第4話 社畜時代に感じられなかったもの。それは、やりがい
「あ、やべ。カレンちゃんの配信って23時からか」
22時からの配信に向けて準備を進めている時に、ふと思い出した。
夕方の配信を終えた後、見に行くって約束したな……。
う~ん、ちょっともったいない気もするけど、俺の配信は一時間で終わらせるか。
「てか、こんな待機人数見たことないんだけど」
先ほど立てた配信枠には、開始前だと言うのにすでに3000人を越える人数が待機している。
いや、四桁って……、マジか。
これだけの人がわざわざ俺の配信を見に来てるってことだよな……? 戸羽ニキに足を向けて寝れないわ。
というか、どうするんだ、俺。
戸羽ニキの枠ではとにかく勢いで乗り切ったけど、こんな人数相手に何を話せばいいんだ!?
うわ、やべ。めっちゃくちゃ緊張してきた!!
ど、どうする!?
「あーもう、知らん!! なんとかなるだろ!! 頑張れ、俺!!!」
勢いだ勢い。戸羽ニキのとこで2.8万人を前に出来たんだから、たかだか3000人を相手に出来ないはずがない。出来る。俺なら出来る!!!
よっしゃ、22時だ。行くぞ、配信開始だ!
「あざまるうぃーす!!!! ようこそ、東野アズマの配信へ!!」
開口一番お決まりの挨拶をする。すると、
『あざまるうぃーす』
『あざまるうぃーす!!』
『あざまるうぃーす!』
『あざまるうぃーす』
とコメント欄に挨拶があふれかえる。
うわぁ、すげぇ。俺、自分の配信でコメントが流れてるのって初めて見た。
これが3000人に見られてるってことか。なんか……、なんかすげぇ嬉しいんだが!?
「あ、ごめん。こんなに多くの人に見て貰えたことってないから、感動して黙ってしまいました。えーっと、音量とか大丈夫ですかー?」
危ない危ない。せっかくたくさんの人が来てくれたのに放送事故になるところだった。
『大丈夫』
『よく聞こえる』
『問題なし』
『ていうか、フメツのとこにいた時と印象違くない?』
「え、印象違う? マジ?」
『確かに』
『もっとチャラかった』
『なんか今、真面目』
「いやいや、だから言ったじゃないですか。俺は真面目だって!! え、待って待って。そんなに違う!?」
『全然違う』
『ウェイ系だと思ってた』
『ギャップある』
『キャラ作ってた?』
「作ってないから!! 緊張してるんです!! 言ったよね!? 言いましたよね!? こんな人数に配信見てもらうのがはじめてなんですってば!!! 今、手汗も脇汗もヤバいからな!?」
『赤裸々で草』
『がんばれー』
『初々しいw』
「あーもう! ゲーム配信始めます!!」
『照れてる?』
『やけくそじゃねーか』
『ニヤニヤw』
『草』
「はあ? みんなさぁ、そういうことは俺にクロファイで勝ってから言ってもらえます!?」
言いつつ俺は、バックグラウンドで起動しっぱなしにしていたクロファイを配信画面に乗せる。
『きた』
『参加型?』
『VIP潜るの?』
『ボコす』
「今ボコすって言ったやつ、かかってこいよ。えーっと、ということで今回の配信は、みんなの期待通りクロファイをやります!! いぇいッ!!!」
『強かったよね』
『楽しみ』
『ちげーし』
『そうそう』
「えー、なんか一部ツンデレリスナーが紛れてますが、それは置いておいて。クロファイです。参加型なんで、みんなで一緒に遊びましょう!」
『おけ』
『何使うの?』
『フメツをリスペクトしておまかせ?』
「お、いいね、それ。採用!! じゃあ、俺はおまかせにするから、みんなは好きなキャラを使っていいですよ」
『余裕じゃん』
『わからす』
『負けたら罰ゲームな』
「罰ゲーム!? オーケー、わかった俺も配信者です。みんなに落とされた残機の数だけ、VIPに勝つまでやめられませんをやってやりますよ!」
『言ったな』
『残機でいいの?』
『無限VIPに期待』
「その代わり一時間の時間制限ありで。今から一時間以内にみんなが落とした残機の数だけ、VIPで勝つまでやめられませんをやります。これでどうですか?」
すまん、カレンちゃん。ちょっと遅れる。
ていうか、勝つまで耐久なんて大丈夫か? 今のクロファイのVIPにいるのなんて、めちゃくちゃな猛者ばかりだぞ。
『いいぞ』
『おけ』
『寝られなくしてやる』
「よっしゃ、じゃあ始めるぞって、いや、俺お前のこと知ってますよ!! 有名な煽りゴリラじゃないですか!!!!」
数々の有名VTuberが行うクロファイ配信に現れては、煽りつつ勝利をもぎ取っていくリスナーだった。
ゴリラをモチーフにしたキャラクターを使い、プレイ中に対戦しているVTuberを煽るかのようなムーブを入れることで、一部では煽りゴリラとして有名なリスナーだ。
「今思ったんだけど、俺よりこの人の方が絶対切り抜き多いですよね」
『それはそう』
『間違いない』
『俺たちのゴリラだからな』
『リスナーより切り抜きが少ない配信者とはw』
「オーケー、わかりました。絶対ストレート勝ちしますから。配信者がいちリスナーに負けてるなんて事実があっていいはずがないですしね!!」
『ムキになってて草』
『新人をわからせろ、ゴリラ』
『煽りプレイに期待』
「はあ!? 俺が煽る隙なんて与えると思ってるんですか? 覚悟してくださいねッ!! 絶対に勝ちますから!!!」
『やっちまえゴリラニキ』
『負けるなゴリラ』
『頑張れゴリラ』
「みんなはどっちの味方なんです!? ちょっとは俺の応援もしてくれませんか!?」
『えー』
『なんで?』
『それはちょっと……』
「まさかリスナーって全員敵なの!? ここってアウェイ!? 俺の配信枠なのに!?」
『今更気づいたのか』
『いつからここがホームだと錯覚していた?』
『四面楚歌で草』
あ~、これだよこれ。俺が思い描いていたVTuberの配信ってやつは!!
