しちゃうとダメだよね。お互い負けず嫌いだし』


「すごかったですよね、お互い無言でやりあってるの。喋るって言っても、俺に負けた戸羽ニキが悔しがって台パンしたり舌打ちしたりしてたぐらですよねぇー?」


『はぁ? アズマさんだって俺に負けて台パンしてたじゃん。そう言えば、負け越した時に泣きの一回を申し込んできた人がいたっけなぁ? 誰だったかなぁ?』


「あ、知ってますよそいつ。戸羽丹フメツって言う名前ですよ」


『あれ、健忘症? 僕の記憶だと東野アズマって名前のやつだったんだけどなぁ』


「とまあ、クロファイをやると恐らくこんな感じになるので、今回はやめようかって話になりました」


『いつかね。別の機会で出来るタイミングを作るので。その時まで楽しみにしててほしいな』


 うん。実際にクロファイ中の俺たちの空気はヤバかった。

 本当に今度コラボ配信するの? って疑問になるぐらい殺伐としてた。あんなものをリスナーに見せるわけにはいかない。


『ちなみにアズマさんって、EX.はどれぐらいのランクなんですか?』


「戸羽ニキより上ですね」


『はあ? 君、僕のランク知ってて言ってるの?』


「キングでしたよね。この間配信で見ましたけど」


『よく知ってるじゃん。え、待って。本当に僕より上なの?』


「あ、はい。今日の配信のためにエースまで上げました」


『は!? マッ!?』


「俺に時間を与えたらこうなるんですよ」


『1万人突破の報告を貰ってから1日しか空いてないけど!?』


「1日空いたらどれだけのことが出来ると思ってるんですか?」


『いやいやいや! だからってEX.でエースまでいくのはおかしいって!!』


「いつか戸羽ニキを越える男ですからね。これぐらいは余裕でこなさないと」


 ゲームが得意なことで有名な戸羽丹フメツを越える程度のことを当たり前にやらないと、俺がVTuber業界で戦っていけるはずもないからな!!

 この程度のことは当然やるさ!!

 お、コメントも爆速で流れ始めた。いいぞ、東野アズマのすごさを知ってくれ。


『マジw』

『エグw』

『強すぎw』


「あ、もしよければランク回します? 俺がちゃんと戸羽ニキをキャリーしますよ」


『いやいや、それは無いから。僕だって最近やれてなかっただけで、前シーズンはエースまで行ったから』


「あれあれ~、負け惜しみですかぁ?」


『言ったな、お前! じゃあ、勝負しようよ。どっちが多くキル取れるかで!!』


「いいですよ。じゃあ、罰ゲームは何にします?」


『え、罰ゲームやるの?』


「当然じゃないですか。戸羽ニキ、僕らは配信者ですよ。ちゃんとリスナーも楽しませないと」


『こいつ、新人のくせに……っ』


 戸羽ニキがなんと言おうと、コメント欄でリスナーが応援してるのは俺だ。

 そりゃそうだ。俺だってリスナー時代は配信が楽しくなることを期待していた。いつだって面白い配信を期待して配信を見ていた。


「思いつかないなら、俺からひとついいですか?」


『何? 言ってみてよ』


「俺が勝ったら、今度から俺のことを呼び捨てで呼んでください」


俺がそう言った途端、コメント欄がさらに盛り上がりを見せる。


『エモい展開来た!!』

『いいぞアズマ!』

『フメツ逃げるな』


リスナーも戸羽ニキを煽る。まさかトップVTuberがここまでお膳立てされて逃げるわけないよな?


『いやぁ、まさかアズマさんがそんなに僕と仲良くなりたいと思ってたなんてね』


「なに言ってるんですか? 戸羽ニキのために提案したんですよ? 戸羽ニキに、知り合って間もない相手を呼び捨てにするなんて陽キャムーブが、出来るわけないですから」


『そんなわけないだろ! いいよ。じゃあ、アズマさんが勝ったら、今度から呼び捨てにする』


「了解です! じゃあ、罰ゲームも決まったところで、始めましょうか!!」


 そうして配信開始から12分間たっぷり喋った俺たちは、互いにゲームを開始する。

 あ、戸羽ニキが勝った場合にやる俺への罰ゲームを決めてないや。

 まあ、いいか。俺が勝つし。

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