第3話 これが東野アズマじゃい!!
「戸羽丹(とわに)フメツさん、リスナーの皆さん。東野(ひがしの)アズマです。あざまるうぃーす!!」
『え、なんか思ってたよりチャラいの来たんだけど』
え、会話するの!?
宣伝って聞いてたから俺が一方的にしゃべるのかと思ってたんだが!?
……いや、待て。逆にチャンスだ。戸羽丹フメツが俺に好印象を抱けば、今いるリスナーへのアピールにもなる。
社畜時代に営業として培ったトークスキルを信じろ、俺!!
「いやいや、俺のどこがチャラいんですか? こんなに真面目そうなのに」
『その発言がすでにチャラいよね。逆に真面目要素が見当たらないんだけど?』
「つまりそれは、ギャップ受けが狙えるぞ、という大先輩からのアドバイスですね。あざまるうぃーす!!!!!」
『あはは。いいね。僕の周りにはいないタイプの人だ。おもしろい』
よし、掴みはOK!!
当たり障りないことをして、つまらないと思われるよりは百倍マシだ。
このままガンガンいってやる。
「ところで、なんてお呼びすればいいですか? フメツさん? 戸羽丹さん? それとも戸羽ニキなんてどうですか?」
『戸羽ニキはヤバいって!! 僕、そんな風に呼ばれたことないよ!?』
ツッコんでくれるのありがてぇ~。さすがはトップVTuber!!
よし、このままガンガントークを盛り上げてやる。
「じゃあ、俺が戸羽ニキの初めての男ってことっすね。あざまるうぃーす!!!」
『いやいや言い方。誤解されるって。あ、こらコメント。“ホモォ”とか言うな。ひと昔前だろ、そのネタは』
「あれ、そんなひと昔前のネタがわかるってことは、戸羽ニキってまさか……?」
『年齢イジリをするな! 僕は現役の高校生なんだからな!!』
「っていう設定ってことですか?」
『設定って言うな!! 公式ホームページを見ろ。僕の年齢欄になんて書いてあるか教えてやろうか?』
「あ、マジすか!? やったぜ、リスナーの皆。早速戸羽ニキが大事なことを教えてくれるみたいだ!! さすがはアニキ!!」
『あ、ダメだこれ。戸羽ニキが定着してしまう。ほら、早速コメント欄も便乗し始めた!!やめろ!! そんな呼び方をするな!! いつもみたいに“フメツ”って呼べよ!!』
よしよしよし! 俺たちのトークでコメント欄もガンガン盛り上がってる!!
いい調子だ。どんどん東野アズマが知れ渡っていくぞ!!
「ところでさ、フメツ」
『急に馴れ馴れしい!? 戸羽ニキ呼びはどうしたんだよ!?』
「いや、“フメツって呼べ”って言ってたので」
『リスナーに向けた言葉だからッ!! 君じゃないんだよ!』
「そんな、せっかく仲良くなれると思ったのに。ねえ、リスナーさん。俺、戸羽丹フメツさんと仲良くなりたいんですよ。どうすればいいですか……?」
『おい、リスナーに問いかけるのは卑怯だぞ!!』
俺のしおらしい問いかけにコメント欄が爆速で流れていく。
『フメツ最低』『新人いじめで草』『せっかく来てくれたのに』『そもそもゲームで負けてたよな……?』
といった戸羽丹フメツをいじるコメントや、
『元気出してアズマ』『俺たちがついてる』『がんばれ』『もう一回フメツをわからせてやれ』
といった俺への励ましコメントもたくさんある。
き、気持ちぃ~。
すっげぇよ、マジか。
こんな量のコメントが俺宛に来るなんて初めてだぞ!?
すげぇ、トップVTuberになれば、これが日常になるのか……。いいなぁ。
『わかったわかった。じゃあ、もうアズマさんの好きに呼んでもらっていいから』
「了解です、戸羽ニキ!!」
『そこは“フメツ”じゃないのかよ!! なんだったんだ今のやりとりはッ!!』
「いや、やっぱり初めての男と言う称号を貰ってしまったので、大事にしなきゃなって思って」
『やめろって、そのネタ!! ほら、またコメント欄に“ホモォ”って流れ始めた!!』
「戸羽ニキも俺のことは気軽に“アズマ”って呼んでください。あ、もちろんリスナーさんたちも。俺、さん付けの距離感って苦手なんですよね。社畜時代を思い出すから」
『え、元社畜の方?』
「そうなんですよ。ブラック企業で営業してたんですけどね、しんど過ぎたんで辞めてきました」
『それでVTuberに?』
「そうですそうです。ほら、ちょっと前から転生ものって流行りじゃないですか。異世界は無理なので、バーチャル世界に転生してきました」
『VTuberのジャンルってまさかの転生ものだったの!?』
「え、戸羽ニキともあろう方が知らなかったんですか?」
『あはははははは!!! そうなんだ!! VTuberって転生ものだったんだ!!! あはははははは!!! ヤバい、ツボッた!! あはははははは!!!!』
よっしゃ!! 今日一のウケだ!!!
