第9話 まさかメスガキの効果じゃないよな!?
「カバーするからガンガン突っ込んでッ!」
『わかりました!!』
俺の号令を合図にカレンちゃんの操作するキャラクターが、敵チームとの交戦を開始する。
派手な銃声が入り乱れる中を突き進むカレンちゃんを守るように、敵チームに向けて銃弾をばらまいていく。
『わ!? やられました!』
「了解。ドンマイッ!!」
カレンちゃんがダウンして敵チームとは1対2の不利な状況になる。それでも事前にある程度削っていたこともあり、何とかいけると思ったけれど──
「別チーム!?」
『あぁー……。ドンマイです』
交戦中の俺たちを狙った別のチームをさばけずに、俺もやられてしまう。
リザルト画面が表示されるまでの一瞬で確認した限り、元々俺たちと戦っていたチームも後から来たチームにやられたみたいだ。
『負けちゃいましたね』
「こんなもんだよ。FPSなんて質より量。数を回して経験積むのが大事。ちゃんと練習してれば少しずつ上手くなっていきますから」
『わかりました。師匠!!』
「師匠は恥ずかしいからやめましょう」
『照れてるんですか?』
「偉そうな響きが嫌だ」
あの地獄の凸待ちの翌日。俺は早速カレンちゃんとのコラボ配信を行っていた。
プレイしているゲームは《EX. Destiny》という人気FPSだ。
2人1組もしくは3人1組のチーム同士で銃を打ち合いながら、最後の1チームになるまで生き残りをかけて戦うサバイバル系のFPSゲームだ。
人気の理由は色々あるけれど、俺がこのゲームが好きな理由は、10体以上の多彩なキャラクターを使用できることにある。
見た目も能力も個性的なキャラクターは、デザインがカッコいいし、それぞれ持っている能力をどうチームの中で活かしあうかなどは、考えれば考えるほどに面白い。
そんな感じでこのゲームは、キャラクター固有の能力や武器ごとの戦い方、地形を活かした立ち回りなど、様々な要素で盛り上がることが出来るため、多くのVTuberも配信でプレイしリスナーを楽しませている。
『覚えることがたくさんで頭がパンクしそうです』
「まずは銃と弾の組み合わせはしっかり覚えよう。あとはその後で大丈夫です」
『アズマさんってどれくらい練習しました?』
「え、どれぐらいだろう。ハマってからずっとやってるから、あんまりプレイ時間って意識したことないな」
『おー! なんか強者って感じですね!! ちなみに最高ランクってどこまで行ったことあるんですか?』
「ガッツリやってた頃は、一応エースまで」
『強っ!! なんでそんなに謙遜してるんですか!?』
「随分前のシーズンで一瞬なっただけだから!! ガチでやってる人からしたら全然大したことないんですよ!!」
EX.には一般的にカジュアル戦と呼ばれるものとランク戦と呼ばれるものがある。
今カレンちゃんから聞かれたランクは、簡単に言えばEX.での強さやプレイヤースキルを示す指標のようなものだ。
下からジャック⇒クイーン⇒キング⇒エース⇒ジョーカーとランクが上がる。
トランプの札をモデルにしていることから、ジャック・クイーン・キングをざっくりまとめて『絵札』なんて呼ぶこともある。
『でも、アズマさんの強さで一瞬エースになっただけなんて、果てしないですねー』
「エースはある程度出来ればすぐですから。ジョーカーは化物。たまにプレイ動画を見ますけど、強さが意味わかんない」
『じゃあ、わたしがジョーカーになったら下剋上ですね!!』
「それはビッグマウス過ぎません!? 今日初めてプレイしたんですよね!?」
『え~、でもよくないですか? わたしがアズマさんを越えて、ザ~コ♡ ザ~コ♡ ザコ師匠♡ とか言ってたら』
「急にメスガキ出すのやめてくれません!?」
ツッコみづらいんだよ、そういうネタは!! ワンチャン、セクハラで炎上するぞ!?
おい、こらコメント欄。『メスガキ助かる』とか『わからせ期待』とか流すんじゃない!! 拾いにくいだろうがッ!!
『とりあえずわたしの目標はアズマさん越えってことで』
「はあ!? そんな簡単に越えられると思わないでくれますか!?」
『え~、じゃあわたしが越えちゃったらどうします?』
「あれ、罰ゲームを決めようとしてます?」
『はい!!!!』
「今日一でいい返事をしないでくれません!?」
あ~、カレンちゃんの性格ってマジで助かるな。
これぐらいグイグイ来てくれると、無理して会話をつながなくていいからめちゃくちゃやりやすい。
『わたしがアズマさんを越えたら、顔出し配信とかしてくれませんか?』
「初手で一番重いリスクを背負わせようとしないでくれませんか!?」
『じゃあじゃあ、暗証番号公開とか』
「何の!? 具体的じゃない分、逆に怖いんですが!?」
『う~ん』
「……何を悩んでるんです?」
『いや、なんかつまんない罰ゲームだなぁって思って。どうしてくれるですか、アズマさん』
「言い出したのカレンちゃんですよね!?」
もっと発言に責任を持って!? なんで俺がつまんないみたいな言われ方してるの!?
