第5話 底辺新人VTuberの一変した日常

「みんなのおかげで収益化が申請できました!! あざまるうぃーす!!!!」


 戸羽ニキの配信から五日、俺のVTuber生活は一変した。

チャンネル登録者数も順調に伸び、それに比例して配信を見てくれるリスナーが増えたおかげで、念願だった収益化の申請も出来るようになった。

 これで貯金を切り崩すばかりだった生活からも脱却できる。週一で宅配サービスを使って飯を食うことすら夢ではなくなったかもしれない。


「ファンアートもめちゃくちゃ増えてて、すごい嬉しいです。ちゃんと全部見てますよ!! タグもガンガン使ってください!!」


 いつかは、と温めていた、ツイッターで使う配信タグにファンアートタグ、そしてファンネームも出来た。

 エゴサをすれば、俺のファンだと言ってくれるアカウントをいくつも見つけることが出来る。

 そして何より嬉しかったのが、


「東野アズマの切り抜き動画がめっちゃ増えてて、最高に嬉しいです!! みんな本当にいつも、あざまるうぃーす!!!!」


 自分のアーカイブ以外で俺の動画を見れる日が来るとは思わなった。

 これでもっと多くの人が東野アズマを知ってくれるチャンスが増えたってことだ。


「現在チャンネル登録者数が8000人を超えました!!! 実は昨夜、戸羽ニキから連絡があって、『もうすぐだね。コラボ楽しみにしてる』って言ってもらったんですよね!! もう俺、すっごい嬉しくてさ!!!」


『それはエモい』

『楽しみにしてる』

『アズマならいける』

『応援してるよ』


 配信は相変わらずゲームをメインに時々雑談って感じだ。それでもここ数回の配信では、リスナーは常時1000人前後はいるし、多い時には3000人近いリスナーが見に来てくれる。同接一桁に泣いてた頃から比べたら天と地ほども差がある。

 戸羽ニキとのコラボで注目されている一時的なものだっていうのはわかっているが、それでも多くの人に見てもらえるっていうのは、純粋に嬉しいものだ。


「あ、そう。申請が通ればね、メンバーシップも解禁出来るんですよ! あ、ヤバい。バッジとか依頼しないと!!」


 有頂天である。

 とにかく今はVTuberとしての活動が楽しくて仕方がない!!

 配信を終えればもう次の配信のことを考えている。

 どんなゲームをしようか。どんな話をすればリスナーが喜んでくれるだろうか。

 そんなことを考えている時間すら、今は楽しくしょうがない。


 しかし、そうして楽しい時間を過ごす一方で気がかりなこともある。

 ディスコード上に作られた《新人個人Vの励まし合い》というサーバーがなくなっていたことだ。

 俺のチャンネル登録者数が伸びた辺りで、気が付けばなくなっていた。もちろんそのサーバーにいたVTuberたちとはツイッター上でつながってもいるのだが、そのうちの何人かにはブロックされていた。


 最初それに気づいた時はショックだった。

 あれだけ毎日やりとりをしていて、チャンネル登録者数や同時接続者数が増えないことを愚痴りあっていたのに、注目されだした途端にはじき出されるように仲間外れにされてしまうなんて……。あいつらとはもっと絡みたかったのに……。


『アズマさん、配信お疲れ様です! 今日もすっごくおもしろかったです!!』


 だから、こうして毎回配信後に個別チャットを送ってきてくれるカレンちゃんの存在がありがたくてしょうがない。


『また見に来てくれたんだ。ありがとう』


『ずっと頑張ってきたの知ってますから。わたしだってアズマさんのファンなんですよ!』


 カレンちゃんだって《新人個人Vの励まし合い》に参加していたのだから、色々察してるだろうに……。

 それでもこんなことを言ってくれるなんて、どれだけいい子なんだ。


『わたしもゲームとか上手ければ、もっとチャンネル登録者数伸びるんですかね……』


『カレンちゃんはゲーム配信はやらないんだっけ?』


『雑談とASMRがメインです。歌もやってみたんですけど、思ってたような感じにならなくて……』


『そっか。確かにそれだけだと伸びにくいかも……。難しいよね、VTuberって。俺は本当に運がよかった』


 俺がよくやるゲーム配信はYouTubeの中でも人気ジャンルのひとつだ。

 しかし、いくらゲームが上手かったところで見てもらえなければ意味がない。見てもらえたとしてもおもしろいと思ってもらえなければ意味がない。

 そういう意味でも、戸羽ニキの配信でゲームの腕前と東野アズマというキャラクターを披露できたのは、ただただ運がよかったとしか言いようがない。


『あの、アズマさんも忙しいと思うのでダメだったら全然いいんですけど、もしよければ、わたしにゲームを教えてくれませんか……?』


 ぬ、っふぅ~。

 よかったぁ、対面してなくて。今、めちゃくちゃ気持ち悪い顔をしてた自信がある。


『もちろん、いいよ。配信以外は基本的に暇してるし』


『本当ですか!? ありがとうございます!!』


 あ~~~、クッソにやける。

 え、何これ。VTuberってこんなに楽しいの?

 これまでの人生でカレンちゃんみたいな子から、こんな風に求められたことなんてないんですが!?

 いや、マジで対面じゃなくてよかったぁ。もし顔を合わせてたら、バカみたいなにやけ面を晒して引かれてたと思う。


『やりたいゲームとかあるの?』


『何も考えてなかったです。でも、今だとEX.とか流行ってますよね』


『そうだね。EX.もそうだし、FPS系のゲームって人気あるから、その辺の配信にはチャンスあるかも』


 カレンちゃんが言ったEX.とは、正式名称を《EX. Destiny》と言う。3人もしくは2人で1チームとなり、全20チームで生き残りをかけて戦う、FPS系のサバイバルゲームだ。

 クロファイ同様にプロプレイヤーがいたりeスポーツの公式大会が開かれている他、YouTubeで活躍している配信者が大会を企画して盛り上がったりもしている、ゲーム配信の中でも人気のコンテンツだ。



『ちなみにカレンちゃんって、FPSの経験とかは?』


『正直、全然ないです。ゲーム自体ソシャゲをちょっとやったことあるぐらいで……。やっぱり無理でしょうか……?』


 正直、難しいと思う。

 特定のゲームの配信をわざわざ検索して見に来る人と言うのは、上手いプレイングを期待してくる人が多い。しかもただ上手いだけじゃダメだ。それでは『なんか上手い人』といった曖昧な印象で終わってしまう。

 重要なのは個性だ。

 俺だって戸羽ニキの枠で、東野アズマという個性を存分に発揮できたからこそ、たくさんの人が見に来てくれるようになった。


『ただゲームをやるだけだと人気に繋げるのは難しいと思う。ゲーム配信でカレンちゃんの個性が発揮できれば、バズれると思うけど……』


『わたしの個性ですか……』


 それっきりカレンちゃんは黙ってしまった。


 次の配信に向けサムネを作りつつ、偉そうなことを言ってしまったかと反省し始めたころ、カレンちゃんから返信が返ってきた。


『配信について相談がしたいので、一度オフで会ってもらえないでしょうか?』

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