コメント欄にも尋常じゃないぐらいの速度で『草』が流れていく!!
よしよし、この流れならきっといけるはず!!
「そんな社畜転生VTuberの東野アズマが気になる人は、ぜひ俺のチャンネルにも遊びに来てくださいね」
『あ、そうじゃん。宣伝していいよーって話だったじゃん。楽しすぎて忘れてた』
「戸羽ニキ、それはないっすよー……。せっかく頑張ったのに……」
『ああ、ごめんごめん。ほら、リスナーの皆もよく聞いて。アズマが宣伝するから。はい、清聴!!』
「って、そんなにハードル上げられても何もないんですけどね」
『ないのかよ!! どっちだよ!!』
「まだまだ駆け出しですから。俺にある個性なんて“戸羽丹フメツにクロファイで勝利した”ってことぐらいですよ」
『言うねぇ~。いいよ、今だけは何言っても許してあげる』
「本当ですか!? さすが戸羽ニキ。懐のデカさが違う!! あざまるうぃーす!!!」
『その“あざまるうぃーす”っていうのは、アズマの挨拶なの?』
「そうです。社畜時代じゃ絶対に出来なかった挨拶をすることで、自分は転生したんだって実感してるんです」
『あはははははは!!! 転生の証拠なんだ!! いいよ、そういうの!! 僕そういう絶妙にエモいの好きだ』
「これが転生の呪文みたいなとこありますから。リスナーの皆さんも覚えてくださいね。“あざまるうぃーす!!!”」
俺の一言を合図に、コメント欄には『あざまるうぃーす』が溢れ返る。
と、今日最高の盛り上がりを見せたところで、戸羽ニキの配信画面からアラームの音が聞こえてきた。
『あ、時間になっちゃった。いやぁ、めちゃくちゃ楽しかったよ。ありがとう、アズマ』
「こっちこそありがとうございました。配信でこんなに盛り上がったの初めてだったんで、とんでもなく楽しかったです」
『じゃあ、最後に何かあれば』
来た。今日最大の勝負所だ。
社畜時代にもしこたま仕込まれた。営業で重要なのはクロージングだと。
最後の印象で次につながる期待値を顧客が抱ければ、絶対にうまくいく。
山場だ。気合を入れろ、俺。
「じゃあ、戸羽ニキに一個だけいいですか?」
『ん、何?』
「俺、まだまだ駆け出しで、チャンネル登録者も21人しかいないんです。でも、いつか絶対にチャンネル登録者1万を超えます。なので、1万超えたら、正式に俺とコラボしてくれませんか?」
『お、いいねぇ~。そういう目標を持つのって大事だよね』
「と、いうことは……?」
『もちろん、いいともー!!』
「あざまるうぃーす!!!!! めっちゃ頑張ります!!! 戸羽ニキもリスナーの皆さんもありがとうございました。すっごい楽しかったです!!! あ、このあと俺も配信するので、よければ遊びに来てくださいね。えっと、22時からです!!」
『だってさ、皆。僕もそれまでに終えて見に行こうかなぁ』
「ぜひ来てください! それじゃあ、本当にありがとうございました!! 東野アズマでした!!! あざまるうぃーす!!!!!」
最後に特大の挨拶をしてディスコードの通話を切る。
途端に静まり返る部屋の中、戸羽ニキの配信から流れてくる音声が聞こえてくる。
『いやぁ、すごい新人がいるね。なんかVTuberの可能性を感じて、僕も頑張ろうって思ったよ。あと、転生ネタ! めちゃくちゃ面白かった!! アズマには期待したいね』
……ありがとうございます、戸羽ニキ。
俺、めっちゃ頑張ります。
リスナーの皆さんもありがとうございます。コメント欄に『頑張ってほしい』って書いてくれてるだけで励みになります。
「ヤバ、泣きそう」
辛かった社畜生活から逃げるように始めたVTuberだったけど、今初めて心の底から頑張ろうって思えてる。
まだまだこれからだ。東野アズマはここからだ。頑張ろうな、俺。
「配信枠を立てなきゃ。みんな来てくれると嬉しいなぁ」
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