『あ、いいこと思いつきました!!』
「思いつかなくていいから!! あ、ほら。敵! 敵いますよ!!」
『このファイトに負けたらアズマさんは罰ゲームするの決定で』
「何をしれっと言ってんだぁあ!? あ、ちょっと待って!! 動揺した!! 動揺したからエイムがッ!! あ、ヤバ」
『あ~……、やられちゃいましたね。ザ~コ♡』
「ふざけないでくれますか、このメスガキがッ!!」
『キャー、怒られたー♪』
「何でそんなに嬉しそうなんですか!?」
『あ、わたしMなので』
「ツッコみづらいネタフリはやめてください!!」
なんで!? なんでこんなに振り回されてるの!?
誰でもいいからこのメスガキをわからせてッ!!!!
「って、え……?」
『どうしたんですか?』
「今、コメントでチャンネル登録1万人おめでとうって。え、マジで……?」
『本当ですか?』
「ちょっと待って。確認するから」
嘘だろ?
え、本気で言ってる……?
「うっわ、マジだ!? 1万人いってる!?」
『え、すごい!! おめでとうございます!!』
「いやいやいや、待って!! こんなしれっと行くものなの!? 目指してきた1万人ですよ!? もうちょっと感動とかないんですか!?」
『わたしのおかげですね』
「メスガキはちょっと黙っててください」
『キャー、怒られたー♪』
だから何で嬉しそうなんだよ!?
うわすご!? コメントがめちゃくちゃ流れてくる!!
『おめでとう!!!!!』
『祝』
『おめでとうございます!!!!!!!!!』
「ありがとうございます!! みなさんのおかげでチャンネル登録1万人行くことができました!! 個人的にはもうちょっと感動的と言うか、なんかこう、記念的な何かがあってもいいんじゃないかって思うんですけど」
いや、嬉しいよ!? 嬉しいんだよ!?
でもこう、なんかテンション的にさ。あるじゃん!?
『あ、じゃあわたしが特別にお祝いしてあげますね。ちょっと待っててくださいね、今マイクを変えるので』
「え、そんなわざわざ──」
『アズマきゅん、えらいでちゅねー♡ すごいでちゅねー♡』
「バカにしてますよね!? わざわざASMR用のマイクに変えてまで言うことですか!?」
『冗談ですよ。それじゃあ、改めて。……アズマさん。チャンネル登録1万人おめでとうございます』
「直前とのギャップ差が激し過ぎる! まあでも、ありがとうございます」
『あ、わたしがアズマさんを越えてジョーカーになったら、また地獄耐久の凸待ちしてください。今度はわたしも助けないので』
「このタイミングで言うこと!? え、なんで今のタイミングで言ったんですか!?」
『いやぁ、思いついちゃったので』
「もうちょっと脈絡を持ってください!!」
『あ、でもよかったですね。これでまた戸羽丹フメツさんとコラボ配信できるじゃないですか』
「もうディスコード送りました。1万人行きました! って」
『はや!? あまりにも早すぎませんか!?』
「こういうのは鮮度が大切ですから」
いやぁ、でもそうか。1万人いったのかぁ。タイミングのせいで実感薄いけど、そっかぁ。
「って、え。戸羽ニキが見てる? マジで?」
コメント欄に突如として『戸羽ニキもよう見とる』『戸羽ニキいる』『戸羽丹フメツ!!』などとコメントが流れ始める。
「マジ? え、どこどこ? 戸羽ニキどこにいる? って、いたぁああああッ!!!!」
コメント欄を遡っていくと、確かに戸羽丹フメツという名前のアカウントがコメントをしている。
『おめでとう。コラボ楽しみにしてる』
っっっしゃあッ!!!!
うわ、突然実感が湧いてきた!! マジで1万人いったんだ!! すっげぇ嬉しい!!
戸羽ニキとのコラボ配信もめちゃくちゃ楽しみだ!!
『女の子を放置するなんて、さてはアズマさんってモテませんね?』
「喜んでるとこに水を差さないでくれます!?」
『今はわたしとコラボしてるんですから、他のVTuberなんてどうでもいいじゃないですか。ほら、配信の続きやりますよ』
「……わかりましたよ」
『全く。誰のおかげでチャンネル登録1万人いったと思ってるんですか』
「少なくともカレンちゃんのおかげではないからね!?」
え、そうだよね? 信じていいよね? メスガキ効果で1万人突破とか悲しすぎるからな!?
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