リスナーとのプロレス的コミュニケーション!!
最っ高に楽しい。アドレナリンドバドバ出てる。
「って、待て!! 初動で煽りなんかさせるか!!」
『いいぞゴリラ』
『草』
開始早々に煽りムーブなんてさせるか!!
俺が攻撃を仕掛ければ、ゴリラがそれに応じる。そこから先は切った張ったの読み合い、駆け引き、探り合い。一進一退の攻防を繰り広げ、少しずつ俺のキャラにもダメージが蓄積していく。
『早速罰ゲームか?』
なんてコメントも流れるが、舐めるな、と言いたい。
俺がこの程度で負けるか!!
『ヤバ』
『つよ』
『何今の』
『すげ』
ヤバい。めっちゃ楽しいッッッ!!!!
たくさんの人が俺のプレイにコメントしてくれてる!! たくさんの人が俺の配信を楽しんでくれている!!!!
これが配信者か。これがVTuberか。何だこれ、めちゃくちゃ楽しいぞ!!
『一敗もしてないのはすごすぎる』
ゴリラを皮切りに一時間で28戦。ゲーム慣れしてるめちゃくちゃ強い人もいる中負けはなく、とは言え残機は落とされつつといった感じで、十分にプレイングで魅せつつ配信を盛り上げることが出来た。
「はい、と言うことで一時間の中で落とされた残機は14でしたー。約束通り、明日はVIPで14勝するまで終われませんをします!!」
『強かった』
『すごかった』
『VIP楽しみ』
「今日は本当に俺のVTuber人生で一番楽しい日でした。戸羽ニキの配信で見てくれた人も、そうじゃない人も、遊びに来てくれてありがとう!! これからも東野アズマをよろしくお願いします!!!」
おっと、最後にこれだけは言っておかなきゃ。
「こいつおもしろいとか少しでも思ってくれた人は、ぜひぜひチャンネル登録と高評価、あとツイッターのフォローもお願いします!!」
『任せとけ』
『もうしてる』
『これから応援してます』
「戸羽ニキとのコラボ配信が出来るように頑張るので、明日も応援よろしくお願いします!! それじゃあ、あざまるうぃーす!!!!」
『あざまるうぃーす!!!』
『あざまるうぃーす!』
『あざまるうぃーす』
『あざまるうぃーす!!』
そうして確かな手ごたえと共に配信を終えた俺は、部屋の中でひとり拳を振り上げた。
そんな俺に声をかけてくれる人はいない。
しかし今もモニターに映る《東野アズマの配信》チャンネルには、確かに今日と言う日があったことを証拠づけるものがあった。
チャンネル登録者数:4041人。
3000人の待機から始まった配信は、ピーク時には7000人が見に来ていた。単純に考えれば、そのうちの半数以上がチャンネル登録をしてくれたということだ。
今日の夕方までは21人しかいなかったことを考えれば、半端じゃない伸び率だ。
たった数分。たった数分のチャンスを掴めたことで、ここまで多くの人に認知をされた。
東野アズマというVTuberがいるということを知ってもらえた。
それが何より嬉しい。
これからこの応援してくれる人たちと一緒に配信を楽しんでいきたい。そしてもっとVTuberを楽しんでいきたい!!
「って、ヤバ。カレンちゃんの配信始まってるじゃん」
社畜時代には味わえなかった『本当のやりがい』を噛みしめつつ、俺は知り合いの配信へと遊びに行くのだった。
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